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第六話 イケメン登場

 

 

 昇級審査の中に依頼の形での実地試験があるとは、ミナも初耳だったようだ。

 

 

「……すんなりと、銀級冒険者にはさせてくれないようですね」


 冒険者ギルドを出て、そのまま『アーナンダ亭』のテーブルに座ると、ミナは溜息を吐きつつ呟く。自分の読みが浅はかだったことに対する、自嘲の成分がそこには含まれている様に見えた。

 

「それだけ銀級冒険者の位を欲している庶民が多いという訳だろ」

 

 あたしは思う。こんな辺鄙なところにギルド支部がやられているのも、出来る限り銀級冒険者となる人間を絞ろうという公爵の嫌がらせだろう。

 

「……取りあえず依頼書を詳しく読んでみよう。大丈夫、我らの力が有ればこなせるさ」


 あたし達の向かいの席に座ったロシュフコーからの建設的な提案だった。


「第一、先立つものがそろそろ心細いじゃん、依頼こなさなきゃ!」


 ダーチャも手で丸を作りながら彼に同調する。否定する理由はないでしょう。

 

 

 ◇

 

 『魔王崇拝者の討伐』

 

 報酬:1000ゴールド並びにギルド正会員への昇格

 

 将来有望な冒険者パーティに告ぐ。

 

 魔王崇拝者の小集団がド・ロン公爵領首府ウノートン近傍の洞窟に潜んでいるとの情報が匿名でギルド本部に入りました。

 

 つきましてはこの情報の真偽確認、並びに小集団が存在した場合の討伐をあなた方にご依頼したい。

 

 この依頼の遂行内容をもちまして、ギルド正会員への昇格審査とさせていただきます。

 

 

 冒険者ギルド本部

 

 ◇

 

 

 依頼書に書かれた情報はこれだけだった。

 

「つまり、具体的な洞窟の場所の聞き出しからやれってことか……」


 あたしは頭を抱えた。此処ならまだともかく、街中で聞き込みをすればあの豚さんたちから怪しまれるに決まっている。村での一件からすると、奴らは好き放題私刑を行っている可能性があるから、絶対に事を荒立てない方が良い。

 

 ……かとは言え、うーん……

 

「大丈夫です」


 サッと切り出したミナ。何が大丈夫なんだ?

 

「こんなこともあろうかと、仲間内の冒険者を先にウノートンへ潜入させてあります。彼に情報収集を依頼してありましたので、ご心配は無用です」


 何この人マッドサイエンティストみたいな事いってんの?……やっぱり化け物だわ、いろんな意味でコイツ。しかも潜入って……

 

「その人物は信用できるのか?」


 ロシュフコーから最もな疑問が飛ぶ。無条件でミナを信頼してきた彼だからこそ、疑問がわくというものだろう。

 

「……銀級冒険者キリク=スパーナー。払った金は裏切らない人物です」


 あ、コイツ実家から工作資金払わせてるな。

 

「耳長のキリク!?結構大物じゃない?」


 ダーチャが驚く。冒険者仲間では有名な人物なんだろう。

 

「しーっ、外に聞こえますよ。キリクとは墓地で合流しますが、……そうですね、フィスに護衛をお願いします、二人は此処で待機を」


「うむ。余り多人数で行っては怪しまれるからな」


 ロシュフコーは納得してくれたようだが……

 

「えー、会いたい―」


「わがままを言わないで下さい」


 ……そう言えばミナって、この二人には敬語だね。一線を引いてるってことか。

 

 

 ◇

 

 

 ミナと二人で歩く。……と言っても、あたしは2人分ほど距離を取って後ろを歩いているが。

 

 公爵領首府といっても、片田舎の小京都と言った感じで公爵の居城を除き街壁より高層の建物はない。多分人口5000人に満たないんじゃないかな。

 

 市場を通り過ぎる。まだ正午にもなっていないはずだが、既にほとんどの店が閉まっていた。

 

 そしてそんな、決してにぎわっているとは言えない街の至る所に立っている豚顔の警備兵。まるで戒厳令下だ。

 

「距離を離し過ぎよ、フィス」


「後ろからの方がよく見えるだろ」


 ……こんなことでいざこざを起こしてる場合じゃないとは思うんだが、どうも感情の抑制が効かない。今朝の出来事が余りにあんまり過ぎて、ミナ自身に抱いている警戒心を自覚していた。

 

「……全く、もうすぐ着くから、粗相のないように」


「はいはい」


 墓地は『アーナンダ亭』から見て街壁の反対側にあった。半ばスラム化した街区の一角に、おどろおどろしい空気が漂う。



― 刹那



 ヒュンッ、という風切り音と共に、あたしの目の前の街壁に矢が刺さった。

 

「!!」


 飛んできた方を向くと……

 

「反応が遅い、もっと早く動け。……ミナを狙ったものなら彼女は死んでいたぞ」


「す、済まない」

 

 切れ長の目に色黒の肌、金髪と三角形型に長い耳。手に持つ漆塗りの弓とその弦からは陽の光が鈍く反射する。

 

「随分な御歓迎ね、キリク」


 派手な朱色の民族衣装を羽織い、此方に歩いてきたこの男がキリク=スパーナーらしい。

 

 彼の方に向き直ったミナの表情からは柔和さが消え、大理石の像のような固い雰囲気を醸し出す。

 

「豚共には尾行されていないな?」


 地獄のように低く、美しい声だった。まるでビターチョコレートの魅力、あんな出迎え方をされたにもかかわらず嫌悪感を感じない。


「……少なくとも、気配は感じない」


 流石に尾行されてれば気付くはず……あたしはこれでも、フィス=フィルレーンのつもりだから。

 

「結構。で、昇級審査は上手く行きそうなのか」

 

「審査として依頼の遂行を指示されたわ。これが依頼書」


 ミナがキリクに依頼書を見せると……

 

「……成程。……」


 とつぶやき、自らも懐から巻いた紙……恐らくは地図……を取り出した。

 

「……行ってみろ。その後どうするかは、お前たち次第だ」


「ありがとう、キリク」


 ミナが礼をいう間もなく、キリクは踵を返して墓場の方へ歩み始める。

 

「金銭報酬の方は全て頂く。お前の事だ、金に困ってはおるまい」


 立ち止まり、一言だけ残してスラムの闇へと消えていった。

 

「……相変わらず、不愛想なやつ。というかこっちだってやり繰りってものがあるんですけど……」


 ぷー垂れるミナ。こいつにも苦手なものがあるのだなあと心底思う。

 

 それにしても……わざわざ魔王崇拝者と但し書きするってことは……相手は多分、人間だよね。殺し合いをするのか……

 

 正直、少し、いやかなり尻込みをしている。だけど……

 

 足手まといにだけは、なるものかという意地が、あたしを支えていた。


 ◇



 という訳で、あたし達はロシュフコー、ダーチャと合流しお昼の腹ごなし(余りおいしくない芋煮だった……)を済ませたうえでウノートンの外門へと来ていた。

 

 

「余り変な言い回しをして、門番たちの注意を引くのも厄介ですね。素直に用件を言いましょう」


 正門前には豚顔の門番達が一個分隊程度。ミナが用件を告げると、

 

「……フン、冒険者風情が。そんな連中がいるのならばとうに俺達が退治してるぜ」


「ぶひひ、おたく中々別嬪さんやな、探検ごっこより俺達とお医者さんごっこしねぇか?」


 ムカついたので大剣を抜く。背中からシャンという音を立ててくろがねの塊が現れた。

 

「ぶひっ!!」


「……通してくれますね?」


 ミナがドスの聞いた声で言うと、豚たちは慌てて門を開けた。

 

 

 ◇

 

 

 キリクさんのくれた地図を頼りに歩くあたし達。

 

「その道を右です」


 ミナが先頭を歩くあたしに指示を出す。それにしても……

 

「しっかしまぁ、連中豚さんは豚さんだな。……公爵はアイツらを支配してるって言うけど、どれだけ意のままにしているんだろう」


 武器を抜いた程度で怯える連中が、兵士として役に立つとはあたしは思えないんだが。

 

「……強い者にはこびへつらい、弱い者には徹底して虐げる。奴らは元よりそういう連中だ」


 ロシュフコーが答える。

 

「でも不思議だよねー、豚公爵が戦列に加わった途端に、王都を包囲してた豚族の大群があっちこっちで同士討ちを始めたそうだよ。……稀人まれびとって往々にしてそーゆー力を持ってるらしいんだけど、うちも欲しいなー」


 何と言うか、屈託のないダーチャの喋り方にちょっと苦手意識があたしにはある。……何だろう、うーん……

 

稀人まれびとの、持つ力……」


 ミナの歩みが、一旦止まった。

 

「どしたの、ミナ?」


「何処か具合でも悪いのか?」


 あたしも振り向く、振り向くけど……ロシュフコーとダーチャには悪いけど、ミナが立ち止まった理由を此処で説明するわけにはいかない。あたしが稀人まれびとだと知られれば、どういう反応を見せるか分かったもんじゃないからだ。

 

「いえ、何でもありません、先を急ぎましょう」


 ミナが踵を返すと共に、あたし達は行軍を再開した。

 

 

 ◇

 

 

 歩くこと数時間……

 

「あれか……」


 あたし達は叢の影に隠れ、件の洞窟の入口を見て取る。一見、人の手が加わっている様子はない。

 

「ダーチャ、済まないですが先鋒を頼みます」


「分かってるって!」


 ダーチャは普段とのギャップが凄い小さな声で返事をすると、姿勢を低くしたまま、足音を立てずに入口へ近づいていく。

 

 

 …………緊張が、走る。

 

 

 そろり、そろり……

 

 

 ダーチャの額に、汗が浮かんでいるのがあたしにも分かった。

 

 やがて、彼女は入口の脇で立ち止まり、手招きしてきた。あたし達も、なるべく足音を立てないように彼女の後を追う。

 

「しーっ」


 入口脇の壁に4人で取りつくと、ダーチャはゆっくりと、入口を覗く。

 

「入ってすぐのところで豚族が1匹が見張りしてるよ、どうする?」


「おびき出してひっ捕らえる。情報を聞き出しましょう」


「アイアイサー」

 

 ミナからの指示が下るや否や、ダーチャはその辺にあった小石を拾い、ぽいっと入口の方に投げた。

 

 カランコロンと、音が鳴る。

 

「!?」


 豚族が、反応して入口の方に歩き始めたようだ。そしてその姿を外に現す、

 

 

― 刹那


 

 ダーチャが飛び出し、あっさり背後を取る。

 

「な、何を……ゴホッ!!」


 股間を膝で一撃。武器のこん棒を取り落としてうずくまった所を蹴り倒し、両手を後ろに回してロープで縛り付ける。

 

「……ちょーっと大人しくしててねー」

 

「な、何のマネだッ!!」

 

 と言った豚さんの喉にナイフを突きつける。おーこわ。

 

「大きな声出すとタマ完全につぶすよ。……さて、ミナ」


「此処で何をしているか、答えていただけますか?」


 哀れな豚さんは頭……首は脂肪たっぷりで隠れてるから仕方ないね……を降る。

 

「た、単なる民間人だ!っぶへっ」


 そう答えた豚さんを思いっきり蹴飛ばすダーチャ。ヒッ……さ、流石に可哀想になってくる。


「公爵領内の豚族はすべて公爵閣下の管轄下にあるはずです。もう一度答えなさい、ここで何をしているのですか……?」


「……お、王国の、狗が……!!だれが……」


「答えていただけたければ、あなたには相応の待遇を約束しましょう。少なくとも生命の保証はします」


「………解放だ」


 観念した豚さんは、話し始めた。


「…………同胞の、解放だ」


 

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