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第五話 ウノートンの腹とミナのおっぱい



 転生してから、何日が経過しただろう。

 

 

 顔も名前も思い出せないお父さん、お母さん、あたしは元気です……元気ですけど……

 

「馬車ってこんなに乗り心地が悪いのかよぉぉぉ……」


 簡単なサスペンションが有る為地上のがた凹をそのまんま拾うってことまではないけど、何といっても道が整備されてない事この上ない。

 

 前世でのバスにあたる駅馬車、つまり一般の冒険者

向けなので椅子も単に布張りしただけの木椅子でクソ固いし、これを公爵領首府まで耐えるとかあたし大丈夫かな……

 

 と、いう訳で『白刃の煌めき』一行は、公爵領首府ウノートン行きの駅馬車にただいま乗っております。まあ、正確にはまだこのパーティ名、認められたものではないそうな。

 

「冒険者たちの同業者組合である冒険者ギルドは、冒険者を三つの階級で判別している」


 講釈好きなロシュフコー……肌の赤白い彼は北方、ルーシアの出身らしい……が、『記憶喪失』のあたしに説明する。

 

「銅級は自称冒険者も含めたその他大勢。彼等がギルドから受けられる支援は低級の仕事の斡旋に限られる。銀級……我らはウノートンに付き次第、お前の手柄と名声を元手に昇級手続きを行うが……この階級の冒険者として認められて初めて、正式なパーティとしてギルドに登録されるのだ」


「ねえねえ、じゃあさ、ギルドに登録されると何かいいことあるの?」


 あっけらかんとしたダーチャがあたしに代わって気になる事を尋ねる。

 

「勿論、銅級では受けられない高難度の依頼の斡旋もあるが……第一に重要なのは会員の証としてバッジが交付され、それがあれば王城や軍関係の施設を除く王国内のほとんどの場所への移動の自由が認められることだな」


「えー、それだけ?」


「これは重要な事だぞ、ダーチャ。普通我々貴族の産まれでない人間の多くは、土地に縛られて一生を過ごすんだ、特にこのラ・トゥラス王国ではな。現に、フィスが手柄を上げるまではあの村でも宿から出られなかっただろう」


 ……つまり、この王国で庶民が移動の自由を得るには、銀級以上の冒険者になるしかないという事か。嫌な部分でリアル中世っぽいよねこの世界。

 

「そして銀級冒険者となれば、我々の目的にも近づくことが出来るのです」


 ここでミナが薄くも麗しい唇を動かし、凛とした口調で言葉を紡ぐ。

 

「俺達の目的?」


 あたしが、ここでいかにも記憶喪失らしい聞き方でミナに聞くと、

 

「……『魔王』の復活阻止です」


 えーと、冗談で言ってますか?割と呆れた顔であたしは彼女を見るが、

 

「そーだよそーだよ、だから世界を回って、怪しげな稀人まれびとの情報を集めてるんだよねー」


 ダーチャに横やりを出された……あ、怪しげな稀人まれびとなら直ぐそこにいるんですよね、アハハ……

 

 『魔王』に関してはフィスから聞いた情報がある。20年ほど前に大陸を2分する戦争を起こした元凶。稀人まれびとで構成されていたと思われる冒険者パーティ『昇竜の血』に討ち取られ、滅亡寸前だった王国側は救われたとか。

 

 ……もし『魔王』も稀人まれびとだったとすれば、再び『魔王』になろうとする稀人まれびとも現れかねない……あたしはそう理解した。

 

「そして他でもない、ミナが『魔王』へと変貌する可能性を見出している最大の候補は、かっての『昇竜の血』のメンバー、すなわちこの地を収めるアブラ=ド・ロン公爵を含むいわゆる『4公爵』だ。だな、ミナ」

 

 あたしの考えを掬ったかのように、ロシュフコーがひそひそ声で言う。物騒な事言って、馬車の御者までは聞こえないとは思うけど……

 

「……彼等は知っての通り、この国で王家に次ぐ権力者です。身辺を探るのは並大抵のことでは有りません」


 ……ちっ、ミナの奴まだあたし達に何か隠してるだろ。噂通り王室の落胤なら、王位継承権を認めてもらうことを見返りに王家から密命を受けててもおかしくはない。

 

 そんな彼女を純粋に信じている残り二人も残り二人だが……

 

「でもさ、探るのはいいけど、そーでしたって言って他の人がうちらの言い分聞いてくれるのかな?」


 ダーチャが最もな質問をする。

 

「そこは私に考えがあります」


 ミナは臆面もなく言う。王家の家紋が描かれた印籠でも隠してんのかコイツ、なんてジジくさい考えをしてしまうわね。

 

「考えか……ミナがそう言うのなら」


 逆に考えると、ロシュフコーとダーチャがほとんど無条件に彼女に従っているのも分からないな。何か握られてるのかな?

 

「ともあれ、全ては銀級冒険者として認められてからです」


 実際、あたしはこの4人がどうやって知り合ったか、一切知らない。フィスに尋ねられないかな?

 

 ◇

 

 ウノートンに到着した頃には、既に太陽は地平線の彼方へと沈み、すっかり夜の帳が降りていた。

 

 豚顔の守衛たちが、あたし達の身元を確認する。ミナが事前に許可を取っていたらしく、あたし達はすんなりとウノートン市中に入城することが出来た。

 

「まずは宿を取りましょう。本格的な行動は明日からです」


 反対する理由のない、ごもっともな提案だった。

 

 ◇

 

 その夜……

 

「みんなとは仲良くなれたか?」


 夢うつつなあたしの脳内に、フィスの声が響く。

 

「……俺として、やっていけるか?」


 ミナと仲良くなるのは中々難しそうだけどね。ところで、このパーティの面子、産まれも育ちもバラバラみたいだけどミナはどうやって集めたわけ?

 

「それは、……皆から聞き出せなきゃ不合格だな」


 ちぇー、それじゃあせめてあなたの生い立ちぐらい教えなさいよ。あたしがあなたをトレースする上で本来必須だったじゃない。

 

「あー、すまんすまん」


 フィスは自らの身の上に関してさらっと話してくれた。しがない小作農一家に3男として産まれた彼は、食い扶持を減らすために物心付くかつかないかで親戚の冒険者へ養子に出されたらしい。

 

 幸い養父は善良な人物で、フィスの冒険者としての師であると共に剣術の師であったそうな。

 

「まあ、だけど冒険者の末路なんて……」


 結局、養父は魔軍が迫る中で境界線の探索をギルドから依頼され、その中で帰らぬ人となった。

 

「俺の剣は、義父さんの形見だから気を付けて扱えよ」


 はいはい、分かりましたよ。……お休み、フィス。

 

「お休み」


 フィスの最後の声が聞こえると共に、あたしの意識は夜闇へと溶けていった……

 

 ◇



 朝……

 

 公爵領首府と言っても、ミング村の安宿と違わない安普請な木目の天井があたしの双眸を出迎える。

 

 ……ところで、布団にしては少し重い感触が胸のあたりからするんだけど……

 

「布団が、盛り上がっている?」


 な、なんか、胸のあたりでちょっと冷たい、いやぬるい感覚?ど、どう説明していいのか分からない。


 あたしは、恐る恐る布団をめくると……なななななななな……!!!

 

「うーん……はぁ、ハァ……フィス、フィス……」


 隣の部屋で寝ていたはずのミナが、あたしのシャツをめくってビーチクを舐めてるんですけど!!!

 

「う、うわあああああッ!!」


 大急ぎでベッドから立ち上がる。

 

「うーん、フィス、ちょっと待って……」


 ミナが布団をかぶったまま立ち上がると、一糸まとわぬ姿であることがはっきりと見て取れた。でっかいおっぱい(ムカつく!!)も丸見えだ。

 

 ……こいつら、行く先々でヤりまくってたんじゃなかろーなー!?

 

「こ、こここここ、子供出来たらどーするんだよ!!!」


 頭が錯乱しているあたしは、色々ぶっ飛ばしてとんでもない事を言い放った。困ったことに、前世のあたしには無かった『もっこり』は派手に反応している。

 

「……その場合は責任取るって2か月前に言った―」


 いつもの品の良さは何処へやら、ミナが顔を膨らませて反論する。

 

「なんだなんだ、また夫婦喧嘩か?」


「朝からお盛んだねー」


 ロシュフコーとダーチャが騒ぎを聞きつけて部屋に入ってきた。

 

「あれ、私……あれ、」


 寝ぼけ眼だったミナは、ようやく目を開けると、周囲の状況を確認して、

 

「え、え、え……」


 自分が裸であることに気付き、

 

「きゃああああああッ!!」


 お約束の反応を見せた。

 

 ◇

 

 ダーチャがミナを着替えさせ、ロシュフコーと朝食に行ったあと、あたしとミナは2人だけでしか出来ない会話をする時間を少し作れた。

 

「……みっともないところを見せたわね。『フィス』は、もう居ないのに」


 正直、同性、精神的には同性だと思っている相手に迫られていい気分には成れない。あたしは異性愛者なんです!!(フィスはストライクゾーンにないけど)

 

 だけど、まぁミナの気持ちは分からないでもない。だから、

 

「いつか、『フィス』に会わせてやるよ」


 ねぎらいになるか分からないけど、そう答えた。勿論、あたしが出来る限りでフィスの能力、行動、性格をトレースしてみるという意味だ。

 

 ……恐らく最も難しいのは、ミナに対する好意だというのは承知の上で。

 

 ◇

 

 冒険者ギルド・ウノートン支部は街をぐるりと囲む街壁の直ぐそばの酒場『アーナンダ亭』に併設されていた。

 

 あたし達が入ると、昼間から酒の匂いがプンプンしている。慣れるのには時間がかかりそうだ。

 

 バーカウンターの奥にある掲示板には、冒険者ギルドに寄せられた依頼書が何枚も貼られていた。

 

 ギルドはバーカウンターの隣の扉の中らしいので行ってみると……

 

「おい新入り、ナリから見て冒険者なんだろうが、ここのギルドは止めときな」


 ヤクザのような顔つきのマスターから引き留められた。

 

「何故でしょうか?」


 物腰柔らかに尋ねるミナ。

 

「……その大剣、あんたら例のフィス一行だろ。悪いことは言わない、ギルドの連中と関わり合いになると怖い豚さんに睨まれるぜ」


 ……どうやら、冒険者ギルドは公爵からいい目で見られていないらしい。あちこち歩き回られて、領土で好き勝手やってるのを見られたくないんだろう。

 

 それにしても、カブトムシ退治の噂はここまで広まっているのか……

 

「その位は、覚悟の上です」

 

 ミナは毅然と答え、ギルドの戸を叩いた。

 

 ◇

 

 ギルドの支部は……小さかった。4畳半の部屋の中央にカウンターがあって、その前に椅子が三つ並んでいるだけ。

 

 前世で言うと市役所の1窓口程度のサイズ感だ。

 

「こ、こんにちわ!ぼぼぼ、冒険者の方ですか?」


 妙にちんちくりんの、カウンターから頭を出すのがやっとの小娘が番をしている。

 

「ミナと申します。銀級への昇格審査をお願いするようお手紙を出したと思うのですが、ご確認下さいましたか?」


 ミナが言うと小娘は、

 

「えええ、えーと」

 

 と、彼女の背丈よりも積み上がった書類をうんとこしょ、どっこいしょとかふざけた事を言いながら探し始める。

 

「あああ、ありましたありました!え、えーと、登録名として『白刃の煌めき』を予定している皆様でお間違えないですね?」


 頷く。後にミナが語った事には、少なくともこのギルド支部に聞こえるほどの名声がなければ、手紙を出しても読んでもらえないそうな。

 

「……そ、それでは、ギルド本部から昇格審査として、以下の依頼をこなしていただくよう指示されています」


 と、彼女が出してきた一通の依頼書。

 

 そこには……『魔王崇拝者の討伐依頼』と書かれていた。


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