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第四十三話 第一部完!新たなる公爵の誕生……?

 

 

 招待状の郵送が始まった。

 

 

 ローク老人にダナン夫妻の手紙が届いたことからも分かるように、王国の郵便網はこのプラッシー公爵領を含め相応に機能しているようだ。取りあえずは信用するとしよう。

 

 ロシュフコーは結婚式に置ける警備体制の総責任者となり、あたしと幾度も意見を突き合わせていた。

 

「会場はこのグラッシー城……今やフィルレーン城か。この4階で問題ないだろう。グラッシー公が残した機械設備を演出に使えないか?」


「……いや、それは少し警備上の問題がある。我はむしろ、撤去して真っ当な城として使えるようにすべきだと思うぞ?」


 ……あたし、なんでこんなに一生懸命なんだろう。

 

 そりゃあ、ミナは今やかけがえの無い友人だとあたしも思う。思うんだけど……

 

 いま傍らにいる彼女は、明らかに彼女の愛おしい『フィス』として、あたしを見ている。

 

『まあいいじゃないか。収まるところに収まる、それも入り婿とはいえ公爵様だぞ?おまけにミナのおっぱいが揉み放題ときた』


 ……当の本人のうきんは能天気なもんだし。

 

 

 ◇

 

 

 新たに領主となったあたしの顔を見ようと、朝から多くの人がグラッシー城へ陳情に現れる。

 

 ……直接あたしが対応する人間はロシュフコーが選別しているが、……

 

「用水路が詰まったんです、直していただけませんか?」

 

「うちのネコ知りませんか?」

 

「城の改修工事担当するから予算もっと付けてくれ」

 

 用水路は兎も角……そもそもネコって何処から持ち込んだんだよ。

 

「そう言えば、領内を立て直すためのお金はどうするんだ?」

 

 予算の話が出たので素朴な疑問をミナにぶつける。

 

「そうね……しばらくはグラッシーが魔道具を買うために蓄えたお金が残ってるけど……バタバタの領内を本格的に立て直すとなると足りないわね。官吏達が予算を組んでるけど、財源の問題はジョミスとも話し合う必要がありそう」

 

 ……公爵様もこれはこれで大変なのだ。

 

 

 ◇

 

 

 午後、陳情に来た人々の列が一旦途切れると、今度はミナの執事、ジョミスさんによる帝王学ならびにお作法のお勉強だ。

 

 彼もユーデリッハ公爵領内の実質的な最高責任者なので多忙であり、ユースリンクブルクから例の羽型通信機を使っての通信教育だが、これが中々に厳しい。

 

「礼の仕方が違います、やり直しです」


 そんな事言われてもあたしも『フィス』も完全にパンピーの産まれなんですけど……

 

「あなた様にはこれから領主として最低限のマナーを身につけていただかなければ困ります。結婚式までにミナお嬢様からもきっちり仕込んでもらわないと」

 

 兎に角、慣れるしかあるまいて。

 

 

 ◇

 

 

 夕方。すっかり忘れていたユノスの街の『夢現亭』に預けていた荷物があたし達の元に届けられた。

 

 ダーチャがユノスに立ち寄った際に、此方へ向かうユーデリッハ家の女中に手渡したらしい。

 

「♪」


 愛用の化粧品が届いてミナは上機嫌だ。

 

 ……一方、あたしの手元には、『フィス』の大剣。

 

「……しばらく握ってないけど、振るえるかな」


 グラッシーを含む3人の血を吸ったあのサーベルは廃棄していた、護身用としてもうあれを握るつもりはない。

 

 出来るなら……このフィスの剣、怪物殺しの剣で人を斬りたくない。それがあたしの我がままだってのも分かってるけど……何せ、今の地位は人を斬って得たのだから。

 

 ……今の王国政府は、あたしの立場を決して認めないだろう。なんせ公爵殺しの重罪人だ。それを認めさせるには、結局のところ戦うしかない。

 

 クラーク公爵家と脂公爵が提携に動き始めたという情報が、既にあたし達の元へもたらされていた。

 

 彼等は王国政府に働きかけ、反逆者討つべしと此方に敵対してくるだろう。

 

「どんな危険な橋だって、あなたの為なら渡ることが出来る。……それを忘れないで、フィス」


 ミナの思いは強固だ。強固過ぎた。彼女を突き動かしたのは結局のところ、アブラ=ド・ロンやグラッシー=オブ=プラッシーではなく、フィス=フィルレーンを人生のパートナーにしたいという極めて個人的で感情的な欲求なのだ。

 

 例え、それがラ・トゥラスとその民を救うためになると彼女が考えていたとしても、それはあくまで副次的なものだ。……だからこそ、今のあたしは彼女を全面的に信頼していた。


 ま、まあ……あくまで親友として。『フィス』を溺愛しているミナとすれ違いが産まれることも、今後も出てくる事だろう。だから、

 

「……そ、その……分かっている、つもりだ」

 

 あたしの返事は、そのちょっとの引っかかりを発露したものとなった。

 

 ◇

 

 

 2週間が過ぎ、いよいよ結婚式の当日。人々がグラッシー城、いや、フィルレーン城を取り囲む。

 

 ……彼等から上げられるのは歓声だけではない。『簒奪者!』の声もちらほらと聞く。

 

 でもここであたし、フィス=フィルレーンがドミニア=フォン=ユーデリッハと結婚してユーデリッハ家に迎え入れられ、2つの公爵領の共同統治者になることを内外に示せば、掌を返す人間も少なくないはず。

 

 式場の準備は着々と進んでいた。

 

 ……あたしも、気持ちの準備は出来ている。

 

『だけど、結局のところ明菜の記憶を取り戻すためのヒントは転がっていなかったな』


 あたしが気にしているのはそこだ。冒険者ギルドを通じ、実はあの『勇者』にこの結婚式への招待状を出している……でも届くかどうかは半々だろうな。

 

『……ま、焦る必要はないか。だけど明菜……お前、記憶を取り戻して、それから、どうするんだ?』

 

 ……そして、記憶を取り戻して、万が一、万が一にでも自分が無実でないと分かったら、あたしはどうするんだろう?

 

 あたしは木本明菜であったことの一切を放棄するのか?それとも……

 

『兎に角、ここに勇者の奴が今日来るか次第だろ』


 そうだね、『フィス』。

 

『おや?ちょっとしおらしいじゃないか』


 ……言ってろ。

 

 

 式典が始まった。

 

 ウェディングドレスで着飾った絶世の美女が、あたしの手を取る。あー、やっぱり嫉妬するわー。

 

「来て、フィス」


 彼女について行けば、きっと、大丈夫。

 

 あたしはそう思っていた。

 


― 刹那



 風切り音。


「え……」


 それがどこから飛んできたか、分からなかった。誰も、反応できない。

  

『ミナッ!』


 ただ一人、フィスだけが反応した。だけど『あたし』の反応速度では、動けない。



 ……来賓席のどこかから飛んできた矢は、ミナの眉間を正確に撃ち抜く斜線上にあった。



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