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第四十一話 責任

  

 

 目の前が、真っ白になった。

 

 

 まるで、転生直後のような、その雰囲気。

 

 鏡面の如く光を反射する床は、あたしの姿として『勇者』と同じ木本明菜の姿を映し出す。

 

 自分の腕を確認する。間違いなく、木本明菜のそれだった。

 

「……あたし、また死んだの……」


 ウユニ塩湖みたいなイメージなんて、我ながら死後の世界へと反映される情景の記憶が貧相だなあとか思いつつ、ゆっくり、ゆっくりと前に進んでいく。

 

 あるくと目の前で、ミナが、隕石に押しつぶされて死ぬイメージが流れる。

 

 ロシュフコーが、死ぬイメージが流れる。

 

 ダーチャが、死ぬイメージが流れる。

 

 ……そうだ、あたしが死ぬだけじゃない。あたしの選択で、皆が死んだんだ。スミカの不死の力は、自分しか守らないタチの悪いものだったのだ。

 

 そうあたしが思った時、目の前になぜかキリクさんが現れる。

 

 いつもの派手な民族衣装ではなく、白いはかま姿で。

 

「そうだ、お前がこのまま死ぬのは、この現実を認めるという事だ」


「……だけど、皆はあたしの言葉に、あたしの作戦に賭けた。その結果がこうだった、それだけじゃないの?」


「前に言っただろう。お前には、この世界の不条理を変える力があると」


 そ、そんな事言われても……

 

「大したことではない。朱鷺色澄香がこの世界に来た時の権能を、書き換えるだけだ。それだけでお前たちは生き残ることが出来る」


 甘く渋い、砂糖をたっぷり入れたコーヒーのような声。やや色黒の肌が白い世界に美しく映える。キリクさんの此方に差し出されて広げられた手のひらに現れたのは、こぶし大の幾何学模様に彩られた立方体。


「じゃ、じゃあ今のイメージは」


「このまま、時を進めて0.1秒後のイメージだな」


 美しいバリトンの響きが、あたしをその方向へと誘導する。

 

「どうする?俺としては、折角お前が持っている力を活かす他ないと思うがな。それとも、3人を無駄死にさせた責任を背負って、それを返さないまま死ぬか?」

 

 ……

 

「その立方体を、どうすればいいの?」


「触れるだけでいい。後は、お前の意思に従って朱鷺色澄香の権能が変わる」


 ……そうすれば、皆助かる。だけど、


「代償は無いの?」


「……お前が心配するような代償はない。その力を振るえ」


 ……あたしは、決断した。

 

 キリクさんのところまで歩き、その立方体に掌を乗せる。

 

 光があふれ、意識の中の、時の止まった世界が崩れ去る……

 

 

 

 ……目の前に迫っていた隕石が……

 

 

「……止まった……」


 まるで、ただの石ころの様に、膨大な量に及ぶはずの熱と速度と加速度を失ってその場に落ちる。

 

「……そ、そんな、馬鹿な……」


 グラッシーも驚愕の表情。

 

 その隕石だけではない。あたし達に迫ってきた他の隕石も、あたし達の目前までくるとそのエネルギーを失ってその場へと落ちる。

 

「あり得ない、何故だ、コイツの権能の性質からしてこんなことはあり得ない筈だ!!」


 グラッシーは絶叫する。

 

「……何かが、世界のルールそのものをいじらない限り……まさか……!?」


 奴はおもぐろに後ろを、自らの安住の地であろうポッドを振り向くと、……そこには、燐光を発する腕が浮いていた。

 

「……まさか、お前なのか……糞ッ、ラ=ザイナ=ウルス、我が敵を燃やせ、ファイア!!」


 奴はいよいよ錯乱してきたようだ、腕に向かい、ファイアの魔法を詠唱して火球を打ち放つが……火球は腕に一切の損傷を与えられない。

 

 残念ながら、世界のルールを変えたのは魔王じゃないんだなぁ……

 

「……はぁ、はぁ……ラ=ザイナ=ウルス、我が敵を燃やせ、ファイア!!ファイア、ファイアッ!ファイアッ!!」


 ファイアの魔法を連発するグラッシー。それでも、腕は焔に包まれながらも一切の損傷を受けていなかった。

 

「ら……ざいな……」


 明らかにグラッシーの精神集中が乱れている。見てるこっちが、ある意味哀れになってきそうな光景だが……


「マナ中毒の症状ね。例え無尽蔵のマナを用意しようと、肉体を通るマナの悪影響を逃れることは出来ないわ。……フィス、今なら障壁も機能していない」


 それでも、奴を許すわけにはいかない。


「……良いんだな」


「仕方ありません。彼の更生はあらゆる意味で不可能であり、またこの地の民衆もそれを望まないでしょう。……責任は、あなたと、私とで分かち合いましょう」


 と、一旦言葉を斬った後、ミナは言った。

 

 

「ドミニア=フォン=ユーデリッハと」

 

 

 ……その告白に、あたしは不思議とあまり驚かなかった。他の皆も同様のようだ。

 

「分かった」


 あたしは、一歩、また一歩、奴に迫る。

 

 ……障壁は、ない。

 

 サーベルを抜く。

 

「き、貴様ッ!!ドミニアッ貴様最初からそのつもりでッ!!ぼ、僕を、『昇竜の血』を利用するだけ利用して、お前らがッ!!」


 奴は怖気づき、逃げようとするが、


「…………」


 子供の肉体では、逃げようにも逃げられない。


「や、止めろ、僕を誰だと思っている、僕は僕はぼぼぼぼぼぼ」

 

 サーベルで、一突き。

 

「あああああああああああッ!!」


 流れ出る血。奴は、激痛を感じつつもあたしを見据え、遺言を残す。

 

「クク、くはばはっ……そうが、そういヴごどだっだのが……」


 吐血。


「ゴボッ、みえる……ぞ……きだまら……の……はめ……つ……」

 

 

 ……奴の目から、光が消えた。

 

 

 グラッシー=オブ=プラッシー。

 

 欲望のまま他人を支配しようとした悪魔の、それが最後だった。

 

 

 メテオ?なのかな。その魔法は力を失い、天井は元に戻った。……朝日が、窓から刺す。

 

 ミナは、小物入れから何かを取り出した。……前にスミカが使っていたのと同じ、羽飾り型の通信機だ。

 

「オ・ドブロ(乗せよ)」


 通信機が作動すると、執事のような姿をした一人の人物が現れる。

 

「ジョミス、私です。グラッシー公爵を討ち取りました。計画の内『エデン・プラン』へ従って今後は動きますので、その準備をお願いします」


「……そうですか、グラッシー公爵を討ち取られましたか……分かりました、我ら家臣一同も覚悟を決めましょう」


「私のわがままで、申し訳ありません。今後もご迷惑をおかけします」


「……構いませんよ、我々はミナお嬢様と一蓮托生です。それでは」


「…………」


 通信が、切れた。

 

「『エデン・プラン』……」


 気になる単語が、ミナの口から出た。な、何なんだろう?


「ねぇ、フィス。……あなたはこの国で最大の権力者の一人を弑したのよ。そんな人物を、王国政府が許すと思う?」


 げ……いきなりそんな正論言われても……

 

「全くだ。どうするつもりなのだ、ミナ」


 ロシュフコーも訝しむ。

 

「……きまって、……いる……だろう」


 黒焦げのはずのスミカが、あたし達の会話を聞いていたのか、ミナに変わって答えた。

 

「……握るんだ」


 へ、何を?

 

「握るんです、彼が持っていたものを」


 はぁ?

 

「持っていたものって……この城とか、この土地とか、公爵の座とか……?え、え?な、何の正当性もなしに?」


 訳が分からない。何よりフィスも、木本明菜も完全な市井の子だ。

 

「正当性なら確保できます。私と結婚することで」



 えええええええええッ~!!!責任を分かち合うってそういう意味かよぉ!って子供なんか作ってねーぞコラ!!



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