第四十話 決戦、グラッシー城
「『魔王の因子』が、起動している……」
……階段を駆け上がり、遂にあたしたちグラッシー城の地上階へと出た様子だ。
「私、何もしていないのに」
……ミナが、小物入れから漏れる燐光に気付いて言う。
「……導いてくれているのか、魔王が自らの仇を討つようにと」
ロシュフコーの解釈は、正しいように思えた。
「でもそれって、魔王が『因子』を集めて復活する可能性があるって事じゃん。結構やばいんじゃない?」
「ダーチャのいう可能性も捨てきれませんが……それでも、これは……」
階段を登り、二階に出る。
「グラッシー城は5階建てです。待ち伏せがあるとすればもうそろそろでしょう……そしてこれは、グラッシー公を討つ、千載一遇のチャンスです」
「ああ、力を貸してくれるのが魔王だろうと、今は構わない。グラッシーを倒し、スミカの身柄を確保しよう」
あたしが決意すると、前方に敵の気配。
「……来ますよッ」
案の定だ。あの神父型の召喚獣連中が丁度五人、3階への階段……幅5mはある巨大なものだ、その前であたし達に立ちふさがった。
「思ったより、人数が少ない……?」
「カインとグラッシーの持つ『魔王の因子』が、それぞれ起動して奴のマナ接続を排除しているのか?」
ロシュフコーのいう通りならば、敵の増援が来る可能性は低いと見えるか?
奴らは例の巨狼へと変身するが、もうあたし達の敵じゃない。あたしはサーベルを下段に構え、上下に襲い掛かってきた2体を、
「アーダイン流奥義の2、破王連撃!」
切り上げで先ず一体、切り下げで先ず二体ッ!!
「……凄い、……すぅ、ラ=ザイナ=ウルス、火球を以て敵を討て、フレイムボール」
ミナの呪文により作り上げられた巨大な火球が、残り3体の中心へ爆裂。3体はそれぞれ跳ね除けるも、火が燃え移る。
「ウロオオオオッ」
のたうち回る中を、
「ハッ!」
「エイッ」
「であっ!」
ダーチャとロシュフコーは短剣で、ダナンは弓矢で止めを刺す。
「さあ、登ろう!!」
そのまま、あたし達は3階へと歩みを進める。
◇
3階には2階より少数の召喚獣が通路を塞いでいたが、さっと片付けると、
「こっちです、上は謁見の間ですよ」
ミナが謁見の間への階段を案内してくれた。
そのまま、階段を登ると……
「何だ、これは……」
かって謁見の間を埋めていただろう絨毯は無惨にめくれ上がり、かわりにあのケルベロスと見られる怪物5体の死骸と、床には大きな穴、そして何らかの機械が移動するためのレールが確認できる。
「このケルベロス、あのスミカってのがやったのかな」
ダーチャが驚愕するのも無理はない。あたし達が9人がかりで一体仕留められた化け物だ。
それをこうも簡単に……だけど、それがゆえにスミカは消耗し、グラッシーの罠にかかったと見るのが適切だろう。
「……行こう、スミカとグラッシーはこの上だ」
◇
レールが走る階段を駆け上がっていく。……グラッシーにとっても『魔王の因子』の起動は予想外に違いない。
いくらスミカとの戦いで消耗しているといっても、まともな反撃がこれまでなかった。
……あるいは、あたし達との戦いを覚悟して、温存しているのか……
タタタタタという音が階段から響くのを、奴はどう聞いているのだろう。
そして、登りきる。敵からの反撃は、そこまではなかった。
眼前には、先ほど挑発的なメッセージを散々に送ってきた少年……グラッシーと、……全身黒焦げの状態でクレーンアームに四肢を捕まれたスミカの姿。
「……君たちが、ここまでくるとは予想外だよ、『白刃の煌めき』」
自信ありげな表情を隠さず、グラッシーは言い放つ。強者の余裕。
あたし達は他でもない、魔王を倒した者達のうちの一人と対峙していることを実感する。(え、脂公爵?ま、まあ……)
「……何が望みだ?金か?朱鷺色、カインの身柄か?」
この期に及んでふざけたことを言うので、あたしはハッキリ言い渡す。
「……お前の、命だ」
コイツを生かしておけば、国王になる可能性さえある。王国全土がプラッシー公爵領と化す可能性があるんだ。
……それを、ミナの奴も分かっている様子。アイツがいいという限り、あたしもそれを信じよう。
「それはなんとまあ、国王陛下が封ぜられた公爵を殺すと申すか?ははは、王国への反逆者め、朱鷺色と同じ目に合わないと分からないようだな」
その言葉と共に、グラッシーは後退してスミカの傍を離れ、呪文を詠唱し始めた。……この世界の言葉ではない。
「コイツッ!!」
「待って、ふぃ」
ミナが言う間もなく、先手を仕掛けようとしたあたしは……
「グワッ!!」
グラッシーの周りを囲む『見えない壁』に、突き飛ばされた。
「……古言語魔法、流石の威力だよ。さあ、僕を倒せるかな?ラ=ミーズ=グラア、湧けよマナの泉、マジックファウンテン!!」
ぐ、くそ……地面に叩きつけられたあたしは、直ぐに立ち上がる。奴の周りに『マナ』が黄色いエネルギーの幕の姿を取って湧くのが確認できる。
「ククク、さあ、君たちが死ぬまで、同じことをやり続けるかね?これで僕はマナの経路の再構築に成功した。此処にいる限り、マナを受け取ることが出来る」
『あの魔法は水魔法の上位。周囲のマナ……つまりは地上やこの城に集まってくるプラッシー公爵領の人々のマナを一点に集中させる魔法だ』
『フィス』が珍しく魔法の解説をする。過去に痛い目に遭ったことがあるのかな?
「ふざけんな!それは領内の皆から奪ってるマナだろうが」
「領民は僕の民、従って彼等のものは僕のものだ」
そして、再び古言語魔法を詠唱し始めた。
「駄目だ、ミナ。あの障壁とマナの経路がある限り、奴に打撃を与えることは出来ない」
「そのようね……」
ミナもやや焦り気味の表情。
「……来ないなら、此方から行くぞ」
グラッシーが魔法を発動する。
すると、天井が……宇宙空間に変わっていく。
「何だこれは……見たことも聞いたこともない呪文だ」
「当然だとも、僕が僕の世界の創作物から作り上げた呪文だからね」
……不意に、大気との摩擦で赤熱した隕石が遥か彼方から、轟音を立てて此方に迫ってくる!!それも3つ、6つ……四方八方から沢山ッ!!
「不味いッ!!」
こいつ自分の城を壊すつもりかよッ!!
「死ねぇッ!!」
逃げ場はない。……逃げ場はないが……
「……皆、スミカの傍へッ!!スミカが、「殺戮のカイン」が本当に『不死身』なら、その傍には着弾しないッ」
あたしは皆に指示し、皆をスミカの傍へ避難させた。
「フィス……だ、だけど……」
「時間がない、わずかでも助かる可能性に賭けろッ」
「……分かった」
ミナも納得したかしないか、あたしの指示に従ってスミカの傍に身を寄せる。
「フン、そんな理屈ッ!!」
グラッシーは魔法を操作し、隕石を此方に向けてきた。
隕石の初弾が、元々あたし達がいたあたりに着弾し、床に大穴を開けて4階と5階が繋がる。
飛んでくる破片と爆風。
「くっ、盾さえあれば……」
頬を斬りながら、ロシュフコーが言う。
2弾めが頭上を通り過ぎる。赤熱する破片が頭上に飛来し、腕をかすめる。
「チイッ……」
走る痛み。そして3弾目は……直撃コースだ!
「……頼むッ、こんなところで、あたしを取り戻すまで死んでたまるかッ!!」
誰だっていい、あたしはこの場を生き残る事を願った。
後三話で第一部完の予定です。




