第三十九話 電源を止めろ
連絡通路を進むあたし達。
「なあ、ミナ」
あたしは、ミナに聞きたいことがあった。彼女は、あたしが何と説得しようとこの依頼を受けようとした。その点について、ある仮説があたしの中に浮かんでいたのだ。
「ミナはこうなる事、つまりここでグラッシーと戦う流れになることを予期していたんじゃないか?それゆえに、この依頼を受けたのか?」
「……まあ、半々ね。グラッシー公に打撃を与え、マッタラ公とよしみを結んで、ユーデリッハ公領を守りたかったのは本当。だけど、直接対決する流れになるならそれも良しと思っていた」
ミナはさらりと言った。もー、こいつ人に意見を聞かずに勝手なことをして!!
「……対決するとして、その後はどうするんだ?」
「私に考えがあるわ。あなたにも、決して損にはならない選択が……だけど、それもこれも、まずはグラッシー公を倒してからよ」
……国の最高権力者の一人を倒して考えがあるってどういうことだよ。だけど、それを彼女に提案したのは他ならぬあたしだ。だから、後は彼女を信じる。もうそれしかない。
……やがて、ハム音が聞こえる区画に出る。大型の機械が動いているのは確実だ。
「……こっちだ」
あたしが皆を先導する。『発電設備・危険』という文字が虎柄の枠で囲まれた表札のドアが見えてきた。全金属製、銀色のノブが淡い蛍光灯の光で鈍く光る。
「ダーチャ、何か仕掛けが無いか確かめられるか」
「うん、うちが調べるよ」
ダーチャに頼んで罠などが仕込まれていないか確かめてもらうと、
「……ノブにコードが仕込まれてて、扉の内部の装置に繋がってる。……警報か何か、音の出る装置だと思う」
薄暗い中でよく見えるものだ。
「解除できるか?」
「うちを誰だと思ってんの。多分、単純にコードを外した場合はそのまま発動する形になってるから……」
ダーチャはナイフでねじを回して、慎重にノブそのものを外し、稼働しないように仕掛けられた装置ごと引き抜いていく……
そして、
「OK、警報装置は取り外せた。内部に入ろう」
そのまま開けて侵入した。
蛍光灯の光が、巨大な設備を淡く映し出す。
軸で繋がれた、半分が地下に埋まった巨大な2つの鉄の箱、タービンと発電機だった。但し、タービンの上には漏斗のような機材があり、そこに何かが流れ込んでいる……エクトプラズムのようなものが。
「そんな馬鹿な。これは……以前ユースリンクブルク大学で研究だけされた後放棄された筈の『マナ=電力変換器』……」
ミナはこの代物に心当たりがあるらしく、直ぐに正体を見抜く。
「……奴がマナを必要とするのは、これの事もあったのか」
……恐らくこれを止めても予備電源があるだろう、だけど……
「発電機を破壊すれば危険だ。軸を破壊してタービンを止める」
あたしは再び、サーベルを抜いて軸に押し当てる。
「破極……尖空」
サーベルを振り下ろすと共に軸は両断され、発電機が停止した。
蛍光灯への通電が止まり、周囲が暗闇で満たされる。
「ちょ、真っ暗じゃないフィス、どうするのよ」
「げっしまった。松明かなにかは無いか?」
あちゃー、あたしも後先考えずに行動しちゃっわ、どうしよ……
「問題はない。ミナ、発火を頼む」
あ、ロシュフコーが懐に隠してた、助かるわぁ。
「分かったわ。ラ=ザイナ=ウルス、火をともせ、トーチ」
自然の火の光が、変わって周囲を映し出す。
……盲目なのは敵も同じはず、この隙にグラッシー城を駆け上がるんだ。
そして何より、これでスミカを敵の拘束から助け出すことも出来るはず。
「恐らくは予備の電源もある、そいつを探し出して潰してから城まで上がろう」
……あたしはあいつと再会したとき、どう扱えばいいのだろう。グラッシー程ではないにせよ、彼は自らの野心の為に多くの人を犠牲にした。今回の作戦も、自らがグラッシーの元へ突入するための囮だったのだろう。
……だけど、彼を裁いていいのはグラッシーじゃない!罪で汚れた手で罪を裁くことなど出来ない。だから、だから頼むから死なないで。……そしてどうか、我が手で暴君に死を!
◇
発電設備より若干離れた場所にあった予備電源室には、停電時の為のバッテリーが多数設置されていた。
「コイツを燃やして爆破してしまおう、ミナ、頼めるか」
「もう、人使いが荒いんだから!ラ=ザイナ=ウルス、火球を以て敵を討て、フレイムボール」
文句を言いながらも、ミナは巨大な火球を呪文で作り上げ、バッテリーへと叩き込む。
……ここにしろ、地下、この連絡通路の警備体制は薄い。グラッシーの慢心は死で償わせてもらおう。
「……これだけ派手にやれば、敵もこちらの動きに気づくはず、ここからは戦いつつって事になるわよ」
「上等だ」
連絡通路をそのまま進むあたし達、やがて、ついに地上……恐らくは城への非常階段が眼前へと現れる。
背後で爆音。バッテリーが爆発する音だろう。
「……みんな、覚悟は良いな。これから戦うのはかの『昇竜の血』が一人、魔王を倒した世界最強の存在の一人だ。ミナ、ロシュフコー、ダーチャ、ダナン。決着を、つけよう。このプラッシー公爵領に広がる悪夢にいまこそ終止符を!」
頷く皆。
さあ、駆け上がろう。その悪魔の居城へと!




