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第三十七話 クレーンゲーム・ジェノサイド

 

 

「敵の一部が王城へ向かっていく。今がチャンスだよ!」

 

 

 ダーチャの先導の元、あたし達は草陰を出て目的の切り株地帯へと突っ込む。

 

 敵側も遂に此方の動きに気づいた模様で、3人の神父姿をした警備兵が立ちはだかった。

 

「……敵襲!」


 3人の神父が同時にそのコートを脱ぐと……その姿が見る見る内に変わって行く。

 

 毛が生え、肉体が膨張し、現れたのは首筋から何本もの蛇が湧き出ている体長3mほどの巨大な狼型の怪物だった。

 

 召喚獣達が此方に襲い掛かってくる。うち一体を相手にすることを決めると、あたしはサーベルを下段に構えて突進する。

 

「工場への突破を最優先に!」


「分かってる!!」


 大狼もまたその健脚で一気に此方に飛びかかってきた。大顎を開けて此方の首を噛みちぎらんと飛んでくるそいつを、サーベルを構えなおし受ける。

 

「クッ!!」


 激しい金属音。サーベルが奴の歯にはじかれると、あたしは衝撃で体制を少し崩す。重量は敵の方が上、大きな衝撃が肉体を貫き後退するが、なんとか突進そのものは受け止めた。

 

 相手はそのまま追撃しようと右腕を高く上げる。

 

『左に回り込んで後ろ足を切れ!』


 フィスから助言。やってやろうじゃん!

 

 さっと飛びのいて犬パンチを躱し回り込もうとするが、そこに大狼が首に巻いていた蛇が鎌首をもたげて待ち構えていた。

 

「邪魔だッ!」


 サーベルを一閃し断ち切るが、その隙に敵の本体は此方に向きなおし、

 

「ガウッ!!」


 頭を突き出してきた。


「クッ」


 鼻先を思い切り背中に当てられ、突き飛ばされる。……いっててて……

 

『直ぐ起き上がるな、敵が跳びかかってくるところを転がって回避』


 了解ッ!!

 

 フィスの読み通り、相手は此方の喉元を狙って飛びかかってきた。それをあたしは転がって躱しつつ起き上がり、サーベルを構えなおす。

 

 更に相手は顔を突き出し、口を開けて此方の腕を引きちぎろうと襲い掛かるが……此方の方が早い!

 

「ハッ!」


 一突き!口の中に入ったのは腕ではなく、サーベルの刀身だ。そのまま下に断ち切り、頸動脈をぶち抜く。

 

「あをおおおおおおんッ!」


 大量の血を吹き出し、大狼は力なくその場に崩れ落ちる。

 

「行きましょう。爆弾は俺が仕掛けますので、突破と仕掛ける間の援護をよろしくお願いします」


 ダナン達も一体を退治しているようで、残りと……更に城の方からきた増援をレジスタンスの皆が相手にしていた。

 

 あの人数では、余り長くはもつまいが……

 

 『白刃の煌めき』の他3人の健在を確認すると、

 

「ああ。ダーチャ、入口へッ」


「うん!」


 彼女はあたし達の先頭に立ち、入口になっている切り株へと先導する。

 

 後に続くあたし、ミナ、ロシュフコー、ダナン、そして数名のレジスタンス。

 

「ここだよッ」


 巨大な切り株に偽装された搬入路。ダーチャはその、木の表面にしか見えないドアを開ける。

 

 中から現れたのは地下へのなだらかなコンクリート舗装のスロープ。

 

「……何が待ち構えるか……」


 あたし達は、意を決してその虎口へと突入した。

 

 

 ◇

 

 

 スロープを降りると、近代的な設備の整った広い部屋に出た。

 

「……なんだ、あの細長い白いものは?」


 天井を見上げたロシュフコーが、そこに張り付く白いモノ……蛍光灯を見て言う。

 

「地下なのに、まるで昼間のようね」


 コンクリート打ちっぱなしの無機質な床。壁は淡い黄緑色のペンキが塗られているものの、材質はやはりコンクリートだろう。

 

 ひときわ目立つのが赤い消火器。

 

 ……奥の方はT字路になっているようだ。

 

「取りあえず、正面に行ってみる?」


 ミナの意見に従い、あたし達は通路を正面に歩いていく。

 

 突き当りに、巨大なガラス窓が何枚もあるのが見えてきた。

 

「……?」


 敵の妨害はない。まるで工場見学の気分だ。

 

 ……いや、敢えて見せているのか……?

 

 ガラス窓へ近づくと、冷たい空気を感じる。……どうやら、窓の内部は空調により相当冷たくなっている様子だ。

 

「……何かの、罠かしら」


「いや、恐らくここは……」


 ソーマ工場を各地に建てるためのモデルケースとして、見学スペースが作ってある形なのだろう。

 

 ……となると、ガラス窓の向こう側では何が行われているんだ?

 

 あたし達は、恐る恐る窓の中を覗くと……

 

 

 氷が、まるで心の中に落ちるような衝撃。窓の中の冷気を直接受けるかのような冷たさがあたし達を駆け巡る。

 

 ガラス窓の内部はタイル張りになっており、底にはソーマの原材料が無造作に積み重なって置かれている。

 

 奥からクレーンゲームのクレーンを大きくしたようなものが天井に敷かれたレールを伝って現れ、クレーンが降りてその原料を掴む。

 

 クレーンは上昇すると、そのままレールに沿ってその原料を運んでいく。

 

「何よ、これ……」


 ダーチャ、ロシュフコー、ダナン、そしてミナ。

 

 残酷な光景には皆慣れている筈だった。

 

 あたしも、この世界に来てから慣れたはずだった。

 

 それでも、こんなの、こんなの絶句するしかないじゃない!!

 

 

 ……ソーマの、あの黄色い液体の原料は……人間の死体だったのだ。

 

 

 まるでクレーンゲームの筐体をそのまま大きくしたかのような容器の底に、まるでその商品の様に折り重なって倒れている、裸に剥かれた恐らく冷凍状態の老若男女の死体。

 

 そのおびただしい死。かってはあたし達と同じようにその人それぞれの人生を送っていたであろう彼等彼女等の末路は、十把一絡げに扱われてソーマの原料となる事だったのだ。

 

 恐らく、最初の死体の供給源はグラッシーの圧政によって餓死した元の住民たちだったのだろう、そしてそれが足りなくなると、マッタラ公爵領から死んだ奴隷と生きた奴隷を交換するようになったのだ。

 

「……ううっ」


 余りの凄惨さに吐き気を催したミナとダーチャが、ほとんど同時に口を押えてかがむ。

 

 ダナン、ロシュフコーですら、正視できずに目を反らす。

 

 だけど……だけどあたしは正視する。いや、彼等の同類として正視しなければならなかった。目の前で繰り広げられている光景を瞼に焼き付ける。

 

 スミカもこの所業に加担していると考えると、許しがたくもあるが……まずは何より、

 

「……悪魔め。どれだけ人間の尊厳を踏みにじれば気が済むのよ、グラッシー=オブ=プラッシー!!!」


 拳をぎりぎり握りしめ、この世界を作り上げている存在への憎しみを口にする。

 

 そして、小賢しい悪魔は返事をするものだ。

 

「悪魔……そうか悪魔か、最高の誉め言葉だね、フィス=フィルレーン君」



 その声がいずこかにあるスピーカーから発せられると共に、正面のガラス窓が突然モニターへと変わって、玉座にもたれかかった一人の少年を映し出す。少年……いや、幼児と言った方が正しい年齢に見える、おかっぱ頭にサスペンダー付きのズボンと白いシャツ。見た目通りの年齢でないことは明らかな、グラッシー=オブ=プラッシーの姿がそこに映し出された。

 

「……先ほどの叫びを見るに、君は朱鷺色の奴と同じようだな。なら自己紹介と行くか、僕は塔野先継、君は?」


「……フィス=フィルレーン、お前なんかに名乗る名なんて持ち合わせてない!」


 こんな奴に礼儀を見せる意味を感じない。あたしは見栄を切る。

 

「フン、まあいいだろう。おせち料理に田作りってのがあるだろう?乾燥させたカタクチイワシを醤油とみりんと砂糖で固めたあれだ」


「……ああ」


 日本人にしか通用しない例えを言い出して、コイツ……何が言いたい!

 

「ソーマはアレと同じだ。豊作を祈念するための祝いの品だよ。田んぼになるのはこの世界の人型で、収穫するのはマナになるけどね」


「……じゃあ、田作りにされた人の人生、田んぼにされた人の人生はどうなる!!」


 激怒しつつもあたしの心はどこか平静だった。ロシュフコーとダナンの気配が周囲から消えているのを確認する。……このまま、奥に行って爆弾を仕掛けられればいいが。


「人生?他人の人生に興味を持つなんて君も酔狂な人間だね。第一、彼等は『地球人』じゃない」


 ……地球人じゃないのは、今のあたしとコイツも同じじゃないのか!?

 

「じゃあ宇宙人だってのか?」


「そんな高等な存在じゃないぞ、彼等は。地球人を真似た出来損ないのイミテーション、いわばゲームのNPCノンプレイヤーキャラクターだ……そして、NPCに僕らを倒すことは出来ないんだ。特に、このカイン=ナ=マッタラはね」


「何ッ!?」


 グラッシーの頭上、左右から2台のクレーンが降りてくる。あたしとモニターの向こうのグラッシーとの間に姿を現したのは……ボロボロになり、クレーンに両手両足を掴まれたスミカだった。


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