外伝4 グラッシー=オブ=プラッシー
僕は塔野 先継……勿論、これは前世の名前さ。ただ僕ら4人の間では、これで呼び合ってもいいようにしている。
「すまん塔野!本当に申し訳ない!!そ、そいつらと俺は何も関係ないから、頼むから見捨てないでくれッ……」
倉井の奴に例の冒険者連中の事を念話の画像通話で尋ねてみればこれだ。彼が他人に頭を下げるなんて珍しい光景でついつい笑ってしまったね。
「ははは、君が豚さん以外の手駒を欲するなんて珍しいじゃないか?……いよいよ、自慢の豚さんの能力と忠誠に自信が持てなくなってきたのか?」
「く……」
図星そうだ。どうも、公爵領内で自分に従わない豚族の一団が見つかったらしい。
全く、権能に全て頼るからこうなるんだ。その点僕は、魔術師としての実力をキチンと伸ばしている。
何と言うか、情けない……僕の前世の両親を思い出して吐き気がする。
あいつらは、事あるごとに親戚に頭を下げていた。僕が引きこもってることで親戚に迷惑をかけていたんだと。
ハッ、馬鹿馬鹿しい。誰が悪いかなんてそんなのは決まってる、僕を散々にコケにして引きこもらせた学校の同級生共だろうに!!
僕は悪くないし両親も悪くない!だのに、アイツらは僕を養うだけの金すら稼げずにあっちこっちから工面してたんだ。
フン、慰謝料でも相手側の両親からふんだくる度胸ぐらいないのか!
あんな役立たず共に、僕の楽園を壊されてたまるかと……
あの日、僕を部屋から引きずり出そうとした両親を……僕は、僕は……
あああああああッッ!!!糞ッあの豚野郎!!僕にヤな事を思い出させやがってッ!!!
「ん、塔野?どうかしたか?」
僕は二十歳を超えていたから、死刑になってもおかしくなかった。異世界追放で済んだのは弁護士さんのお陰だ。
1人殺した倉井の親は弁護士に大枚はたいて追放刑を逃れられなかったのに、僕は2人殺した、しかも大昔なら尊属殺人の大罪だったけど国選弁護人のお陰で死刑を免れた。皮肉なものだし、お金なんてそんなもんだと思う。
だから、僕が欲しいのはお金じゃない。単純な『力』でもない。
僕が欲しいのは、僕の安住の空間と、安住を周りの奴らが邪魔できなくする手段だ。そして僕は、それに相応しい力を転生の際に授かっている。
追放されてこのかた、僕は努力した。何者にも頼らなくていい力を手に入れるために。そして僕達は結果を得た、世界の救世主となったのだ。
だけどこの僕らに与えられた地位は、僕らの業績に相応しくない。少なくとも、僕はそう思う。
「大丈夫だ……兎に角頭を上げてくれ倉井。彼等を送った事くらい目をつぶれない僕じゃない。……何より、今の状況を生き延びられないような連中に、君は用が無いだろう」
『白刃の煌めき』と言ったか……所詮、僕の地位を揺るがすような輩ではあるまい。我々転生者と土着の人間とではそれだけの差がある。
「このまま僕に楯突くようなら排除すればいいし、もし彼等が思い直してくれるのならそのまま帰すさ」
連中はゴミだ。あらゆる役割を考えたが、最終的に思いついたのは僕の『マナ電池』、ただそれだけの為に生きてもらうのが良かろう。そして、その『器』としての機能を強化するためのソーマだ。『器』理論は従来この大陸で主流になっていた『マナを生体や自然が初めから所持する』という理屈ではなく、まず天から降り注ぐマナを『新たなる器』と呼ばれる巨大な器が受け止め、それを生命や自然が持つ『小さな器』へと分配することで成り立つという。今のところ、それは正しいように見える。
その為の宗教的支配とソーマだ。
……そして、それを脅かす者は排除する。
監察隊からの報告によると、例の『白刃の煌めき』を含む数十人の集団が、どうもこの城に向かっているらしい。
連中の拠点を調べようとしたところ、自爆して雑兵共に15人ほどの損害が出たようだ。野良仕事すら出来ない役立たず共が何人死のうが構うものじゃないけどね。
「連中はケルベロスを倒した。それは頭の片隅に置いておいてくれよ……それと、出来ればその、連中のリーダーは生け捕りにして俺に渡してほしい」
「分かっているよ、油断はしないさ」
連中のリーダー、ええと何と言ったか、ミナだっけ?美人なので倉井の奴が愛人に欲しいそうだ。全く、物好きにも程がある。
「この場を生き延びたら、神奈が計画してるっていう同窓会で会おう、じゃ」
通話を切った。
◇
「……」
今通話を切ったのは他でもない。実は、倉井の奴に秘密にしておきたい情報があるのだ。
「……朱鷺色、だな」
彼、いや彼女が集団の中に居るらしいという報告を召喚獣の連中から聞いたのはつい先ほどだった。
奴隷を密輸してやるだけでは不満だったらしい。
「チッ」
他の有象無象は兎も角、あいつがいるからには本気にならざるを得まい。
他の連中の狙いは分からないが、あいつの狙いは僕自身に違いないだろう。
「ここで僕を潰して王都攻略へと弾みを付けようってのか、糞野郎」
プラッシー公爵領があいつの手に落ちれば、僕以外の連中はあいつを止められまい。
しかし……馬鹿な奴だ。何ならルリアーナ、神奈の奴を優先すればよかったものを。当方に迎撃の用意ありだ。
僕の部屋には二重三重のセキュリティがかかっている。電子的なものも魔術的なものもだ。
当然、あいつは力押しで破ろうとしてくるだろう。そこが逆にチャンスとなる。
「……システム稼働」
僕の鶴の一声で、迎撃システムが稼働する。
「さて、あいつは何処まで突破できるかな?」
朱鷺色の身柄を確保すれば、もう僕を止められる者もいなくなる。
あいつのように乱暴な手段を使わずとも、僕は玉座へと至れるのだよ。
「朱鷺色、いやカイン。お前の不死伝説は悪いが今宵限りだ」
何より、僕には、僕にだけはあいつが殺せる。それは最後の手段だが、緊急避難的には仕方あるまい。
◇
城門で戦闘が始まった様子だ。
「来たようだな……」
確認できた敵はカインと他数名。……ほう、人数が合わない。
「カインめ、『囮になる』とか称して出てきたに違いない。だとすると、他の連中の狙いは……」
ソーマ工場か!?……昨日の荷運びの連中との連絡を断たれ、後を付けられていたらしいな。
「チッ」
カインにとってはそっちが陽動だろう。陽動でも手を抜かないのは何とも……
「その策に乗るか」
召喚獣をカインの迎撃に集中させる。この際ソーマ工場は破壊されても仕方あるまい。
「ケルベロス5体をカインの迎撃に移動。歯は立つまいが、消耗させて時間を稼げ」
案の定というべきか、ソーマ工場側の手を薄くした途端に敵の数的な主力が出現したとの報告が、十分ほど後に召喚獣から脳内に送られる。
やってくれるな、朱鷺色澄香……!!
「この落とし前は付けさせてもらうぞ、朱鷺色、そして『白刃の煌めき』」
僕は歯をギリギリ言わせながら、報復の手段を考えていた……




