第三十三話 負けバトルって一度は良いけど何度もあるとうざいよね
スミカに連れてこられたのは、
「道場……!?」
8畳の畳が敷き詰められた部屋だった。
「ほう、やっぱり君も稀人か」
あ、しまった……
「何、気にする事は無い。僕も出資者としてちょっと無理を言ってここを作って貰ってね。それじゃあ始めようか」
とスミカが言うと、壁に立てかけてあった何本もの竹刀のうち一本を手に取り、此方に放り投げてくる。
それを受け取る。なつかしい竹の匂い。
「模擬戦をやろうってのか」
「うん」
スミカが竹刀をもう一本手に取りつつ答える。
「じゃあ、行くよ」
スミカの構えは正面中段。あたしは下段。
『あの構えはトルペット流の……』
とフィスが解説するも、そもそもが剣道において基本の構えじゃないのかと。
スミカが先に仕掛けてくる。……上体を全く動かさない、まるで滑っているかのような瞬時の動き。
あたしは反応して切り上げを行うが、直ぐに受け止められ、スミカは即座に突きへと移行する。
左肩を狙ったそれを紙一重で躱し、後退して一旦距離を取ると、
「凄いね、ちゃんと見えるんだ」
と竹刀を振り上げ、今度は上段に構えを移行して追撃してくる。
こっちも中段に構えてそれを受け流すそうとするが、
「フッ」
スミカは受けた瞬間に反動を利用して次の技に移行する。
― 刹那
瞬時に5連続の突きを繰り出されたあたしは、それを胸から腹にかけてまともに食らってしまった。
「うわあっ!!」
壁まで吹っ飛ばされる……いってててて……骨が折れるかと思った……
「覚えておいた方が良い。これがトルペット流奥義の1、流麗血華だ。真剣なら間違いなく死んでいたね」
「し、竹刀とはいえ奥義を使うなんて……」
くっそ、加減する気なしだなコイツッ!!よーし、やってやろうじゃん!
「もう一手合わせだっ」
「いいとも」
あたしはすぐ立ち上がって竹刀を構えなおす。
『気を付けろ明菜、コイツ相当な手練れだぞ。本来、あそこで破極尖空を出せば勝利は決まっていたけど、奴はそれを見越して先に奥義へ移行した』
「……マジか」
剣術の事については饒舌になるなフィスの奴め。
『破極尖空は打ち合いさえすれば相手の体制を崩せることがミソの奥義、だから本来、中段からの受けによる防御を主体とするトルペット流はカモなんだ、だけど……』
分かった、次は先に奥義を出せるよう狙ってみる。
『がんばれ』
結局、奥義を先に出せたほうが勝ちってか、ならばッ!
あたしは中段に構えて一気に間合いを詰める。相手に受けの姿勢を無理やり作らせるのが目的だ。
しかし、スミカはそれを読んでいたかの如く、横撫に竹刀を入れる。
あたしが竹刀を振り下ろす前に、スミカの竹刀はあたしの手を激しく打つと、あたしの太刀筋がずれる。
スミカは反動ですぐさま上段の構えに移行しそのままあたしの頭に一発。
「うぎゃっ」
「トルペット流奥義の2、手断牙葬」
いっててててて!!
「痛かったかい?」
「あ、当たり前だ!」
うー、頭がクラクラする……
「……破極尖空の発動を狙って受け身を強いようとするところとか、見どころはあるけどまだまだといった所か」
あちゃー、全部読まれてるよ。
「戦いってのは常に化かし合い、殺し合いだよ。君はまだ、現代日本人としての甘えさが抜けきってないと見える」
「……それは、自覚しているさ」
……何せ、人を初めて斬ったのがついこの前なんですからね。
「ほら、立って。まだやれるだろう?」
「あ、ああ。あんたに一太刀入れるまでやってやる!」
売り言葉に買い言葉、あたしはそのまま、スミカとの模擬戦を続けた……
◇
あーうーあー……
「ハァ、ハァ、ハァ……」
あれから30分ほど経ったか、結局、一太刀も入れれていない。あたしは体的にも限界に近づいていた一方、
「中々やるね……」
スミカも、少し息が乱れつつあった。彼も人の子、無敵ではないという事だ。なら!
「たあっ!!」
あたしが繰り出した下段からの逆袈裟斬りを、
「はっ」
スミカは竹刀で受け、そのまま手断牙葬へ移行しようとする。だけど、
「!!」
彼が打ち下ろそうとした所に、既にあたしの手は無かった。切り上げは受けでは中断せず、そのままあたしは飛び上がっていたのだ。
「アーダイン流奥義の2、破王連撃!」
そのまま振り上がった竹刀を、ジャンプの勢いと共にスミカの顔面へ振り下ろす。これで、受けの姿勢が作れる!
激しくぶつかり合う竹刀。今だッ!!
「破極尖空……ッ!!」
いや、……何か、変だ。闘気が、闘気が集まらない……ッ!?
スミカの構えは崩れない。彼はあたしが着地した時に出来た隙を見逃すはずもなかった。すぐさま受けた反動を利用し、
「トルペット流奥義の1、流麗血華」
先ほどと同じ5連撃が飛んでくる。
「うわっっ!!」
竹刀を思わず手から離す。勝負ありだ。
「君の読みは完ぺきだった。僕以外の人間が相手なら勝利を収めていただろう……これが、闘気封じだ。達人へ容易に奥義は通らない、覚えておくといい」
賞賛の言葉が彼の口から漏れる。
……だけど、勝てなかった。
あたしに考え得る最善を尽くしても、勝てなかった。
「こんなんじゃ……皆を、守れない……俺、戦う事しか、脳がないのに……」
情けなくて、涙が流れてくる。
「その悔しさを忘れるんじゃない。力を求めろ。そうすれば、君は僕より上に行ける」
「……その……」
「何だい?」
あたしは、言った。
「『名前』を、教えてくれないか……」
彼を魂の師匠にしよう、あたしはそう決めた。
「朱鷺色 澄香」
「……木本明菜……です」
表に『あたし』を出して、言った。
「成程。君は僕と同じだね」
……澄香……つまり、転生前は女性……
「僕は君をより良い方向に導きたい。どうだい、もしこの作戦が終わった時互いに生きていたら、僕の元に来ないかい?」
「…………」
思いもよらぬ申し出だった。だけど、
「……あたしには仲間が、帰る場所があります。あたしは彼等の為に『フィス=フィルレーン』でありたい。そう言う意味で、あなたとあたしは違うんだと思う。だから、きっとあなたの元へは行けない」
あたしがそう言うと、彼は残念そうな顔をした。
「そうかい……それは本当に残念だ。でも、気が変わったらいつでも、僕の元に来ていいんだよ」
スミカはそう言ってくれた。彼、いや彼女の好意は有難いけど、あたしにはもうフィスとしての居場所があるんだ。
「行こう、君の仲間が待っている」
スミカは竹刀を片付けると、作戦室への道へと引き返していく。あたしはその背中を追った。




