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第三十二話 金、金、金、冒険者として恥ずかしいという事はない

 

 

 地下基地は中々のスペースがあるようで、かなりの人数を収容しているようだ。

 

 

「あなた方が居た開拓村から、あなた方以外にも若干の参加者がいましてね……人数が増えたはいいのですけど、それだけ脚が付きやすくなったともいえます」


 ダナンはそう説明する。実際、ああやってマッタラ公爵領からの略奪団をグラッシー公に変わって迎撃することで彼等は支持を集めているのだろうが、一方でそれは活動が目立ちやすくなるという事でもあろう。

 

「だから、今回の作戦が終わったらここは放棄するつもりです。……さ、そろそろ着きますよ」


 ダナンは地下基地の奥にあるスペースへあたし達を案内した。中央作戦室というべき、テーブル(これも洗礼を受けた品なのだろうか、自重で崩壊する気配はない)の置かれた部屋。

 

 先に椅子の前に立って待っていた、一人の人物があたし達4人の注目を集める。

 

 

 年頃は20代前半だと思われる。腰まで届くかのような白髪の長髪の中に、鋭利な刃物のような、黒いバンダナを締めた中性的で耽美な顔が浮かんでいる。

 

 着ている服は黒い胴着のようなもの。背中には、極めて刀身の長いサーベルのような長刀が収められている。黒い長手袋が印象的。

 

 そして、彼を特徴付けるのはその圧倒的な長身。恐らく2mを超えるだろう。地下基地の中歩きづらくないのかな?

 

「やあ」


 髪の白と胴着の黒の対比が、彼、もしくは彼女の美しさを際立たせる。……美形だった。フィスには『イケメン』という俗な例えがビッタリだが、彼やキリクさんには『美形』という言い回しがしっくりくる。

 

『失礼な言い方だな』


 わっ、フィスの奴起きてるし!!まあ兎も角、つまりフィスが主人公っぽいなら、彼は宿命のライバルっぽい雰囲気な訳だ。

 

「君たち、いや、君に会える日を待っていたよ。フィス=フィルレーン」


「どこで俺の名を……」


 月並みな台詞だが、あくまで『白刃の煌めき』の名声はド・ロン公爵領とその周囲に限られるだろうし、これだけ離れた場所で初対面の人間が知っているのは実際妙だ。

 

「冒険者ギルドで期待の新人が現れたと聞いてね……失礼、僕はスミカ。金級冒険者スミカ=アイビス」


「き、金級冒険者……」


 金級の冒険者を目の当たりにするのは初めてだった。後ろに振り返ってみれば、皆驚嘆の表情をしている。

 

「中々お目にかかれない相手を見て、驚いているようだね」


 長身を椅子に収めながら、スミカは金色のプレート(恐らく金級冒険者証)と……小指のようなものをごとっと手からテーブルに乗せる。

 

「!!」


 ミナはそれが何か察したようで、

 

「……『魔王の因子』」


「そう、究極の『マナの器』にしてあらゆる支配を跳ね除け受け付けぬ『排除の誘導体』。君らもそうらしいが、これを使って彼等をソーマの支配から解放していた」


 人々を解放した手法は分かった……分からんのは、コイツ、どういう意図で動いているんだという事だ。冒険者ギルドの指示か?

 

「最も、ダナン達がレジスタンスを立ち上げたのは、僕が来る前だけどね。このレジスタンスを立ち上げたのはあくまで彼等の意思で、それを作り上げたのはその本だよ」


 と、スミカはミナが持つ例の旅行記を指さす。

 

「……」


 ミナは、明らかに目をそらした……あー成程、実際に書いたのはミナなのかなあの本。……でもどうして、ドミニアが旅行したものとして書いたんだろう?

 

 そして、それをどうもスミカは見透かしているらしい。……何だろう、二人は前から知り合いなのかな?

 

「僕はただ手助けしているだけさ。ある方からのご依頼でね」


「ある方?」


「誰かは守秘義務があるので言えないよ」


 ……ある方、下手するとドミニア自身の可能性もあるわね……

 

 彼は足を組み替えると、腕を机に叩きトントン鳴らす。

 

「さ、リーダー殿、彼等に作戦を説明するんだろう?」


 何と言うか、彼の前では皆が委縮してしまうのだろう。実際、この部屋の中でひときわ圧倒的な存在感を放っている。

 

 スミカに促され、ダナンがようやく作戦の概要を話し始めた。

 

「は、はい。今回、皆さんにやってもらう事は他でもない……『ソーマ』を製造する工場の襲撃、破壊です」


 ソーマの、製造工場……ってかモロにグラッシー公と敵対する形じゃない。

 

 逆に言えばそういう依頼であることを承知の上で、それが冒険者ギルドや王国そのものとの敵対で無いことを示すために金級冒険者であるスミカが同席しているのか。


「ミナ、……その、こう言っちゃなんだけど……この依頼は危険だ。助けられた恩はあるかもしれないが、安請け合いしない方が良い」


 あたしの意見に、ミナも頷いて、


「分かっています、フィス。……ダナンさん、報酬は?」


 と彼の顔を凝視する。


「5000ゴールド。全額成功報酬です」


 凄まじい金額が提示されたが……全額成功報酬だと……!!

 

「悪いですが、報酬の現物を見ない事には信用できません」


 こちらとしては当然の言い分だ。ミナがそう言うと、エリーがダナンに耳打ちし、ダナンはテーブルに袋をドスっと置いた。

 

 中に重量のある物が入っていることは間違いない。ダナンが袋の口を開けると、黄金の光が零れ落ちる。

 

「……これで、満足いただけましたか?」


「結構です。フィス、ロシュフコー、ダーチャ。この依頼を受けますが異存はありませんね?」


 ……少し、少し考えたが……ミナが受けると判断したのならば、

 

「俺に異存はない。やってやろうじゃないか」

 

 とあたしが口にし、

 

「ミナが思う通りに」


「物騒な依頼だけど、金級冒険者が此処にいる以上冒険者ギルドのお墨付きなんだろうし、うちも異存はないよ」


 ロシュフコーとダーチャがそれに続いた。

 

「では作戦の要綱を説明します」


 返事を聞いて間も無く、ダナンは詳細の説明を始めた。

 

 

 ◇

 

 

 今回、マッタラ公爵領から侵入した奴隷狩りはかなり大規模なもので、多数の開拓村が彼等に襲われたという事だ。

 

 しかしそれゆえに、彼等の情報管理がおろそかになっており、レジスタンスは彼等に関する重要な情報を手に入れることが出来た。

 

「……端的に話しましょう。奴隷狩りは……グラッシー公による自演であり、彼等は開拓村での労働に付いていけず落伍した開拓者達です」


 うわ……いきなりトンデモ無いことを聞いた……

 

「連中は解放される条件として、村への襲撃を提示されているようでした。公爵は暗示とソーマによる支配の術式を使って口を割らないようにしていたようですが、今回はそれが不徹底だったのです」

 

 あり得る話だ。だけど……

 

「連中は奴隷を狩って、どこへ連れていく気だったんだ?」


 疑問が噴出する。


「勿論マッタラ公爵領です。かの地は現在鎖国中ですが、それゆえに奴隷を労働力として必要としています。奴隷はマッタラ公爵領と取引され……何かと交換されるようです」


「……何か」


「それ、すなわちソーマの原料を追う事で、ソーマの製造工場の場所を割り出すことが出来ます。強力なマナ爆弾を用意しているので、それを最深部に仕掛けて爆破してください」


 つまりソーマ工場の具体的な位置及び間取りはまだ分からない訳か……苦しい任務になりそうだ。

 

 

 こうして作戦の詳細が明かされたところで、スミカが立つ。

 

「それじゃ、作戦を実行に移す前に……ちょっとフィス君にお願いがあるんだけど、ついて来てくれるかな?」

 

 な、何だろう?

 

「ま、まあいいけど、何の用だ?」


「それは秘密だよ」



 スミカがそのまま退室するので、あたしは席を立ちそれを追った。

 

 

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