第三十一話 戦え、強き者と
「さあ、打ってこい。お前のアーダイン流の修行を完成させてやる」
どうして、俺と義父さんが戦わなくちゃならないんだッ!
「お前が世界にとっての災いだからだ。だがお前が俺を斬れるならば、それはそれでよいとも思っている。お前が災いでないならば、それを証明してみろ」
……俺は、俺は災いなんかじゃないッ!!
1度、2度、3度と打ち合う。
響き渡る金属音。お互いに全力で『破極尖空』を撃とうとして、互いの闘気を消しあう。
そして4度目は……無かった。
義父さんは、俺の剣をその身に受けた。
とめどなく流れ落ちる血。
「やはり、お前は災いだ、呪われた子、呪われた器よ。……だが、俺の世界はここで終わる。終わった後の世界など……どうでもいい」
やめろ、なんで、なんで死に際にまでそんな言葉をッ!!俺は、俺はあんたにとって自慢の息子なんじゃなかったのか!!実の息子かどうかなんて関係ないだろッ!!
嫌だッ!俺は災いなんかじゃない!嫌だ、嫌だ、頼む、もっと何か、本当の言葉を、本当の気持ちを話してくれ、せめてそれを最後に遺してくれッ!!
義父さんッ!!
◇
……最悪の、寝覚めだ。
さっきの夢はフィスの記憶、だったのかな……
血の匂い。あの時は緊張のあまり、実感がわかなかったけど……
「あたし、人を殺したんだ……」
その事実は、自らの、木本明菜が無実だという正当性を汚すような気がして、これまで忌避感以上に強く躊躇していたものだ。
だけど、戦う以外に道を切り開けないなら、あたしは、フィスはその力を使おう。
さて、取りあえず、……ここは、何処だろう。
眼前に現れたのは土壁。天井も土壁。上体を起こしてみると、傷はもう癒えているようで(そりゃあ、ミナの奴なら全てを賭けて癒すだろう。マナを総動員したに違いない)楽に立ち上がれた。
あたしが寝かされていたのはあのロシュフコーが持っていた寝袋のようである。見下ろすと地面もまた、乾いた土に覆われていた。
傍らには、敵から奪ったあのサーベルが鞘ごと落ちている。
「……まるで地下牢だな」
牢、と言っても部屋の出口に金網やドアはない。開拓村の中でないことは明らかだけど、本当にここは何処だ?
サーベルを手に取る。……フィスの愛剣のような親しみは感じない。コイツは明らかに、人を殺すための道具だ。
「フィスッ!!」
ミナの声だ。部屋の方に足音が近づいてくると……
部屋に入るなり間も無く飛びついてきた。
「うわあっ」
「もう、バカバカバカッ!!あんな無茶して、本当に死んだかと思ったんだから!!」
ぎゅーっと、抱きしめられる。彼女の肌の柔らかい感触が、それまでおぼろげだった自分の生還を実感させた。
「……心配、かけたな。俺には戦う事しか出来ないから」
そうあたしが言うと、ミナは腕を離して、
「だけど戦って命を落としたらそれまでなんだから……なんだからね!」
涙目で訴えかける。
……やっぱり、ここは『勇者』が『プレイ』しているゲームの世界なんかじゃない、あたしにとってこの世界は第二の現実、第二の人生だ。
そこで、思い出したことがある。
「ギースとマルドーは」
倒れていた二人の村人は、
「私達の手で埋葬したわ」
……そう、か。
「あた……いや、俺の作戦が不味かったのかな」
「そんな事ないわ。あなたと彼等が戦っていなかったら、食堂に火をかけられて皆殺しにされていたもの。……必要な犠牲よ」
必要な犠牲、か。中々割り切れるものじゃないけど……まあ、所詮は他人だ。
「お、英雄どののお目覚めだな」
すると、もう4人の足音が部屋の外から響き、そのまま入ってきた。
うち二人はロシュフコーとダーチャ、もう二人は……あたしが意識を失う直前に助けてくれた、男女のペアだった。
「紹介する。ローク老人の息子のダナンと、その妻のエリーだ」
え……?依頼人の息子夫婦?ロシュフコーさん、それは本当ですか?
「ってことは……」
「依頼は達成済みって事だよ、フィス」
ダーチャも笑顔で答えてくれた。
「初めまして、ダナンと申します。この度は父の無茶な依頼に付き合っていただきありがとうございます」
「エリーと申します。……正直、あの手紙で本当に誰かがここに来てくれるとは思ってもいませんでした」
「……初めまして、フィス=フィルレーンです」
取りあえず、挨拶だけ返す。あの手紙も、キチンとこの二人が出したものらしい。
「そして、来てくれた以上はあなた方に協力して頂きたいことがあるのです」
へ?
「協力……ですか?」
「はい。勿論ただとは言いません、相応の報酬を支払います」
報酬だと……?お金はミナが管理しているからわからないが、今回の依頼はそもそも必要経費だけでトントンの筈、渡りに船と言ってもいいが……
「何を、してもらいたいのです?」
まずはそれを確認してからだ。
「……グラッシー・オブ・プラッシーとの戦いを」
◇
部屋から出て、二人に案内されたのはまさしく『たまり場』と言うべき、レジスタンスの地下基地だった。15畳ほどの空間のそこかしこに何処からか持ってきた食糧と武器が積まれている。
「私達は洗礼を受けた後、気付いてしまったのです。……この公爵領、この世界の真実に」
妻のエリーは、一冊のハードカバーの本を山積みになった食糧の中から取り出す。
「……プラッシー公爵領旅行記……」
「著者名を見て下さい」
……一般的なラテンアルファベットで、題名と著者名が書かれている。やっぱり、あたし達実際には日本語で話してない?
「……ど、ドミニア・フォン・ユーデリッハあぁ?」
おいおい、それ誰が信じるんだよ。
「はい。この本は公女時代のドミニア女公がプラッシー公爵領を旅行するという体で、半年以上前の公爵領内の様子が赤裸々につづられています」
「恐らくはユーデリッハ公領内の、プラッシー公爵領との提携関係に反対する者が書いたと思われますが……その幾分かは真実を伝えていることを、俺達は確認しました」
「……読ませていただいても?」
ミナがそう言うと、ダナンは頷いて本を手渡した。
「…………」
ミナの口から流れてきたのは、……旅立つ前に彼女から聞かされてきたものと寸分たがわぬ、プラッシー公爵領の惨状だった。
グラッシー公の権能の為に人々は原始時代のような生活を強いられ、餓死した者の遺体が至る所で積まれる。
それらは餓死者を運搬するために公爵が召喚した巨人にいずこかへと運ばれていくらしい。
反抗しようとする者も権能の為に原始的な武器しか持ち得ず、公爵の召喚獣に叩き潰されていく。
ドミニアも公爵家に相応しい歓待を受けたのはグラッシー公の城でだけであり、そして驚くべきことに、彼女ですらグラッシー公自身と対面することは出来なかったという。
彼女が最後に見たのはほうほうの体でリーズ川に身を投げ、公爵領を脱出しようとしているのか、あるいは自殺しようとしているのかも分からない人々の群れだった。
「この本を書いた者の意図は知りませんが、これがこの地の真実の姿である事は隠れ潜んでいた当時の僅かな生き残りの人々から聞き出してあります」
「……そして、より恐ろしい真実が今の公爵領に隠されている可能性も。最早、グラッシー公を倒す以外に民を解放する手段はありません!」
「……一つ、気になることがあるわ。あなた達ソーマは飲んだのよね、支配の術式は……?」
ミナは尋ねる。
「それを解除してくれた人がいるんです、紹介します」
と、二人はあたし達を更に別の部屋へと案内していった。




