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第二十四話 お嬢様のお買い物



 という訳で翌日、あたし達は駅馬車に乗り込み、ユーデリッハ公領首府ユースリンクブルクへと昼頃到着した。

 

 

 銀級冒険者証を見せて城門をくぐると、不気味なほど整然とした街が目の前に広がる。

 

 白い壁と黒い屋根のツートンカラーが美しい家々、広場の噴水の水も清浄。(リアルだと藻だらけで緑色だったり色々と……ね)

 

 石畳状の道路にはあちこちにマンホールがあり、上下水道が完備されている事が見て取れる。

 

 そして通りに目立つのは電柱のような建物が何個もある事。ミナに聞けば、これは幻街灯と言って魔力で夜に灯りをともす装置だそうな。

 

 道行く人は皆お上品。此方が気おくれしそう。

 

 あたしのような現代日本の女の子が思い描く、(リアル革命期パリみたいにウンコとか道に落ちてない)まるであの名前を言ってはいけないネズミの会社のアニメ映画に出てくるがごとき、中世ヨーロッパの街並みの理想像がそこにあった。

 

 

「……逆に言えば、高度な文明をこの街の人達だけ享受してるって事か……」


「そう。この街はラ・トゥラスで最も物価と土地代、そして税金の高い街よ。冒険者稼業じゃとても暮らしていけないわ」


 ミナの言葉からは、煌びやかな表の顔に隠された、この街の暗黒面が見えてくる。

 

「まあそれでも、周囲のごく一部の人間で独占していない分マイダン・クラーク公よりはマシですがね」


「前々から気になってるんだけど、マイダン・クラーク公って何でそんな人望無いんだ?」


 恐らくは王家の血を継ぐ男性で国王陛下を除けば一番年長の筈の彼が、本来王家が万が一断絶した場合の最も有力な後継者なのでしょうけど。……でもまあ、これだけ王家の危機と言われてるからには相応の理由があるんでしょ。

 

「……魔王戦争の時に前線へ立つのを断り続け、その間軍需品の取り扱いや債権の発行を大商人連中と独占して私服を肥やしたからです。彼等のような存在が戦争で必要なのは間違いないのですが、特に貴族階層からは極めて顰蹙を買う立ち回りでした」


 ああ、成程……

 

「クラーク公領首府のカルダモンは大陸一の港町で、そして尚且つ、地理的には国境から最も遠い大都市でした。防衛戦争を戦う以上物資の集積地がそこになるのは必然で、マイダン公の動きは当然だと私は思っているのだけど……」


「ま、でもお貴族様のウケは最悪だよね。他の王侯貴族がほとんど前線へ行ってるんだから尚更だよ」


 ダーチャが付け加える。トップに立てる器じゃないし、恐らく本人もそれを望んで無さそうな訳ね……だけど王位請求のライバルとして見られれば身に危険が及ぶ、そう考えれば旨い立ち回りかも知れない。

 

 あるいは周囲にそうだと思わせて、後で資金力を生かして漁夫の利を得る戦略もあるし、四公爵……『昇竜の血』からしてみれば無視していい存在でもない訳か。

 

「……すまん、俺の質問から話が脱線しちまったな。ミナ、まずは何処に行くんだ?」


 ともあれ、あたし達にとってはお上の方々の思惑より、まずは自分達のリーダーの思惑を知りたかった。そして、彼女はぬけぬけと答えやがった。

 

「大変申し訳ないんですが、私の用事から済ませて構いませんか?」

 

 何だよー、こいつぅ!

 

 

 ◇

 

 

 かくして、ロシュフコーとダーチャはキリクさんに預けて(どうせダーチャはキリクさんにまだまだ聞きたいことがあるだろう)、あたしとミナは少し裏路地に入ると、

 

「流石に、冒険者のなりのまま入るのは目立ちすぎる……ってのは分かるわね」


「俺を連れていくつもりか」


 ……マジかよ、ちょっとお手入れがおろそかになってて、少し髭が生えてるんですけど。

 

「勿論よ」


 と言いながらミナが懐から出して来たのは……安全の付かない折り畳み型の剃刀と、濡れタオル(魔法で暖かくしてあるようだ)。

 

「えー……ここでするの?」


「動かないでね」


 あたしは、その辺のベンチに座らせられ、そのまま濡れタオルをかぶせられる。

 

「うわっ」


 あ、あっつ……もー、少しは加減しろよ。

 

「直ぐ済ませるから、待ってね」


 はー、……思えばあたしも、一度だけ琉導のを剃ってあげたわ。

 

 ……懐かしいなぁ……はは、ははは……

 

 肌に触れる冷たい感触を心地良く感じながら、あたしはミナの剃刀捌きに身を任せた。

 

 

 ◇

 

 

 ピカピカになったあたしは、割とボロってきたシャツをジャケットを着てごまかし、ミナをエスコートしながら化粧品店へ入る。

 

「うわー、俺浮いてないかな、うわー」


「大丈夫、ついて来て」


 これまでこの世界で訪れた建物にはほとんど使われていなかった、ガラスをふんだんに用いたショーウインドウに、所狭しとファンデが並んでいる。

 

 ほとんど地球のレベルと変わらない施設だと思っていい。違うのは、照明が魔法仕掛けである事位だろう。

 

「フィクオールの38番」


 ミナが指定したのは、白磁のごとき彼女の肌を形作る粒子のきめ細かな白めのパウダータイプだった。

 

 彼女の肌に馴染むことで、自然とその透明感を演出することが出来る。

 

「何ならフィスも買っていいのよ」


 おいおい……

 

 次にミナが向かったのは、マスカラの棚だった。……原材料何だよ。

 

「……これなんか似合うんじゃないか」


「ダメダメ、もっと暗めの色の方が肌との対比で映えるんです」


 あたしは明るめのブラウンを彼女に勧めたが、彼女は黒がいいらしい。


「えーこっちの方が似合うー」


「何だったらあなたが使ったら?」


「でもでも」


 ……フツーにショッピングモールの化粧品コーナーに行った女子高生の会話みたくなってんな、オイ。周りの人達変な目で見てないだろうな……

 

 

 ◇

 

 

 買い物(依頼料並みの金平気ではたきやがったぞミナの奴!!)の後、あたし達二人はそのまま中央広場へと歩く。

 

「ダーチャが前にちらと言っていたと思うけど、面白いものを見せてあげるわ」


 広場につくと、少しばかりの人だかりが噴水の前に出来ている。あたし達も、その列に加わった。

 

「……何だってんだ?」


「噴水を見ていて」


 鐘撞堂から鐘の音が3度鳴ると、……突然、噴水から出る水の量が増える。

 

 激しく、勢いよく宙に舞い上がる水のカーテン。やがてそれは、人の形を取っていく。

 

 ……若い女性の形を。

 

「おお!ドミニア様!」


「我らが女公、聖都市ユースリンクブルクの聖なる守護者!」


 歓声を上げる人々。

 

 水で出来た美女……いや、美少女と言った方が良い年齢かも知れない。彼女が微笑むと、群衆がどよめく。

 

「ありがたやありがたや……」


「精霊よ、どうかドミニア様が他の公爵へお嫁ぎにならぬよう……」

 

 ……少なくとも、彼女はこの街に住むことのできる上流階級からは強く慕われているのが分かる。

 

 慕われているというか、むしろ信仰にも近いもので、願掛けを行う姿もあちこちに見られた。

 

 ……あんな女の子一人にそこまで背負わせていいもんかねぇ……

 

 水で出来たドミニアは、笑顔で手を振りながら消えていった。

 

「…………ミナ?」


 そして、演出が終わった後のミナの顔は……

 

「……行きましょう。いずれ、話すべき時が来るわ」

 

 

 冷たく、凍り付いているように無表情だった。

 

 

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