第二十一話 困った時の援軍はイケボの持ち主
― 翌日 ソエナ村。
「もうリンゴ料理はこりごりだあ~!!」
何でここリンゴしかないのよ……山間でやや寒冷な気候だからこれしか成らないのか。
……まあそういう問題は有りつつも、一日目の行程は無事消化、現在はソエナ村で朝ご飯中である。
依頼品の堅パン(でっかい!一辺が30センチ程ある長方体型のが4つだ)はプラッシー公爵領へ入るまではバスケットごとロシュフコーが背負っているが、どうも手が伸びそうになる……
駄目だ駄目だ、依頼の品だぞ!!それにすっごく堅いんだからな!
「リンゴリンゴリンゴ……」
鼻歌を歌いながらバリバリリンゴを食うダーチャを尻目に見つつ、あたしは取りあえず失礼に当たらない程度の量を頂いてご馳走様をしようとすると、
「駄目です、今日は峠道を歩き詰めなんだから完食しなさいフィス」
ミナに睨まれた。もうやだぁ……
という訳で、20日ぶり……かな?のルーバ渓谷である。王国直轄領並びに公爵領間は峠道を通る荷馬車によって繋がれているものの、旅客用の馬車は各公爵領の管轄となっていて各公爵領首府間の直通路線は無いんだそうな。
「面倒くさいなぁ……」
境界警備の観点からも領主たちには都合がいいのだろうが、馬車を個人所有していない普通の人は徒歩移動を強制されるという事になる訳、トホホ……
しかし、警戒を怠る訳にもいかないのが辛い所。
「左斜面に野犬の集団。数およそ30。襲っては来ないと思うけど一応警戒してね」
ちょくちょくダーチャが先行して確認してくれるお陰で、今のところ敵の奇襲とかには会っていないけど……不安は不安だ。
……そして、丁度あのケルベロスの襲撃が会った所までたどり着く。
「……」
あの時掘った墓の位置を、ロシュフコーのスコップで掘って一応あの3人が埋まっていないか確認……埋まっている訳ないか。
「明らかに死んでいる人間が生き返っているのは、私達も驚きましたね」
あたしが気を失っている間に他の3人も勇者ご一行に会ったらしく、ミナはその脅威を言葉にする。
「……恐らくは、あれも稀人の異能だ。周囲の空間を『そう言う理屈』が成り立つ世界に変えてしまう」
プラッシー公爵領の話を聞くに、同様に常動的な能力なのだろう。……だけど、あたしの中の『フィス』がいつ起きてくるかはあたしの意思でコントロールできないのと同様、恐らく連中の力の展開にも何らかの穴がある。
……何かの間違いで戦う事になるとしたら、(最も、今の勇者はともかく、グラッシー公と戦うなどと社会的にも実力的にもあり得ない選択肢だろうが)何とか、そこの隙を付けないものかな。
「トンデモない奴だね。……あ、所でそれって死んだ人ならどんなでもいいの?」
「いや、勇者本人の言い分からするに日数制限があるらしいし……恐らく、この力を働かせられるのは勇者のパーティと認められた人間だけだと思う」
「ふーん」
世の不条理にダーチャが頭をかしげているところ、
「……フィス、剣を抜いて」
ミナが突然、そんなことを言い出した。
「どうしたんだ?」
とあたしが言うと同時に、前方から5、6人の人間が武器を構えてやってきた。
恐らくは同業者だ。それもかなりガラの悪い方の。
前3人の男はのっぽ、ちび、太っちょと体格は色々だが装備はカトラスのような片手剣にベルトに付けた投げナイフ、鎖帷子で共通している。
後ろには女2人。女性陣もミラと違って荒事に相応しい面構えをした連中で、眼帯と顔の傷跡さえ大人の色気を持つ短髪の盗賊、魔法少女のように愛らしい姿をしているが顔からにじみ出る狂気を隠せていないローブ姿の精霊術士。
「なあ、あんたら『白刃の煌めき』だろ。丁度いいな」
のっぽは直ぐあたし達の正体を看破した。まあ、領内では有名人だから仕方がない。
「名前を売ってウノートンでの依頼を独占しようって思ってんだろうが、少しぁ俺達にも分け前をくれよ……」
「見ろよあいつら、小娘二人と小僧一人とでくの棒、噂ほどじゃ無さそうだね。一人当たり100ゴールドとして400ゴールド、断ったら、分かるね?」
眼帯女がガン付けてくる。はー、寄生虫みたいな奴らね、面倒草。
「お断りします。噂程じゃ無さそうというなら、噂通りの実力を今見ていったらいかがですか?」
ミナが無礼な売り言葉に即断で買い言葉を放つ。
……同意だ、同意なんだけど……転生してまだ一か月弱、あたしには今だ人を斬った事がない。
ミナもそれを察しているようで、買い言葉を放った後あたしの方に優しく振り向き、その震える手を見る。
― 走る沈黙。それが溶けようとした……刹那。
矢が、飛んできた。
「グワッ!!」
のっぽの手に突き刺さり、彼は剣を落とす。
「伏撃とは卑怯だぞ!!」
どの口が言うか。ともあれ、連中が剣を下さない以上制圧するしかない。
あたしは致命傷を与えることを避けるために、剣をさかさまに構える。こういう時の為の片刃なのねって違うと思うけど。
「であああっ!!」
「ひっ!!」
次の矢が、女盗賊の眼帯をかすめて精霊術士の右肩に命中。あたしは太っちょの腹に大剣の腹を叩き込むッ!!
「ゲドッ」
吹っ飛んでいく太っちょ。まあ死んではいないでしょう。
「ドワースッ!!たっ、退散だっ!!」
女盗賊の号令で、連中は散り散りに逃げていく。吹っ飛んだ太っちょも、顔をブンブン回して起き上がるとそれに続いた。
……何が、起きたんだ?
「世話の焼ける奴らだ。だが、俺の縄張りをこんな形で荒らされるのも我慢ならなくてな」
この美声は!!と思う間もなく、色黒の耳長族が崖をぴょいぴょいと突き出た岩を飛び乗りつつ降りてきた。あの派手な民族衣装でよくこんな動きが出来るな。
「ふー、助かったわキリク……あなたがそっちに居るのを確認しなかったら、連中に金を払ってたところよ」
マジかよミナさん……あたしの力、そんなに信頼されてない?
「うわ、本物のキリク=スパーナーなのミナ!?」
ダーチャも目を輝かせている。憧れなんだろうなぁ。
「それにしても、ひょっとして戻るつもりか?」
あ、そういう言い回しってことは、ド・ロン公爵領に来るときユーデリッハ公領から来たのね、うちのパーティ。それにしても、本当にいい声。
「そうよ。……というより、プラッシー公爵領に用事があるんだけど」
やっぱり、ちょっと含みを持たせた言い方をミナはするな、ユーデリッハ公領に関して。
「あんな危険な所にか。……そろそろ、俺も拠点をリグリア砦から変えようと思っていたのだが、しばらく同行しても構わんか?」
おっ、仲間フラグ!?
「構わないわよ」
「やったー!!」
ダーチャが子供の様に大はしゃぎする中、あたしもその流れを歓迎した。




