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第十九話 トンデモ公爵第二号

 

 

― 2週間後。酒場『アーナンダ亭』のカウンター。

 

 

 公爵の依頼を受けたというネームバリューは、あたし達『白刃の煌めき』に対する一定のブランドイメージの構築へ繋がった。

 

 3件ほど護衛や探し人の依頼を受け、安定した収入があたし達にもたらされていた。

 

 しかし、あの会見以後に公爵の城へ入ることが出来る機会はない。

 

「……強引にでも、あれ以上の情報を公爵から引き出すべきだったか……」


 ミナは少し後悔している様子だった。これ以上の会見を公爵から引き出し、取り入るにはプラッシー公爵領かクラーク公爵領へ移動し、その有力な動向の情報を得なければならない。

 

 しかし、それはこのド・ロン公爵領に作った地盤を手放す事にもつながる。人の噂も七十五日、『白刃の煌めき』がこれまで作り上げてきたド・ロン公爵領での名声は完全には消え去らないにしろ、弱くなることは自明の理だろう。

 

 

「あれは厄介払いだったんだな。やられたな、ミナ。……虎穴に入らずんば虎子を得ず、プラッシー公爵領に立ち入るべきじゃないか?」


 あたしはそう思う。『魔王の復活阻止』という目的がある以上、それにそってこのパーティは動くべきだと思うし……

 

「正直、アブラ公爵が魔王と化すとは思えない」


 あの脂公爵はあいつなりに現状に満足している。王位継承の争いに参加しているのも、恐らくは野心を疑われかねない地位が故の正当防衛で、もしマイダン=クラーク公が玉座に座るのならその軍門に下るのではないか。あるいは単に、噂によれば絶世の美女らしいドミニア女公自身が目的なのか。

 

「そして、カイン=ナ=マッタラ公爵は領土を閉ざしても大丈夫なほどの『力』を持っている」


 そうすると、消去法的に、

 

「魔王となろうと志す可能性があるのは『昇竜の血』では残り二人、ルリアーナ=デ=ディスタとグラッシー=オブ=プラッシーってことだ」


 もっとも……本当に魔王になろうとしている者がいるのかも分からないけどね。……そこの核心、魔王が復活する可能性があるとミナが強く信じている理由を、あたしはまだ彼女に尋ねていなかった。

 

 いや、……尋ねる必要はないのかも知れない。彼女の真の目的は、おそらく実家……それは王家かも知れない……そこに、4公爵を含めた玉座を狙う者の情報を提供する事だろうから。

 

 ロシュフコーとダーチャもその辺は分かってて付き合ってる感があるしね、あたしから建前を崩すのもちょっとと思うのだ。


 そしてだからこそ、豚公爵や独立勢力化しつつある『殺戮のカイン』と違って次期国王の有力な候補だろう、グラッシー=オブ=プラッシーを探るのは重要ではないのか?

 

「その内の一人を探る事で、何ならアブラ公爵にも近づけるんだ、乗るべきじゃないのか?」


「……フィス。私がこのド・ロン公爵領に拠点を構えた理由、分かるかしら?」


 意外な答えだった。

 

「……え、そりゃあ……アブラ公爵に近づけるからじゃないのか?」


「半分は違います……この地が、4公爵の領土で『一番マシ』だからです」

 

「え……ここが?何で?『殺戮のカイン』は鎖国してるからアレだけど、ここって豚さんを使った恐怖政治下じゃあ……」


 意味が分からない。どういうことだ?

 

「その台詞も、豚族に直接聞こえなければ問題ないでしょう。……だけどあの二人、ルリアーナとグラッシーの領土では違います。何人も、あの二人が自然に産み出す力の影響下を逃れることは出来ません」


「具体的に何が起こってるんだ?」

 

 唾をのむ。何なんだ?

 

「グラッシーの領土では、人および人に類する生き物の肉体に触れていないあらゆる機構は機能しません。馬や家畜はいう事を聞かず、車輪は回らず、ドアは開けられません。そしてあらゆる建造物は自重に耐えられません。彼の領土でまともな建造物は一つ、グラッシー自身の城のみです」


 何それ?

 

「……言葉で聞くと、そんな大したことないように聞こえるけど……」


「馬車は機能しないので穀物は高嶺の花、家を建てても家自体が自重を支えられないのでグラッシー自身以外の全ての人々がほら穴暮らしで慢性的に飢餓が発生しています。こう言えば、どれだけ狂った世界か分かるでしょう」


 ……そ、そんな、

 

「そんなのが王になって影響力国中に広めたら国滅ぶじゃねーかッ!!」


「でしょうね」


 狂気の沙汰だ……ルリアーナの方も聞くべきだろうけど、正直今のでお腹いっぱいだ。

 

「カインの件もそうだけど、そんな奴がよくお取りつぶしにならないな」


 まあ江戸時代みたいな地方の大名の力が強い社会じゃ、領地で大名が好き勝手やるのはままある話だけど……

 

「王家が公爵家の跡取りにグラッシーを任じた以上、簡単にそれを反故にしては王家の権威に関わる。それに……グラッシーは世界最強の精霊術師、例え軍事力がなくとも豊富にマナの湧き出る領土と冒険で手に入れた魔石のお陰で多数の召喚獣を常に従えているわ」


 あちゃあ……いざとなれば一人で戦争が出来るのね。魔王を倒した英雄は伊達ではないという事か。

 

「だけど……統治者としては最悪じゃないか」


「……そうね。その内グラッシーの領土は無人地帯と化すでしょう。その前に、グラッシーが税を搾り取る対象が亡くなる前に彼はぜひとも王位を欲するはずです」


 ……魔王や脂公爵どころの話じゃない。というより、現時点で領民にとっては魔王そのものじゃないか。

 

「兎に角、冒険者の商売が成り立つ土地ではないわ。……だから、依頼などで一時的に行くのならばともかく、情報収集を目的に滞在できる場所じゃない」


 この国、魔王なんか復活しなくてもその内終わるんじゃないの……?

 

 だとしたら、希望は……あたしが真っ先に思い描いたのは、あの『勇者』だった。悔しいけどアイツなら、多分元ネタ的にレベル99まで成長できる、多分死んでも所持金半分失うだけで生き返ることが出来るアイツなら、いつかグラッシーを上回ることが出来る。

 

 うん、がんばれ勇者。あたし達は応援しているぞ。

 

 そんなこんなで二人で話しているところ(何だかんだで仲良くなっちゃったなぁ……)に、ロシュフコーとダーチャがやってきた。

 

「ねーミナ、この依頼どう?」


「丁度良いのではないか?」



 ◇

 

 

 『プラッシー公爵領への輸送依頼』

 

 報酬:2000ゴールド

 

 プラッシー公爵領にいる親戚へ至急、堅パンを届けてほしい。

 彼等は現在窮状にあり、出来るなら私が土地代を払い、公爵領から解放してやりたいが、そもそもプラッシー公爵と交渉できる状態ではない。

 だから頼む、どうか堅パンを彼等の元へ運んでくれッ!

 

 

 ◇

 


 ……マジかよ、あんなところに足を踏み入れろと?

 

 つーか何で堅パン?……ってそうか、小麦の状態で運んでもまともな加工が出来ないのか。

 

「この人は恵まれてるねぇ。他の領地に家族のいない人はこんな事出来ないよ」


 ………これは、

 

「ミナ、どうする」


「……分かりました、受けましょう。……但し、十分な準備が必要です」



 こうしてあたし達は、今現在最も魔王に近い存在のおひざ元へ出向くこととなった。

 


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