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第二話 炸裂!アーダイン流奥義


 奴、巨大カブトムシがこちらに向きなおしてくる。アップで見ると複眼ってホントキモい……


 そのまま足を鳴らし、勢いよく駆け始めた!

 

「ハアッ!!!」


 そしてこちらに来たところを……来たところを……こいつ全身外骨格だから何処を斬ればいいのよぉぉッ!!


「考えるな!とにかく、体の意思、覚えているモーションに任せろっ!!」


 フィスも無茶言うしッ!!

 

 結局、間一髪でもう一度飛びのいて回避。マタドールの気分だ……

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 不味いな……剣を持ったせいもあるけど、かなり息が苦しい。脚ががくがくする。もう派手な回避行動は取れそうにない。しかし、

 

「消耗しているのは敵も同じだ」


 どうやら、今回はフィスの助言も正しいようだ。巨大カブトムシは突進を止め、此方に向き返すと角を突き出し、その6本の脚で歩き始めた。

 

 じりじりと奴の巨体がにじり寄ってくる。

 

「来るぞ!」


― 刹那


 奴は羽を広げ、その巨体をジャンプさせた。ちょっとフィス、コイツ飛べるんなら早く言ってよ!あたしは直ぐにかがむと、

 

「今だ、腹を狙えッ!!」


 そんな事とっさに言われてもと考える間も無く、体は覚えている動き、脳に残るフィスのモーションを正確にトレースし、両手持ちで下段に構えた大剣をその垂れさがった無防備な腹部目掛け思いっきり切り上げる!!甲虫の外骨格が一番薄いのはこの腹の部分、フィスはきちんとその弱点は研究していたようである。

 

 

 体液が宙を舞う。

 

 

 地響き。やったか?

 

「油断するな、まだ生きているぞ」


 奴は着地すると、脚をじたばたさせて周りの木々を折りながら直ぐ起き上がり、再び角を此方に向けてくる。

 

 対するこっちは……剣を杖にして、ようやく立っているような状態だ。兎に角体が痛い……一太刀浴びせて敵が手負いになったところ、冷静に考えれば逃げる算段をしても良かったかもしれない。

 

 しかし、精神の奥底の野蛮が、コイツを仕留めずにはいられるかとボロボロの体に再度闘志を呼び覚ます。それはフィスに影響されての事か、あるいは肉体を乗っ取り返されたのか。

 

 あたしは杖にしていた大剣を地面から抜き、再び構える。

 

「来い、化け物」


 巨大カブトムシが人語を解すかどうかなど知った事か。フィスの声帯はあたしの意思を代弁し売り言葉を放った。

 

「ギギ、ギギギギ……」


 羽をすり合わせ、巨大カブトムシが勝負を買う。あるいはそれは、血を失って限界に近付きつつあるフィスの肉体が作り出した只の幻聴か。

 

 のそり、のそり……

 

 奴はその巨体を、驚くほど足音を立てずににじり寄らせてくる。あたしも、奴の方へ歩みを進める。互いの距離が、3メーター、2メーターと詰まっていき、残り1メーターになった、

 

 

― 刹那

 

 

 あたしは先に仕掛けた。奴の腹部を断ち切ろうと下段に構えた剣を振り上げつつダッと駆ける。

 

 しかし相手はそれを読んできた。即座に腹ばいになって受け身の姿勢を取ったのだ。

 

 必殺の一撃は角に受け止められた。

 

「まずいッ」


 奴はそのまま剣ごと角を地面に叩きつける。

 

「うわっ」


 完全に抑え込まれた。このままじゃ……その時、フィスの声が再び響く。

 

「そのまま剣を離すなっ」


 そんな無茶な……

 

「俺の剣の流派には、こんな状況を返すための奥義がある。体に覚えさせているからお前にも放てるはずだ」


 ……分かったわ。それしか打開策が無いのならやってやろうじゃないの。

 

 そう決めるが否や、何か……闘気オーラと呼ぶべきか。力の塊のようなものが、剣の切っ先に集まるのをあたしは感じ取った。

 

 そして、闘気オーラは剣を伝い、あたし……いやフィスの体に流れてくる。

 

「そのまま飛び上がって奴に体当たりしろ」


 はぁ?ま、マジですか……というか剣を持ったままじゃ……

 

「今ならアイツを浮かせられる、兎に角前に進むことだけを考えるんだ」


 ええい、ままよッ!!

 

 あたしは奴の頭目掛けて飛び上がった。剣を抑え込んでいたはずの角が、奴の体ごと逆に浮き上がる。熱気があたしを包む。

 

 そのまま奴の頭に肩でぶつかれば、まるで奴が綿か何かで出来ているかのごとく立ってふらつき、無防備な腹を此方に晒す。

 

「アーダイン流奥義の1、破極尖空はきょくせんくう


 フィスの言った技名を、自らの声帯で繰り返し、そのまま腹部から胸部にかけて大剣で一気に斬り上げるッ!!

 

 美しくも残酷な鋼の奔流が、巨大カブトムシを両断した。

 

 

 斬撃、そして飛び散る多量の体液。両断された巨大カブトムシが、その無惨な屍を晒す。

 

 

「はぁ、はぁ……」


 しかし、あたし……フィスの肉体にも遂に限界が来た。

 

 目の前がチカチカし、そしてまるでテレビが消えるかのように、フッと目の前の映像が消える。

 

 次いで五感が消滅し、あたしは気を失った。

 

 ◇



 異世界追放刑……それは民衆の凶悪犯罪に対する厳罰化の声と、刑務官からの刑務所の過密解消を望む声双方を叶えた現代の流刑である。

 

 量刑としては従来の無期懲役に当たる1人以上の殺人、強盗、放火などの重罪に対するものとされ、また少年審判に置ける最高刑ともされた。

 

 

「……酷い話だな。民草に反対の声はなかったのか?」


 暗闇の中から、フィスの声が聞こえる。……あたしは、生きているのか。

 

「ああ、生きている。俺の仲間が心配して見に来ていたようだ、俺の肉体が死ぬ前に手当をしてくれたらしい」


 仲間がいるんなら、手助けしてくれても良かったのに……

 

「俺一人で討伐する事に意味があったようだ。……俺達のリーダーは、『英雄』を欲していたのさ」


 そっか、面倒くさそうな人ね。

 

「それにしても……まさか俺が『稀人まれびと』になるとは。稀人まれびとは死者の肉体を持って現れるという。つまり、本来ならば俺はあそこで死んだわけだ」


 稀人まれびと……転生者の此方の世界での呼び名ね。だけど、あなた自身の意識も存在しているのは?

 

「分からない。ただ、稀人まれびとはこの世界に降りる際に、一つの超常的な力を得るという。お前の場合は、俺の残留思念と肉体を共有することがそれだったようだな」


 成程、いわゆる異世界チートの代物か。

 

「それにしても、お前と呼ぶのも何だな。名前を教えてくれるか?」


 名前、名前か……前世の名前……そんなものは、覚えていない!!

 

「それは残念だ」


 あたしはどうも、前世の記憶の大半を失ってしまったらしい。覚えているのは、身に覚えのない罪で殺人犯に仕立て上げられた挙句、異世界追放刑にされたことだけだ。そもそも、『前世のあたし』が存在したのかどうか……

 

「……なら、お前には俺として生きていく他道はないぞ。そして今『稀人まれびと』は故あってかなり警戒されている身だ、稀人まれびとであることを他の者に知られるのは不味い、仲間にすらもな」


 分かったわ。それなら教えて、貴方の仲間のことを。そして、貴方の世界の事を。

 

 

 

 フィスは、まず大まかな大陸の歴史から語り始めた。

 

 

 このラ・トゥラス大陸の東側には、大陸の名前の由来となっている文化国家ラ・トゥラス王国があり、代々トゥリル・ラ・トゥラスの名を受け継ぐ王様を、親戚関係にある6人の公爵が補佐する体制になっていた。

 

 しかし、20年ほど前から西の魔国……耳長族と豚族の国が強大な指導者『魔王』を得てラ・トゥラスに侵攻し、全面戦争の末公爵家の内4家が断絶。ラ・トゥラスの朝貢国だった北のルーシア、南方の3国は陥落し、魔国による大陸統一は時間の問題だった。

 

 10年前、異界の門、あるいは混沌の門の解放と呼ばれる現象が起き、それまでは途絶えてなかった異大陸との交流による技術(科学や魔法技術)の到来と、そしてなにより稀人まれびとの出現が、それまで一方的だった戦況を覆した。


「当時ほんのガキだった俺も、少し手柄を上げたんだ」


 上ずった声で嬉しそうに話すフィス。

 

「そうしているうちにある4人が組んだパーティ、『昇竜の血』が包囲下にあった王都を解放し、戦局を覆して『魔王』を打倒。戦乱を終結させた。その功により『昇竜の血』の4人は断絶した4公爵家を養子となって継いだ。……彼等は、稀人まれびとなのではないかともっぱらの噂だ」

 

 成程……稀人まれびとが警戒される訳だわ。これ以上の手柄を稀人まれひとが上げれば、王国そのものが乗っ取られかねない。……そして、稀人まれびとの中身は、異界の重犯罪者。

 

「ああ、『魔王』もまた稀人まれびとだったのではないかという噂さえあるほどだ。だから王国政府は稀人まれびとの情報に対し報奨金を出してまで、彼等を捕らえようとしている」


 参ったな……兎に角、あたしは濡れ衣を着せられて転生させられた。こっちでも冤罪でとっちめられるなんて金輪際御免被る。……となれば、フィスの仲間を含む周囲の人間に対して、あたしはフィスであることを示し続けるしかない。

 

 ……ならば、逆の発想として記憶喪失を装うのは?

 

「記憶喪失か……しばらくは通用すると思うが、細かい仕草とかは真似できないだろ。どうも、俺もずっとお前に手を貸せるわけじゃないみたいだし」


 ……そう言えば、転生直後はフィスの声が聞こえなかった。恐らくは危機的状況か何かでスイッチが入るのでしょう。


「嘘だと発覚したときに、後が怖いぞ」


 構わないわ。それまでに、発覚しても周りにバラさない位の信頼関係を築けばいいのよ。

 

「分かったよ、その線でいこう」

 

 そう言うと、フィスは仲間たちの事に関して話始めた。

 

 ……いや、話始めようとした時……視界が明るくなる。

 

 

 ……目覚めの、時だ。


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