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第十五話 死屍累々、魑魅魍魎も累々

 

 

 燃え盛るケルベロスの死体。……果たして、コイツは死んだのか?

 

 

 ミナはケルベロスに近づくと、ローブの懐から目玉のようなものを取り出す。

 

「ウン・シャト(撮れ)」


 カシャ、という音と共に、目玉の瞼が瞬間的に開閉した。

 

「……カメラ?」


 あたしは、ミナに問う。

 

「……その呼び方を他の稀人まれびとから聞いたこともありますから、大体機能は同じなのでしょうね。マジックアイテムの一つ『真実の目』よ」


 ミナの答えはそうであった。……他の稀人まれびとに会ったこともあるのか……

 

「この怪物……地獄犬ヘルハウンドとは違って恐らくこの世界にはこれまで存在しなかった怪物に、見覚えは?」


 ……カメラという言葉を発言したあたしもあたしだが、ミナは今はっきり『フィス』ではなくあたしに話しかけている。大丈夫だろうか?

 

「ケルベロス。『あたし』の世界の神話の怪物」


「……そう」


 あたしは、ミナにそれだけを告げて、後背にダーチャとロシュフコーの気配を感じると『フィス』へ戻ろうと後ろを振り返る。

 

「二人とも、無事か?」

 

 ミナもそれを察したようで、

 

「ケガはない、大丈夫?」


 と、人のいいパーティリーダーとしての表の顔へと戻った。

 

「痛ってててて……ううっ」


 ダーチャはロシュフコーに受け止められたが、それでも右脚を骨折したようだ。……逆に言えば、それだけで済んで幸運だったと言える。

 

 ロシュフコーも体にかなり無理をかけたのが丸わかりだったが、それでも、

 

「我はいい。それよりダーチャの傷はミナの魔法では完治せん。それに……」


 と、恐らく痛みを耐えながら答える。

 

 ……助けられた。今回は間違いなく。

 

 だから、

 

「……戻らなきゃならない。だけど、その前に墓を作るか」


 スタロン、エルシト、サマンサの三人は……いずれもケルベロスの攻撃を受けた際に足の爪が大きく食い込んでいたようだ。

 

 スタロンが盾を破壊された時に受けた傷は鎧を貫き、急所を直撃してた。

 

 エルシトは文字通り全体重をかけて踏みつぶされ、切り裂かれた腹から臓腑が零れ落ちている。

 

 サマンサもあらぬ方向に首が曲がり、輝きを失った瞳が天を仰いでいる。

 

 いずれも倒れた場所に血の海が広がっており、生命を失っているのは明らかだ。

 

 既に太陽は西側の崖の方に沈みかけており、陳腐な表現だけど、茜色の夕日はまるで彼等の流した血のように見える。

 

「これを使え」


 ロシュフコーは、背中からシャベルを取り出す。……元気があれば、そんなモノいつも持ち歩いてどうするんだって突っ込むところだけど、今はもう、そんな空気ではなかった。

 

 

 ◇

 

 

 彼等を埋葬し、ソエナ村に戻ったころには既に深夜だった。

 

 幸いにして夜の番をしている村人は最初に話を聞いた青年であり、ボロボロの状態で帰ってきたあたし達一行を気遣って自分の家……恐らくは村長宅だろう、その家に泊めてくれた。

 

 そして、翌朝に真実の目からケルベロスの姿を見せ、この怪物の討伐とその過程での勇者パーティ3人の戦死を告げると、

 

「そうか……彼等の方はやられてしまったか……じゃあ、報酬はあんたらに」


 と青年が言い出したので、ミナは丁重にお断りした。

 

「まだ彼等のパーティに生存者が一人います。諸般の事情で顔を出せないようですが、もし彼女が村に戻ってきたら渡してあげてください」


「それと、此方のパーティにも重傷者が二人だ。治療を兼ねて数日間滞在したいので、適当な宿を探してくれないか」


 とあたしが言うと、ロシュフコーは足手まといになりたくないのか、

 

「ダーチャは兎も角我は大丈夫だ。早く出立し依頼を……」


 と言い出す。しかしミナは彼の様子からその状態を把握していた。


「無理をしてるのは分かっています。怪物の上に落着したとき腰の骨を折っているでしょう。歩き方から分かります」


「……ミナ、だが公爵に疑念を持たれないためにも……!!」


 尚も抗弁するロシュフコーを、

 

「疑念も何も、あの化け物を差し向けてきたのは公爵なんでしょ、ミナ?」


 と、ベッドに横たわったダーチャが諭す。

 

「ダーチャ、それは」


「……村を襲ってたのは単なる野犬だったし、第一あんな馬鹿でかい化け物が領域警備の連中に発見されないとはとても思えない。じゃあ答えは一つじゃん」


 流石に鋭い。……一つ補足すれば、この世界には存在しない筈の怪物であり、だけど稀人まれびとの間では知名度の高い怪物、そして脂公爵は恐らく稀人まれびと

 

「公爵本人はまともに魔法使えないとして、公爵の仲間内が魔法か何かで作り上げた化け物なんでしょ、アレ」


「……公爵の仲間内……まさか!?」


「そりゃ仲間内でしょ。ディスタ女公ルリアーナかプラッシー公グラッシー。『殺戮のカイン』じゃないとして、この二人のうちどっちかとアブラ公爵はつるんでる。これからあり得るだろう、王位継承戦争でね」


 と、鋭い考察を見せるダーチャ。この子たまに怖いこと言わない?


「く、詳しいんだな」


「そーだよ、ミナも教えてくれるし、海賊時代にも色々と、ね」


 ……あたしはその辺の事情を全く知らない。……知っておくべき、なんだろうか。

 

「ミナ、前に王家は簒奪寸前だって言ってたけど、王家の方に後継者はいないのか?」


 一番疑問なのはそこだった。この機会に尋ねておこう。

 

「……今のトゥリル・ラ・トゥラス五世陛下の御子は皆魔王戦争でお隠れあそばされています」


 えーと、確か、亡くなっているという意味、だったよね?

 

「……表向きは」


 あ、そうなの。

 

「陛下もその肉体は人間の男性です。王宮には側室の方がおいでになり、彼女らの中にはラティア殿下を始めとする姫君方をお産みになられた方もおいでますが……ラティア殿下を除きどの方も幼少で、ラティア殿下のお母さまは平民出、そして何より後継者としての男子はお生まれになっていません」


 はー、そうですよね後宮、はー。男ってこれだから、全く!!それにしても、実際後継者ナッシングは不味いわ。


「ですから、王族の血を引く者で成人している人物、すなわち『昇竜の血』の4人以外の残り2人の公爵が後継者、あるいはその配偶者として注目されているのです」


「……つまり、順当にいけば次の王位に付くのは」


「表面上最有力なのは成人男子であり、また男性の子供をお持ちのマイダン=クラーク公を陛下が養子にされる形でしょう。しかし……あの方には人望がない」

 

 うわ、ハッキリ断言した。それでも脂公爵や鎖国状態の『殺戮のカイン』よりマシのように思えるけどねぇ。

 

「という訳で、『昇竜の血』のうち女性であるルリアーナ女公を除く3人のいずれかが年若いドミニア女公を妻に迎え、王位を継ぐ形を取るのが自然な流れだと、上流階級の間では噂になっているそうよ」


 自身も上流階級の産まれだろうミナの言葉には説得力があった。

 

 ……逆に言えば、今回公爵がケルベロスを送り込んで狙ってたのはミナで、目的はミナを使って公爵領を調べているミナの実家に警句を与える為という推論も成り立つわね。好むと好まざるに関わらず、王位継承者争いにあたし達は巻き込まれているという事か。

 

 

 ともあれ、公爵の意図を考えるのはミナの仕事。あたし達は、しっかりと休養をとったり傷を癒すのが仕事でしょ、折角時間を取ってくれたのだから……


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