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第十一話 『白刃の煌めき』と脂公爵

 

 

 ― 翌日。公爵府・城門前。

 

 

「お通り下さい」


 豚さんたちに促されるまま、あたし達4人は城門の中へと入っていく。

 

「いよいよ公爵様とご対面かぁ」


「いや、ご本人が来られるかは分からないぞ。行ってみてのお楽しみだ」


 ロシュフコーとダーチャもどこか機嫌がよさそうだ。取りあえず二日酔いはしていないみたい。

 

 一方ミナはというと……

 

「……」


 やや緊張した面持ちだ。アイラインもバッチリ、かなり気合の入ったメイクをしているけど、この世界の化粧品って何で出来てる訳?後で聞いてみようかな。

 

 ……ってか前に金欠気味って言ってたのによくそんなところに使う金があるわねぇ……

 

 え、あたし?

 

 ま、まあいつも通りのツンツン頭のフィス=フィルレーンです。ただシャツ一枚で公爵様に会うって訳にはいかないので、ロシュフコーのおさがりの茶色いジャケットを羽織ってます。

 

 という訳で、普段は入れないお城の中へごあんなーい。

 

 

 ◇

 

 

「うわぁ……」

 

 何と言うか、城の内装は……『金メッキの豚小屋』という印象だ。

 

 そこかしこに調度品やら家紋の付いた垂れ幕(ご丁寧に家紋にも豚さんの意匠が!)やらで石壁が着飾れているが、……一方で何と言うか、全く手入れが行き届いていないようで、あっちこっちに埃が溜まっているさまが目で見てわかる。

 

「王様を出迎える可能性のある場所なのに埃っぽいのはどうなのか……」


 そして、何といっても片付けられていない。その辺に豚さんの扱う武器やら防具やら、何やらかんやらがほっぽり出して放置されている。

 

「王族を出迎える時はさすがに掃除夫を雇うんだと思いますが」


 ミナも鼻を抑えている。あれだ、学校の武道の授業で使う剣道の防具の匂い、あれが武具から空気中に漂ってくるのだ。あーもう!

 

 でも、ま、そりゃ中世なんだしそんなもんかという気持ちもあるわね。決まったトイレが取りあえずあるっぽいので路上にう〇こ放置してたリアルよりまだマシだわ。

 

 そう言う訳で、あたし達は豚さんたちから会議室らしい大きなマホガニーテーブルの中央に置かれた部屋へ案内された。

 

 マホガニー(そもそもこの世界にマホガニーの木があるのかどうか分からないので見た目で判断してるが)のテーブルの上には白いシーツが布かれ、上座には、

 

「全く、待ちくたびれたぞ」


 足元に女の子を3人ほど侍らせた、座高120センチ程度の肥満体の男が待ち構えていた。短足なせいで椅子に座ると無駄にでかく見える、見る人が見れば貫禄を感じるだろう。

 

 歳のころは3、40といった所、特攻服のような派手な炎の模様が描かれた絹のトーガを纏い、てっぺんハゲの頭には金細工で出来た月桂冠を被っている。指には色とりどりの宝石が嵌められた指輪がジャラジャラ。

 

 ハイパー悪趣味なこの人物が誰であるか、もう説明の必要はないでしょ。はぁ……少しくらいイメージから離れて『実はイケメンでしたー』とかない訳?

 

「うぉっほん!」


 あたし達が豚さんたちに席を勧められ、着席するとわざとらしい咳払い。

 

「えー、君らが巷で噂の『白刃の煌めき』かね。この俺様がド・ロン公アブラである」


 豚公爵、……いやアブラもとい脂公爵でいいかこんな奴。その脂公爵は分かり切っている答えをあたし達に名乗った。

 

「諸君の活躍は俺様の耳にも入っている。そこで、折入って俺から頼みがあるのだ。アリーシャ、あれを」


「はぁーい、アブラ様ぁ」


 と、脂公爵は引き連れてきた妾の一人に指示し(そう言えばこいつ求婚してるっていうけど正妻はいないのかな?地位が引き合わないとか?というか城の中埃だらけだけどメイド位雇わんのか?)、彼女が持ち寄っていた一つの物をテーブルへ提示した。

 

 兎に角、現代日本で育ったあたし(記憶ないけどねー)には嫌悪感を覚える光景である。つーかコイツも稀人まれびとなら中身は現代日本人の筈なのに……

 

 妾がテーブルの上に置いたもの、それは焼けただれた馬車の車輪だった。

 

「一昨日、ユーデリッハ公領行の荷馬車が襲撃された。恐らく魔物の仕業だ」


 例の求婚相手の領土行か……あー、ひょっとして恋文でも積ませてたなコイツ。

 

「襲撃位置は此処から馬車で東に一日、ルーバ渓谷。どうかね、君らに討伐を頼めるかね?」


 ミナの顔を見る。……緊張した面持ちだ。確かに、ドラゴンか何かみたいな化け物を今のあたし達が討伐できるとは思えない。

 

 何より……こうしてフィスがあの巨大カブトムシの前に倒れ、あたしが憑依している。

 

 再び大物と戦って、果たして犠牲者が出ずに済むか?

 

 しかし、もし達成できれば公爵にさらに近づける可能性がある。

 

 両者を天秤にかけているように、あたしには見える。

 

 ミナはしばらく押し黙った後、1分ほど後に答えを出した。

 

 

「お引き受けいたします、公爵閣下」

 

 

 ◇

 

 

 帰路。公爵から1000ゴールドの手付金を手渡され(成功報酬としてさらに1000ゴールド)、あたし達が盛り上がるなか、ロシュフコー一人が少し不安そうな面持ちだ。

 

「断っても良かったのではないか?万が一ドラゴンのような魔物ならば我々の手にはおえぬぞ?」


 ロシュフコーはミナにそう言うが、

 

「あの車輪に噛み跡を見ました。あれは大型犬の物です……恐らくは地獄犬ヘルハウンドかと。問題は何匹での襲撃かという事ですね。生存者がいればよかったのですが……」


 地獄犬ヘルハウンドって言うと、あの火を吐く犬っころみたいな奴か。

 

「ちぇー、うちの出番はあんまりなさそうだね」


 ダーチャが悪態をつく。まあ戦闘がメインの依頼ならあんまりダーチャの出番はないわね。

 

「あなたにもキチンと仕事は有りますよ。そもそも何処に潜んでいるかもわからないから」


 ミナがフォローする。さすがリーダー、ご苦労様です。

 

 それにしても……あたしが危惧していたような事態は一切起こらず会見は終わった。ミナにしろ、脂公爵にしろこれと言って何かを仕掛けるという事はなかったわね。

 

 だとしたら……あの豚族の村からわざわざ聞き出した情報、ミナはどうするつもりなの?

 

「何をするにせよ、冒険者ギルドと公爵に立場を認められてからです。それでは行きますよ」


「何処へだ?」


「『アーナンダ亭』に決まっています」

 

 

 ◇

 

 

 アーナンダ亭奥、冒険者ギルド支部。

 

 このクソ狭い四畳半部屋ももう慣れたもの、あたし達はカウンターの向こう側の受付嬢を凝視すると、まるで犬小屋のように見えてくる。

 

「という訳で、本部からあなた方を銀級冒険者として認めるよう指示が来ております。あの、登録するパーティ名はお伺いしているものでよろしかったでしょうか?」

 

 ホッとその無駄にでかい胸を撫でおろすミナ。審査の結果は合格のようだ。即日発行とは手が早いけど、魔法的な通信手段があるのかな?

 

「構いません。『白刃の煌めき』で登録をお願いします」


「かか、かしこまりました。では、こちらが会員証になります」

 

 受付嬢はその短い腕を精一杯伸ばして、小さな銀のプレート……冒険者ギルドの会員証を差し出し、

 

「……確かに」

 

 ミナが受け取る。

 

 

 こうして今日、正式に銀級冒険者パーティ『白刃の煌めき』が発足した。

 

 

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