第十話 公爵府からの誘い
― 翌日。
マナ中毒のミナは朝は不調だったようだが、お昼には体調が戻り、あたし達はギルドへと今回の冒険の結末を報告する。
ギルドの受付は、ミナから提示された『魔王の因子』を見て目を丸くしていた。
「これが、魔王崇拝者討伐の証『魔王の因子』です。洞窟内部に残党は残っているようですが、彼等に最早戦闘力は無いでしょう」
ミナは彼女の目線から見た真実を話す。
「えー、残党がまだいるんですか?」
文句を言う受付。面倒くさい……そもそもあの依頼書には『討伐をお願いします』としか書いてないのだ。完全な殲滅を要求されているのではない、と解釈できる訳ね。
「連中の最大戦力だった、コイツを埋め込まれた食人鬼は撃破した。残りの連中にまともな抵抗力は残ってないし、これ以上外の人々に危害を加えるつもりもない」
とあたしは説明する。
「むむぅ……分かりました、本部に掛け合ってみますね」
結局、昇格審査の結果は王国首都にあるギルド本部からの返答待ちとなった。
◇
アーナンダ亭のバーテーブル。あたし達4人はそれぞれに飲み物とおつまみを注文する。
あたしとミナはオレンジジュースだが、ダーチャとロシュフコーはお酒を頼んだ様子だ。
「やれやれ、まだ太陽が出てる時間帯からこれか……」
ま、でもこれが冒険者ってもんよね。
「豚族の奴らが、本当にあのまま大人しくしてるかどうかは分からないけどな」
「そん時はそん時、また討伐依頼が出るでしょ」
ダーチャとロシュフコーが暢気な会話を交わす。ま、でもあれだけ懲らしめたら外の人に手を出す気にはならないでしょう。
にしても……依頼を出してきたのは本部の冒険者ギルド、洞窟の情報をくれたのはキリクさん。
つまり、公爵領の政府はこの件の情報をギルドから通知されなければ一切知らないということだ。
「魔王、か……」
見たところ、公爵領の支配は高圧的だが、それでも一線は超えていないように見える。
どーせあの城の中で酒池肉林やってるんだろうし、逆に言えば魔王に為ろうとするような無茶はしないと思うけどなぁ……
「なあミナ。豚公爵についてはまあ何となく分かるとして、他の『昇竜の血』のメンバーってどんな人達だったんだ?」
まあ魔王の候補が他の公爵なら、聞いてみてもいいだろう。
「豚公爵って言い回し、屋外でしちゃ絶対ダメよ。公爵の手の者が何処で聞いてるか分からないんだから」
おおっと、それは失礼しました。
「……特に有名なのが『殺戮のカイン』ことカイン=ナ=マッタラ公爵ね。不死身と噂され、魔王に止めを刺した地上で最強の剣士だわ。……ただ、性格にかなり問題があるらしく、自身の所領であるマッタラ公爵領は鎖国、半独立状態になってしまっている」
不死身、か……どうなんだろう、そういう所から魔王に繋がる可能性はあったりするのかな?
「後は紅一点であるルリアーナ=デ=ディスタ女公とグラッシー=オブ=プラッシー公ね。……この二人は精霊術師としての高い能力もさることながらそれぞれ自身の影響する空間内、現在では公爵領内で機能する特殊な能力を持っているわ」
「ふーん……そう言えば公爵家ってあと2家あるんだよな。彼等は元の血筋、つまり王家の親戚がまだトップなのか?」
「そうね。金満公爵ことマイダン=クラーク公と……一年前に代替わりしたドミニア=フォン=ユーデリッハ女公。彼女は六公爵で一番の年少なのもあって、ルリアーナ公除く4公爵から求婚を持ちかけられてるわ。……傾国の美女という言い回しがあるそうだけど、彼女が『昇竜の血』の誰かと婚姻し、王家の血が彼等と交われば王国のお家簒奪も時間の問題でしょうね」
そんな簡単に簒奪なんていくものだろうか。特に豚公爵なんて抜けてる感じがするけどなぁ。
まー、取りあえず一番ヤバそうなのが『殺戮のカイン』だってことは分かった。王国政府って自前の武力とかあるのかな?あるのなら普通討伐されてるだろうけど……というか、後の公爵達もあんまりまともそうなのが居ない。
「万が一、権力闘争の末に戦争が起こったら俺達の目的も達成しずらくなって厄介だな。……そう言えば、ミナはなんで『魔王』の復活阻止をパーティのお題目に上げてるんだ?」
そこも疑問だった。建前とはいえ、目標があるのは大事だけど……何と言うか、高々4人のパーティの目標としては大きすぎる気がする。
「……私は割と本気なんだけど、復活阻止の件。まあ、確かに気宇壮大な話かもしれないけど……『昇竜の血』は4人で魔王打倒を成したのよ。私達が4人でその復活阻止を成せない筈はないわ」
「そうか……ま、ミナがそう言うなら付き合うぜ。ってフィスなら言うよな」
……ロシュフコーとダーチャがすっかり飲んで正気を無くしている内に、あたしは本質を付くセリフを吐く。
「フフ、そうね」
そう返すミナの顔は、何処か寂しげだった。
◇
やがて、空が夕焼けに染まるころ……
「二次会行こ二次会!!ねーねー何処の店にする!?ええへっへええ!」
「わ、我はもう……もう一杯、あふぅ」
出来上がってしまったロシュフコーとダーチャをさっさと寝かしつける為にも、宿を取らなくてはとミナと一緒に通りを探していると、向かいから一隊の豚族兵が此方を呼び止めてきた。
「『白刃の煌めき』の方々ですな」
まだ正式なものになっていない筈の登録名で、彼等はあたしたちを呼ぶ。
「……」
ミナの表情は複雑だ。まあそりゃあ、ギルドからの情報が公爵領の政府に行かない筈はないわな。そしてそれは、あの洞窟に隠れ潜んでいた豚族の情報も行っている可能性があるという事でもある。
「公爵府よりご依頼がありまして参上いたしました。明日9時に城へとおいで下さい」
……いきなりの申し出。豚さんは敬語に慣れていないらしく、所々噛んだり文法が怪しかったりしたが……
「承知しました」
ミナは即答する。まあ、断った結果として豚公爵に疑念を持たれても嫌だからね。
こうして、あたし達は明日お城へと参上することとなった。
◇
「今日の申し出、どう思う?」
「罠の可能性があるとしか言えないな」
宿へのチェックイン後、あたしはミナの質問へ率直に答えた。
……門番を脅して通した件と言い、豚公爵のあたし達に対する心象がいいわけがない。
余り自由に動き回れられると奴さんとしては困るはずだ。となると、首輪をつける積もりか。
「あるいは、おびき寄せて暗殺するつもりか」
「其処までアブラ公爵は馬鹿じゃないわ。ちょっとした有名人になった私達を何らかの形で利用するつもりなのよ」
ミナの見解はこうだ。確かにありえる話ではあるが……
「公爵の意図がどこにあるかを探るのは、具体的な依頼内容を聞いてからでいいと思うの。なによりロシュフコーとダーチャが今ダウンしている訳だし」
……そう言えば、二人を部屋に連れて行かなきゃならないんだった。
「……もう寝るか。お休み、ミナ」
「部屋の鍵は開けておくから夜這いに来てもいいわよ?」
「い、行かないよ!」
全く……




