外伝2 勇者惨状
私こそは、真の勇者だ!
私は、国王陛下よりこのド・ロン公爵領の様子をうかがうよう仰せつかまり、到着以来情勢をつぶさに見てきた。
王国政府によれば治安は安定しているという話だったが、実際来て見ればあちこちで豚族による圧政が布かれる体たらく。やはりこの地は魔王に乗っ取られていると見える!
このミング村でも、豚共に昨日村人が二人拉致され、役場も取り合ってくれないと言う話ではないか!
「腐敗の極みですな」
私の忠実なる相棒、全身を板金鎧で包んだ屈強の戦士、スタロンが言う。
「この地に来たのは無駄ではなかった。皆、相手は強大な公爵、そして場合によっては王国政府だ。身命を賭す覚悟であたってほしい」
民草のこのような苦しみを看過しているならば、王国政府も刷新の必要があろう。
「ハッ!」
パーティの後ろを守る僧侶のエルシトが強い口調で返事をしてくれた。矢張り私は仲間に恵まれている!
「ま、あんたがそう言うのなら仕方ないでしょ」
魔法使いのサマンサは他の二人と違って素直に受け止めてくれないが、内心では私と共に戦ってくれると信じている。
「うむ……それでは、物資の調達といこうか!」
「やくそうを てにいれた!」
「10ゴールドを てにいれた!」
「どくけしそうを てにいれた!」
「こんぼうを てにいれた!」
え、何?どこから調達しているのかだと?私は『勇者』だぞ。村の人々も家財を喜んで寄進してくれているのだ。
決して家の中のタンスを開けたり、家の脇に置いてある壺をのぞき込んで中身を勝手に持ち出したりしている訳ではない、訳ではないからな!!
「よし……それでは、要らなくなったものを売って装備を調達しよう」
『勇者』ならば、例えどんなお古の装備だろうと、たとえ『うまのふん』だろうと市場価格の半値で買い取ってくれるのだ。
これは、世界を救うためにこの地に降臨したこの私、『勇者』だからこそ許された行為だといえよう!
武器屋で要らないものを売り払うと、目に付く剣があったのでそれを指さした。
「勇者どのもこのはがねのつるぎをお求めとはお目が高い。一本1500ゴールドになりますがよろしいですか?」
「はい」
と言って私は財布から有り金全部を出すが……
「お金が足りませんよ?」
おお、何という事だ、お金が足りないとは情けない!
仕方ない、550ゴールドのこのくさりがまで我慢しよう。
「勇者殿、鎖鎌の使い方はご存じで?」
「知らない訳ないだろう、私は真の勇者なのだからな!」
という訳で、今日の残りの時間は、スタロンとの模擬戦という事になった。
◇
くさりがまは鎖の片方の端に分銅、もう片方の端に鎌を付けた武器だ。
つまり、鎌の部分を右手に持って……
「勇者殿、構え方が左右反対でございます」
え、しかし……
「分銅の部分を投げつけ、相手の動きを封じてから斬りかかるのが本来の使い方です」
エルシトは何でも詳しい。流石に学のある僧侶の身だ。
「で、では」
分銅を右手に持ち、
「たアーッ!」
2m先に居るスタロン目掛けて投げてみる……あれ、届かない。
「これは相当鍛錬が必要そうですな。まずは筋肉をつけることから始めないと」
「うむ、では腹筋100回を5セットですな」
え、まって、ふ、腹筋100回を5セット!?
今までイキってたけどあたし元は単なる女子高校生なんですけどーっ!!セーラー服で錘付きの鎖ブンブンとかキル〇ルの栗山〇明じゃねーんだぞ!!(正しくは鉄球です!)
「頑張ってくだされ、勇者殿」
ヒーッ!!
◇
ハァ、ハァ……し、死ぬかと思った。
だけど、この村の人々が圧政下にあるのは間違いない。この地に降り立った以上は、勇者として頑張らないと。
「頑張るのよ、明菜……」
無駄に羽飾りと蒼い宝石の付いた、『私は勇者です』と主張しているかのごとき兜、つーか冠だろをいじりつつ、私は眠りにつこうとする。
それにしても……ヘンな異世界だ。
今のあたしの『勇者』って設定も、一昔前どころかふた昔前の、あたしが産まれる前のJRPGのものじゃない。
転生してすぐ捕まって王様のもとに連れていかれて、陛下にお目付け役として無理やり押し付けられたあの3人があたしをそう呼ぶからそうだって事にしてるけど、いずれ無理が出てくるんじゃないかな。
第一、話によれば『魔王』はもう死んでるらしいし……
分からん。あたし、どうしてここにいるんだろう?
現実世界でも何度も問うたはずの問題を、あたしはこの地でも頭の中で反芻していた……




