悟り
私は今日死にます。
私が死んだ日は、身体を焼き付くすほどに暑かった。
「やっと外に出られたって言うのになんでこんなに暑いの?でも、中に入ってた時ははひんやりとしてだけれども、とっても暗かったからそれに比べたら幾分かマシね…」
私は若葉が生い茂る一本の木に止まって、ミンミンとうるさく求愛してくる男どもを地上に出てからずっと、耳を済ませて見定めていたが、誰一匹もいい男がいなかった。
「そろそろ限界なのにどうして私の心を動かすような勇ましい鳴き声を出してくれる王子様はいないの…私はこのまま何も残さないで死んでいくの?この世に生きた証を残せないなんて…」
私は中に入っていた頃のように希望と夢を抱けなくなっていた、その代わりにドロッとしたどす黒い絶望と死に対する恐怖に塗りつぶされていく
「これじゃ、死ぬために生まれているみたいじゃない、そんなのは、絶対に嫌なのに……」
木に引っかけている足に段々と力が入らなくなってきた
私はもう誰でもいいと思い、最後の力を振り絞って、羽を広げて隣の木で弱々しく鳴いている男のもとに向かったが、羽をバタつかせるだけでも、想像以上に体力を失い、想像以上に隣の木が遠く感じる。
やっとの思いで隣の木までたどり着いて、話しかけると弱々しく鳴いていた男は捨て台詞を残して飛び立っていってしまった。
「老耄には興味ない、俺は若くて尻がプリっとしている奴が好きなんだよ」
私の心の中にあった残り少ない希望と夢でできた真っ白なキャンパスが全部全部、どす黒い筆で塗りたくられていき、生きる希望も無くなった。
そして、私は足にも力が入らなくなり、熱く熱せられているコンクリートに真っ逆さまに落ちてい行く。そして、落ちていく間は全ての現象が止まっているようになり、この短く長い一週間の出来事が走馬灯のように過ぎていった。
地上に出てきたころは誰よりも木の高い所に行って、誰よりも勇ましくカッコイイ男を捕まえて、子孫を残して散って行こうと思っていたのに、それが日が経てば経つほど私には、もっといい男がいるはず、こんな男はダメだとか考えてしまい気付いたころには老いていて、誰も振り向いてくれなくなってしまった。
「あ~神様!お願いします、もう一度チャンスがあるならば、高望みはしないで私に振り向いてくれて大切にしてくれる方にします。」
そう願いながら、落ちていくと隣の木でも、私と同じように落ちていく同士がいた。私はそれを見て思った。
彼女は子孫を残せたのだろか?私と同様に残せなかったのだろうか?
ん?ちょっと待てよ、そもそも、何故子孫を残さなければいけないのだろうか?子孫を残せば、私が生きていたという証拠になるから?
じゃあ、結局は自分のためってこと?
そして、私は悟った。
自分のために生きていれば幸せだったのかと
私は誤解していた。子孫を残すことが幸せだと、いい男を見つけることが幸せだと、でも、ホントは違った。
自分がどうしたいかが一番大切だったのだ。
生物的な本能よりも今、自分が何をしてどうしたいかが大切なのだと知った。
そして、私はちょっぴり後悔をしながらコンクリートの上で熱しられながら、空を見ると……
青く透き通っていて、まるで、私のことを見て優しくて微笑んでくれているようだった。