筆記試験
魔族判定をパスしたオレたちは、他の受験生と一緒に『エル=サリード』内のある教室へと通された。
これから行われるのは筆記試験だ。
魔法――人間界でいうところの奇跡を使うためには、術式を学ぶ必要がある。
何の知識もない者が見ればただの数字や古代文字の羅列としか思えないそれも、きちんと法則にそって成り立っているものだ。
つまり、ある程度は学がないと話にならないというわけだ。
読み書きや計算、歴史問題から自然現象の成り立ちに至るまで幅広く出題されており、オレはというと、一応は全ての解答欄を埋めることはできた。
一応というのは、歴史問題に手こずってしまったという意味だ。
なんせオレはこの一千年の間に起きたことをほとんど知らない。
過去の戦で活躍した聖騎士の名前など問われても、グランデの生きていた時代の連中しか知らんしな。
わからんところは全部『アラン・ディバルド』で埋めておいた。
まあ、他の問題は完璧に合っているはずだし、まさかこの程度で落とされることはあるまい。
全ての問題を書き終え、最後に簡単な設問があった。
目を通してみて、踏み絵のような問いかけだと思った。
第一問。神の御名を答えなさい。
セフィラム神。
ミカエラ神。
ガブリエラ神。
ラファエラ神。
ウリエラ神。
第二問。天界について思うところを答えなさい。
我ら人類をいつも見守って下さっている、神様や天使様の住まう界域。
不変の願いをもって、天界の栄華と繁栄を祈り続けます。
第三問。人間界について思うところを答えなさい。
神様が人類のために用意なされた箱庭。この地に住めることが人々の誇りであり、また、神様の御加護を賜ることこそ人類無上の誉れでもある。
第四問。魔界について思うところを答えなさい。
人間界にとっての脅威。全ての魔族を『母なる大地』から駆逐し、人々が安心して住める土地にしなければならない。
第五問。暗黒界について思うところを答えなさい。
地獄の底より生まれいづる悪魔の住まう界域。この地に住まう者を天界に近づけてはならない。
こんなもんでいいだろう。オレの考えというよりは、客観的な見方に基づいてみただけだが。
さてと。
顔を上げる。
クラリスは一番前の端っこの席に座っている。
念のため確認しておくか。
【透視】と【遠見】の魔法で他の受験者やクラリスの体を透かして答案用紙を覗き込んでみると……。
第一問。神の御名を答えなさい。
ゼフィールラファエラミカエラウリエラエラガブリエララ。
第二問。天界について思うところを答えなさい。
グランデ様を嵌めた悪しき神は地獄の釜で焼かれるべき。こんな界域いますぐにでも滅んでしまえばいい。
第三問。人間界について思うところを答えなさい。
卑しい人間共は早く魔界に滅ぼされるべき。
第四問。魔界について思うところを答えなさい。
最愛なるグランデ様が統治なされた伝統ある領界。
人間の分際でこの地を侵すなどあってはならぬ大罪。
かの御方を輩出したこの領界を、魔族一丸となって守り、後世に残していかなければならない。
グランデ様万歳。
第五問。暗黒界について思うところを答えなさい。
汚い。寒い。暗い。熱い。
まったく……。
【念話】で呼びかける。
【おい、クラリス】
【はっ!? グランデ様の御声が……ッ!】
クラリスは手を合わせて天井を見つめると、
【うぅ……。グランデ様。どうかお見守りください。このクラリス。必ずや人間界を滅ぼし、神も悪魔も滅ぼし、グランデ様の悲願を成就してみせますゆえ】
まだ死んでないぞ。
この後、即効で書き直させた。