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6月5日

 

 静かな草原を散歩するアリーシャ隊男性陣。

 迫り来る足音に、コークは気が付いていた。


「……いつまで後ろで隠れているつもりだ。()()()


「え?!気付くの早くないですか?!」


 コークが振り向くと木の影から二人の女性が姿を現した。

 一人はオレンジ色の長髪のいかにもお嬢様という感じの風貌。

 もう一人は深緑色の髪を肩に付くか付かない程度に伸ばし、頭にカチューシャをかけたお淑やかそうな女性。


「うげ、バトるのかよ……せっかく風邪治ったばっかなのに」


 タルクだけがうんざりとした様子だったが、彼女達の尖った耳の形を見て本物の月の姫だと判断し戦闘モードに入る。

 とりあえず分かれて戦闘に挑もうとオレンジ色の女性にラヴィッチと響、深緑色の女性には残りのタルク、コーク、ナイチが配置された。


 まず、オレンジ色の髪の女性は瞬間移動で響の目の前に現れ、武器である短いステッキを振りかざし叩き付ける。

 響は咄嗟に腕を顔の前にやり防御しつつ、彼女の身体に回し蹴りを入れた。

 それは軽く腹部に当たり反動で後ろへ飛ばされるが足底に力を入れすぐに戻りステッキを強く握りながら再び響に殴り掛かりに来る。

 魔法のステッキらしきものを持っている割には意外にも肉弾戦である。


「ねぇ、君の名前はなんて言うのかな?」


「……()()と言いますわ……!無理に覚える必要はありませんが…!」


「うん、じゃあ覚えないよ」


 ラヴィッチが後ろから傍観しながら名前を聞くとミミだと伝えられる。

 にへらっと笑みを浮かべながらそう返すと予想外の返答に目を丸くしてしまうミミだった。


 一方、もう一人の月の姫の方は既に魔術を駆使し、光弾を三人に振り落としていた。


(そこそこに強そうだな……コイツら)


 タルクがそれを刀で力強く弾きながらどうやって攻めていくか考える。


赤坂 喪奈(あかさか もな)……だったか。まさか月の姫だったとはな」


「はい……貴方も……同じクラスだったと信じたくないくらいです、石黒君…!」


 どうやらコークのクラスの生徒のようだ。

 コーク自身が周りに興味を持っていない為、月の姫がいた事に気が付くことが出来なかった。

 むしろ今の今まで同じクラスにいてよく狙われなかったと、そこに驚きだ。


 喪奈は軽快なステップでジャンプをし、勢いよくステッキをコークの肩に叩き付けた。

 今の物理攻撃が重力も重なりそれなりの痛みがあったに違いないと喪奈は踏んでいたが全く微動だにしないコークに驚きつい固まってしまった。


「い……石黒君?」


「ふ……本当にな」


 痛みに動じないコークに不思議がり、怪訝そうな顔で伺う喪奈は完全に背後にいるナイチの存在に気が付いていなかった。

 ハッと振り向いた時には既に遅く、銃を連射され身体を銃弾が何発も貫いた。


「……うぅ……ッ!!」


「喪奈ちゃん……!大丈夫ですの!?」


「平気……です!」


 一瞬膝から崩れ落ちかけたがすぐに立て直し、今度はタルクに向かってステッキを振るった。


「マジでこんな戦い……意味ねぇのに……何で信じてくんねぇんだよ……!!」


「きゃあっ……ッ!!」


 刀で振り切り、喪奈を足で蹴り上げる。

 そしてタルク自身も地面を蹴り、飛び上がって喪奈に接近し刀で横に斬り付けた。


「いくら……誤解でも……()()()の命令なので……私のような下っ端はどうすることも出来ないんです……ッ!」


 あの方の、とは月の世界の女王の事なのか、はたまたサランの事なのか分からなかったがやはりどちらかが月の姫に命令を下して戦闘をすることになっているのは確実のようだ。


 喪奈が空中に飛ばされながらステッキをタルクに向かって振ると勢いよく光線が放たれて真っ直ぐに貫こうと轟音を響かせる。


「タルッ……唖理架…!危ない……ッ」


 しかしタルクは意気消沈してしまい顔を俯かせていた。

 ショックだったのだろう。

 避ける気力を失い、ただ立ち尽くす様にナイチが名前を呼んで注意喚起するが聞く耳を持っていない。

 一応ミミ達は同じ学校に通っているという事なので、本名は隠しておこうと無理やり偽名を使うことにした。


「ならば……」


 声の直後にバシュッと光線を打ち消す短い音がし、辺りが煙に包まれた。

 その煙が消えるとタルクの目の前にはコークが立っていたので、鞭を振って庇ったのだと理解した。


「信じてくれるまで武力行使で行くしかないようだな」


「沙檻……」


 タルクよりコークの方がショックを受けたに違いないのに、彼は吹っ切れた様子だった。

 だとしたら自分もうじうじ落ち込んでいられないとタルクは刀を持つ手に力を込めた。


 ナイチが梨杏に当てた時と同じ青い豪炎を喪奈に向けて放つ。


「……って、おい唖理架邪魔だ!」


「ぁあ?」


 立ち直ったタルクが喪奈の前に出てきた事により魔術が彼に当たってしまいそうになったが何故か刀に憑依して刃先を青く燃え上がらせた。


「おお?これ強いんじゃね?……おらぁ!!!」


「ぃやぁあああっ!!!?」


 予想通り刀の威力が上がり喪奈を斬るとそのまま吹き飛んでしまった。

 地面に落下した隙にナイチが銃弾を彼女の足元に落とすとそこに魔法陣が浮かび上がった。


「避ける余裕はまだある……ッ?!」


 魔法陣から逃れようと立ち上がろうとするも、コークの腕から伸びてきたコードによって身体を縛り付けられてしまう。


「これでも食らえ…!」


「きゃぁぁあぁぁッ……!!!」


 そしてナイチが空中に銃を撃ち、四方八方に放たれた銃弾がまとめて一気に喪奈を貫いた。


 喪奈の叫び声が気になってその方向を見るミミだが響が絶え間なく拳で殴りかかってくるので隙がない。


「えぇい……!!」


「っ!」


 今度はラヴィッチが剣を大きく振りかざしてミミを突き刺そうとするが寸前で避けた。

 剣が地面を深く突き刺さったがすぐに抜いて横に振り切る。


「っきゃ……!」


 すると風が舞い上がりミミは後ろへ飛ばされてしまった。

 ちょうど喪奈が倒れた所まで退き、背中同士をぶつけさせた。


「もう……許しませんわ」


 互いが傷だらけになってしまっているのを確認し、ミミは片目を閉じてゆっくりと開けた。


「ッ!?ぐぁ……!!」


 ラヴィッチが瞬きをした時、目の前で爆発が起こり彼の身体を巻き込んで吹き飛ばされてしまった。


「ラヴィ…っじゃなくて伊吹君……!」


 響が心配の声を上げる。

 ほんの一瞬見ただけでラヴィッチの身体は先程の爆発で焼き尽かされ血に塗れていたのが分かった。


「お次は貴方ですわ……!」


「……くぅッ!!!」


 隙を与えずにミミが同じ術を響に向けて発動させた。

 咄嗟に右腕を振りかざしてその爆発に抗うように拳を突き付けるも当然焼き尽くされてしまった。


「これくらいで負けるもんかぁああああッ!!!」


 ここ最近で聞いた事のない響の腹からの叫び声に一同が驚かされた。

 火傷でボロボロの拳を思い切りミミの腹へ突いた。

 突かれた衝撃で一瞬痛んだだけでミミは安堵したが次の瞬間内臓から何かが込み上げてくる感覚に襲われ血を吐いた。


「っごほ……が、は……ッ!?」


 立っていられない程の気持ち悪さに仰向けに倒れたがラヴィッチの気配を察知し、咄嗟にステッキを彼に向けた。


「私の方が……早かったですわね……」


 これならばすぐに魔術を発動させ、時間を稼ぐことが出来る。

 しかもラヴィッチは剣を持っていなかったので勝てると確信した。


「……そうかな」


「……ッ?!?!」


 その直後、ステッキを突き付けていた手の甲にどこから飛んできたのか一本のナイフがそこを貫いてしまった。

 即座に飛んできた方向を見ると木の枝の上にハーモニーが立っていて、オドオドしていた。


「あの子が……?!」


「いや?私がやったが?」


「?!っうぁああ……ッ!!?」


 ミミの背後にはいつの間にか白妬が佇んでいた。

 ハッと気付いたが白妬は柔軟に片脚を上にあげミミの後頭部をかかと落としをして地面に打ち下ろす。


 喪奈は怒り、ステッキを握り術を唱えようと口を開こうとした。


「!?」


 するとその寸前でタルクとナイチに前後から挟まれ阻止されてしまった。

 喪奈の首元にタルクの刀が這われ、額にはナイチの銃によって標準が当てられている。


 しかし彼女は怖気付く事無く刀を躊躇いなく手で握り、押し返した。

 ナイチの銃のフレームも掴まれ奪って遠くに投げ飛ばされてしまった。


「さぁ、食らいなさい……?!」


 今度こそ魔術を発動させようとしたが、突然喪奈の頭上に何本もの刃が現れ、一気に彼女に向かって突き刺さった。


「きゃあああああああッ!!!」


「……コード技を使うのは久しぶりだったな」


「コー…沙檻ナイス!」


 身体から出たコードを素早く体内に戻しながらコークがニヤリと笑みを浮かべた。


 一方、ミミとラヴィッチは向かい合って沈黙を保っていた。


「貴方も……かかと落としをしますの?」


「えぇ!?僕はしないしない!!あそこまで足上がんないよ」


 かかと落としの衝撃で額からダクダクと血を流しているミミは何ともいたたまれない。

 さすがにそこに再び攻撃を入れるのは申し訳なく感じ、ラヴィッチは響と目を合わせ何かコンタクトを取った。


「んー、伊吹君がかかと落とししたら痛いと思うけどなぁ」


「っ!?」


 ミミの背後に近寄った響が彼女の肩に手をかけて地面に身体を倒させた。


「君の顔……綺麗だから()()()()()()()


 童顔のラヴィッチに靴の底で踏みつけられてしまう屈辱に、堪え難いとミミは抵抗しようとするも響に肩を押さえ付けられて動く事が出来ない。


「よし、お腹にしよう」


 そう言ってブーツで彼女の腹部を思い切り踏み付けた。


「っい、たぁ……っうぅ……ッ」


 ラヴィッチのブーツの底には鋭利な歯車のような物が密かに備えられていて、踏まれると痛い所では済まない程のダメージを負う。

 彼はそれを腹部にねじ込むかのようにグリグリと足を捻ってくるのでより一層身体を抉ってくるのだ。


 ラヴィッチがミミから離れたがあまりの激痛に腹部を押さえたまま動けなくなっていた。

 それは喪奈も同じでコークからの攻撃によって戦闘不能になってしまっている。


「……お強いの……ですね……皆さん……っ」


「なぁお前ら……オレ達の話……聞いてくれねぇかな」


 動けない事を良い事にアリーシャ隊は全ての経緯をミミ達に話した。

 アリーシャ隊リーダーの指示によって倭達に接近して戦闘してきたがもう和解した話だという事を。


「……え!?そうだったんですか!?」


「だから最初から話を聞け」


 二人はかなり驚いた様子だった。

 和解した話を蒸し返されこんな事になってしまったのだから当然だろう。


「……多分……月の姫の上のクラスの人達に話をしても、聞いてくれないと思います……。戦闘は避けられないかもしれませんが……」


「でも皆さんから話をすれば……きっと分かってもらえるはずですわ……。力になれず申し訳ございません……」


 ミミ達はそそくさに帰る準備をするが、彼らに一言だけ残して姿を消した。


「アイツらは意外とすんなり話を理解してくれたな」


「この調子で行く事が出来ればいいがな」


彼女らより強い月の姫(上のクラス)……ねぇ」


 結局どうしてアリーシャ隊が月の姫から狙われていたのかは直接聞く事が出来なかったが恐らく自分達が敵だった時代の事が関係して責められているのだろうと解釈をした。


 ―――


「無理しない程度に頑張るなのよ~」


「ミミさん達を倒す事が出来た彼らは……強い」


「一人は大変だと思うけど頑張ってね、矢美 深優(やみ みゆ)ちゃん!」


「……はい」


 深優という女性はキャリアとサランの命令に静かに頷いた。

 彼女は目的云々よりただ単にアリーシャ隊が強いから戦ってみたいと申し出たようだ。

 どのようにして攻め込むのか、深優は一つの方法を提案する。


「手始めに彼らにはそれぞれの()()を見せ合ってもらいます」



評価よろしくお願いいたします!

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