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5月11日

 

 放課後。

 学校に通いだしてから早くも一ヶ月が経っていた。

 あの時敵側だったアリーシャ隊も、通ってみると意外にも律儀に授業を受けているのだから驚きだ。

 今もこうして皆でゾロゾロと、傍から見れば仲良さそうに帰路についているのだ。


 それにしても先月、月の姫から宣戦布告を受けてから何も起こらない。

 それはそれで一向に構わないのだが何もないのも気持ちが悪い。


「最近なんか暇だよな」


「――だったら私が相手になるわよ」


「っ!?」


 タルクがふと零した言葉に返答が返ってくるとは思わなかった。

 聞いた事のない見知らぬ人物の声がした方を見る。

 自分達の斜め後ろにすらりとした女性が立っていた。


「誰……?」


「私は殿堂 梨杏(でんどう りな)


 堂々とした立ち振る舞いでそう名乗るが全く知らない顔だった。

 綺麗な茶髪の長い髪を指で靡かせ、キツく吊り上がった目でアリーシャ隊全員を睨み付ける。

 服装は他校の制服を身にまとっているがどこの学校なのかは分からなかった。

 見た目の大人っぽさから高校生なのは間違いないと思うが。


「貴様じゃ相手にならん。去れ」


「……なっ」


 白妬がただ一言吐き捨て踵を返す。

 梨杏は自分から話しかけて食いつかれなかった事に苛立ち、()()()()()アリーシャ隊を引き止めようと叫ぶ。


「ちょっと……待ちなさい!!!」


「ぅわっ!!!あつ!!!」


 一瞬で姿を変え、叫びながら腕を彼らに向けて手を広げるとそこから電撃が鋭く放たれ、たまたますぐ近くにいたタルクに直撃した。

 そしてその隙に隣にいたハーモニーを捕まえ、すぐに距離を取り人質にする。


「ハーモニー……!!」


「うぅ……どうして私が囚われ役なんでしょうか~」


「……見た目?」


 ハーモニーが狙われてしまったのは恐らく一番何も出来なさそうと梨杏が踏んだからだろう。

 タルクとナイチとラヴィッチと白妬に見た目だとハモって返されショックを受けるハーモニー。

 彼女の肩を掴みながら自信満々に梨杏はニヤリと笑う。


「この子を返して欲しいなら私と本気で戦いなさい」


「ならば……本当に本気で殺ってもいいんだな?」


 コークがギロリと梨杏を睨み付ける。

 あまりのオーラに一瞬怖気付くがここで怯んではいけないと梨杏は堪える。

 しかし人数的に有利なのはアリーシャ隊だ。


「ねぇ、この人数だと僕達の方が有利じゃないかな」


「なら私が行こう」


「オレもオレも!鈍ってきてたし!」


「俺も行く」


 響が梨杏的に有り難い発言をしてくれたお陰で、全員と戦わずに済む事となった。

 コークにタルクにナイチが相手になるようだ。

 やっと月の姫が戦闘を申し込みに来てくれたが前回コークに殺られた敵の後に梨杏が来たので、どうせそこまで強くは無いのだろうと思い一同が余裕の面持ちである。

 ナイチに至っては銃すら持っていない。


「いいわ。この子は返す」


「ハーモニー!」


「白妬様~っ」


 捕えていたハーモニーの背中を強く押し、彼らの元へ返した。

 安堵でしくしく泣くハーモニーを白妬がしっかりと抱き締める。


「行くわよ……!」


 梨杏が再び腕を前に差し出し手を広げると電撃が三人に向かって放たれた。

 ナイチが俊敏な動きでそれを避けたが、鋭い電撃は彼を追いかけるように背後に回り、当たってしまった。


「っぐ…!」


「ナイチ……!」


「平気だタルク…!」


「ちっ、ちょこまかうぜぇ攻撃だな……」


 タルクとコークはギリギリの所で避け切る事が出来たが何とも梨杏自身に近付きにくい攻撃だと舌打ちをする。


「これはどう……!」


 こちらに近付いて来れないのを良いことに梨杏が何かを遠くからタルクに投げ付けた。


「っぶね……!」


 細長い釘のような物が一直線にタルクの額目掛けて飛んでいくが、寸前で気が付いてその場にしゃがみこんで避けた。


「……!」


 しかし運悪くタルクの真後ろにいたコークが完全に気を抜いていた為代わりにそれが額に突き刺さってしまった。


「……ぐぁ……っく……ぅ」


 反動で尻餅をつき、すぐに釘を引き抜く。

 コークの額からは血がドクドクと流れている。


(やべぇ後でコークに殺される……)


 タルクが避けた事でコークに当たってしまったので絶対に後でしばかれると冷や汗をかいた。

 そもそも気を抜いていたコークがいけないのだからタルクは何も責められないはずなのだが。


「コーク様、私にお任せ下さい~!」


 すぐさまハーモニーが駆け付けて倒れているコークの額に両手をかざして回復魔法を唱える。

 するとみるみるうちに傷口が塞がれていき、完治した。


「……ふん、機械人形にしては空気を読んだな」


「良かったです~っ」


 コークがゆっくりと立ち上がりハーモニーの頭にポンと一度だけ手を置いた。

 今まで酷い事しかされて来なかった分、それがお礼の動作のように感じて嬉しさでハーモニーはキラキラと笑顔になった。


「回復ね……良いわねそれ……生憎私にはそんなモノ……」


 せっかく与える事ができた攻撃をいとも簡単に完全回復されて不服な梨杏はタルクに向かって全力で走った。


「お、来るか?」


 それを両手を構えて受けて立とうとしたが、突然姿を消してしまった。

 辺りを見回しても見えない姿に緊張感が漂うが次の瞬間、タルクの目の前に一瞬にして現れた。


「ないのよね……!!!」


「ぐぁああぁああッ!!!」


 梨杏が両手をタルクの両肩に掴みかかるようにして触れるとそこから電撃が走り全身を痺れさせて苦痛の声を上げた。

 片膝をついて肩で息をするタルクを一瞥しながら梨杏は彼らを見下ろす。


「貴方達、言うほど強くないんじゃない?」


 するとコークが、余裕そうな彼女を見つめながら静かに言葉を発する。


「お前は遠距離と近距離どちらにも対応ができるが、あの電撃は半径五十メートル程度にしか届かない」


「貴様の攻撃パターンを見させてもらっていた」


「何ですって……?!」


 どうやら三人は敢えて本気で戦わずに彼女の攻撃のパターンを分析していたという。

 わざと食らって確かめるとは度胸がある行動だと自負してしまう。


「これで分かったから本気で行けるぜ!なんとか堂さんっ!」


「殿堂よ!!!」


 タルクのボケなのか素なのか分からない名前呼びに律儀に突っ込み返す梨杏だが内心ではかなり焦っていた。

 自分の力で攻撃を当てられていたと思い込んでいたが、パターンを読むためにわざと食らいに行っていたというのだから当然だろう。


「悪いが俺達には物理の他に魔術だって得意なの知っているか?」


「……やべぇオレ使えねぇよ魔術」


「自分が使えるからといって調子に乗るな。ナイチ・コースト」


「五月蝿いな……!!!そこは乗れよ!!!」


 せっかくナイチがドヤ顔付きでそう言い放ったというのに残りの二人に否定されては赤っ恥もいい所だ。

 一瞬だけ場が緩んだ気もしたが、コークが再び空気を戻す。


「では、私から行こう」


「……!今更パターンを知った所で遅いわよ!」


 梨杏が電撃を放つがコークは手持ちの鞭でバシッと打ち消す。


「お前のその電撃の威力はまぁまぁ強いようだな」


「褒めても何も出ないわよ……!!!」


 軽々と避けるコークに負けじと電撃を放ち続ける。

 こうして電撃を放っていれば彼はこちらに近付いて来る事が出来ない。


「褒めたつもりは毛頭ないが」


「……!」


「生憎私も電撃を扱っているんだ」


 電撃でバリアのように作っていた壁を鞭で一刀両断されてしまった。

 コークの鞭も電撃を走らせていて、梨杏のものとぶつかり合ってバチバチと互いに音を立てていたが鞭の方が威力が強く壁が破壊される。


「褒めるなら私の方だろう?」


「……きゃあああっ!!!」


 その隙に目の前に来る事を許してしまい鞭で思い切り叩かれる。

 瞬間にビリビリと電気が走り梨杏の身体を痛め付けた。

 攻撃を受けながら梨杏は逆にコークの攻撃パターンを読み取ろうとした。


(あの鞭はそんなに長さはないから彼の周辺にしか攻撃範囲は届かない。私は……四方八方に電撃を散らすことが出来る!!)


 両手を広げるように上にあげ、四方八方に電撃を散らばらせた。

 鋭い音でコークに向かって行くが本人はそれを適当に手で振り払い適当にあしらった。


「ふ……」


「な、なに笑ってんのよ……」


 まるで効いていない攻撃に何だか屈辱的な気持ちになった梨杏はニヤリと笑うコークを涙目で睨み付ける。

 しかしコークは梨杏の攻撃に対して馬鹿にして見ていた訳ではなくて、彼女の背後から迫ってくるナイチの魔術に気付いていない事に笑ったのだ。


「……!きゃあぁあああああッ!!!」


 気付いた時には遅かった。

 後ろから青い炎のような豪炎が梨杏を覆い、焼き尽くす勢いで燃え盛った。


「よそ見してんなよ!」


「あぁあ……ッ!!!?」


 そして痛みに耐え忍んだ隙にタルクが彼女の背中を刀で斬り付けた。


「さぁて、そろそろ逝ってもらおうかな」


「ひぃ……ッ!」


 衝撃でその場に倒れ込んだ所に跨り刀を突き刺そうと思い切り振りかざそうとする。

 梨杏は咄嗟に両手で頭を庇うように自分を守った。


「ぉわっ!?」


 しかしタルクがある事に気が付き、刀を梨杏の顔面に突き刺す寸前で止めた。

 梨杏は涙を流しながらガクガクと唇を震わせている。


「タルク・フォウマ、何故とどめを刺さなかった」


「コイツは月の世界の奴だろ」


「いや、コイツ……月の姫じゃねぇよ」


 そう言って梨杏の耳を見せる。

 月の姫の特徴であるエルフ耳のような尖った形ではなかったのだ。

 タルクは先程、梨杏が両手を上げた時に耳がチラリと見え、そこで月の姫ではないと気が付くことが出来たという訳だ。


「……月の姫……貴方達も知っているの?」


「え、うん……。貴方達もってことは、梨杏ちゃんも知ってたんだ?」


 ラヴィッチが尋ねると梨杏は変身を解き制服姿に戻り、どうして月の姫を知っているのか理由を話してくれた。


「貴方達も知っている月の姫が……私の友人を殺したからよ」


 梨杏は月の姫を友人に何らかの理由で殺された事を恨み、この手で殺り返そうと考えていたようだ。

 たまたま見つけたアリーシャ隊を、月の姫の関係者だと思い込んだ事で今回の戦闘に至ったという。

 月の姫の関係者という訳では無いがあながち間違ってはいないけれども。


 一応こちらも月の姫に理由もわからずに狙われている旨の説明をした。


「梨杏様が良ければ是非お友達になりましょう~っ!」


「は、はい??」


「そのお友達は帰ってこないけれど……僕達で良かったら力にもなるよ」


「勝手にしろ」


「みんなはああ言ってるけど……どうかな?」


 ハーモニーが嬉しそうに梨杏に握手を求め、響が励ましの言葉を送る。

 コークは全く興味なさそうに目を伏せてラヴィッチが異色メンバーだが悪い人では無いんだと宥める。


「……ふふ」


「あ、笑った」


「!?か、考えとくわ!!」


 一瞬梨杏はアリーシャ隊の様子を見て微笑んだがすぐに顔を赤くしながら走り去ってしまった。

 その後ろ姿を見ながらそういえば他校の生徒だったがこれから会うことが出来るのか疑問に思う一同だった。


 ―――


「……何というベタな展開だ」


「殿堂梨杏、よろしく」


 その翌日。

 何となく誰もが想像ついていたことが現実になってしまった。

 単調に自己紹介をする彼女は、コークと同じ三年のクラスに転校してきたのだ。

 コークはうんざりした表情をしていたが、やっと同学年の人が増えた事に少しだけ安堵した。


 担任に後ろの空いている席を指示されそこに向かう途中にコークと目を合わせた。


「あら貴方は、コー…?!」


「石黒沙檻だ」


 うっかり本名をバラされそうになる寸前に彼女の足を思い切り踏み付け阻止した。

 昨日ざっくりとアリーシャ隊から自己紹介を受けた為疑いもなく名前を呼ぼうとしただけの梨杏にとっては理不尽極まりない。


(出会い頭の女子の足を踏み付けるなんて石黒もホントドSだなぁ、先生不安だよ)


 担任はただただコークの冷酷さに冷や汗を掻くばかりであった。


 後程皆にコークから梨杏が自分のクラスに転校してきた事を伝えるとやっぱりなという感じで察していた。

 白妬だけは羨望の目で悔しそうにしていたが。


 月の姫関連でもしかしたら情報を知っているかもしれないという事で今後も一応関わりを持っていくという結論に至った。



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