1月4日
アリーシャ隊と彪は捺紀を必ず止めるという意志を強めたと同時に、キャリアから授かった力の気配を感じ取った。
頭の中に称号が浮かび、以前はすぐにそれが消えて思い出せなかったのが今回はハッキリと見えるのだ。
そしてそれとは別に長ったらしい呪文のような文も頭に入ってきた。
負った傷こそはそのままだが、服装もこの間と同じく新しいものに変わっている。
このタイミングで力を得たという事は捺紀を止められるチャンスなのかもしれない。
一同はペアの仲間と頷き合い捺紀を見た。
「………覚悟しろよ」
「…っ!?」
まず先陣を切ったのは白妬だった。
彼女が鋭く捺紀を睨みつけると、彼の動きが封じられ一歩も動く事が出来なくなった。
「我、失われた命に現世を与えられし者」
すらすらと呪文を口に出来るのは、頭にハッキリと文字が叩き込まれたからだ。
「その幾人もの生き血を啜った五月雨を以て」
「…ぅ…!」
白妬が詠唱する毎に捺紀の身体は石のように動かなくなる。
同時に視覚も奪われたようで焦点が合わなくなってしまった。
白妬は容赦なく手持ちのナイフを何本も彼に投げ付け腕や脚を切り付けていく。
服が破れ、鮮やかな血液が吹き出し地面が赤く染まる。
「夜空の追風に破滅を解き放て」
彼女の背後に円状の魔弾が浮かび上がった。
それを手に取るように操りながら、視覚を奪われキョロキョロする捺紀へと走って接近し、彼の頭上で飛び跳ねた。
するとその魔弾はみるみるうちに大きくなり燃え盛る。
「風纏う現世の死線!!!!」
「ぐああァァァァァァァ!!!!!!!」
そして捺紀へと一気に迫り身体を貫いた。
恐らくこの言葉が称号というものなのだろう。
「我、終末の存在を夢見し者」
轟音が立ち上る中、ハーモニーのか弱い声が微かに聞こえた。
彼女は両手を胸の前で握り、祈るように唱えている。
「その混沌の爪痕を以て」
「…っ、ハーモニー…!」
白妬の術の呪縛から解き放たれた捺紀はさりげなく詠唱していたハーモニーの方を振り向いて睨むと、彼女に向かって走り出した。
「破壊せし夜想曲に」
「やらせるものか…ッ!!!」
マネキンの手首や脚を武器にして、それも共にハーモニーへと投げ飛ばす。
確実に怪我を負うだろうがハーモニーは天使のような微笑みでただ捺紀を見ていた。
「羨望の闇を奮え」
マネキンの手先がハーモニーの目を抉る寸前。
「閃光を射た聖女」
ハーモニーの方が早かった。
彼女が称号を口にした瞬間、目の前に迫っていたマネキンの各部位がピタリと動きを止まりバラバラと足元へ落下する。
「……は…?」
思わず捺紀も足を止めてしまった。
無数のマネキンの手首や脚が一瞬で粉々に粉砕されたのだ。
何があったのか目を見開く捺紀だったが、彼の身体にも異変が起こった。
「…ぅ、う…ッ!!!!」
突然腹部を抑えながら背中を丸め、吐血しそのままその場に倒れ込んでしまった。
恐らく先程のマネキンを粉砕した時の波動が捺紀自身にも行き渡ったのだろう。
体内がぐしゃりと粉々にされる感覚に陥り、気持ち悪さが込み上げ口から血が止まらない。
そしてもう一つの異変があった。
術を唱えたハーモニー本人だ。
彼女は血こそは出ないが、先の戦闘でそれなりにダメージを負ってきたはずだが顔や身体に傷一つ無い。
無傷と言ってもいい程だ。
「お肌がツルピカになりました~」
ハーモニーは嬉しそうにその場でくるりと回った。
どうやら彼女の強化能力は敵にダメージを食らわせた分、己を回復させる事が出来るようだ。
捺紀は動かなくなってしまった。
―――
「うおりゃああ!!」
ラヴィッチは捺紀に剣を振りかざすが俊敏な動きで容易く避けられなかなか攻撃が当たらなく手こずっていた。
力と称号を得たとしても身体はそのままだから、彼自身の動きも鈍いのだ。
「ああもう!早すぎて当たんない…!」
攻撃範囲を広めようと剣を横に振るも、軽快に後ろへと下がられ空ぶった。
「我、隠された回廊に身を滅ぼせし者」
ラヴィッチが一人で時間を稼いでいる間にナイチが後方で密かに呪文を口にする。
「その自我を以て、立ち塞がりし汝が宿敵に無限の可能性を齎せ」
一度目を閉じて、ゆっくりと開く。
「無情の魔神」
目を開けた瞬間、ナイチは一瞬頭が痛み、ふらついてしまった。
脈が耳にまで伝わるほど波打ち、咄嗟に頭を押さえた。
(何だ……この、感じ……)
倒れる訳には行かず、捺紀を見る。
どうしてか彼の動きが遅く見えていた。
ナイチは銃を構えると、捺紀が居ない方向へ弾を発砲した。
「うぐ……ッ!!!」
なんとそれは捺紀の腹部に命中した。
というのも、ラヴィッチが彼に剣を振りかざし、避けた先がナイチの発砲した場所だったのだ。
(俺の能力は……敵の行動を読むことだ)
その後もナイチは的外れな場所へ発砲するがラヴィッチの剣を避けた先で必ず命中した。
「え、なんかナイチすごい」
捺紀の動きを全て把握しているようにも見え、ラヴィッチは素直に彼を褒めた。
「俺が前に出るから貴様も力を使え」
「え…う、うん!」
そう言って捺紀の行く先を先読みして銃を連射した。
「我、原始の機関に選ばれし者」
捺紀の動きが心配だが、ナイチが上手く相手してくれているので落ち着いてラヴィッチは呪文を口にする。
目の前では捺紀が術を発動し、光弾を放っているがナイチはそれを全て避けていた。
彼なら大丈夫だとラヴィッチは信じた。
「そのパラディンの戯言を以て、罪深き汝が傭兵に待望の疾風を刻み付けよ」
「っぅう……ッ!!!呪文なんか……ッ!!!止めてやる……!!!!!!」
捺紀はぐるりとラヴィッチの方を振り返ると目付きを鋭くし、恐ろしい形相でこちらへ手を伸ばしてきた。
互いの距離はあるので代わりに無数のマネキンの手首がラヴィッチへと接近し身を貫こうと指先を伸ばしていた。
「刻む畏れの鐘」
しかしラヴィッチの方が圧倒的に早かった。
彼が称号を口にすると、マネキンはピタリと動きを止め、代わりに捺紀の方へ向きを変えた。
「え――」
そしてそれらは一直線に捺紀へと突っ込んでいき、大きな爆発を起こした。
捺紀は咄嗟に顔の前に手をやるが派手に爆煙に飲み込まれ、煙が巻く頃には床に突っ伏していた。
「自分の武器に殺られるって、ちょっと残酷…」
見るに堪えない状態の彼の姿を見てラヴィッチがそう呟く。
「ナイチ、さっきはありがとう」
「ふ、お互い様だ」
だがひとまずこの勝負は我々の勝ちだと喜び合った。
―――
「我、見目麗しい記憶に招かれざれし者。その悠久の知力を以て彷徨える蒼然たる雨に終わりなき覇道を見せ付けよ」
コークがペラペラと容易に呪文を口にする。
最後に称号を唱える直前で、タルクも呪文を唱え出した。
「我、幻影の空間に心奪われし者」
タルクが呪文を呟くと、彼の身体から強大な魔力のオーラが沸き立った。
(タルクが魔術を……危険だ)
捺紀はタルクの使い慣れない魔術に危機感を感じ、遠くから魔術で抗おうと魔弾を発動する。
「残念だな…!」
そして勢いよく地面を蹴ると彼に急接近し、魔弾をぶつけようと腕を振った。
だが捺紀の動きはそこで止まり、ピタリと動かなくなってしまった。
「閑雅なる俯瞰者」
コークだ。
彼の能力は敵の動き、或いは時を止める事が出来るようだ。
コークは時が止まって指一つ動かさない捺紀にゆっくり近付き彼の顔を見た。
時が止められているので表情はタルクに攻撃を与える寸前の怒りに満ちた顔付きのままだ。
それを見て、コークは普段の優しく話しかけてくれていた彼の笑顔を思い出して思わず目線を外してしまう。
「……っ」
だが鞭をキツく握り締め、余計な事は考えまいと思い切り捺紀に振るった。
そして鞭を無造作に床に放り投げると背部からコードを伸ばし、躊躇いなく捺紀の胸元を貫き刺した。
貫いたコードは引き抜かれずにゆらゆらと蠢いている。
捺紀は声こそは出ないが口や胸元から止めどなく血を溢れさせた。
「タルク!」
「……その偉大なる慈悲を以て立ち塞がりし魔道士に…」
コークに続きを促されたタルクは、おう!と返事をすると地面を蹴り高く飛び上がりながら呪文の続きを唱え出した。
「……っ!?」
そこで捺紀の時は動き出した。
我に返った彼は何があったのか目を泳がせていたが自分の身体を貫いているコードに気が付き引き抜こうと手を掛けた。
すぐにタルクの存在に気付き上を見上げるが遅い。
「親愛なる姉君との剣技を披露せよ!!!」
捺紀には刀を振りかざすタルクの姿が、姉のシルクにも見えて目を奪われていた。
「結託せし神速の生還者」
「ぐぁあああぁああッ!!!!」
刀を振り下ろすと、捺紀の周りに魔法陣が浮かびそこからゆらゆらと魔弾が立ち上り捺紀を蝕むように覆い被さった。
何処かを食い破る音が聞こえ、すぐに捺紀はその場に崩れ落ち動かなくなる。
捺紀の残虐な姿を見下ろし、二人は率直な感想を口にした。
「……なんか、辛ぇな」
「同感だ」
「でも、あと少しだ」
「あぁ……」
正直彪の次に精神的に来ている人物はコークだとタルクは思っていた。
コークは同じクラスでそこそこに関わりを持っていた梨杏を亡くし、雅つつじには梨杏という恋人の存在を知らないと言われ、そして仲が良くなれたと思っていた捺紀が敵だと知らされたのだ。
割り切って捺紀と向き合っているのは戦う姿勢で分かってはいるが、自分達がフォローしてコークのメンタルを保たせていかなければとタルクは敢えて彼に笑いかけた。
―――
「我、皇帝の字に破壊されし者」
響は呪文を唱えると右手から禍々しい数個の魔弾を生み出した。
「…!」
捺紀が即座にマネキンの手首を彼へ飛ばし抗うが、左の拳で破壊されてしまった。
「その慈愛に満ちた思想を以て、大罪を犯した漆黒の笑みに亡びの悪夢をぶちかませ…」
「そんなの食らってしまったら本気で死ねるな」
響は咄嗟に飛び跳ねる捺紀を見上げながら走った。
彼も響に対抗しようと魔弾を浮かび上げると放つ。
二方向からの魔弾攻撃が真っ向からぶつかり爆煙と光を起こした。
「……、はぁ…っ、はぁ……」
「響の負けだな」
先に崩れ落ちたのは響だった。
彼は額から血を垂れ流し、苦しそうに息を荒らげていた。
対する捺紀はその場に立ち尽くしていて自分の勝利を確信し、彪の方を向くのに響に背中を向けた。
だが響の術は終わっていない。
「勇者の剛鉄」
「!?!?」
響は勇ましく笑うと、捺紀に指をさした。
捺紀は身体に異変を感じ、胸元を押さえ息を乱す。
冷や汗が止まらず、徐々に意識が遠のいていく感覚に陥っていた。
「……な、んだ…これ……苦し……!」
立っていられなくなり床に倒れ込み、響を見上げた。
「ごめんね、捺紀の生気奪っちゃった」
響は蠢く捺紀の生気の塊を片手で持っていたが、壁に投げつけ粉砕した。
人の生気を奪うという響は不似合いな能力を手にしたようだ。
「さ、彪!頑張って」
「……あぁ」
響に背中を押された彪は組んでいた腕を解放すると、右手を真横に伸ばした。
すると太く大きな光の柱が現れ、彪はそれを力強く掴んだ。
「我、血塗られた聖域に身を委ねし者、その共鳴の能力を以て」
「あ……きら」
「その共鳴の能力を以て」
冷静な声音の彪を捺紀が怯えたような表情で見ていた。
そんな彼を見下ろしながら彪はふと昔の事を思い出した。
『彪ってさー泣き虫だよね』
小学生後半の年の頃だっただろうか。
捺紀が彪にふとそう言うことがあった。
親がいない事を嘆く事もあったから捺紀にそう言われるのも当然なのかもしれないが、改めて言われると恥ずかしいのでうるせぇ!と返した。
『俺は強い男になるんだ!』
だがすぐに機嫌を取り戻し、捺紀に拳を突き付けて笑う。
そんな彪を不思議そうに見ながら、どうして?と捺紀は聞く。
『大切な人を…………いや、何でもない!!』
『えぇー!言ってよー!』
その時は適当にごまかして結局言わなかったのだ。
兄に自分の素直な気持ちを伝えるのはどうも恥ずかしかったからだ。
あの言葉の続きは、大切な人を守りたいから、だ。
(俺が守りたかった人は、シルク姉様と……なつき兄、だったんだよな)
あの時の俺の言葉を覚えてるだろうかと彪は怖い程に無表情で思う。
強くなったはいいが、まさか力を捺紀に使う事になるとは思ってもみなくて彪の心中はめちゃくちゃ状態である。
(……彪)
そして捺紀も捺紀で、昔の事を思い出していた。
これも中学三年生位の頃の話だ。
捺紀が自宅に帰り、自室に入ろうと廊下を歩いていると彪部屋から声がした。
(おれはあの時ショックを受けたよ。君が……)
その部屋にいたのは彪とシルクだった。
二人は仲良さそうに談笑していて、あまりに予想外すぎてそれを扉の隙間から食い入るように覗いていた。
シルクと彪が親しくなったことによってこちら側の事情に首を突っ込まれて余計な情報を得られても困るからだ。
場所は変わってGODESTの塔。
捺紀は壁際で一人、小さく座り込みながら俯いていた。
『彪と……タルクの姉が……』
『何だ、おめぇの弟とシルク、友達になっちまったのか』
隣に現れたのはタルクとシルクの母親のノエルだった。
この時は捺紀は中学生だったのでタルク達も別々の身体で普通に生活している。
ノエルは、まぁお前ん家とウチは家近いしなと笑いながら座り込んだ。
そして捺紀の方を見てこう言った。
『安心しろ。あたしがシルクを後々殺してやっからよ』
『そんな簡単に……平気なの?』
さすがにサラリと実の娘を殺すからと軽々しく言われては捺紀も狼狽えてしまう。
それでもノエルは白い歯を見せ付け笑っていた。
『あたしが神にしてやりてぇのはタルクだからな!』
その言葉を聞いてから、彪とシルクが親しくなろうが捺紀にとってはどうでもよくなっていた。
(だっていずれは消されるんだから…実の母に)
それから少ししてシルクは彪の目の前に現れなくなった。
宣言通り、ノエルがシルクを殺したからだ。
だが予想外な事に魂だけが入れ替わってシルクの身体にタルクの魂が移って生き残る形とはなったが。
シルクの魂は死んだから特に何も思わなかった。
彪は突然居なくなった彼女を心配こそはしていたが、こちらも余裕のない生活を送っていたからそれ以上は何も言わなくなった。
彪が中学三年生、捺紀が高校二年生になった時。
ある日の放課後、二人は帰り道でバッタリ会い、肩を並べて帰っていた。
どうしてそんな話になったのかは明確に覚えていないが、守る守らないの話題になった時の事だ。
『大丈夫だって、おれが彪を守るから』
『守るも何も、別に俺、悪者に狙われてる訳でもねぇよ?』
そう首を傾げる彪に、捺紀は何かあった時だよと笑って返す。
彪はふーんと少し考え込むと、勇ましく捺紀を見て口角を上げた。
『じゃ、俺もてめぇを守る。その為に強くなってやるよ』
『……!』
その言葉が純粋に嬉しかったのと、ことごとく彼は何も知らないんだなという無情さに捺紀はつい吹き出してしまった。
『ぷっ!面白い奴~』
『ぅ……面白くてケッコー!』
捺紀がからかうと、彪は走り出して恥ずかしさを誤魔化した。
「――目の前の裏切りの兄に重力による終焉を捧げよ」
そんなエピソードを思い出した所で彪の詠唱の声で我に返った。
捺紀はもう抵抗する気を無くし、座り込んだまま動かなかった。
彪が魔の柱を持ち上げ大きく捺紀へと振り落とす。
先が鋭い柱が勢いよくこちらへと落下してくる。
どうしてか、スローモーションのようにゆっくりと落下しているように見えて不思議に思えた。
彪の顔とそれを交互に見ながら、あの言葉を思い出してしまった。
“じゃ、俺もてめぇを守る。その為に強くなってやるよ”
弟を裏切り続けていた罪悪感に今更気付いたのか、捺紀は涙を流した。
しかし、既に遅い。
「麗しき不屈の焔」
彪の振り落とした柱は捺紀を真っ直ぐに貫いた。
―――
「お前達、無事のようだな」
「当然♪」
「戻ってきたみたいだね!」
それからすぐに場面展開し、最初に来させられた無の空間へと一同は戻ってきた。
ハーモニー以外はボロボロの状態であるが新たな力を発揮して捺紀を撃退できた事に喜びあっていた。
コークは腕や頭部や腹部等から血を溢れさせている捺紀を呼び掛けた。
「さぁ、大河捺紀。負けを認めろ」
「そうだ!さっさと願いとか言うやつ叶えて帰っぞ!バカ兄!」
「……」
呼ばれても捺紀はなかなか起き上がらない。
ふと白妬と響が何かを考えるような素振りをしていた。
「願い……か。あれは本当なのだろうか」
「キャリアさんが言ってたんだよ?……本当に決まってる、よ」
「……?なんだよお前ら、キャリアに言われたって」
アリーシャ隊だけが何か事情を知っているようだったのですかさず彪が問い詰めた。
言いづらい空気ではあるが、いずれは話す事になると分かっていた事なのでラヴィッチが決心して口を開いた。
「……捺紀が最後の敵だってことを知らされていたんだ、僕達」
「……は……?俺以外は……知ってたって……ことかよ」
彪は目を泳がせ明らかな動揺を見せ付けたが瞬時に頭に血が上ったのか形相を変えて怒鳴った。
「何で言ってくんなかったんだよ!!!!!」
「……仕方がなかったんだ」
「仕方ないもクソもねぇ!!!!!」
ナイチが苦し紛れにそう言うが、激昂した彪にはそれすらも苛立ち分かりやすく取り乱した。
「彪様……」
「事前に言ってくれたら俺だって色々考えられただろ!!!?」
同情の目で見ても彪をより惨めにさせる事に変わりはない。
怒りを撒き散らす彪に真正面からコークが近付く。
彪は気にすることなく言いたい事を吐き出す。
「アイツが兄だからとかそんな配慮なんていらな――」
彼の言葉をコークの拳が遮った。
コークが、彪の頬を思い切り殴ったのだ。
「……ちょ…」
あまりにも思い切った彪の黙らせ方にタルクが驚愕していた。
「……ってぇ……!何すんだよ兄貴……ッ!!!!」
彪はそのまま頬を擦りながら尻もちをついた。
理不尽に殴られた事で彪は相手がコークだろうが更に苛立ち、食って掛かろうとしたが容易く胸倉を掴み上げられ言葉を遮られた。
「大河彪。お前は前もって伝えてほしかったのか?」
「……あ?」
胸倉を掴んだコークの手が少し震えていた。
だが直ぐにキツく握り直した。
「奴に勝って願いを叶えると同時に……奴は死んでしまうんだぞ……。これを知った上でお前は本当に捺紀と戦えたか……!?」
珍しく語気を強めてコークが言った。
彪は何を言われたのか分からないといったように目を丸くしていた。
しかし言葉の意味を少しずつ把握していったのか、へなへなと腰を抜かしてへたりこんでしまう。
「意味…わかんねぇよ……願いを叶えたら……なつき兄も……死ぬ?」
動揺するのも当然である。
こうなる事を予測していたから敢えて彪だけには言わないでおいたのだ。
逆に捉えると、アリーシャ隊は捺紀が死ぬ事を理解した上で辛い気持ちを押し殺し戦っていたという訳だ。
「願いを叶える代わりに自らの命を犠牲にする……」
「ゼウスと捺紀は繋がっている……。捺紀そのものがゼウスなんだ」
「…………俺…言っちまったよ……無責任に……待ってろって」
捺紀戦前夜、何も知らない彪は捺紀に美味しいご飯を作って待っていてくれと話していたのを思い出す。
自分は本当に何も知らされていなかったんだと痛感し、感情がめちゃくちゃになり吐き気がした。
「おい、なつき兄。何でお前は…そんなんでも自分で願いを叶えようとしてんだよ……」
掠れた声で捺紀に彪が問い掛けた。
すると捺紀はようやく身体をゆっくりと起こし、こちらを見た。
「……おれの…目的は…アリーシャ隊に……勝って、リーダーを塗り替えて……君達を……従わせる、事……」
捺紀はこんな不利な状況にさせられながらも、まだそのような事を口にしていた。
「仮に捺紀様が勝ったとしても……御自身が死んでしまうのに願いは叶うのでしょうか……?」
「それは……分からない。おれは…生まれた時からゼウスと一体化していて、死ぬ運命だっていうのは幼い頃から白花に伝えられていた……」
(俺と二人暮らししていた時から……なつき兄は自分がいずれ死ぬ事を理解して過ごしていた……)
もともとポーカーフェイスが上手い捺紀だからというのもあるが、全く悩み等があるようには感じなかったのだ。
「まぁ、おれポジティブだし、勝っておれが願いを叶えればきっと願いが優先されて生き返るんじゃないかって思ってるんだよね」
あまり重く捉えていないような口振りだが、その考えが覆されてそのまま死んでしまったらという展開は考えないはずはない。
「……だから、負ける訳にはいかない……!!!」
「っ!!??」
捺紀はそう言うと腕を横に振り、アリーシャ隊らに魔術旋風を薙ぎ払い出した。
咄嗟に腕でガードをした響は、魔風で腕に擦り傷を負った。
「捺紀……そこまでして……」
「ほら、おれSだから上に立ちたいんだよ」
臨戦態勢に入り距離を取ったタルクに捺紀はマネキンの手首を握りながら地面に振り落とすと、そこから雷撃の波動が湧き上がり彼へと迫っていった。
「…えぇい!!!」
「っぐ……!」
捺紀の背後に回ったラヴィッチがそれを止めようと剣で斬りあげた。
しかし捺紀はすぐに彼の方を振り返ると指をさし、魔光線が腹部を貫かせた。
「ぐぁああっ!!!!」
「ラヴィッチ……!」
ナイチが反撃をしようと捺紀に銃を発砲する。
だがそれは身体を後ろへ引く事で避けられ代わりにナイチの足元に無数のマネキンの手首が這い上がってきた。
手首はすぐにバチバチと火花を放ち、大きく爆発を起こした。
爆風はナイチの近くにいた白妬やハーモニーを巻き込み、砕けたマネキンの破片で深く傷を負ってしまう。
「でもおれ…君達といた時間が長すぎてね。つい本気で楽しんじゃって」
自嘲気味に話す捺紀を一同が怪訝そうに見ていた。
「ま、それでも良かったけどね。仲良くなれた君達との仲を崩壊させるのも面白いかなーって」
「はっ、笑えねぇドS野郎だな」
「コークの方が全然優しいよ」
タルクと響がフォローを入れる。
優しい彪の兄だと思っていた彼はとんでもなく狂っていたようだ。
「ふん、そんな極悪非道な奴がアリーシャ隊のリーダーになりたいだと?笑わせるな、さっさと退け」
コークは捺紀を睨んで嘲笑うように口角を上げると、コードを伸ばして無数の刃を出した。
瞬時にそれは捺紀の方へ突き刺す勢いで飛んでいくがマネキンの脚を武器に弾かれてしまう。
「君が何と言おうとおれは必ずリーダーになってやる……」
捺紀に弾かれた刃はバラバラに砕け、アリーシャ隊らの方へ飛び散って落下していった。
全て落下した時、捺紀は彪を見てこう言う。
「白花……いや、母さんも…それを望んでいる」
「は……かあ、さん?」
捺紀の衝撃的発言に誰もが足を止めた。
評価よろしくお願いいたします!




