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1月4日

 

 ―捺紀がどうして敵側にいるのか―


 ―それを知る為にも俺達は戦う―


 ―そして決着をつけるよ―


 ―サラン様…見ていて下さい―


 ―何とかして捺紀を取り戻してやっからよォ―


 ―絶対に助けます―


 ―それから説教五時間してやる―


 ―…なつき兄…待ってろよ…―


 一同は大河捺紀を救う事が出来るのか。

 最終決戦が始まる。



 決戦の土曜日。

 戦闘準備を万全に済ませたアリーシャ隊と彪は自宅に居たが突然目の前が暗くなり、見知らぬ空間へと場所を移動されてしまった。


「何だ、この空間……」


「箱の中……みたい」


 連れてこられた場所は文字通り箱の中のような所で物も何も無く、真っ白な広い空間だった。

 キョロキョロと周りを見渡し確認するが何処かに繋がる扉も無いので情報を得られない。


「最後の敵って誰なんだろーな」


「……」


 彪だけが能天気に腕を頭の後ろに回しながらだるそうにしていた。

 何と声を掛ければいいか迷うが、突然彼らの目の前で足音が聞こえ、そちらに目をやる。


「やぁ、おれの提案した学祭の出し物は楽しんでくれただろうか?」


「…!」


「…ぇ……なつ、き兄…?」


 アリーシャ隊は、最後の敵が本当に捺紀本人だったと衝撃を受けた。

 心のどこかで白花の冗談であってほしいと願っていたからだ。

 そして彪はというと、目を見開いてへらっと笑っていた。


「は、はは…お前また間違って来ちまったのかよ…!」


 彪は笑っていたが今にも泣きそうな顔をしていた。

 恐らく捺紀がここに居る事は間違いでないと分かっている。


「そんな訳ないだろう」


 ピシャリと言い放ち、捺紀が自分達にとっての敵だと認めざるを得ない状況にさせられた。

 彪の思い等全く無視して捺紀はアリーシャ隊を見て手を広げた。


「ようこそ。母に長年嘘をつかれていたラヴィッチ、ナイチ。母に妹を殺された響。母に全てを作られたコーク。姉を母に殺されたタルク。機械のハーモニー。殺人鬼のエフェ…白妬」


 一人一人の顔を見ながら()()で名前を呼ぶ捺紀にアリーシャ隊は表情を曇らせた。

 これで確実に彼が黒幕だと判明した。

 本名を知っているという事はアリーシャ隊を知っている。


「そしてたった今実の兄に裏切られた彪」


「………っ」


 彪は完全に狼狽えていた。

 鋭い目に睨まれ目が泳いでしまい、いつも堂々とした態度の彼が冷や汗をかいている。

 そんな彪を庇うようにコークとタルクが前に出た。


「あの出し物は出来レース過ぎて不信に思っていたが」


「てめぇが黒幕だとはな」


「あれは君達の強さを見ていただけだ」


 学園祭の時、グラウンドでアリーシャ隊が捺紀の用意した謎の敵と戦ったのだが疑問があったのだ。

 それをハーモニーが問いかける。


「……あの対戦相手というのは…」


「あれはなつき兄の武器……()()()()だ」


 答えたのは捺紀ではなく彪だった。


「マネキンだって?」


「さすがだな彪」


 ラヴィッチが驚いて彪の方を見た。

 捺紀も彪を見て頷いていたので間違いないだろう。


「魔術でマネキンを動かしてたんだろ」


「……」


 捺紀がマネキンを動かす事が出来るといった話を冗談交じりに聞かされた事があると彪は話す。


「お前が関わってたなんて…俺…」


「彪、お前は知らなすぎただけだ」


「…!!?」


 思えば捺紀の口調が普段と違う事に気付く。

 お前、と呼ばれる事も今まで無かったから他人に呼ばれた気がして違和感を覚えた。

 それでも自分だけは落ち込んでいられないとキツく捺紀を睨み返し、指をさした。


「ここでうじうじしててもしょうがねぇ!!殺さない程度にボコってやるよ!!そんで一緒に帰る!!」


 すると突然辺りが暗くなり視界を奪われた。

 すぐに明るくなると、アリーシャ隊と彪はそれぞれの空間に二人ずつに分けられていた。


「お前達は八人いる。ならばおれが()()して遊んでやろう」


「個別に戦うとは…白花そっくりだな」


 恐らくマネキンを使って捺紀を三体作ったのだろう。

 どこかに本物がいるのだろうが知る術もない為戦闘するしか道がない。

 ちなみにどのように分けられたのかというと、コークとタルク、響と彪、白妬とハーモニー、ラヴィッチとナイチである。


 まずはラヴィッチ、ナイチチーム。


 ナイチが先に仕掛け、銃を発砲し無重力状態に銃弾を浮遊させ一気に捺紀へと直撃させる。

 硝煙で捺紀の姿が見えなくなったが恐らくかすり傷程度には当てられただろう。


「貴様、例のマネキンは使わないのか?」


 銃を片手に捺紀に挑発する。


「いいのか?使っても」


「…!」


 するとナイチの足元から無数のマネキンの手首が湧き上がって彼の足を掴もうと蠢き出した。

 それを軽快に飛びながら避けて手首目掛けて銃で撃った。

 見事にそれは的中し、音を立てて消えていったが不意に背後から気配がして振り返る。


「くく、さすがに後ろから来るのは想定出来なかったか?」


「っぐ…!!くそ…!」


 下半身しかないマネキンが、彼の背中を蹴り上げた。

 すぐにそれに照準を定めて発砲し、跡形もなく消した。

 すると姿が見えなかった捺紀がすぐ目の前まで迫っていて今度は彼に蹴り飛ばされてしまった。


「くっ……、速い…」


「早速苦戦か?残念だな―――っ!?」


「でぇええええい!!!!」


「なに…!」


 捺紀の背後にいつの間にか狭まっていたラヴィッチが走りながら、剣に憑依させる為に使っていた術を手中で隠し持ち一気に彼にぶつけた。


「ナイチの戦友の僕を忘れないでよね…!」


「…ラヴィッチ」


 ラヴィッチがナイチの隣に着地した。

 捺紀は彼の攻撃を食らい、よろけるも振り向きざまにマネキンの手首を投げつけた。


「こんなの可愛いもんだよ」


 それをラヴィッチは難なく片手で掴み、阻止した。

 しかし捺紀はにたりと笑ってマネキンを指さす。


「それ、爆発するから気をつけろ」


「へ?」


 そう言った瞬間にマネキンは激しく爆発してしまいラヴィッチとナイチを巻き込んだ。


「ちょ!!!彪と同じような事するんだね…!」


「さすが兄弟だな…」


 彪も白花戦の時に武器を相手に握らせて爆発させていたのだ。

 それを思い出し、爆煙に巻き込まれながら二人はツッコミを入れた。


 ―――


 コークは最初から覚醒を起こし、捺紀の首をコードで締め付け爆発させた。

 しかし捺紀は少し噎せるだけでそれだけだった。


「悪いが、おれには効かん」


「やはり最後なだけあって一筋縄ではいかないようだな」


 当然容易く倒される相手ではないとコークも理解しているので、にたりと笑いながらコードを体内にしまい込んで後ろへ下がった。


「行くぞ捺紀!!」


「真っ向勝負か?」


 背後からタルクが刀を構えながら全速力で捺紀へと走ってきた。

 捺紀は手をタルクの方へ向けると即座に目の前に数体のマネキンが現れ彼を囲んだ。

 しかしタルクは地面を強く蹴ると高く飛び上がり、傍にいたマネキンの肩を踏み台にし更に高く飛び上がった。

 そして三角の形の紋章を作り上げ、マネキンと捺紀に向かって振りかざした。


「ぃやっほぉおおおおおおい!!!!!」


「ぅぐ…!」


 マネキンは瞬く間に消えていった。

 タルクもすぐに着地し、コークの隣に降り立った。


「タルク、まだ行けるか」


「問題ねぇよ!突っ込むぞ!」


 覚醒効果を大いに発揮すべく、二人は捺紀に向かって走り出した。


 ―――


 ズササッという音と共に、彪が地面に勢いよく転がっていった。

 避けられたはずの捺紀の攻撃を、完全に彪の不注意でモロに受けてしまったのだ。


「彪!無理はしないで!」


 響が気を遣いつつ捺紀に殴り掛かる。

 彪はたった今実の兄が敵だと知らされたのだ。

 精神状態が不安定になっている事は確実だから下がってもいいと響は言う。

 しかし状況はこちらが劣勢になっているのは響も分かっている。

 捺紀は躊躇いもなく自分にマネキンの手首を握りながら殴り掛かってくる。


「さすが……隙がないなぁ…っえぇい!!!」


 響はぐるりと身体を横に反転させ捺紀に足蹴りをお見舞する。

 響は内心で彪に出来れば戦って欲しいと思っているが自分からは言えないのだ。


「いや……大丈夫だ」


 彪は拳を震わせる程握り、ゆっくりと立ち上がった。


「今は辛いとか…悲しいとかじゃなくて……怒ってんだよ。何でそっち側に付いちまったのか……」


 そう言うと吹っ切れた顔で捺紀を睨んだ。


「ぶっ倒すついでに理由を聞いてやる!!!そこを動くなぁああ!!!!!!」


「ふ、そうだ彪。それでいい」


 拳を振りかざす彪に捺紀も笑った。


 ―――


「たぁあああ!!!!!」


 白妬は空中に浮きながら足元に魔法陣を発動させ、そこから無数の魔弾を生み出し捺紀へと襲いかからせた。

 それを食らいつつ、彼は口から溢れた血を手で拭った。


「面白い技だな。これはマリファナにやった技か」


「あぁ、そうだ」


 軽快に着地する白妬と交代でハーモニーが前に出て身体から矢を出す。

 勢いよく捺紀へと貫く為に伸びるが片手のみで掴まれ難なく折られてしまった。


「……コーク様を記憶喪失にさせたのはやはりマリファナ様で間違いないのですか…?」


 マリファナの名前が出たついでに疑問に思っていた事を聞いてみると捺紀は肯定の意味で頷いた。


「その通りだ。奴はすっとぼけていたようだがきちんと自分の武器を()()()コークに当てたんだ。偶然ではない」


「…っ、畜生!!」


 そのような情報も呆気なく彼に解説され、悔しさで白妬が舌打ちをした。


「白妬様…今は感情的になってはいけません~…」


「…、わかっている。冷静に行くぞ」


 ハーモニーに宥められ、仕切り直しだと白妬はナイフを片手に捺紀を睨みつけた。


 ―――


 剣や銃で太刀打ちしていたがやはり捺紀は強い。

 彼はマネキンだけでなく、単発の魔術も使用する。

 必死にマネキン退治に勤しむラヴィッチだったか不意を突かれ捺紀に腹部を魔弾で貫かれその場に崩れ落ちた。

 ナイチがラヴィッチの名前を叫び、彼を囲んでいたマネキンを銃で発砲し消し去った。


「おれは君達に勝って、()()()()()()()


「貴様も狙っていたというのか…?」


 あくまでも白花の話では、GODESTを何としても倒してもらってアリーシャ隊に願いを叶えさせるというものだった。

 捺紀も願いを叶えるという事を狙っていたのは驚きだがナイチは頭に血が上って激怒した。


「貴様が叶えたいというのなら勝手に叶えればいいだろう!!そんな物俺達はどうでもいいんだ!!これ以上巻き込まないでくれよ!!!」


 しかし捺紀はそんな彼に怖気付く事もなく、真っ直ぐに見据えて手の内からある物を出した。


「ゼウスは、()()()()()()()()()()


 それは菱形の形をして捺紀の手の上で浮遊しながらゆっくり回転している。

 彼はあれをゼウスと呼んでいた。


「……勝敗が決まらないと発動しない、という事か」


 どちらの味方にもなる、という事はそういう意味なのだろう。

 だから向こうで勝手に願いを叶える事も出来ない訳だ。


「願いの為だ!!容赦はしない!!!」


「…っ、ぐぁあ!!!!!」


 捺紀は目付きを更に鋭くさせ、ゼウスを一旦消した代わりに炎弾を手から生み出しナイチに降り注がせた。

 血相を変えて戦ってくるあたり、彼にはどうしても譲れない願いという物があるのだろうと察する。

 ナイチは炎弾を少し食らったが堪えて腕で振り払った。


「貴様…何故そこまで願いに執着する……!!!諦めろ!!!本当に死にたいのか!!!!」


「黙れ」


 ナイチの怒号をたった一言で制止した。

 そしてついに捺紀の叶えたい願いを打ち明けられた。


「おれはアリーシャ隊を倒し、アリーシャ隊を乗っ取り支配し、リーダーを塗り替えて頂点に立つ」


「…………」


 おぞましい願いに、つい言葉を失ってしまった。


 ―――


 白妬は捺紀から一旦距離を置き、離れた位置で片膝をつきながら頬に付着した返り血を拭った。


「……あぁ、姉ちゃんが私を敵だと知らされた時はこんな気持ちだったんだな…」


 身を持って倭の負った心のダメージを痛感して苦笑いした。

 それを気遣ってハーモニーが彼女の肩に手を添え顔色を伺う。

 白妬はハーモニーを優しく見つめると、平気だと頭を撫でて立ち上がった。


「一番辛いのは彪だ。私が怯む訳にはいかない」


「さすがだな白妬。メンタルは強い」


 聞き慣れない呼び捨てに違和感を覚えつつ、白妬は捺紀を見て嘲笑い、腕を大袈裟に広げた。


「はっ!!私がどれだけ人を騙して来たと思っている。十年以上だぞ!」


 人を騙してきた側だったのだから、それなりのメンタルの強さを兼ね備えている自信はあった。


「…まぁ、あの時はサラン様の為に魔術師三人を殺そうと働いていたからな。感情なんて、殺したいしか無かった…」


 浮かんだのはライム、緑、レイの三人だ。

 白妬は殺し屋としてアリーシャ隊に属していたから倭を騙している罪悪感等は全く感じていなかったのだ。

 更正し、私は貴様とは違う、という意思を込めて捺紀を睨み付けた。


 ―――


 タルクは刀の頭で捺紀の肩部を鋭く突くが、未だ怯まない捺紀に苛立ち声を荒らげた。


「てめぇ…!タイガーの気持ちわかってんのか!?素直じゃねぇけどどんだけ(捺紀)を慕っていたか…!」


 刀を振り乱しながら彪の思いを捺紀にぶつける。

 彪はよく捺紀の話をアリーシャ隊に話してくれていた。

 大抵は兄の自慢話で、自分より遥かに優れている捺紀の事を羨ましそうに、誇らしく話していたのだ。

 その姿を見て彪は捺紀を心から慕っているんだと思っていた。

 しかし、捺紀は彪に対して何も思っていなかったようだ。


「所詮はアリーシャ隊と深く関わる為の人材、それだけだ」


「は、ぁ……?んだって…?」


 肩を擦りながら冷酷に返した言葉に、目の前が真っ暗になっていく感覚に陥った。


「大河彪すら道具のように見ていたのか」


 コークですら鞭を握る手が少し震えていた。

 それは怒りから来るものなのか、残虐な心の持ち主だと知ってしまった恐怖心から来るものなのか。

 はたまた両方か。


「あぁでも、彪がタルクの姉と知り合っていたのは予想外だったが」


 捺紀は両腕を大きく広げるとコーク達の頭上から無数の光の雨を降らした。

 寸前で避けるも、それは地面に触れると爆発を起こして少し傷を負った。


「それを理由に彪がアリーシャ隊と関わっていたのも予想外だった。それからは彼もアリーシャ隊と一纏めにしていた」


「……お前」


「ちなみに君達が大河家に初めて遊びに来た時におれとも会ったが、あれは偶然ではないぞ」


 捺紀に何を喋らせても信用を失っていく発言ばかりで嫌気がさしてしまう。


「捺紀!!弟の悲しむ姿見て何とも思わねぇのかよ!!!」


「……タルク、今は何を言っても無駄だ」


「…あぁ」


 捺紀の目を覚まさせる為にも食い止めるしかない。

 改めて決心して二人は己の武器を構えた。


 ―――


(何か……何か武器になるもんは……)


 彪は重力で吹き飛ばせる武器になる物を探したが、いかんせん何も無い空間内でそんな物が見つかる訳もなく途方に暮れかけていた。


「あーきら!」


「!」


 すると響が上機嫌に彪の名前を呼んだ。

 呼んだ本人を見ると、彼はにこやかに微笑みながら豪炎で燃え上がらせた右腕を振り上げ、彪の目の前で地面を叩き割った。


「手伝うよ!」


 反動で地面が割れて宙に舞い上がった。

 響は武器を作ってくれたのだ。

 意図を理解し、彪はニヤリと笑って腕を前へと掲げた。


「サンキュー、響!」


 そして岩石と化した地面は彪の重力操作によって捺紀へと飛ばされ叩き落ちていった。


「っぐぅ……!」


 ドゴッという鈍い衝撃音がした。

 さすがにやったかと彪は息をゆっくり吐いたが、捺紀は顔面を血だらけにしても尚笑っていた。


「ふ……なかなかやるな」


 捺紀がそう呟いた直後。


「…?」


「な…?!」


 彪と響は捺紀の魔力によって身体の動きを封じられ、床に突っ伏す体勢となっていた。

 どんなに力を入れて足を踏ん張っても立つ事が出来ない。


「そういえば君達は少しでもおれを敵じゃないかと考えた事はなかったのか?」


「…なつき…兄を?」


 動けない二人が何も出来ないと分かりきっているのか、捺紀はこちらに話題を持ち掛けてきた。

 捺紀を敵だと疑った事は無かったが、気になる点はあったので響が問い尋ねる。


「……ずっと前に…僕の母さんに君は人質にされてたけど……あれは……」


 響が挙げたのは、自分の母親に人質にされていた時の事だった。

 捺紀は、あれか、と思い出した素振りをするとすぐに返答した。


「あれは琴吹未来に人質のフリをしろと事前に言われていたからあそこに居ただけだ」


「え……でも…あの時捺紀……」


 泣いてたじゃん。

 響は自分でも思った以上にか細い声でそう返した。


「演じる事など容易い」


 しかし捺紀は淡白にそう答え、響の思考を停止させてしまった。

 あの涙は嘘だったという事を突き付けられたのだ。


 彪は悔しさで地面を爪で引っ掻きながら、捺紀に尋ねた。


「じゃあよ…学祭の戦闘のメンツについて俺がお前に聞いた時、何て返したか覚えてっか?」


 どうしてピンポイントにアリーシャ隊が選ばれたのか。

 そう聞いた時捺紀は、転校して初めての学園祭だしと、楽しんで欲しいと思ったからと答えたのだ。

 そう話した捺紀の心からの笑顔がどうしても忘れられなかったのを覚えている。


「……彪に怪しまれない為に言った嘘だ」


「……っ」


 それも偽りだった。


 ―――


「疑問だと?」


 ナイチとラヴィッチの方でも同じ質問を投げ掛けていた。

 ナイチは少し考え、口を開く。


「……そういえば。俺とラヴィッチの母親が呟いていた言葉……」


 ナイチとラヴィッチの母親と戦闘をした時の事だ。

 戦っていた相手が実の母ではなくクローンだと告げられ、本人が現れたあの時。


『…ふふ……彼…に、頼んで…よかった、わね』


『そうだな……』


 瀕死状態だったから言葉が途切れ途切れになっていたと思い込んでいたが、あの時カンラは()と言っていた。

 それは捺紀の事だったんだと、本人から答えを貰わずとも確信してしまった。


「あのクローンもどきも貴様のマネキンを利用したという訳か」


「あぁ、正解だ。人間関係は全ておれが手を下した」


 頼んだ先は白花だったが、実際にクローンを作り上げたのは捺紀だったようだ。


「琴吹明日香の写真の件も、な。響には簡単に見破られてしまったが」


 なかなか自信作だったのだが、と捺紀は肩を竦めて苦笑いをした。

 未来が隠し事と評して響にばら蒔いた写真の事だ。

 GODESTの味方として動いてもらおうと言い聞かせたが、頑なに拒絶し続けた明日香を乱暴に抱いたと言い、証拠の写真を撮った話。

 結局は偽物で、腕のタトゥーまで再現出来なかった為すぐに響に偽物だと見破られたのである。


「…そうだ、もう一つ気になった事がある」


「何だ言ってみろ、答えてやるぞ」


 ナイチはもう一つ疑問点を思い出して、佇む捺紀に問い掛けた。


「タルクがホストの真似をした時、貴様も居たよな。俺は貴様が用意したマネキンに銃を命中させただろ?」


 タルクがホスト役でナイチが客人になった時、何をしたらいいか分からない二人に、捺紀はマネキンに銃を命中させてみてと提案した。


「そのマネキンの事か?」


 ナイチは首を横に振った。


「俺は…貴様の前で銃を使ったことも無いし、銃を使っていると話した覚えも無い」


「…………」


「まぁ、あの時の流れだ。気付くはずも無かったが」


 あの時の捺紀はまるでナイチが銃を扱っていると知っていたような口振りであった。

 今になって疑問に思うとは、と悔しそうに舌打ちをするがそこは気付かなかった彼の落ち度である。


 すると今まで倒れていたラヴィッチがようやく身体を起こして捺紀に問い掛ける。


「……なら…僕が白花に拉致された時……彼女の攻撃を止めたのも君なんだね」


 既に分かっていた事だったが本人から肯定の言葉を聞く為に敢えて聞いた。

 当然捺紀は頷いていた。


「おれだ。残念だったな、君の考えは正しかったのに」


「……っ!」


 聞いた事を後悔する程、自分の判断が甘かったと思い知らされ顔を俯かせた。


 ―――


 白妬とハーモニーの所でも質疑応答の時間を設けられていた。


「貴様、初めて会った時にこう言ったのを覚えているか?」


 彪の家にアリーシャ隊が初めて遊びに行った時の事だ。

 月の姫との戦闘が続き、疲労が見えていたアリーシャ隊だったが、当然そんな事を知らない捺紀は彼らに意味深に控えめに聞いてきた言葉。


『君達最近……疲れてない?』


「私が勘繰られないよう話を逸らしたが、あれはやはり深い意味を持って聞いてきたんだな」


「そのつもりで聞いていたが、まぁ疑問に思われなかったのも初対面だったからか」


 こればかりは誰も気付くことが出来ないと諦めがつく。

 次にハーモニーが捺紀に疑問点をぶつける。


「…私を体育館倉庫に監禁したあの()()()も捺紀様の仕業だったのですね~……」


「監禁?そんな事があったのか?ハーモニー」


「……隠していてすみません…」


 ドール同士の秘密、とハーモニーは誰にも監禁された事を打ち明けていなかった。

 白妬に謝るハーモニーを見下ろして捺紀は頷く。


「あれは彪からもらったフィギュアに術をかけて魂を吹き込ませ、ハーモニーに接近させた」


「どうしてそんな事を……」


「おれが敵だとヒントをあげようと思ったからだ」


「…気付くはずないです……白花様の仕業だと思い込んでましたから……」


 そうハーモニーは否定するが、捺紀が敵だと気が付くポイントはそこにあったと理解している。

 その時の話をアリーシャ隊に話していれば、彪にも教えていれば。

 ドールの容姿から彪が捺紀にあげたフィギュアだと気付かせる事が出来たかもしれない。

 自分できっかけを消してしまったのだ。

 ハーモニーは自責の念で、目を伏せた。


「……では先週、白花の塔に足を踏み入れてしまったのはわざとだったんだな?」


 ハーモニーを気遣い、白妬が前に出て捺紀に問い掛けた。

 そんな彼女の質問に、捺紀は高めのトーンで笑い出した。


「っははは!言ったじゃないかあの時!おれが好奇心に負けて来なければ…と。どんな戦を繰り広げているかつい見に行ってしまったんだ。まさか白花の目まで潰すとは思っていなかったが」


 捺紀は自分の目を指さして面白そうに笑った。

 あの時の言葉も深い意味で言っていたんだと白妬は表情を曇らせた。


「…貴様……」


 全てに伏線がありすぎて回収出来なかった自分達を心中で憎んだ。


 ―――


「ひとつ問おう。超特待生との戦闘後、学校の裏玄関辺りで隠れて私らを傍観していたのはお前だな?」


 コークは捺紀に疑問をぶつけた。

 あの時、コーク以外は気が付かなかったがアリーシャ隊を隠れながら見る一つの影があったのだ。

 それが捺紀だったのかと問うと、当の本人はその通りだと頷いていた。


「…誰かがいる気配はしていたが気に留めなかった。やはりお前だったか」


「お前、んなことまで気付いてたのかよ」


 腕を組みながら捺紀を一瞥するコークに、タルクがすげぇなと褒める。


「タルク、君にもおれが怪しい人物だと気が付くポイントがあったんだが分からなかったか?」


「あ?」


 不機嫌そうに返すタルクに捺紀は両手を広げて、思い出してほしいと話す。


「君達と初めて会ったあの日。おれは一人一人の名前を呼んだが、あの時一つだけ失態を犯した」


「……?」


 捺紀に言われるがまま、タルクもその時の出来事を必死に思い出そうとするがピンと来なかった。


「初対面の女性には必ずちゃん付けをする主義のおれが……君を呼び捨てで呼んでしまった」


「………………え、それ真面目に言ってんのか?」


 もっと重要な事かと思っていたが、正直どうでもいいミスを打ち明けられ唖然としてしまった。

 だがよく思い出せば白妬やハーモニーの時は確かにちゃん付けだったかもしれない。

 捺紀はタルクからコークへ目線を移した。


「あとこの間、サランに君は母さんかと聞いたのを覚えているか?」


「……それも、か」


 馴れ馴れしく我がリーダーを呼び捨てにされコークは不服そうに眉をひそめた。

 捺紀にとってサランは初対面だったと思っていたが全くの見当違いだったようだ。

 コークとサランが二人で出掛けたあの日。

 出店で偶然捺紀と出くわしたがそれも仕組まれていたという訳だ。


「おれはアリーシャ隊のリーダー(母さん)かと敢えてストレートに聞いたのだが、奴はまんまと勘違いしてくれてな。あの場で気付けば奴の末路も変わっていたかもしれないのに…馬鹿な女だ」


「……」


 最愛の人物を卑下されコークの表情がどんどん歪んでいく。

 追い討ちをかけるように捺紀はベラベラと別の人物の話題を持ち掛けてきた。


「あぁそれとずっと前に白花が自分の足元の花弁を壊されたと怒りながら帰ってきたんだが……誰に……壊されたんだったか……確か……」


 大袈裟に考える素振りをすると、コークを睨み見て愉快に笑みを浮かべた。


「学祭のファッションショーで優勝した……殿堂梨杏か」


「お前………!」


 梨杏とも関わりを持っていたコークにとって、物凄く侮辱されたような心情にさせ声を震わせた。


 ―――


「彪がこの間買ってくれたフィギュアも有効活用させてもらった」


 倒れる彪に捺紀が冷たく言い放つ。

 学校の試験が終わった後、捺紀との下校時に彪が彼に買ってあげた小さい人型のフィギュアの事だ。


「畜生……そう、だよな……」


 悔しい事にその時に捺紀が言っていた言葉を、今になって思い出し愕然とする。


『おれ、人形とかドールとか大好きなんだよね。見るのも動かすのも』


 あの時点で疑問に思えば、フィギュアを買わなければ、色々と自分の行動に苛立ちを覚えてしまうが覆水盆に返らずである。

 だからこそ必ず彼を止める、と意志が強くなった。


「許さねぇよ…なつき兄…!!!」


 するとアリーシャ隊と彪全員の意志が増強し、爆発を起こして目の前を真っ白にさせた。


評価よろしくお願いいたします!

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