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12月28日

 

 帰ってきた自宅のリビングにて。

 非常に重苦しい空気が漂っていたが当然の事である。

 アリーシャ隊リーダー、サランが死んだ。


「まさか……サラン様が」


 ラヴィッチが身体を丸めるように椅子に座って掠れた声で呟く。

 彼女が死んだという事は、白花の予言通りになってしまったという訳だ。

 もしかしたら白花はサランが来るのも想定して、最初から彼女を殺す気で居たのだろうか。

 疑問に思っても答えを導く事が出来ない。


「俺達の為に死んで行った…」


「…梨杏ちゃん、みたい」


 ナイチの言葉に響が梨杏の名前を挙げた。

 白妬が机に顔を伏せていたコークを見て励ましの言葉を掛けようとしたが、敢えて現実を受け入れさせようと別の言葉を投げ掛けた。

 何とか彼に立ち直ってもらわなければ話が進まないのである。

 あのように取り乱すコークを見たのは初めてで白妬達も動揺はしていたが。


「……コーク、辛いのは分かるが貴様も理解しているだろう」


 コークは少しの間の後、顔を上げて白妬の言葉に頷いた。


「…………あぁ、分かっている。サラン様の為にも黒幕を殺してやる。絶対に…!」


 語尾の語気を強めて握り拳をテーブルに叩きつけながらそう言い放つ。

 その音にハーモニーが驚き怯えるも、話を逸らすように口を開いた。


「そ、それにしても…黒幕とは誰なのでしょうか…」


「…確かに。今まで姿すら現してねぇよ」


 ハーモニーの疑問にタルクが頬杖を付きながら考える。

 しかし誰なのか人物を特定する事が出来なかった。


「そんな奴を倒して何が願い事だ。サラン様や殿堂梨杏が殺されて、他人の記憶をも改竄して…私達をおちょくって何をしたいんだ、くだらん」


 苛立ちを抑えきれないコークが舌打ちを混ぜながらひたすらに文句を言い続ける。


「…と、とりあえず来週の土曜日になるのを待つしかねぇみたいだな」


 彪がそう言うとコークは荒々しく席を立ちリビングを出ようと歩いて行く。


「兄貴…どこ行くんだ?」


「休む」


「コーク様、夕飯は…」


「必要ない」


 簡潔に一言だけで返すとさっさと階段を上がって部屋へと戻ってしまった。

 取り残されたリビング内は沈黙に包まれていた。

 今思えば時刻は夜七時を過ぎた所で、まだ一日が終わっていない事に驚いてしまう。

 長い戦闘の後なのだから腹も減っているはずだ。

 ハーモニーが各々に夕飯はどうするか聞くと全員が首を横に振った。


「仕方ない…今日はもう各自休もう」


「そうだね……」


 頭を整理させる為にも今日はもう休むべきだと白妬が一同に声を掛け、お開きにした。

 こういう事態なので彪も今日はアリーシャ隊の家に泊めてもらう事にした。


 ―――


 翌日。


「おはーー!」


 リビングに入り、タルクが元気よく挨拶をする。

 すると既にコーク以外の皆が揃っていて挨拶を返した。


「タルクおはよー」


「お、みんな昨日よりは気分晴れたようだな」


 全員の顔を見ると昨晩よりは顔色が良さそうに伺えた。

 一つだけ空席の席を眺めてラヴィッチが息を吐いた。


「…後はコークだけだね」


「ずっと前の響みたいに、ふらっと出てきてくれたらいいんだがな」


 明日香が殺された時の翌日、響は何とか吹っ切れてリビングに来てくれたのだ。

 響と違って感情豊かな訳では無いから、気持ちを受け入れるのに時間がかかり、今回ばかりはすぐに吹っ切れるのは難しいと考える。


「ま、仕方ねぇよ。珍しいじゃねぇか、コークがオレ達に分かるくらい苛立ってんのも」


 タルクがそう言って席に座ると同時にリビングの扉が開いた。

 そこには腕を組みながらコークが立っていた。


「…おはよう」


「こ、コーク…」


 素直に挨拶をするコークも珍しすぎて驚愕してしまうが、彼の表情はいつも通りというかいつもより明るいように見えた。


「私はもう平気だ。昨日はすまなかったな」


「大丈夫なのか?兄貴…」


「あぁ。こうなってしまった以上は前に進むしかないだろう」


 彪が恐る恐る聞くとコークは口角を少し上げてそう話す。

 どうやら無事に吹っ切れてくれたようで一同が良かったと安堵した。


「では、まずは朝ごはんにしますね~!」


「はーい!」


 昨日は誰も夕飯を食べていないのでハーモニーが手を叩いてそう言うと、張り切って朝食作りへ専念しに行った。


 ―――


 一月三日。

 年を越して世の中が穏やかに年始を過ごしている中、アリーシャ隊の家では翌日の決戦に備えた夜を過ごしていた。


「ついに明日か、土曜日」


「そうですね~、本当に早いです~」


 タルクの部屋にはハーモニーが居た。

 いよいよ決戦は明日かと意気込むがここの二人は意外にも焦燥した様子もなく心穏やかでいるようだ。


「最初は月の姫が敵でさ、キャリアがラスボスかと思ったのに本当の敵はオレ達の母さんだったんだもんなー」


 タルクは今までの出来事を思い出し、眉を下げて笑いながらそう話した。

 よくここまで来れたものだと我ながら自画自賛してしまう。


「てかそれよりも……ハーモニーが戦えるようになったのも驚きだったぜ」


「私も…皆様の力になりたいと強く願っていましたから…治癒術以外にも力が授けられたんでしょうね~。嬉しいです~」


 常に皆の後ろに引っ込んで怪我をした仲間の治療に当たっていたハーモニーが、身体から矢を放って戦闘するようになった事は驚いてしまう。

 是非とも真奈に教えてあげたいものだ。


「……怖いか?力を得て戦えるようになっても気持ちがついていかない時あるんじゃねぇの?」


「……正直、全く焦る気持ち等はないんです~」


 タルクの問い掛けに少し間を広げたハーモニーはベッドに座りながら手を上品に膝に置いて己の気持ちを打ち明ける。


「皆様が一緒にいて下さるから…なんでしょうね~。パーラ様ソーラ様、明日香様、真奈様も……不思議な事に私達を強くする為に手助けしてくれましたし~。だから怖い事なんてありません~」


「……そっか」


 タルクは、仲間がいるから怖くないと話すハーモニーを充分大人だと率直に思った。

 照れ臭そうに微笑むハーモニーの頭をわしゃわしゃと撫でて明日は全力で挑もうぜと決心し合った。


 ―――


 ナイチとラヴィッチはベッドに座りながら明日の決戦の事を考えていた。


「俺達の戦いもいよいよ明日で最後だな」


「……そうだね」


 脚を組みながら銃を細部までしっかりと磨くナイチを、ラヴィッチは横目で見ながら名前を呼んだ。


「ナイチってさ…」


「何だ」


「絶対敵の前で「怖いぞラヴィッチぃいい!!」とか言いそうだよね」


「はぁ!?いつから俺はそんなキャラクターになったんだよ!」


 いつもの癖でへらへらと笑いながらナイチをおちょくる。

 馬鹿にされた本人は意地を張ってラヴィッチに言い返した。


「ラヴィッチこそ「怖いよぉおナイチぃいい!」とか言うんじゃないだろうな?」


「……怖いよナイチ」


「ええ!?」


 言わなそうな台詞をそのまんま返されてナイチはつい驚きの声を上げてしまった。

 しかしラヴィッチは先程のような緊張感のないにへらっとした表情ではなく暗いものだったので冗談で言った訳ではなさそうだとナイチは口を噤む。


「次が本当に最後の敵なんだ。弱い訳がないし、どんな技を使うのかも分かんないし誰なのかすら分からないのに……怖くない訳ないじゃないか……」


「……ラヴィッチ」


 確かに彼の言う通りだ。

 白花が最後の敵だと思い込んでいて実はまだ一人居たなんて予想もしていなかった。

 そしてその黒幕は一度も自分達に姿を見せていない。

 人物の特定が出来ないのだからぶっつけ本番のようなものなのだ。

 ナイチは不安そうに下を向くラヴィッチに、拳を掲げた。


「絶対死ぬなよ」


「…わかってるさ」


 言葉足らずだが激励してくれているナイチに笑いかけると彼も拳を掲げて交わし合い、勝利を誓った。


 ―――


 白妬とコークも部屋内で決戦の話をしていた。


「次こそは誰が死んでもおかしくないだろうな」


「あぁ、だが誰一人として死ぬ訳にはいかない」


「コーク、随分仲間を信頼しているようだな。余裕かましてるとはいえ油断はするな」


「言われなくても承知している」


 そんな二人の事を響は見合わせながら退屈そうに間に入ってきた。


「ねぇねぇー!そんなに堅苦しかったら逆に疲れちゃうよ~!」


 響は床に体育座りしながらベッドに座るコークと白妬を見上げている。

 そんな彼を白妬が能天気だなとため息をついた。


「…だが、そんな琴吹響の態度に何度私達は救われたか。改めて礼を言うぞ」


「え…どういたしまして」


 響のような場を和ませてくれる人物がいるから自分達も暗くならずに済んでいるとコークは柄にもなく感謝を述べた。

 それが予想外すぎてさすがの響も挙動不審になりながらどういたしましてと返す。


「では心機一転、貴様も性格を変えてみたらどうだ?」


「へ?」


 白妬がそう提案すると、コークも乗ってきてツリ目にして口調を変えてみろと響に発案してくる。


(あ!タルクと入れ替わった時みたいにすれば…)


 響は以前学校内でタルクとぶつかり、魂が入れ替わってしまった時の事を思い出した。

 あの時もタルクを演じて口調を変えたのだ。


「っへ!!余計なお世話だっつーの!!ブァアアアカ!!!!!」


「…………悪化したな」


「却下だ却下」


 キャラクターを履き違えてしまったので響に今すぐ止めろと制止した。


 ―――


 各々が雑談を終えてリビングに集まる。

 するとタイミングを見計らってからかとある人物が姿を現した。


「貴様…」


「キャリアさん!」


 キャリアは虹色の透き通る髪を靡かせ、漆黒のドレスを上品に捲り会釈をした。

 しかしいつものほんわかした表情はまるでなく、気まずそうに目線を下に向けていた。

 彼女も月の世界の女王なのだから忙しいだろう。

 それなのにわざわざここに来るとは理由があるに違いない。


「どうしたの…?」


「…サランに頼まれていたの」


「サラン様がですか~……?」


 キャリアはようやく目線を彼らに向けるとゆっくり口を開いた。


「“私が死んでから、アリーシャ隊に伝えて欲しい事がある”って」


「…その言い方……死ぬって決めていたみたい……」


 より一層サランが戦死した事を痛感してしまう。

 コークが眉を顰めたが、続けろとキャリアに促す。


「…白花と貴方達が戦った前日に……実はサランの元に白花が現れたの。その時に言われた事を私が代わりに言うわ……」


 白花がサランに何を話したのか、一同がキャリアの言葉に耳を傾けている。

 キャリアは唾を飲み、握った拳を震わせながら恐る恐るこう話した。


「……次の…最後の黒幕は…………大河捺紀よ」


「…う、そだ、ろ…」


 タルクが目を開いて真っ青になりながら非常に驚いた顔をした。

 仲間間で何故捺紀がその立場にいるのかざわめき出す。


「どうして彼が敵側なのかは分からないけど…白花が言ってきたのだから事実よ」


「そ、んな…」


 ただでさえサランの死に精神が崩壊しかけているというのに、黒幕が捺紀だと聞かされ更に頭が混乱していく。


「…ちょ、っと待って…キャリアさん」


 響がキャリアに手を挙げて一番の不安の種を問い掛けた。


「……それ…彪は…」


「…………」


 知っているのか聞くとキャリアは目を伏せてただ首を横に振った。

 彪は何も知らない。

 アリーシャ隊ですら捺紀と戦闘をする事を躊躇われるというのに彼は戦えるのだろうか。


「……や、っぱり…捺紀だったんだ」


「…ラヴィッチどうした」


 暗い顔で口元に手を当てて考える素振りをするラヴィッチにナイチが声を掛ける。


「実は僕……少し前に白花に拉致された事があったんだ」


「な…何故黙っていた?!」


「白花に…口止めされていたんだ!もし仲間に話したら殺すって脅されて…」


 そこでラヴィッチは白花に拉致された当時の話を一同に話した。

 たまたま外に出た所、突然襲われ意識を失い白花の塔に拉致された事。

 思えば気配もなく襲われてしまったのも彼女が足元の花弁で浮遊していたからだと解明した。

 そして白花に攻撃されかけたが彼女の背後から現れた謎の人物に、寸前で止められ助けられたのだ。


「その人が白花にやめろって言ったら…すぐに引いてくれたんだ。だから彼は白花よりも上の立場なんだって思ったけどそこでまた気を失って…」


 恐れないで仲間に話せば良かったとラヴィッチは自責の念にかられた。


「次に起きた時は……捺紀に背負われていた。…僕が道で倒れていたのを発見したって言っていたけど……」


 あれは偶然ではなく塔から捺紀が意図的に送り届けてくれたんだと今更気付いて下唇を噛んだ。


「ごめん……僕がもっと気にしていたら…」


「だがお前が捺紀を疑わなくなるのも無理はない。その数日後に大河捺紀は琴吹未来戦で人質のフリをしたのだからな」


 コークがラヴィッチを庇うようにそう話す。

 確かにそうだ。

 ラヴィッチはその一件があってから捺紀を怪しんでいたのだが琴吹未来との戦闘の時に彼が人質にされて完全に白だと思い込んでしまったのだ。


「それもアイツが黒じゃねぇと思わせる為の策だったっつーわけか」


 思い返せば色々と捺紀に関して疑わしいエピソードが出てくるが掘り返した所で事態は変わらない。


「それと……もう一つ。願い事についてだったんだけど…」


 キャリアは更に重苦しく言いづらそうに口を開いた。


「――――――――――――――」


 その内容があまりにも衝撃的で、一同は声を失ってしまった。


「……とにかく…申し訳ないが彪には言わないでおいた方がいい」


 白妬の少し震えを堪えた声にコークが賛同した。


「あぁ、大河捺紀本人が目の前に来ないと分からない事も多い。動揺するのは仕方ないが平静を保ち、最善を尽くすぞ。出来るかお前達」


 彼の言葉に一同は頷き合った。

 表情は固かったが、何とか自分に言い聞かせて割り切っていくしかないと理解したようだ。


 各々が部屋に戻っていき、最後に残ったコークにキャリアが背後から声を掛けた。


「良い仲間を持ったのね」


「……その口調、サラン様を思い出すからやめろ」


 振り返ったコークは表情こそは無であったが不愉快極まりないという感情が言葉に滲み出ていた。


「本当はこの口調なのよ~?」


「いいから偽ってろ。大河捺紀みたいにな」


 気を遣って普段の独特な口調に戻すが、黒幕の名を挙げられ心外なのよ~と腑抜けた声で反発した。


「……必ず奴ごと連れ帰る。誰も死なせない」


「…任せたわ」


 リビングを出て部屋に戻るコークに、キャリアは静かに微笑んで見送った。

 サランの為にも自分が事の成り行きを見届けようと決心したのだ。

 キャリアはサランが死ぬ事を止めなかった。

 もちろん心中では望んでいなかったし、どうして貴女が死ぬ必要があるのかと責めたかった。

 しかしサランは、自分の詰めの甘さのせいでGODESTを敵として迎え入れてしまった事を物凄く後悔していた。

 その姿を目の前で見てきたし、白花を殺す為に全ての力を込めた術の鍛錬を毎日必死に行っていたのも知っているから何も言えなかったのだ。

 それがアリーシャ隊リーダーとしての責任の取り方だと思って。


「…サラン……どうして私を置いていくのよ……」


 月の姫の女王としてこの先どうすればいいか、旧友を失った重みは計り知れなかった。


 ―――


「なつき兄、俺明日ちょっと留守にするわ」


「どっか行くの?」


「ちっとボスを倒してくんだ、だから夜飯当番はおめぇに任せた。美味い飯作って待っててくれよな」


「……」


「じゃ、明日に備えて俺は寝るからよ!ゲームやりに部屋来んなよ?」


 そう言って彪は捺紀の部屋から出て行った。

 捺紀は瞳を開眼させながらその後ろ姿を黙って見ていた。


「そうか…アリーシャ隊は彪に話していない状態で来るようだな」


 可哀想に。

 そう呟く捺紀の瞳には感情が一切見て取れなかった。



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