12月24日
戦闘訓練の為、アリーシャ隊と彪がいつもの草原で鍛錬を行っていると目の前にサランとキャリアが現れた。
「熱心に鍛錬して偉いわね」
「……サラン様!」
クリスマスイブに軽く汗をかいて戦闘をしていた彼らは二人に気付くと手を止めて会釈した。
最後の敵が白花だけだが手を抜けず、更に力を手に入れたいと思っている一同からタルクが代表してサランに問いかけた。
「オレ達、もっと強い力が欲しいんですけど……どうしたら手に入りますか?」
「私達はもう……誰も失いたくありません。殿堂梨杏が安心して眠る為にも絶対に負けられないんです」
コークも真剣な眼差しでサランを見つめた。
先日あった白花との一戦の出来事は、サランの耳にも既に入っていた。
コークとサランが二人で会った時に彼が話していたのだ。
「……」
「だったらいいものがあるなのよ~」
サランの代わりにキャリアが彼らの前に出てにこやかに笑う。
いいもの、といって指をさした先には禍々しい亜空間のようなものが浮かび上がり、アリーシャ隊と彪を招いた。
「この空間に入ればわかるなのよ~」
「暗っ!!ていうか黒い!!」
「よく分かんないけど……行くしかないね」
この先で何が待ち受けているのか想像がつかないが、力を得る為覚悟を決めて中に足を踏み入れた。
全員がその空間に入って行った所でキャリアはサランを見て微笑んだ。
「私が出来ることはこれくらい。強くなる為の試練を与えて乗り越えさせるお手伝いだけよ」
「キャリア……ありがとう……っ」
「もう、最近のサランは泣き虫ね」
キャリアの口調がマトモになる時は真剣な時だ。
サランは俯いて涙声になり、キャリアに礼を伝えた。
―――
「……ここ……路地裏……だよね」
どうやら各々がどこかに転移させられたようだ。
ラヴィッチが飛ばされた場所は見覚えのある路地裏だった。
忘れるはずがない。
ここはラヴィッチが敵側だった時、レイを瀕死状態にさせてライムや緑と戦闘をした場所。
倭と初めて会った場所。
「……!」
背後で足音がして即座に振り返る。
そこに居たのは倭だった。
「ラヴィッチ君」
「やま……?!」
―――
「ここは……昔のアリーシャ隊の家……」
ハーモニーがいる場所は昔のアリーシャ隊の館だった。
広い大広間に一人で、心細い気持ちになってしまう。
「ハーモニー」
「…………ぇ」
馴染みある声にハーモニーはつい視界が歪んだ。
「……貴女は……」
その声の主は真奈だったからだ。
―――
「くそ……どうしてラヴィッチ達が居なくなっているんだ」
ナイチがいる場所は何処かの草原。
うんざりした表情だが仲間が消えた不安でますます眉間に皺が寄る。
彼の前に二人の人物が歩み寄ってきた。
「……クルー姉妹……だと?」
居るはずのない人物に思考回路が止まってしまう。
二人はお久しぶりですとナイチに会釈した。
―――
「僕とあすの思い出の通学路……」
響の場所は中学生の時に妹の明日香と歩いていた通学路だった。
雨が降っている。
よく明日香とは雨でも傘を刺さずに濡れて帰った事もあった。
「兄さん」
「……あす……!」
「やっぱり兄さんの大切な人は私なのね」
意味深な事を呟いた明日香がそこに居た。
―――
「っ、なんだよこれ……!!」
タルクは今いる場所を完全に把握していたが何故ここに飛ばされたのかが分からず苛立ちを表す。
ふわふわした妙に暖かい空間。
「シルク姉ちゃんの……世界」
ノエルと戦闘した後に突然飛ばされ、シルクと会話をしたあの空間だった。
案の定目の前にはシルクがいてふわふわ浮かんでいた。
―――
コークは意図を理解して頷いた。
「……なるほど。自分の大切な人、守りたかった人に勝つ事で己の精神力と共に強くなれる、そういう事ですね?サラン様」
「ふふ、その通りよ」
昔のアリーシャ隊のサランの部屋にて。
コークが真っ直ぐにサランを見ると、彼女はさすがお見通しねとニヤリと笑った。
―――
白妬は見覚えのある草原で姉の倭と向かい合っていた。
「……私と……戦え、だと?」
「うん♪」
「そんな笑顔で言うなよ」
倭はニコニコと微笑みながら頷いていた。
彼女の髪型だが、いつもの寝癖は無く白妬と戦った時の頃の彼女を思い出された。
服装もあの時のものだった。
「そうすれば白妬はまた一段と強くなれちゃうんだよ!」
「……そういう策か」
―――
彪は目の前の兄の姿にギリっと歯を食いしばり睨み付けた。
「なつき兄……」
「彪の大切な人っておれだったの?」
捺紀はとぼけた顔をして片膝をつく彪を見下ろしていた。
彼がそう疑問に思うのも当然である。
傍から見ても彪は捺紀を毛嫌いしているように思えたからだ。
彪はゆっくり立ち上がると地面を力強く蹴って捺紀へ拳を掲げた。
「……大切な兄であって……越えたい奴でもあんだよ……ッ!!!!!」
―――
「ラヴィッチ君!行くよ!!」
「っぅわ!!!」
倭はラヴィッチに声を掛けると、手持ちの包丁を思いきり振り、真っ直ぐに飛び込んで来た。
それをラヴィッチは寸前で避けるがすぐに倭は振り返りながら包丁を振り回しながら近付いて来る。
倭が本人ではなくこの空間内の為だけに作られた人物だということは理解しているが、攻撃するのを躊躇われラヴィッチはひたすらに回避に徹する。
そして強さの設定が明らかに本人を越えているので対応に困ってしまう。
キャリアは何者なんだと驚きラヴィッチは苦笑いしながら大きく跳躍すると倭と距離を取った。
「僕はね……女の子には手を出したくないんだ」
GODESTと戦っておきながら何を言っているんだと我ながら下手くそな戦闘の拒絶の仕方だと心の中で失笑した。
「あと……初期の呼び方は慣れないから普通に在原ちゃんって呼んで欲しいんだけど」
「……女の子には、とか言いながらあの時はレイちゃんを遠慮なく殺しかけてたのに」
「……!」
睨み付けるようにこちらを見る倭の言葉に、痛い所をとラヴィッチはにへらっと笑う。
そして己の武器の剣を念じて取り出した。
「君には攻撃は絶対にしない。僕は君を守るとあの時言ったからね」
だが倭は構わずにラヴィッチに向かって走り、包丁を彼の心臓目掛けて突き刺そうと腕を上げた。
「来なよ、やま」
剣と包丁が弾かれる金属音がその場に響いた。
―――
「さぁ、ハーモニー。あたしを殺してみなよ」
「い……嫌です~……!私にはそんな事出来ません~……!」
真奈はハーモニーを挑発するように自分を指差す。
偽物だと分かっているがせっかく面と向かって会う事が出来たのにどうして戦わなければならないのかとハーモニーは葛藤して逃げ腰になっていた。
「相変わらず貧弱ね、腕とか色んなとこから出る奴で一突きすれば終わるのよ?」
さっさとそれを出して殺しなさいよと真奈が催促してくるがハーモニーは断固として嫌だと首を横に振った。
「……殺らないなら」
「っきゃ……!」
真奈は諦めたようにため息をつくと、ハーモニーの手首を掴んで壁に押し付けるともう片方の手でナイフを握り彼女の首にそっと当てた。
「あたしがアンタを殺る」
その声には躊躇いなど一切含まれていなく、低いトーンで囁かれハーモニーは目を閉じた。
―――
琴吹兄妹間でも戦う戦わないの攻防戦が行われていた。
先程の真奈と同じように、響も明日香に自分を殺せと言われたのだ。
「兄さん。私と貴方、どちらが強いか殺り合うってシチュエーションはどうかしら?それなら戦えるでしょう?」
両手を広げてそう提案する明日香に、響はただ一言、やだとだけ返す。
「そんなの大事な妹に出来ないよ。……というか、しないから」
そう言って微笑む彼は頼りがいのある立派な兄の表情だった。
明日香は少し頬を染めて愛する兄を見つめていたが、すぐに我に返り表情を険しくさせる。
「……何もかも取っぱらって兄さんに抱き着きに行きたいけど……やむを得ないわ……!!!」
投げやりにそう言うと地面を蹴り、高く真上に飛んだ。
片腕を下に向けると爆弾のような波動が響に向かって放たれ、爆風と黒煙を起こした。
―――
「行くよイッチー!!」
「おいそのあだ名は生前呼ばれた事等無かったぞ……!?」
ソーラに謎のあだ名で呼ばれたナイチは即座に突っ込みを入れる。
そんなやり取りをする二人をパーラがクスクス笑って見ていた。
「でも……意外です。ナイチさんは私達ではなくラヴィッチさんを考えていたと思ってました」
クルー姉妹が現れた理由はナイチも把握している。
パーラはナイチの大切な人は自分達ではなくラヴィッチだと思い込んでいた。
「ばーん!」
「……っ!?」
言い返そうとしたがソーラが突拍子もなく魔術を発動させてナイチに強大な魔弾を突き落として来たので咄嗟に避ける。
しかし爆風のせいで地面から石やガラス等が飛び散り軽く傷を負ってしまった。
地に足を着いて顔面の汚れを拭いながらクルー姉妹を見上げた。
「……奴は確かに大切な戦友だ。だが貴様らを忘れた訳では無い」
「んじゃ、遊ぼうよ!」
軽やかなステップでナイチに近付いたソーラが楽しそうに誘う。
緊張感の無さすぎる声音にナイチは苛立ち声を荒らげた。
「これは遊びでは無い!!!」
「あたしが言う遊びっていうのがどういう意味なのか、イッチーは分かってるよね?」
幼いながらも言葉には何故か重みを感じていた。
「……ならばクルー姉妹、構えろ」
ナイチは意味を理解したようで、そうかと呟くと突然クラウチングスタートの体勢を取った。
「え?」
「まずは短距離走で勝負だ」
「な、ナイチさん……?!」
予想外の発想にさすがのクルー姉妹も唖然としていた。
だがナイチは二人に真剣な表情で早くしろと促す。
完全な勘違いに思えたがソーラの遊びというのを、戦闘という意味合いではなく敢えて子どもの遊びの意味だと捉えたフリをしたのだ。
「ほら、ソーラ、パーラ走れ!俺を越してみろ」
「わ、わかりました!」
「んもおおおお!まっけなーーーい!!」
まんまと引っかかってくれた二人にニヤリと笑ってナイチは子どもの遊びに付き合った。
―――
「強くなりたいなら私を殺してよ、タルク」
普段の穏やかな雰囲気は全く見られず、シルクはタルクを見つめて単調に言葉を放った。
「……だから……何で、んな事しなきゃなんねーんだよ……!!!」
しかしタルクは受け入れきれずに首を横に振り続けていた。
刀こそは片手に握られているが大事な姉に振るうなど絶対に出来ないと主張していた。
するとシルクはタルクに近付くと、彼の頬に手を添えた。
といっても俯くタルクの顔を上に向かせる為に触れられただけなのだが。
「タルク、お姉ちゃんの言う事が聞けないの?」
「ひ……っ……!」
叱るようにキツい口調で言われてしまい、タルクが怯んだ声を上げた。
どうしたらいいのか訳が分からなくなり、混乱して刀を強く握ると思いきり振りかざした。
「うああぁああぁぁあ……ッ!!!!」
悲痛な叫び声と共に。
―――
彪と捺紀はあれから拳のぶつけ合いが繰り広げられていた。
しかし両者共に大きなダメージを与えられる事が出来ず、体力だけが減らされていく。
「隙あり」
「っ、が、ふ……ッ!?」
動きが鈍くなった所で先に仕掛けてきたのは捺紀だった。
彼は彪が少しよろけた隙を狙って彼の鳩尾に拳を叩き込んだ。
彪は胃酸が上がってくるような感覚に顔を歪め、その場に倒れた。
その姿を捺紀が冷酷な瞳で見下ろして背を向けた。
「やっぱり彪はまだまだだよ。おれを越えられない」
悔しくて殴り返したいがまだ呼吸が整わない。
そんな彪を煽るように捺紀は話し続ける。
「そんなもんだったんだね、彪って。まだガキなんだから下がってればいいんだよ」
「……ぃ、ま……なん、つった……」
聞き捨てならないワードに彪は苦し紛れに声を出した。
―――
アリーシャ隊の館内。
サランの部屋は魔弾によって荒れ果てていた。
全てサランの術によって崩壊されたのだが、コークは彼女の術を全て避け切っていた為無傷だ。
岩壁が飛び交う中、サランはコークに声を掛けた。
「コーク!さっきからどうして避けるだけなの?」
その問い掛けにコークはズボンのポケットに手を入れたまま大きく飛んで避けながら答える。
「私には貴女に傷を付ける権利はありませんから」
コークの返しに、真面目ねと苦笑いすると何かを閃いて表情を明るくした。
「じゃあ……はい♪今から身分とか権利とかなーんにも関係なくなったわ!ジャンジャン殺って良いわよ♪」
コークが何もしてこないのはリーダーと従者という関係性のせいだと思い、権限を使ってまっさらにしてみたのだ。
だがコークは一度ため息をつくと、サランを見て鼻で笑った。
「……馬鹿ですね、サラン様」
コークは理解したのだ。
この状況を切り抜ける方法を。
―――
「見てー!タルクちゃんの刀!」
白妬の目の前でタルクの刀を握って嬉しそうに笑う倭。
その姿は、白妬と戦闘をしたあの時を思い出される。
何となく倭はタルクの刀を武器とするだろうと白妬は想定していたようだが。
しかし刀を見せても動じない白妬に、倭は首を傾げた。
「……いいの?白妬。斬っちゃうよ?」
「やれるもんなら好きにやればいいさ」
白妬は倭の攻撃を両手を使わずに全て避けられる自信があった。
倭は白妬の好きにしろという言葉を聞いて、刀を構え走る。
そんな姉を見て白妬は目を閉じる。
「だがそれは……姉としての教育ではないよな?」
―――
カタン、と包丁が地面に放られる音が鳴った。
その前で倭が肩で息をしながら横たわっている。
「……体力が……尽きたようだね……やま」
ラヴィッチも乱れた呼吸をゆっくりと整えながら剣をしまう。
あれから倭の一方的な包丁さばきを剣でガードし続けていたがついに彼女の体力が限界に達し終戦を迎えた。
ちなみにラヴィッチは彼女に攻撃はしていない。
ラヴィッチは倭に近付き、その場に座ると汗をかいて虚ろな彼女の頬を優しく撫でた。
「……気付いたんだ。大事な事は……君を倒す事ではないって」
―――
ナイチとの短距離走に負けたクルー姉妹は地面にへたり込みながら悔しそうにしていた。
さすがに十代後半の男と十歳の女の子では勝ち目などやらなくても分かることだろう。
「うわーーん!負けた~!」
「…惜しかったね……!」
何度もリテイクされて走り続けていたが彼女らも体力が尽きて諦めたようだ。
しかしソーラがハッと我に返って本来の目的を思い出す。
「って、そうじゃなくて……――っ!?」
ナイチはクルー姉妹をそっと抱き締めた。
「大切な人を殺すとか……そうじゃないんだよな。全く……初めからそう言ってくれよ、パーラ、ソーラ」
「……ナイチ、さん」
抱き締められながら二人は静かに涙を流した。
―――
明日香が走りながら響にナイフを振りかざした。
すると響は彼女に向かって同じように走ると呆気なくナイフを奪う。
「……っ!!」
思わず刺されると思い、咄嗟に目を閉じるが痛覚がやって来ない代わりにナイフが放り投げられ落ちる音だけが響いた。
明日香はナイフを取りに行こうと身体を捩らせるが、響に肩を引き寄せられ抱き締められてしまった。
「あすを殺して、それで強い力が手に入るのなら……僕は殺さないよ」
「兄……さん……」
二人でいた頃は頼りない兄だったが、こんなに逞しく自分の意思を持ってくれた事に感動し、明日香は響の肩に手を添えて瞳を閉じた。
―――
「ほら、コーク!まだまだ行くわよ!」
さすがリーダーなだけあって持久力が高い。
サランがステッキを振るえば魔弾が降り注ぐ。
彼女は軽い汗をかいているだけでまだまだ力を使えそうな体力は充分に残っている。
コークは先程から避け続けているがそれもいつまで出来るか時間の問題かもしれない。
「仕方ないわね……大きいやつやっちゃおうかしら……!」
サランはステッキをコークに向けて突き出すように持つと先端が輝いて大きな光の弾を生み出した。
あれが放たれてしまうともしかしたらコークは疎かサランも被害を被る可能性があるかもしれない。
「ふふ……これならどう……?」
光弾が放たれる寸前。
コークは刹那の動きでサランに接近するとステッキを掴み、グイッと引いた。
「え」
サランの気の抜けた声が出たが、そのお陰でステッキから出た光弾は消滅していった。
そして引かれた反動でサランはバランスを崩しコークに倒れ込むように飛び込んだ。
「……はぁ。危うく騙されるところでしたよ、サラン様」
すぐに立たせる為に肩を押してサランから離れる。
恋人同士だった頃の彼らなら、そのまま倒れ込んでイチャつくのだろうが今の二人は…もう違う。
サランに踵を返すように背を向けるコークは普段と変わらぬ無表情だった。
態度が変わったコークに、サランは何処か安堵しているようだった。
―――
真奈にナイフを突きつけられていたハーモニーは声を震わせて呟いた。
「……ちゃんと、私…気付くことが……出来ました。この空間を切り抜ける為には……」
そう言うと鎖骨部から矢が素早く伸び、ナイフを容易く弾いた。
それは無造作に飛ばされると地面に刺さった。
「……アンタ……」
「……っう、うぅ……」
覗き込むように見つめたハーモニーの片目だけが色を変えていた。
どうやら覚醒して矢を出したのだろう。
きっと葛藤していたのだと真奈は思った。
本当の目的に気付かなければ大切な相手を殺す所だったのだから。
「よく気付けたわね、ハーモニー」
涙をポロポロ流し続けるハーモニーに真奈は負けたと言わんばかりに肩を竦め微笑んだ。
―――
タルクはシルクに振りかざした刀を彼女に当たる寸前でピタリと止めた。
「……」
「……」
そこでしばらく両者固まっていた。
タルクは顔を俯かせながら涙を隠して、シルクはそれすらも見え透いてただ微笑むだけだった。
だが顔を上げると、刀を下に振り下ろして真っ直ぐにシルクを見た。
「戦う力を手に入れるか……それとも」
タルクの目元は赤く、涙の跡がいくつも付いていた。
しかし表情に迷いはもう無かった。
―――
白妬は倭が振りかざした刀を片手で楽々と掴むと真っ二つに折った。
「う、そ……」
刀はバラバラになり、倭の目の前で砕け散った。
さすがのおてんばな倭でも顔が固まって引き気味だった。
白妬は刀の刃で切れた指に目もくれず、倭の方を余裕の笑みを浮かべて見下ろす。
「これは力を得るか、大切な人を第一に守るかどちらかを選べという事だったんだな」
―――
「力を得て強くなれば良いって訳じゃねーんだよな」
彪は標識の下敷きになる捺紀を見下ろして一人納得していた。
捺紀に煽られて腹が立って攻撃してしまったが、当てたのはそれだけである。
彪は酷くスッキリした清々しい表情だった。
「あ…きら?」
捺紀は怪訝とした顔で彪を見上げた。
そんな彼に言い聞かせるように彪は笑ってこう言う。
「だったら俺達は……無理矢理でもどっちも選んでやるぜ」
その言葉はこの試練を乗り越える為の答えだ。
―――
サランは外で彼らの帰りをソワソワしながら待ち続けていた。
キャリアから、この試練の切り抜け方は聞かされていたがちゃんと理解して帰還する事が出来るのか不安ではあった。
「あ♪帰ってきたわ!」
「みんな…!」
空間が切り開き、誰一人欠けることなく全員が帰還した。
彼らは服装が変わっていた。
大きく変化した訳ではないが、力を得た証拠なのか若干いつもと違った。
ラヴィッチは普段と同じニット生地だが背中からマントを羽織って靡かせていて何処かの王子のようだ。
ナイチも軍服のままではあるが肩章を身に纏い貴族を連想させた。
響は学生服のようにワイシャツにベストを着ているがなんと大胆にワイシャツのボタン全てを開けて肌蹴させていた。
彪も同じく制服のベストの下にパーカーを着用したいつもと違う印象の格好をしている。
タルクはジャージ生地の動きやすい服を着ていた。
胸元を開け、腹部も晒し、ついにスカートを戦闘服として着用している。
コークはストライプ柄のワイシャツにベスト、ネクタイを垂らしている。
ハーモニーはいかにもナースを連想させる白を基調としたワンピース姿となっていた。
白妬はサラシを巻いているのは変わりないが上に着ている真っ白なワイシャツの裾が下まで伸びている。
そして失っていた右眼が復活していた。
「皆さんにはそれぞれ称号と力が付与されたなのよ~!」
「称号?特に何もなかったけど…」
キャリアが嬉しそうに彼らにそう話すが、称号については全くよく分からなかった。
響の問いに対し、呪文を唱えた時称号が自然と思い浮かんでくるとサランか返す。
呪文に関しても特に浮かんでは来なかったがいざとなった時に浮かぶらしい。
体感的には普段と変わった感じはしないがサラン達が誇らしげにしている所を見るとやはり力は得る事が出来たようだ。
「と、とにかくこれで強くなったようだし……!」
「白妬の眼も治った!」
「ありがとうございます。サラン様、キャリア」
白妬は二人に頭を下げ感謝の言葉を伝えた。
「じゃあ、良いとこ取りみたいであれだけど……リーダーっぽいことやろうかしら」
サランはアリーシャ隊と彪の前に立つと、一人一人の顔を見て命令を下した。
「アリーシャ隊リーダー命令よ。貴方達全員で白花を倒して来なさい。いいわね?」
その言葉に全員が頷いて返事をした。
一致団結する光景をキャリアは後ろで眺めながら、彼らならきっと大丈夫と確信を持っていた。
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