12月17日、12月19日、12月21日
―十二月十七日―
「よっ!待ってたぜ!」
アリーシャ隊一同はタルクに、後で自室に来てくれと言われ仕方なく訪れたのだが扉を開けると何故かメイド服姿の彼が座っていた。
「何してんの……」
「一日限りの耳かきメイドってやつだ」
彼は片手に耳かきを持っていた。
何を企んでいるのかと思って来てみれば……と呆れるがタルクの膝には何と既に彪が横たわっていた。
「しかも客人が大河……貴様か」
「い、いや……これは姉貴が無理やり……」
何となくタルクが強引に彪を誘ったのは想像つくが断ればいいのにと白妬がため息をつく。
「でも、やられてる内に姉様ぁぁぁあ!!!ってなっちまって」
どうやらシルクに耳かきされていると思い込んでしまったようで離れられなくなったらしい。
その発言に一同は少し引くが、タルクがオレに任せろと自信満々に次の客を招く。
「……では、やってもらいましょう~」
「お、おい……大丈夫かよ。相手はタルクだぞ」
「死なないでねハーモニー」
ハーモニーが率先して前に出たのでナイチとラヴィッチが不安げに見守る。
確かにあのタルクだ、力加減など出来ないに等しいからとても心配になるのはわかる。
ハーモニーはそこまで恐れている様子はなくテキパキとタルクの膝に横たわり髪を掻き分け耳を晒す。
「……んっ……」
そこに耳かき棒が侵入し、カリカリと静かな音が響いた。
「……、んん……っ」
「どうだ?」
「ふ、ぁ……なんだか……っ、ふわふわ……して……んゃ、あ……」
「どことなくえっちぃよハーモニー」
「ふ」
誤解を招きかねんハーモニーの声に、響が頬を染めてその光景を眺めていた。
コークも面白そうにニタニタしながら見下ろしている。
ちなみにどんなに恥ずかしげな声をハーモニーが上げようと頬は染まらない。
「タルク様は耳掃除の才能があるのでしょうか~?」
「え、そんなに!?」
数分後、メロメロになったハーモニーがうっとりしながらタルクを褒めた。
「じゃあ僕もやってー!」
「響……!?」
「貴様……死にたいのか?」
「毒味ってやつだよ!」
興味を持った響が挙手してタルクにお願いをした。
何気に失礼な事を言っているように感じるがスルーしてタルクは響を膝に招いた。
「っふぉおおお!?な、何これ……」
耳掃除をされて開口一番、響はよく分からないような驚きの声を上げた。
「ひょへぇ……えへ…あはぁああ……!」
「響戻ってこーーーい!!!」
徐々に瞳が虚ろになり、だらだらとヨダレを垂らして我を失う響に彪が呼び戻そうと叫んだ。
起き上がると、ぼーっとした顔で素質あるねとタルクを褒めていた。
「どうやら……本当に素質があるようだな……」
「ナイチ……行ってみてよ」
「俺は嫌だぞ……そうだ、コークが行けよ」
「……」
ラヴィッチとナイチで先に行けと攻防戦が繰り広げられるが傍観して動かないコークをナイチが促した。
断るかと思いきや意外にもすんなり受け入れてコークがタルクの膝に横たわった。
「うわ……ありえん光景だ」
あのコークが無防備に横たわり耳掃除を受けている姿が異様で一瞬ざわつく。
「どうなんだ?コーク」
(……悪くない)
決して口には出さなかったがタルクには本当に才能があるのかと思ってしまう程に快適のようだ。
「ぁ……ん……」
不本意ながらも心地良さそうに目を細めてしまうコークに白妬が赤面しながら口元に手を当てて悶えていた。
こんなに気持ちよさそうな顔をするコークは今までに見た事がない。
「す、すげぇ……あの兄貴が静まってる……」
「いつも静かだよ?」
「コーク、寝ちまってもいいんだぜ?」
「……ん……」
「いや眼福すぎる……!!!って違う!!!キャラ変わりすぎだろコーク!!」
本当に心地よいのかほんの少しコークは頬を染めながら目をゆっくりと閉じていった。
白妬だけが幸せそうにその姿を見ては我に返りこんなコークは初めてだと叫んだ。
「あ、ミスった」
「ぐわぁああぁああ……ッ!!?」
不意にタルクが耳かき棒を差し込みすぎたのかザクッという嫌な音と共にコークの苦痛の声が上がる。
「タルクお前……!!!」
「寝起きだからご機嫌ナナメァァァああっ!!!!」
やっちまったと冷や汗をかくタルクにコークは激昂して耳から血を流しながら鞭を振るい出した。
その光景を見て、やっぱりタルクには向いてないねと一同は立ち去って行った。
―――
「うわ暗!!!」
「何だこの部屋!!?」
一同が再びタルクに呼ばれ部屋を訪れると、照明が僅かに点灯された薄暗い室内がそこにあった。
部屋にいたタルクは、今度は黒いスーツを着用し、髪を一本でまとめ、いかにも執事という姿でこちらを見て頭を下げた。
「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様」
「ちょ、それ違う!執事になってる!!」
何故かそこには捺紀もいて、彼もタルクと同じようにスーツを着て律儀にネクタイも締めてあった。
「で、二人は何をしているんだ」
「ホストってやつよ」
どうやら捺紀の言う通り執事ではなく、ホストだったようだ。
確かによく見ればタルクのワイシャツのボタンは程よく開けられチャラチャラしたネックレスが飾られていた。
捺紀も普段から適当な位置で結われた髪を解き、いつもと違った雰囲気だった。
「捺紀様お似合いです~」
「そー?ありがとう萌ちゃん」
「これで目でも開いてたら良いのにな」
「あれ、言わなかったけ?一応開いてるからね?白妬ちゃん」
白妬のからかうような発言に捺紀が自分の目を指さしてそう返す。
どこからどう見ても糸目で閉じているようにしか見えないが。
「んな事より誰かオレをご指名しろよ」
ソファに座って足を組み、だるそうに客を招くタルクにラヴィッチがナイチにひそひそと何かを話す。
「馨、行ってあげなよ客なんだし」
「誰がいつ客になった!!!」
このままでは終わらないと判断し、渋々ナイチはタルクの隣に座りに行った。
しめしめとラヴィッチが陰でほくそ笑んでいた。
「……しかし、何を話すんだ」
「あ、そういや考えてねぇや」
形だけホストを着飾って何をすればいいか考えてなかったようでタルクが頭を搔く。
「……ホストってボディタッチあり?」
「うーん、よく分からないですけど軽いハイタッチとかならいいんじゃないですか~?」
「じゃあ馨、これに銃を命中させてよ」
「あ、あぁ……」
何か閃いた捺紀が何処から持ってきたのかマネキンを置くと、ナイチに頭を狙ってと指示した。
「……!」
ナイチは銃を構えてマネキンの額目掛けて発砲した。
銃弾は真っ直ぐ額を貫き、ナイチはどうだと言わんばかりのドヤ顔だった。
「すごーーーーいっ!!!ハイタッチ~!いえーーい!!!」
「ぃえーーーい!……ってなんだよこれ……!」
「キャバクラっぽくなっちまった!!」
ノリよくタルクとナイチがハイタッチをして喜びあったが瞬時に我に返る。
特にナイチは俺は一体何をやってるんだとテーブルに顔を伏せていた。
「てかホストなんだから客は女だろ。姉貴も女だけど」
「よし、じゃあ白妬来い」
彪の指摘でタルクは白妬の腕を掴んでソファへと連れて行く。
「さ、子猫ちゃん。ビールはいかが?」
「悪いな、ワイン派なんだ」
とても未成年の会話には聞こえないが白妬はビールを拒否した。
ちょうど用意してあったワインボトルを手に取るとタルクは飲ませてやるよとコルクの栓を抜こうとした。
しかし抜けた反動で手が滑り、ボトルごと白妬の方に落ちてしまいワインが彼女を思いきり濡らした。
「っ冷たぁああああ!!!!!」
「んもーなんでこういう時にドジるかな」
「帰るぞ」
「全く……!!!貴様に接客は向いてない!!!」
ラヴィッチの嘆息で彪や捺紀含め一同が再び部屋から退出して行く。
びしょ濡れになった白妬は激怒しながら風呂場へと駆け込んで行った。
取り残されたタルクに唯一ハーモニーだけが優しく声を掛けてくれた。
「タルク様~大丈夫ですか~?」
「……なぁ、ハーモニーちゅあん。最近どうよ?楽しい?」
「え?はぁ……」
そんなハーモニーの肩に手を回して接近した。
突然の絡みづらいノリにハーモニーもタジタジである。
すると替えの服に着替えた白妬が部屋に戻ってきてハーモニーの手を取るとタルクから引き剥がし自分に引き寄せた。
微かにワインの残り香が鼻に入ってきた。
「ハーモニー、そんな悪い男の傍に居るな。お前は天使なんだから……」
「白妬様~……」
何だか白妬の方がホストに見えかねんが、彼女はハーモニーを連れ、部屋を出ていってしまった。
再び一人になってしまったタルクは考える素振りをするとカメラ目線でどこかを見た。
「……えーっと………………君の方が、天使だと思うよ……?」
瞬時に顔が赤くなり暴れ出した。
「っうわ!!!オレきめええええええはずかしぃいいいいいいい!!!!!」
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―十二月十九日―
とある日の授業中。
ハーモニーは数学の問題をノートにスラスラと書き込んでいた。
(私は機械だから、どんなに勉強をしても意味がないのです~。私のメモリには全ての知識が敷き積まれていますから…)
そう脳内で解説しつつ文字を書く手は止めずに進めていく。
(彪様にはチートと言われました~)
ちなみにハーモニーには、成績優秀でいるのは構わないが怪しまれないように程々にしろとナイチとコークに命令されているのである。
コークも人工知能が搭載されているからハーモニーと同じように試験等でも敢えて間違えたり加減はしているらしい。
(それはそうです~。これでは一生懸命努力している方達の邪魔になってしまいますからね~)
そう苦笑いしながら、ノートを書き進めていった。
―――
「……あれ……?」
ハーモニーがふと目を覚ますと何故か体育館倉庫にいた。
数学の授業が終わり、昼食を食べ終えたハーモニーはうとうとして昼寝をしていたのだ。
しかし起きれば人気のない体育館倉庫で無防備に横たわっていたとは不審だ。
「…やぁ、目が覚めたようだね」
「っ!?」
後ろから声が掛かり咄嗟に振り向くと跳び箱の上にちょこんと足を組んで座る男子生徒がいた。
男性の割に目がくりっと大きく茶髪で一瞬女性に見えたが、ラフにワイシャツを来ている事から男性と確信付く。
(瞬時にサーチをかけ、目の前の男性の名前、生年月日、性格、人脈、成績、そして私と接触した事があるか情報を読み取ります~)
しかしエラーが発生する。
全校生徒の顔と見比べてもヒットしてくれないのだ。
それは疎か生年月日やどのクラスの生徒かも読み取る事が出来ない。
(ここの生徒さんじゃ……ない……)
こちらが焦りを感じる最中、その男性は関係なくハーモニーに優しく声を掛けてきた。
「僕ね、わかってるんだよ。君が人形だってこと」
「っ…え…!?」
人間だと貫けばいいものをうっかり動揺の声を上げてしまい、確信されてしまう。
彼は嬉しそうにニコニコ微笑んでいた。
「僕、ドールが大好きなんだ。だからさ……君も奪っちゃおうかなーーーって」
朗らかに微笑む彼だったが、邪気に満ち溢れた笑顔が垣間見れ焦燥する。
(機械の私を見破る……まさか白花様の仕業?)
確実にこれは白花が仕掛けた物だと察知し、とりあえず他の情報を得るために出来るだけ穏やかに相手に話し掛ける。
「あの……ここから出してくれませんか~?」
「それはダメだ。君と話をしたいんだから」
そう言って彼は跳び箱から降りるとハーモニーに近付いた。
相変わらず笑顔ではあるがきっぱりと拒否され、どう考えても話だけで終わる気がしないと次の策を考える。
「貴方はどうしてドールが好きなんですか~?」
「……ふふ……そんなの簡単さ」
緩やかに微笑んで小さく答えると、ハーモニーを見て語気を強めた。
「ドールは嘘をつかないからだよ!!!!!ドールは常に傍にいてくれる!!!!!主に従順でいてくれる!!!!!」
ハーモニーは一瞬驚いたがどうしてか落ち着いた表情で彼を見上げていた。
気にせずに彼は己の思いを吐き出す。
「ドールが壊れたらそれが消えて無くなるまで愛で、消えてしまったら他のドールを愛でる。僕の仲間は沢山いるからね……いくらでも愛せるんだ」
自嘲気味に笑うと、ハーモニーに手を差し伸べた。
「だから……次は君。僕が君を壊れるまで愛してあげるから」
さぁ、おいでと首を傾ける。
ハーモニーは何かに気が付いて息を吐いた。
(同士……でしたか)
「貴方も……ドールなんですね~」
これまでのある共通点を見つけ出して確信したようだ。
以前クローンとして戦ったカンラやトウマ。
泣き叫ぶ姿を写真に撮られていた明日香も響は人形だと見破っていた。
彼も彼女らも全て白花に作られたドールだったという訳だ。
だからハーモニーがサーチをかけても人物の特定ができなかったのだ。
「貴方は……私に暴力を振ることは可能ですか~?」
「へ?そんなこと出来ないよ……!こんな可愛い子に……」
優しいドールで良かったとハーモニーは胸をなで下ろした。
彼は自分を無理やり組み敷いたり暴力を振ることは出来ないと確信し、瞳からハイライトを消した。
「ですが……」
「……っ――!?」
ハッとハーモニーを見た時には、彼の胸には既に矢が刺さっていた。
「私には時間が無いんです……」
その呟きの後に彼はその場に倒れ込む。
しかしドールの為出血は無いが、矢で貫かれた姿を見るのはハーモニー自身も堪え難いものであった。
(こんなにお優しい方が私に殺されてしまうなんて……出来れば違う形でお会いしたかった…)
彼の身体が光に包まれ消えて行くのを見届けてから、ハーモニーは体育館倉庫の扉に手を掛ける。
室内に明かりが入り、眩しさに目を細めた。
(今日の事は皆様には内緒にしておきます。ドール同士の秘密です~)
そう微笑んで倉庫を後にした。
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―十二月二十一日―
ある日の夜。
時刻は九時を回ったところだろうか。
アリーシャ隊は夜に校内を徘徊していた。
「何で俺達までタルクの忘れ物を取りに付いて来なければならんのだ」
「わりぃな!心細くて」
ナイチが気だるそうに大袈裟にため息をついた。
徘徊といっても、タルクの宿題のプリントを取りに教室まで来ていただけなのだが。
確かに夜の学校は暗くて普段と違って見える為、恐怖心を煽られるのは分かる。
暗すぎて幽霊でも出そうでラヴィッチが特に怖がっていた。
「お、あったあった」
「……っ!?」
タルクが自分の机の中を探り、ぐしゃぐしゃになったプリントを取り出す。
その直後にコークが何かを察知して息を飲んだ。
「どうしました~?コーク様~」
「静かにしろ……誰かの気配がする」
「え、ほんと?」
コークが人差し指を口元に当てて一同に静まれと促す。
響が用務員じゃないかと聞くが、白妬にこんな時間までいる訳が無いと否定された。
「もしかして……幽霊!?」
「怖い事言わないでよ響……!早く帰ろ!!」
「……あら?携帯が落ちてます~」
響のせいでますます恐怖心を煽られてしまったラヴィッチが一同に帰ろうと声を掛けた。
廊下を出て少し歩いた先でハーモニーが床に携帯が落ちているのを発見した。
コークがそれを手に取り固まる。
「誰の?」
「分からんな」
ここにいるアリーシャ隊のものでは無い事は確かだ。
誰かが忘れていったようだ。
「もう置いて帰――」
~♪~♪♪~
「っひぃ!!??!」
響の言葉を遮るように、その携帯に着信が入った。
無機質な電話の音が廊下に響き渡り、とても不気味である。
ちなみに怯えた声を挙げたのは白妬で、正当防衛からかナイフを構えていた。
「……出るべきか?相手は……」
もしかしたら携帯の持ち主かもしれないとコークは点灯された携帯の画面を見る。
そこには“未海”という名前が映し出されていた。
(……み、かい……?)
よく分からないがとりあえず応答ボタンをタップして携帯を耳に当てた。
「……」
『……ぁ……』
電話の向こうは妙にノイズがかかって声がよく聞き取れなかった。
黙って聴いていると少しずつ声がハッキリして聴こえるようになったがまだノイズは掛かっていた。
『……、その……携帯……さが、してる……の……は、やく……屋上まで……と、ど……け……、…………じゃ、ないと……』
「……」
『あたしが今から―――』
ここで電話が切れてしまった。
切れたのを確認してナイチが誰だったとコークに声を掛ける。
コークは珍しく焦燥した表情で一同の方を見て口を開いた。
彼自身、幽霊等は眉唾もので信じていなかったが今ので信じてしまったかもしれない。
「……怪しげな女がこれを探しているらしい。屋上にいると言っていた」
「えええ……!」
「届けた方がいいです……よね~?」
「うん、でも怪しいから慎重に行こう」
逆に返さずに放置した方が悪い事が起きそうで躊躇われた。
穏便に終わらせる為に屋上へ向かうことに決め、歩を進めるアリーシャ隊。
しかし歩いている内に何処にいるのか分からなくなってしまう。
「僕、未だに学校の構成が分からないんだよね」
「……ここ、さっき通らなかったか?」
「そうかも。てか暗くて余計分かんねぇよ」
マンモス校という事もあってか校内が異常に広く、屋上へ向かう階段に辿り着けずにいた。
廊下の突き当たりを曲がろうとしたその時、何者かが現れ影がアリーシャ隊と重なった。
「……え?!」
その人物とは神崎満喜だった。
倭の親戚である涼鳴枯那の友人だ。
アリーシャ隊とは直接的な関わりはないが、互いが倭を通じて紹介されていて顔と名前は知っていた。
「貴様は満喜だったな、何故ここにいる」
「ちょ、白妬様早すぎます~…!」
目が合ったコンマ数秒後、白妬が満喜の胸ぐらを掴んで詰めかかった。
ハーモニーが手を離すように白妬に促すが満喜は目をぐるぐる回して気絶してしまった。
数分して満喜が目を覚ますと、すぐさま白妬が申し訳なさそうに謝罪をした。
「さっきの怖い人……って思ったら白妬ちゃんだったんだね」
「申し訳なかった……つい日頃の戦法事情が」
眉を下げる白妬に大丈夫だよと笑いかけた。
満喜はコークの手に握られている携帯を目にすると飛び跳ねるように喜びだした。
「あっ!私の携帯!ありがとうございます!」
「お前の……?」
コークは彼女に手渡すが、異変に気付き首を傾げた。
「声、違ったぞ」
「へ?」
「先程この携帯に変な女から着信が入ってな。屋上まで届けに来ないと私らの命が危うくなるような内容の電話だったんで向かっていた所だ」
「う、うそぉおお……」
コークの話に満喜は不安そうに目に涙を溜めた。
すると廊下の突き当たりから何者かの走ってくる足音が聞こえコークが、来たと呟く。
「ナイチ、銃を貸せ」
「……あぁ」
恐怖体験を体感しているというのにコークはやはり怖気付くことはなかった。
ナイチの銃を借りると先頭を歩き、足音に近付いた。
そして人影を確認すると銃を構え相手に向けて突き出した。
「え……?!」
「……!」
相手もコークと同じような構えをしていた。
だが銃を所持している訳ではなく人差し指をコークに向けて指で銃を作っていただけだった。
その人物は、涼鳴枯那だった。
「――じゃあおめぇらは満喜の携帯を探してただけだったのか」
「あぁそうだ」
事情を聞くと、お気楽部に遊びに来ていた満喜が校内に携帯を落として帰ってきてしまい、枯那や姉の榛彌、妹の満緯、友人の赤坂喪奈とミミを巻き込んで探しに来ていたのだ。
タルクの問い掛けに満緯が頷いた。
「いやービックリしたよ、沙檻君銃向けてんだもん」
「危ないですよ枯那さん」
緊張感のない枯那がへらへらと笑いながら頭を搔いていた。
それに対し喪奈が嘆息していた。
「何だって貴様も武器もないのに飛び込むんだ」
「ノリ大事だよ☆ツンデレ君」
「全く枯那さんは……」
コークだから寸前で制御できたが本当に撃たれていたかもしれないのだ。
ナイチもミミも怖気づかない枯那に呆れていた。
「あ、じゃああの怪しい電話は枯那ちゃんだったんだね」
「いえーす!ミミちゃんの携帯から掛けてみたんだ!」
(未海……みかいでは無かったのか)
枯那も枯那で悪ノリしすぎだが、彼女のおてんばな性格だ、仕方ないのだろう。
コークは声には出さなかったが、携帯のディスプレイに上がっていたあの名前を読み間違えていた事について恥をかいた気持ちになっていた。
「んじゃあ解決した所で、皆の衆帰るぞ!」
「な、何だったのかしら?結局……」
「みんな、ありがとうね!」
枯那が踵を返し、それに榛彌達も付いて行く。
彼女達が居なくなった所でラヴィッチが大袈裟にため息をついた。
「結局コークの変な勘違いだったようだね」
「まぁそもそも変な奴からの電話だったらアドレス登録して名前出る訳ねぇしな」
「こ、コーク様が居ません~!!」
皆でコークをからかおうと彼を見ると、忽然と姿を消していた。
嫌な予感がして一同は急いで学校を出て自宅へ戻る。
風呂場から物音がして脱衣場に行き、扉を開けると平然とした顔でコークが湯船に浸かっていた。
「コーク!!!」
「お前らどこ行ってたんだ」
「んな!?貴様……!!!」
どうやら瞬間移動で自宅に戻り、先程の出来事を無かったことにしようとしているようだった。
さすがプライドの高い男。
自分のミスは誰にも触れられたくない為、知らないフリをする事を選択したらしい。
これ以上突っ込むと殺されかける予感がしたのでラヴィッチ達は渋々自室に戻って行ったのだった。
評価よろしくお願いいたします!




