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12月5日、12月8日、12月10日、12月14日

 

 ―十二月五日―


「…………」


 朝、目を覚まして早々、コークはため息をつく。

 彼の隣ですやすやと眠っているのはラヴィッチ。

 何故男二人でのうのうと同じ布団で眠らなければならないのかと理由は分かっているが不満げに起き上がる。


「ラヴィッチ、おい、起きろ」


「んん~……」


 もぞもぞと身動ぎをしてようやくラヴィッチが目を開けた。


「……何でコークが僕の部屋で寝てんの……?」


「お前忘れたのか昨日の事を。あとここは私の部屋だ」


 どうして二人が共寝をしたのか、時は昨日に戻る。


「さや団長!これで捕まえたるわ!」


 近所の公園にて。

 優紀茜は金墻鎖椰苛と遊んでいたのだが物騒な物を持っては振り回していた。


「ば、馬鹿!んな危なくて誤解されるもん振り回すんじゃねぇ!」


 茜が振り回していたのはオモチャの手錠だった。

 例え偽物でもそれを外でブンブン振り回されては色々とまずいと鎖椰苛は止めようとしていた。


「せやったらウチを止めてみぃや」


「……っくそ!」


「あっ」


 そこで鎖椰苛は茜に体当たりしたのだが、その衝撃でうっかり振り回していた手錠を手放してしまった。


「――っ!?」


 そしてそれは偶然にも少し離れた場所にいたアリーシャ隊の方へと飛んでいき、上手い具合にラヴィッチの左手首とコークの右手首に嵌ってしまったのだ。


「え、なにこれ」


「まさか白花か!?」


「いや、奴の気配はない」


 突然自由を奪われた二人を見て、ナイチが白花の仕業かと辺りを見渡す。

 しかし白妬が言うには彼女の仕業ではないらしい。


「あー!ウチの手錠がチビッ子とドS君に嵌ってしもうた!」


「よりによってその二人かよ……」


「あ、茜と鎖椰苛」


 手錠の行方を追っていた茜達がアリーシャ隊を発見し、事の経緯を話される。


「……どんな命中率だよ」


「とりあえず鍵を寄越せ」


「実は鍵無くしてもうて無いねん」


「えーー!!!そんなことある!?」


 コークが茜に鍵を差し出せと手を出すが、茜はけろっとした表情で無いと発言した。

 しかも薄い本みたいな展開やなとニヤニヤよく分からない事を言いながらそそくさと居なくなってしまった。


 仕方なく自宅に戻り、開錠しようと針金を使って試すも開かず。

 二人を繋ぐ鎖の部分を白妬のナイフで斬ろうとしてみるもそれも適わず。


「何とか外せないのー?コークとずっと近距離とか割と焦るんだけど」


「は?」


「しばらくは様子見という事になりますね~」


 ただのオモチャだと思っていたが、あの茜が所持していたものだ、高性能の手錠なのかもしれない。

 ハーモニーの言葉にガックリと肩を落とすラヴィッチだが黙って従うことにした。


「……まず、問題が一つ」


「ずばりお風呂だね!!!」


「そう。そもそも繋がれている訳だから服すら脱げないんだよね」


 響の言う通り、風呂問題が懸念されていた。

 この為だけに服を裂いて入る気にもならないし翌日外れると想定してとりあえず今夜だけは我慢する事となった。


 そして就寝時間。


「ふぅ……何とかご飯も食べれたし……。やっと一日が終わるね」


「……あぁ、休日で助かった」


 どちらの部屋で寝るか若干揉めたが、コークの部屋で眠る事に決まり早速布団に入る。

 ちなみに夕食の際は、幸いにもお互い利き手がフリーの状態だったのできちんと食べる事が出来た。

 コークが左利きで良かったと切実に感謝するラヴィッチであった。


「あー、明日にはお風呂入れるといいなー」


「何とかなるだろう」


「!」


 ラヴィッチが寝ながら天井に右手を伸ばすように広げ、願望を口にするとコークが投げやりにそう返した。

 その発言にラヴィッチは目を丸くする。


「……意外。コークっていつも慎重に物事考えるタイプなのに」


「……どうする事も出来ないだろ、これに関しては」


「まぁ、そうだけどさ」


 やる事をやっても外せないものなのだからあとは神頼みだとコークは言う。

 毛先を指で弄るコークを横目で見ながらラヴィッチは明日の事を話す。


「明日……もし、手錠(これ)がまだ繋がったままで白花が来たらどうする?」


「それは無いな。奴は次の戦で私達全員を倒せる自信を持っている。だからその日まで青春謳歌してろと私達に言っていたんだ。まだ猶予はあるはずだ」


「そっか……早く外れるといいね」


 コークがそう言うのなら間違いないと、白花の事は置いておくことにした。

 だが今度はコークが嘆息する。


「しかし……まさかこの私が嵌められるとはな」


「たまには良いじゃん、こういう展開も。皆に助けてもらおうよ」


「……」


 ラヴィッチはこんな状況を何処か楽しんでいるようにも感じた。

 あまりに楽観的な彼といるせいか、コークも成り行きで何とか事が進むだろうと思ってしまった。

 つくづく丸くなっていくなと内心で失笑した。


 そして冒頭に戻り、コークとラヴィッチの前にとある人物が立ち会った。


「その手錠を外す手助けをしに来ました」


「救世主深優ちゃん!!!?」


「タルクさんに頼まれまして」


(アイツ本当に月の姫やら色んな奴とすぐ打ち解けるな)


 タルクがどうやら手を回してくれたようだ。

 相変わらず仲が良くなったものだとほんの少しだけ感心するが、ひとまず手錠を外す手立てがあるのなら素直にお願いしようと任せる事に。


「だが…どうやって外す?」


「はい。私が軽く魔術を放ち(戦ってあげ)ますので」


「いやああどうせこうなると思ってたよおおおお」


 深優はニッコリと笑むと早速手のひらから火の玉のような魔弾を召喚し出す。

 本当に大丈夫なのかと不安になるがとりあえずやるしかないと戦闘態勢に入る。

 行くぞ、というコークの声と共に走り出そうとする二人だったが両者反対方向に向かおうとしたので腕だけが引っ張られて動きを止めた。


「ラヴィッチ、ここは左だろう」


「い、言ってくれれば行ったよ!」


「!そうか……」


 そこでコークは手錠を外す策を閃いた。

 ラヴィッチに確実に手錠が外せる方法を耳打ちする。


 そして深優が魔弾を二人に向けて放った瞬間。

 もう一度コークの掛け声と共に、二人は先程同様反対方向に向かおうと走り出す。

 すると鎖の部分に魔弾が上手く当たり、粉々になる音を出しながら手錠が手首から外れた。


「や……やった!ありがとう深優ちゃん!!!」


「いえいえ、ぶっちゃけ他のアリーシャ隊の方でも出来そうな事でしたがお役に立てて良かったです」


「……痛い所を」


 深優に突っ込まれて、今更ながら術を使って破壊してしまえば当日中に自由の身となる事が出来たと気付く。


「コークの言った通り、何とかなるもんだね!」


「くく……そうだ、もっと讃えろラヴィッチ・イザード!!」


「貴方様はとても素晴らしい人だ!」


「ふはははははは!!」


 しかし自由になり気分が良くなったのか二人は上機嫌に茶番劇を始めていた。


「……あの二人何してるのかな……」


 遊びに来たらしい捺紀が彼らの家の前でその様子を引き気味に眺めていたが本人達が気が付くのは数分経ってからだった。


 --------------


 ―十二月八日―


「……」


 ハーモニーは自室で一人、考え事をしていた。


(私は……皆様とこうして生活している事に安心しています……。ずっとこのままでいたいと思ったりすることも……)


 しかし彼女の表情は浮かないものだった。


(今は皆様のお母様が敵で……残りは白花様だけで……全てが終わっても変わらずに皆様と一緒にいられるのでしょうか。私は……成長できないままで……)


 自分がどれほど月日が経っても大人になれない事をやはり気にしているようで俯きながらワンピースの裾を握っていた。


 ――その後、ハーモニーは気が付いたら眠ってしまっていた。

 どうやら夢をみているようで独特の浮遊感に包まれ、夢の中の彼女は大人の姿になっていて家の中を歩いていた。

 向かう先はコークの部屋で、ハーモニーはその光景を客観的に見るだけで何も出来なかった。


「こんばんはっ」


「……」


 コークはいきなり現れた大人の姿のハーモニーを見ると饒舌に質問を投げ掛けた。


「何故また現れた。機械人形はどこにいる。他の奴らは知って――」


「もう!久々の再会なんだから急かさないで!」


 次々質問を投げ掛けてくるコークを遮るように声を上げて止めると、ハーモニーは部屋の扉をしっかりと閉めてコークに近付いた。


「……ゆっくり話しましょ?」


「別にお前と話す事などないが」


「ひどいっ」


 コークはベッドの上で壁にもたれるように座りながらハーモニーを蔑む目線をやっていた。

 まるで早く帰れと言わんばかりのような目。

 そんな彼の視線を無視し、ハーモニーは話を続ける。


「……ね、貴方最近丸くなった?」


「体型は変わってないと思うが」


「ほらやっぱり!そんな返しが出来るくらいには丸くなってるわ!」


「……」


 ハーモニーは人差し指をコークに向けて指摘する。

 言われてからそうかもしれんと彼自身も自覚するが、さして気にもせず目を伏せた。


「だから何だ。言いたい話はそんなくだらん内容なのか?全く――」


「…………コーク様」


 目を開いてハーモニーを見上げると、何故か彼女は頬を赤く染めながら名前を呼び、コークに更に近寄ると彼の膝に跨り出した。

 肩に手を添えて自然な動きで顔を近付ける。


「クク……急に来たかと思えば」


「……え、あれ?!」


 しかしハーモニーがハッと気が付いた時にはコークは既に瞬間移動でドアの方に移っていた。


「欲求不満なのか?機械の癖に」


「……っ」


 今度は見下ろす形でハーモニーを見る。

 次の瞬間、彼女は突然腕を上に広げると複数の魔球が轟音と共に現れ、行きなさいという声で真っ直ぐにコークへと向かってきた。


 だがそれに対しコークは…。


「……ぇ……?」


 それをたった一本の腕だけで全て弾き、消失させてしまった。

 ハーモニーは驚き、目を見開いていた。


(私のあの魔法を……片手だけで……!?)


「丸くなった私を試そうとしたのか?笑えるな。私を馬鹿にするような真似は二度とするな」


 コークは鋭い目付きでハーモニーを睨み付けた。


「……ふふ、動じない貴方を見られて安心したわ」


「……は?」


 魔法を呆気なく掻き消されてしまった事には驚いたが、変わらぬ強さを持つ彼に安堵したのかハーモニーはついニヤケながら笑ってしまった。


「今日は(ハーモニー)の事を話しに来たの」


「…機械人形が何だ、奴は白妬と仲良くやっているだろう。別に今更私が気にかけずとも……」


「あの子は今とても不安がっているの。自分はいつまでも大人になれなくて、他のみんなは成長して居なくなることを恐れている……」


 人間は老いていく運命にあるのだから仕方がない、成長出来ないのはそれが機械としての運命なんだと、突き放そうとも考えたがコークは黙って彼女の話を聞いていた。


「貴方が言いたい事は分かっている。だからせめて……あの子の気持ちを分かってあげて欲しい……優しくしてあげて欲しい……」


 そう言うとハーモニーは深々とお辞儀をした。


「あの子は初めて出来た友達の真奈を失って、更に自分の力不足で殿堂梨杏も亡くしたと傷心している。機械だけど感情はしっかり備わっているから深く傷付いているの……。これ以上…何も失いたくない……みんなと一緒にいられる今が幸せだと……っ、心から思っていて……」


 だから互いの命が尽きるまで傍にいてほしいとハーモニーはお願いをした。

 後半は感情が高ぶり声が震えたが、言いたい事をきちんと伝えきれたと安堵する。

 しかしコークの口から洩れたのは退屈そうな溜息だった。


「はぁ……何を言い出すかと思えばそんな事。……去れ」


「っちょ、私がこんなに……!?」


 予想外の返しに思わず反発しかけるが、突如ハーモニーの身体が透き通り始めた。

 恐らく本物のハーモニーが目を覚ましそうなのだろう。

 時間が足りず焦燥するハーモニーに、コークはそっと指をさして物申した。


「……お前に言われなくともそのつもりだ、()()()()()。……これで満足か?」


「……っ!」


 初めて名前を呼ばれたハーモニーは胸に手を当て嬉しさを噛み締めた。


(……ありがとう……コーク様……。じゃあね……本物の私……!)


 最初から自分が来なくても心配は無かったようだと涙を流して微笑んで姿を消した。


 ―――


「…………あ、れ……」


 本物のハーモニーが目を覚ますと、何故か周りにはアリーシャ隊全員がいて横になる彼女を見下ろしていた。

 先程の大人のハーモニーが放った術の音を聞き付け、一同がコークの部屋に集まり当事者の彼が事情を説明したようだ。

 ハーモニーが夢だと思っていたあの出来事は実は現実だったのだ。本人は夢だと思い込んでいるのだが。

 その内容を鮮明に覚えている彼女は、全員の顔を見るなりつい涙を流してしまった。


「は、ハーモニー!?」


「……っ、ごめ……なさい……。夢を……見ていたようで……っ」


 突然泣き出すハーモニーにラヴィッチが驚愕の声を上げてしまう。


「月日が経って…私だけ……子どものままなのが……不安で……っ、うぅ……」


 彼女が誰よりも大人になりたいという執着心が強い事は全員が理解していた。

 最初にハーモニーに言葉を発したのはナイチだった。


「いいかハーモニー。今はGODEST……といっても白妬の母親しかいないが、奴を倒す事が俺達の未来を作る為のゴールへの道だ。まずは目の前の事から終わらせなければその道は途絶えるんだ」


「……そうですね……っ」


 ハーモニーが気に病むのもわかるが、まずは白花を倒す事が先決だとナイチは言う。


「お前ひとりで悩むな。私らがずっといるから安心しろ?」


「そうそう!ハーモニーは今のままでも充分大人だよ!真奈ちゃんもきっとそう思ってるよ」


 白妬がハーモニーをあやす様に頭を撫でる。

 ラヴィッチも安心させるように優しい声でそう伝えた。


「相談があったらいつでも言ってね、ハーモニーっ」


「……ありがとうございます~!」


 響もにこやかにハーモニーにそう言った。

 元気づけられたのかハーモニーは涙を拭いて微笑み返す。


「つーか、オレ達が居なくなるのを心配するって寂しがり屋だなハーモニー」


「ち、違います~っ。時々です~!晴れ時々寂しいなんです~!」


「意味わかんねぇ!」


 タルクの発言につい気恥ずかしくなりハーモニーが意味不明に反発する。


(いつまでもこうして皆様と一緒にいたい……)


 胸が温まる感触をグッと噛み締め、そう思うハーモニーだった。


 そして各々が部屋に戻っていく最中、ハーモニーはコークを呼び止めた。


「コーク様…」


「……」


 コークは返事をしなかったが彼女に背を向けたまま足を止めた。

 その状態のままでハーモニーは口を開く。


「ありがとうございます~……」


「……何の事だ」


「いえ、夢の中でコーク様が私に優しくしてくれると話されていたので~……」


「……そうか」


 それは夢ではなく現実の話なのだが、とは言わずにいた。

 それも優しさの内だと思ったからだ。

 単調な返事だが、気持ちを伝えられた事に満足したハーモニーは先程より表情が柔らかいものになっていた。

 その顔を見たコークはそれ以上は何も言わずに部屋を後にした。


 --------------


 ―十二月十日―


「……」


 サランは街路樹を一人、歩いていた。

 この先で()と待ち合わせをしているからだ。


「……よし……決心したわ」


 その表情は少し暗いものだったがそう呟くと、空を見上げた。


「……サラン様」


 丁度サランの数メートル先でコークも同じように空を見上げて名前を呟いていた。

 途端に風が冷たく吹き、木々が揺れた。

 サランはコークを見ると、誇らしげに笑った。


「よく私がここにいるって分かったわね」


「いえ、貴方がここに来いと呼んだんですよ」


 真面目に返すコークに、サランがもう!相変わらず真面目なんだから!と突っ込みを入れた。


「今日は久々に歩きながら話がしたかっただけよ、行きましょ?」


「……はぁ」


 それを世間ではデートというのだが敢えてそのワードは使わずにサランは道を歩いて行く。

 コークもサランの意図が分からないが久しぶりに会えた事がとても嬉しいので付いていくことにした。


「あらっ!クレープが売ってるわ!」


 少し先を歩いた所でクレープの移動販売車を発見した。

 物珍しげにそれを見たサランは目を輝かせて店の前に行き、メニューを眺めていた。


「……仕方ないですね、私が買ってあげますよ」


 コークも店の前に立ち、何がいいですかとサランに問いかけた。

 しかし先客がいたようで一瞬その人物の方を見たが、相手は運悪く捺紀であった。


「偶然だね!」


「……大河捺紀」


 思わず時が止まったかのようにコークは動かなくなるが、そんな彼に捺紀はいつもの笑顔で笑いかけた。


「なになに?クラスメイト?」


「……はい」


 サランが興味深そうに、店員にイカスミソフトを頼む捺紀を覗いていた。


(何かボロが出たらまずい……)


 サランが自分を本名で呼んだら色々と面倒な事になるのは明確だ。

 それにこんな派手すぎる格好のサランは、はたから見ても異様なオーラを放っているに違いない。

 場所を離れようとコークはそそくさに踵を返した。


「ねぇ」


「……!」


 しかし捺紀に呼び止められてしまった。

 彼の声を無視して去ることも出来たがそれだと余計に怪しまれてしまうので立ち止まった。


「その人は……()()()()かい?」


「え?」


 予想外すぎる問いに拍子抜けしてしまったがサランにとっては禁句ワードだったので血相を変えて捺紀に言い返した。


「あ、貴方!!私がそんなにババアに見えるからってその言葉は無いんじゃないかしら!?!?」


「え、違うんですか……?」


 捺紀の引かない態度に更に激昂したサランは拳を固く握り震わせながら叫んだ。


「私は……リーダーなのよ!!!!!」


 そう言うと満足したのか行きましょうと踵を返してコークよりも先に歩いて行ってしまった。

 後を追うように彼も付いていく。


「……ねぇ、最近楽しい?アリーシャ隊のみんなといる時」


「何ですかいきなり」


 捺紀から完全に離れた場所まで歩くと、ふとサランがコークにそう尋ねた。

 急に何故そんな事を聞くのか聞き返すといいから教えてと促される。


「……まぁ、楽しい……ですよ。そうでなければ既に一人暮らししてます」


「良かった。貴方昔はあの子達全員を敵対視してたじゃない?心境の変化が嬉しいわっ」


「タルクにしか言っていなかったのにサラン様にはお見通しだったんですね」


 以前校内でタルクとコークが付き合っているという噂が流れたあの日の事だ。

 コークは急に真面目な話をし出して昔はサラン以外を敵視していたと話していた。


「んふ、何でもわかるのよ。私の子どもみたいな感じだもの」


「……サラン様」


 自分でそう言うのなら先程捺紀が言った母さんという発言は訂正するまでも無かったのではとコークは一瞬思うが逆鱗に触れると面倒なので胸の内に秘めておく事にした。

 しかしどうしても気にかかることがありサランを呼んだ。


「私は貴女の恋人では無いんですか?」


「……どうして聞くの?」


 サランはふざけた表情を消してコークを見た。

 風が吹いてサランの長いツインテールが揺れて綺麗だとコークは思った。


「いつもの貴女なら先程の男の言葉に対して「私はコークの恋人よ」と言うはずじゃないですか」


「え!ま、まぁね……」


 サランが恋人というワードを一度も使っていない事に疑問を持ったのだ。

 彼女はバツが悪そうに一度視線を下に逸らした後、コークを真っ直ぐに見つめる。


「コークの事は……好きよ?でも……一旦終わりにしない?この関係」


「………………は?」


 コークの時が再び止まった。

 予想もしていない言葉に思考回路が停止し腑抜けた声が出た。


「最近……会えてないでしょ?私はキャリアのお手伝いをしているし、もちろんGODESTにだって目を離していないわ。今はお互いやるべき事があるんだから、一回フリーになろう?全てが終わったら、その時にまた話しましょう?」


「ちょ……サラン様」


「今の世界を楽しんで生きなさい」


 コークの意見を聞かずに一方的に喋ったかと思えば、あっという間に姿を消してしまった。

 サランは人間らしくなったコークの為に自由を与えたのだ。

 静寂に包まれ、コークはやっとの思いで我に返る。


「……貴女がそれで良いのなら……私はそれに従うまでです。今からは……“好きでした”になりますからね」


 そう呟いてコークも瞬間移動で姿を消した。


 --------------


 ―十二月十四日―


 彪は奮闘していた。

 場所は学校の教室。彼の手元には試験問題用紙。

 そこにはオーラル期末テストと題されていた。


(テストわっかんねええええええ!!!!)


 試験中なので声を出していけないので心の中で叫び声を上げる。


(国語と現代文は何とかなったが……最後のオーラルだけはノーマークだった!!!!)


 とりあえず基礎さえわかれば乗り切れるかと問題文を見る。

 そこにはこれは何でしょうという問いと、イラストが描かれていた。


 赤青黄緑桃色の人間のような者が一列に並んで決めポーズをしている絵だ。

 しかし下手くそ過ぎてこれは先生が描いたものだと判断する。


(カラフルな五人組……まさか戦隊モノ(ヒーロー)!?)


 そう閃いて解答欄にHEROと記入した。

 あまり頭の良くない彪だがそこは間違えずに書く事が出来て誇らしげだ。


(んだよ、ちゃんと読めば分かんじゃねぇか。どれどれ次は……)


 自信がついたのか問題を解く意欲が湧いたようで次の問いに進むがそこに描かれていたイラストはもう文字では表現出来ないほどのよく分からない生き物だった。

 思わず目が飛び出たかもしれない。


(なんだこれ……生き物だよな?)


 その生き物は口が真っ直ぐに長くて尻尾があったので彪は咄嗟にワニだと判断した。


(スペルわかんねええええ!!!!)


 とりあえずWANIとだけ書いておいて次へと進んだ。

 その後も英語を日本語に訳す問題等は難なく解くことが出来た。


(くけけ、この俺に見直しは必要ない。赤点は三十九点以下のヤツらだざまぁみろ!)


 一人ガッツポーズをしながら鉛筆を置いた。

 しかし用紙の一番下に“裏にも問題があります”という文字を見付けてしまいほんの一瞬焦る。

 ため息をつきながら裏面を捲ると問いは一つしか無かった。


(“今の政治経済についてあなたが疑問に思う事を書き、また、あなたの考えも英文で書け”……は!?配点六十点!?ってことは表面は四十点しかねぇの!?)


 つまり裏面で点数を取れなければ赤点確実という訳だ。

 裏面の配点の高さに絶望した彪は、とりあえず長文を書いて部分点を狙おうと筆を走らせた。


 翌日。


(まぁ……そうなるわな)


 返却されたオーラルのテストは三十九点だった。

 裏面は残念ながらバツにされていたが意外にも表面はほぼ全問正解だったようだ。

 間違えたのは恐らくWANIのスペルだろう。


 放課後になり彪は消沈しきって学校を出たが、すぐ前を捺紀が歩いていたのを発見して声を掛けた。


「よぅ、なつき兄」


「あ、彪じゃん」


 なりゆきで一緒に帰ることになり彪は捺紀の隣を歩く。


「テスト返ってきた?」


「オーラルがクソ最悪だったよ」


 そう言うと捺紀は懐かしそうに、そんなのもあったねぇと笑った。

 どうやら一年生にしかない教科らしい。。


「今回も出たの?恒例の英文で政治について書くやつ」


「出たから赤点なったんだっつーの」


「彪、赤点だったんだ」


「笑うなよ……」


 ケラケラと馬鹿にされるように捺紀に笑われ悔しさから顔を反対側に逸らした。

 しかし今の発言で引っかかる部分があり結局捺紀の方をもう一度見た。


「てか、今回もって事はなつき兄が一年の時も出たのか?」


 その質問に捺紀は首を縦に振った。

 じゃあ俺と同じように赤点取ったのかと期待を込めた眼差しを送るが、このおれが赤点取るわけないじゃんと呆気なく振られてしまう。


「あの時は確か……九十九点だったかな」


「は!?きも!!」


「あー、思い出した。あの英文の最後の部分、点じゃなくて間違えて丸で閉めちゃったんだよね」


 ほんのケアレスミスだったらしい。

 英文自体は完璧で先生からも人目置かれていたようだ。

 話を聞いて彼には勝てないと少しだけ落ち込んだ。


(俺の憧れはなつき兄だ……)


 何に対しても自分より優れている捺紀が憎くて仕方ないが、同時に羨望していた。


「あ!見て彪!」


 彪がそう思っている事を知らない様子で、捺紀はショーウィンドウに飾られたミニチュアのアニメのキャラクターフィギュアを物珍しそうに指さした。


「そんなにはしゃぐようなもんでも……って、高!!」


 よく見ると値札には一万四千円と書かれていて驚愕してしまった。


「最近のドールって可愛く作られてるよねっ」


「なんでそんなワクワクしてる訳?」


「おれ、人形とかドールとか大好きなんだよね。見るのも動かすのも」


「女かよ!!!」


 まるで小さい女の子のような趣味だなと彪は突っ込みを入れた。

 しかし冗談ではないようでキラキラした表情でショーウィンドウを眺めている。


「……ちょっと待ってろ!!」


「あ……お店に入ってっちゃった」


 彪がやけくそになりながらその店に入っていき、取り残されてしまった捺紀は特に気にする素振りを見せずに可愛いなぁとフィギュアを眺め直した。


 数分後。

 ほらよ、と彪から渡されたのは先程捺紀が見ていた高いフィギュアでは無く少し安めのアニメフィギュアだった。

 チョイスのミスかキャラクターは男だったが。

 捺紀は、フィギュアと彪を交互に見て固まった。


「なつき兄……こういうの好きなんだろ?さっきみたいな高ぇのは手が出せないけど…」


「彪……」


「へ、変な事考えんじゃねぇぞ!これはお前が喜ぶと思って買ったんだかな!?」


「ツンデレなのかよくわかんないな」


 彪は顔を少し赤くしながら恥ずかしそうに顔を逸らした。

 確かにその台詞はツンデレなのかよく分からない発言である。

 それでも捺紀は嬉しそうにフィギュアを眺めて、彪の頭をポンと撫でた。


「よく分かんないけど……ありがと、彪」


「お、おう……」


 素直に受け取ってくれた事に安心して彪は胸を撫で下ろす。


「今日はもやし炒めね」


「な、なんで!?」


「このフィギュア、さっきのより高くないけど極端に安い訳でもないのは見て分かるからねー。予想外の出費したんだから節約だよ」


「く、くそ……」


 せっかく今日は肉料理でも、と考えていたのだがこの出費でしばらくは貧乏飯ルートに突入してしまったようで彪は愕然と肩を落とした。


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