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11月30日、12月1日

 

 ―十一月三十日―


「……っぅ、ぐ……ッ!!!」


 空き地の壁にラヴィッチが打ち付けられ地面に倒れる。

 腹部から血を流し、必死にそこを押さえながら自分を攻撃した人物を見上げた。


「……っ、あ、なた……は……」


 目の前に立つ人物に見覚えがあった。

 白色の長髪。腕や脚に包帯を巻き付け、服装は肩や首元を大胆に晒し、胸も強調された衣服と呼んでいいのか判断に困る格好。

 ちなみに腹部も大胆に晒されて下はスパッツのようなぴっちりした物だけである。

 それが前開きのワンピースで覆われ、不自然に足元を隠すように大きな()()に乗っている彼女は。


(……白花……!)


 また一人の時に狙われてしまったとラヴィッチは悔しそうに顔を歪ませた。

 マリファナを倒した今、次に仕掛けてくるのは白花だとわかっていたはずなのに油断してしまった。

 そしてラヴィッチを恐怖心で震わせたのが彼女の瞳だ。

 白花の右眼は変わった模様をしているがそれでも光を灯している。

 しかし左眼には全く色がない。漆黒という文字がピッタリな表現だ。


「…今は、貴様らではない」


 白花はラヴィッチを見下ろすと、意味深に一言だけ言葉を残して姿を消した。

 花弁がそっと舞い落ちる。

 ひとまずコーク達に伝えるべく自宅へ急いで戻った。


「――ラヴィッチ聞いてくれよー。ナイチが宿題を…」


 荒々しく部屋のドアを開けると自室にはタルクとナイチがいた。

 タルクがラヴィッチの方を振り向くと目を大きく開いて宿題の用紙を無惨に投げ捨て駆け寄ってきた。


「おいラヴィッチ……!!!?」


「何があった!?」


 ラヴィッチは部屋に入るなり痛みに堪えきれず膝から崩れ落ちてしまった。

 その音を聞いてそれぞれ自室にいたコーク達も部屋から出て様子を見に来てくれた。


「……まさか……ついに来てしまったのか……白花……!」


 白妬がすぐに察知して恐れていた母の名を呟いた。

 だがまずは詳細を彼から聞くべく、ハーモニーに回復を頼んで治癒させる事を先決とした。


「……何があったか話せる?ラヴィッチ君」


「……うん」


 ハーモニーから治療を受けたラヴィッチは話せる程に回復したようで先程の出来事を悔しそうに俯きながら話した。


「……後ろに白花がいたことに気が付かなくて、気付いた時には吹き飛ばされていたんだ」


「反射神経がなってないな」


「ちょ、ナイチ……それは」


「彪、良いんだ」


 ナイチが容赦なくラヴィッチを蔑む。

 彪が言い過ぎだと反論しようとするがラヴィッチ本人に止められる。


「あの人……花弁のようなものに乗ってて、足音は疎か気配も無かったから……」


「……それで白花はどうした?」


 無事に逃げきれたのはいいが、ラヴィッチに攻撃して殺さずに帰っていったのは疑問であった。

 ラヴィッチは思い出したかのように、白花が口にしていた言葉を一同にも伝える。


「……オレ達じゃない別の奴を狙って……月の姫?!」


「月の姫は人数が多すぎるから違う気がするけど……」


「私も違うと思います~。あそこにはサラン様もいますし、GODESTの目的は私達ですから月の姫を狙う理由が不明です~」


 言われてみればそうだ。

 真っ先に月の姫を連想したがあそこはサランもキャリアもいて、特待生チーム等複数人固まっているので厄介だと避けるに違いない。

 それに月の姫に戦闘をけしかけてるならば、既に部下がこちらに連絡しに来ているはずだ。


 するとコークの携帯が一瞬通知で震えた。

 画面をタップすると、とある人物からのメッセージを通知しすぐにコークは立ち上がる。

 メッセージは簡潔に“もりにいる”とだけ書かれていた。


「……森だ、急ぐぞ。もう戦っている」


「っ、僕も行くよ……!」


 ひとまずコークの指示通り、近くの森まで向かうことにして全力疾走で向かった。


 ―――


 静かな森で豪炎が降り注いだ。


「わっ、とと……!せっかく()()とデートしてたのに……わけわかんねぇよ!こんな森に連れてこられて……ドッキリか何か知らないけど……受けて立つよ」


 そこには雅つつじが自慢の運動神経を発揮しながら炎弾を避けていた。


「梨杏~!応援よろしくー!」


 呑気に梨杏の方を振り返り手を振るつつじの姿を見て、梨杏は焦燥で震えていた。

 変身して代わりに相手になりたいがつつじは梨杏が能力者だとは知らないのだ。


「つつじ君……逃げて……!」


「はっ!貴様はこれで充分だ」


「……うわあぁああっ!?」


 白花は右眼を赤色に変えると、つつじが今奇跡的に避けた炎弾が身体に降り掛かる。

 つつじはそのまま奥まで吹き飛ばされ、気を失ってしまった。


(……早く間に合って……アリーシャ隊のみんな……)


 梨杏はつつじが気絶したのを好機にすぐに変身する。

 救援のメッセージはコークに送信済みなので彼らが来るまで時間を稼がなければならない。


(私が戦うのよ……これは守る為の力だから……!)


 梨杏は地面を力強く蹴って白花に詰め寄った。


 ―――


「―――ねぇ、白花は誰と戦ってるの?」


「殿堂梨杏だ」


「そんな……」


 走って森の中を走りながら、白花が現在誰と戦っているのかをコークが伝えた。

 予想外の人物の名前に、彼女では太刀打ちできないと一気に焦りが込み上げてくる。


「奴は()で攻撃するんだ。片目の色を変えることによって攻撃パターンを変える。例えば……確か、片目が赤くなると炎の如く……」


 白妬が白花の戦闘パターンを話す直後に彼女の真隣を炎弾が通り過ぎ、奥の木々を燃やした。

 ハッとして前を見据えると白花と、彼女の前に片膝をつく梨杏の姿が見えた。


「こんなもんか?頼りない彼女だな」


「う、るさい……わね……」


「梨杏ちゃん!!!!」


 梨杏は案の定ズタボロ状態の身体だった。

 血塗れの梨杏に対して白花は傷一つなかった。


「梨杏ちゃん!もう下がって……!」


「嫌よ!!つつじ君に怪我をさせた事……後悔させてあげるのよ……!!!」


 響が梨杏を引き下がらせようと声を掛けるが怒りをあらわにしている彼女は聞かなかった。

 腕から電撃を放って白花に近付くチャンスを伺っているようだ。


「つつじ……?あぁ…あの弱者か。そろそろ死なせてやるか?」


「…つつじ君は貴女に殺される程弱い男性じゃないわ……!!」


「……とんだバカップルだな。だが本当にそんな戯言を言っていて良いのか?」


 梨杏はつつじを強い男性だと言って反抗した。

 それに対して白花は鬱陶しそうに顔を引き攣らせたがすぐに余裕の表情に戻った。

 一瞬、彼女の右眼が白色に灯されたように見えた。


「貴様は能力を使える、だがコイツは……一般人だ」


「っうああぁあ…あああっあ!!!!!」


「っ!?」


 白花は容赦なく腕をつつじのほうへ向けると、彼に向かって甚大な光弾が打ち付けられてしまった。


「……許さない」


 梨杏は白花を睨み付けると腕を前に出し、雷撃を撒き散らした。


「私が貴女を倒す……覚悟しなさい……!!!」


「出来るものならやってみろ」


 そしてアリーシャ隊を置いて二人の戦闘が強制的に始まってしまった。


「貴女、その足元の花は何かしら?歩けないの?」


 梨杏は白花から少し離れながら雷撃を放つ。

 気になったのはやはり足元を隠すように覆う花弁だった。


「……別に。こちらの方が気配も消せるし、力を温存できるからな」


「自分から言うなんて馬鹿ね……まるでそこを狙えと言ってるようなものよ……!!!!」


「っ……!」


 梨杏は足元の花弁を壊すべく瞬時にテレポートすると思い切り足を振り上げた後、かかと落としを叩きつけた。

 しかし白花はそこをどうしても守りたいのか己の頭を差し出すことで崩壊を防いだ。

 怖い女だ、と白花は呟きながら額から血を流す。


 花弁に攻撃が出来なかったが後頭部にはダメージを食らわせる事が出来たので、一歩前進だと梨杏は一旦彼女から距離を取った。


「小手調べだ」


 そう言うと白花の足元の花弁が二枚、ふわりと舞い上がり梨杏の背後にそっと散る。

 それをすかさず雷撃で燃やした。()()()()()()()()()


「……こんなの見なくても粉々に出来るわ」


「……っくく……く、はははは……!!!!痒いなあ!!!!」


「っ―――?!」


 直後、焼き尽くされたと思われた花弁は鋭い槍のような物に変形し、梨杏を後ろから二回突き刺した。

 よく見れば白花の右眼はまだ何か色付いていた。

 ここまでが術の一つだったようだ。


「……ぁ……」


「梨杏!!!!!!」


 腹部と胸を貫かれ、その場に崩れ落ちる。

 口から血を吐き出し、呼吸が乱れていた。


「梨杏ちゃん……!」


「……っ、ぅ……待っ……て……っ、う、ぐぅ……!」


 梨杏は苦悶の声を上げながら身体を貫いた二本の槍を無理矢理引き抜いた。


「私は……弱い、けど……っ」


 それを雷撃で覆うように宙に浮かせると、白花に矛先を捉えさせた。


「守るくらいは……出来るのよ……!!」


「っな……!?」


 するとその槍は勢いよく白花の足元の花弁に落下し、激しく割れる音を立てながら全てバラバラに崩壊した。


「……なるほど、身体を貫かれても尚仲間の為に動いたか」


 白花はしてやられたと言わんばかりの表情で舞い散る花弁を一瞥した。


「……だが、我の所有物を破壊した罰は受けてもらおうか」


 右眼の色が紫に変わると、ふわふわと舞い散っていた花弁が突如鋭利なガラスの破片のように変形し全て梨杏を刺した。


「……っ、うぅ……あ……!」


 梨杏に興味を無くしたのか今度はアリーシャ隊の方を向いたので一気に緊張感が高まる。


「さて、今回は退くとしようか。次はアリーシャ隊を始末してやる」


「……簡単にやられないもんね……!」


 意外にも今回は身を引いてくれるようだ。

 しかし最初からアリーシャ隊をターゲットにはせずに部外者を誑かすつもりで来たようで余計に苛立ちをおぼえる。


「今度は我が()に招待してやろう、所謂家だな」


 そう言うと白花のようやく見えた足にノイズがかかり、少しずつ消えていく。

 何かを思い出したかのように、あぁそうだともう一度こちらを見ると恐ろしい言葉を残した。


「せっかくだから予言してやろうか。次に戦う時……()()()()()()()()()()()()


「……!?」


 その一言で一同が思わず声を失った。

 反応を嬉しがり、白花は白妬を睨み付けた。


「まぁ、一番可能性が高いのは……貴様だがな」


「っ……き、さまぁあ!!!!」


「っははははは!!!!死ぬ瞬間を楽しみにしてるんだな!!!それまで青春謳歌でもしてろ!!」


 そう言って白花はあっという間に姿を消してしまった。

 この場が水を打ったように静まり返る。


「……くそ!!」


「場所がわかんねー以上は、向こうが仕掛けてくるのを待つしかないみたいだな…」


「本当に……俺達を神にするのが目的なのか?何故戦わなければならんのだ」


「向こうの考えてる事がわからないね…」


 各々思う事はあるが、まずは目の前の事だ。

 瀕死状態の梨杏は身体を引き摺るように地を這い、つつじの元へと近寄り何か話していた。


「……つつじ……君、怪我を……させて、ごめん、なさい……」


 彼女は未だに気を失っているつつじに謝罪をしていた。

 魔術師だと教えていたら、あの場ですぐに変身して戦えたがつつじに怖がられるのが嫌で内密にしてきたのだ。

 すると梨杏はアリーシャ隊の方を見て、自分は役に立てただろうかと苦し紛れに問いかけた。


「もちろんです~!今、私が回復をしますから~!」


「……っ」


 ハーモニーがすぐに梨杏に駆け寄り、治癒術を唱えた。

 しかし同時に彼女は気付いてしまう。


(……きっと間に合わない……)


 梨杏の出血量が多すぎて回復が追いつかないのだ。

 先程彼女は白花に鋭い槍で二度も身体を貫かれている。

 傷は開いたままなかなか塞がらない。

 それでも必死に患部に温かい光を与え続けた。


「私達の事情でお前をこんな目に遭わせてしまうとは」


「いい、のよ……私は…()()()に……つ、つじ君と…最期を過ごせた、こと……嬉しく…おも、ってるから……」


 梨杏自身も分かっていたようだ。

 もうもたないことを。


(お願い…早く治癒して……早く、傷を塞いで……!!!間に合って……早く……早く……!!!)


 ハーモニーは言葉には出さなかったが魔力を全て使い切る勢いで治癒術に力を注いでいた。

 その手は焦りで震えていた。梨杏の顔面が徐々に青白く変色していくのを間近で見て手元がおぼつかなくなる。

 つつじの事も回復したいが白花は一般人相手だからか少し手加減したようで梨杏程の損傷では無かった。

 彼に関しては……間に合う。


 梨杏はつつじの頬にかかる髪の毛に触れると優しく微笑んだ。


「あり、がとう……幸せ……だった。今日で……お、わかれ、ね……。貴方に……すてき、な……彼女が……出来ること……、祈って、るわ……」


 そう言うと涙を流しながら、つつじの頬に手を添えて唇を重ねた。


「あ、い……し…、……る」


 そして梨杏は力尽きてつつじの横で倒れ込んだまま動かなくなった。

 やはり間に合わなかったのだ。

 ハーモニーの治癒術が中断される。


「……ぁ……っ……そ、んな……っ、嫌です……っ、うっ、うぅ……」


「……ハーモニー……」


 ハーモニーは自責の念で押し潰されそうになっていた。

 梨杏に縋るように触れて泣き付くが当然ぴくりとも動かない。

 触れた肌が異常に冷たく、より一層彼女が死んでしまったと思い知らされてまた涙が溢れた。


「こんな役をハーモニーに頼みたくないが……出来るか?」


「……っ、はい……」


 白妬が申し訳なさそうにハーモニーにある事をしろと促した。

 それは梨杏の死体処理と記憶改竄だ。

 再び梨杏に手をかざすとノイズを生み出し彼女を包む。


「……アリーシャ隊に関係のある人物以外……殿堂梨杏の存在を……削除する……」


 そう紡ぐと梨杏は光の粒となって消えていった。


 --------------


 ―十二月一日―


 梨杏は戦死した。

 酷い言い方をしてしまえば、アリーシャ隊のせいで命を落とした。

 そして他人の記憶からも抹消された。


 学校にて。

 廊下に張り出されていた新聞部の掲示物。

 そこには先月の学園祭の内容がでかでかと掲載されており、ファッションショーについての記事にはこう書かれていた。


 “毎年恒例のファッションショー。ステージが壊れるハプニングにより中止!”


 それを白妬とハーモニーは悲しげに眺めていた。


「……私の記憶改竄では、物事を都合よく変えてしまうんです……」


「奇妙だな」


 白妬の言葉にハーモニーは顔を俯かせた。

 あの時の治癒術といい、記憶改竄処理といい自分の力はこんなにも中途半端なんだと言われたように感じたからだ。


「……そう、ですよね……私の能力なんて……」


「いや、そうではない。ここの奴等は昨日私達の身に起こったことを知らずに普通に生きて、ましてや殿堂梨杏という存在も無かった事にされている事にも気が付かないでいる…」


「……真奈様も……同じです」


 思い出すのは真奈の事だった。

 彼女も戦死した際にハーモニーによって記憶改竄処理をされて姿を消した。

 色々重なる所があってハーモニーは涙が滲み出た。


「今日は早退するぞ、帰ってまた泣きたいだけ泣けばいい……」


「……はい……っ」


 ハーモニーは考えていた。

 白花の宣言通り、白妬が死んでしまったら。

 一番そばに居た彼女までもが居なくなってしまったら。

 それが怖くて、ハーモニーは白妬の手を握って学校を出た。


 ―――


「……そう。()()は生きていたというのに」


「あのワガママ娘が死ぬなんてな」


 以前梨杏が月の姫特待生に戦を挑みに行こうとしてコークに止められたという出来事はラヴィッチ達にも伝わっていた。

 なので今回の事を彼女らにも報せに行ったのだ。

 ラヴィッチとナイチは辛い表情で戦死した概要を話すと、エレディスは残念そうに息を吐いた。

 リンリンも心悲しげに目を伏せて腕を組んだ。


「仲良く…なりたかったのに……」


 キルトは、ツンケンした梨杏だが友達になれると信じていたようでとてもショックを受けて涙を浮かべていた。


「……梨杏ちゃんは助け舟を出してくれたんだ」


「奴のおかげで一緒にいた奴も無事だったし、次の戦闘も少し有利になった」


「最期は力を真っ当な事に使う事が出来たのね」


 それでもエレディスは少し嬉しそうに口元を緩ませていた。

 梨杏は特待生を殺す事を目的として能力を使おうとしていたからだ。


「……いっそソイツの矛先が月の姫(こっち)だったら、いくらでも相手になったんだけどな」


「……」


 確かにその方がまだ良かったのかもしれない。

 だが白花は弱い立場の梨杏を選んだのだ。

 勝てない事を分かっていて。

 悔しさが込み上げてラヴィッチ達の拳に力が入った。


 ―――


 自宅に入り、リビングへ足を運ぶと兄の姿があった。


「……なつき兄」


「……ん、何?」


 彪が帰ってきた事に気付き、振り返る。


(アイツと同じクラスだったのにな…)


 普段と変わらない様子でこちらを見る捺紀に、胸が痛くなる。

 本当に記憶から消されてしまうんだと現実を知らされ恐怖を感じた。

 だがどうしてもこのやるせない気持ちを吐き出したく、彪は言葉を変えて捺紀に話した。


「……お、俺の…知り合いがよ……て、転校したんだ……」


 我ながら声が震えて動揺を隠せていないと自嘲してしまう。

 いつもなら馬鹿にしてくる捺紀だが、気持ちを察してくれたのか黙って聞いてくれている。


「優しい女でさ……最後の()()まで色々助けてもらって…」


「……彪、その人のこと好きだったの?」


 捺紀の返答にそうじゃないけどと首を振る。


「俺もそんな知らなかったけど……すげぇ良い奴だったんだ」


「へぇ、彪がそんな事言うくらいならおれも会ってみたかったな」


「……」


 本当は声を大にして言いたかった。

 ソイツはお前と同じクラスの奴だ、お前もずっと前に夜に校内でサバイバルゲームした時に一緒にいただろうと。


 一瞬、捺紀は覚えているんじゃないかと思っていた。

 彼は人質にされた時にアリーシャ隊の戦闘を目撃していたし学園祭でも戦闘姿を間近で見ていたから。

 だが思えばラヴィッチ達の本名も知らされず、アリーシャ隊が誰に狙われどうして戦闘しているのかも教えられていないのだ。

 仮に梨杏を覚えていたら彼女が死んだと騒ぎ立てているに違いない。

 コイツは無関係だと、余計に苦しくなった。


 ―――


「どうして梨杏さんが亡くなったのですか!?」


「あの人は……アリーシャ隊の問題とは関係ないでしょう!?」


「……」


 梨杏と同じクラスの赤坂喪奈は、話をしに来た響とタルクに激怒していた。

 お気楽部に通っていたミミも当然梨杏を知っているので共に動揺を隠せず二人に詰めかかる。


「……全部オレ達の不注意だ」


「僕らの敵は……僕達の知らない所で梨杏ちゃんを狙って攻撃したんだ……」


 こればかりは謝るしか無かった。

 だが謝罪しても事態は変わらない。

 それは喪奈達も理解しているがどうしても責めてしまう。


「これだけは言えます……貴方達が間に合わなかったから……梨杏さんは……っ、無駄死にしたんですよ!?」


「違う!!!無駄死にじゃない!!!」


 声を荒らげたのは意外にも響だった。

 タルクは傷心しきって目を泣き腫らし言い返す余力が無かった。


「それでも梨杏ちゃんは……敵を不利な状況にしてくれたんだ……!僕達は梨杏ちゃんの為にも必ず勝つんだ……!」


 彼の瞳には迷いなど一切無かった。


 ―――


「……雅つつじ」


 放課後。

 誰もいない教室でつつじは一人黒板を綺麗に清掃していた。

 黒板の隅の日直欄には雅と書かれていていたので納得した。

 コークは音もなく彼の後方から名前を呼んだ。


「お、どうした?色男っ」


「……?」


 上機嫌にこちらを振り返るつつじにコークは頭にはてなマークを浮かべる。


(こうも吹っ切れられると思い詰めているこちら側が馬鹿馬鹿しく思えるな…)


「いつも通りを装えるとはさすがだな。恋人を失った割には吹っ切れるの早過ぎないか」


 彼は昨日、恋人を亡くしたのだ。

 性格がチャラチャラしているからなのかもしれないが余りにも割り切るのが早過ぎて逆に見習いたいレベルである。

 ちなみに彼に関しては昨日ハーモニーがきちんと治癒をして無傷の状態で家へと送り届けた。


「ふはは!何言ってんのさ色男っ!()()()()()()()()()()!」


「…………は?」


 おどけた様子で笑うつつじに思考が止まる。

 ふざけて言ったのかと疑問に思うが、彼はそのフレーズはカッコイイけどなぁと本当にいつも通りの態度でヘラヘラしていた。


「ていうか彼女出来たら自慢しまくってるし。いいよな〜沙檻は!何やってもキャーキャー言われてさー」


「お前……覚えていないだと!?何故だ!?」


「ぅわっ!?」


 つつじの後半の言葉等今のコークには全く耳に入っていなかった。

 冗談でそうしらばっくれているのなら殴ってやるつもりでいた。

 コークはつつじの胸ぐらを掴み上げ黒板に背中を押し付けた。


「お前の恋人は殿堂梨杏……!!同じクラス()()()奴だ……!!」


「さ、沙檻……?」


(お前だけは……忘れてはいけない……忘れるはずのない……)


 こうして声を荒らげて詰めかけてもつつじはコークに対し何を言っているんだという表情をしていた。

 それが苛立ちを増長させるがコークは気が付いてしまう。

 つつじから手を離し、重要な事に気が付いて思わず手で顔を覆った。


「……そ、うか…………コイツは…………」


 白花の言葉が急にフラッシュバックされる。


 “貴様は能力を使える、だがコイツは……一般人だ”


「……アリーシャ隊に……関係……していない……」


 だから彼に殿堂梨杏の事を教えても意味が無いのだ。

 ぽつりと呟くがつつじは相変わらずぽかんとしていた。


「デンドー?何かお姫様みたい…」


「去れ」


「え、いきなりなん――」


「いいから失せてくれ」


「よ、よくわかんないけど……またね……?」


 コークの威圧に怖じたつつじはそそくさと鞄を持って教室から逃げ去った。

 足音が遠くなるのを確認するとコークは身体の力が抜けて思わずその場にへたり込んでしまう。


「……何故……他人事なのに……こんなに苦しいんだ……」


 コークは一人、苦しみに狼狽えていた。

 こんな時だけは、人間らしい感情等捨て去りたいとさえ思ってしまった。


 ―――


 一同は自宅にて、互いの顔を見合わせると今後の決心を誓った。


「白花に勝つ事が……梨杏ちゃんに安心して眠ってもらう報いだ」


 ラヴィッチが真剣な表情で皆に話す。


「足を折られようが目が見えなくなろうがどんなに怪我をしようが必ず勝つんだ……!」


 響も恐ろしい例えを挙げるが絶対に負けないという意志の強さは伺える。


「私達アリーシャ隊は悲しみも苦痛も乗り越え、必ず平和を切り開く」


 コークの発言に一同が頷く。

 彪はアリーシャ隊ではないが引き下がる気は無いようで同じように頷いていた。


 これだけ信頼出来る仲間がいるのなら白花戦もきっと大丈夫だと、そう思える気がした。



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