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11月10日、11月14日、11月19日

 

―十一月十日―


 今回は各学年の授業に体育があり一年は体力測定、二年はグラウンドで長距離走、三年はバスケットボールを行う事となっている。


 まずは二年。

 長距離を走るという事なので準備体操は万全に行い各々ウォーミングアップをしていた。


「俺達は千五百メートル走だったな、余裕だ」


「ナイチとは敵だけど負けないからね!」


 ラヴィッチもナイチも負ける気は無いと燃え上がっていた。

 普段から競い合っている二人だからこそ勝ちにこだわるのだろう。


「いいよなーお前らは」


「唖理架」


 ベタなブルマ姿のタルクは羨ましそうに二人の姿を眺めていた。理由は分からないがとても不満がある顔だ。


「オレ女の姿だからそっち行けねーんだよ。千五走りてぇのに」


「まぁそう言うと思ってた」


 女子は体力に配慮して八百メートルと男子より短い距離なのだ。

 彼は男だから体力が有り余っているのだろう。それでぶつくさ文句を言っているのだ。


 そんなこんなで始まった長距離走。

 まずは女子が数人ずつ走って行った。


「はっ……」


 一番先にゴールしたのはライムだった。息切れをすることも無くぶっちぎりでゴールへ到着し他の女子から憧れの歓声が上がっていた。


「ライムちゃん、おつかれ!」


「あぁ、ありがとう。……ゆうとクロは?」


 運動部のマネージャーばりに緑がタオルを渡し、軽く汗を拭うライムだったが一緒に走っていた倭と茜を探す。

 すると少し離れた所で遠慮なく地面に倒れて全身で呼吸をする二人の姿があった。


「あーもーさや団長おらんと元気でーへんわー!」


「うう……もう無理……」


「……倭ちゃん、次あたし達のクラスの男子が走る番だよ」


「え……在原ちゃん達!!」


 緑がそう伝えると、先程まで息も髪も乱していた倭が勢いよく身体を起こして瞳をキラキラさせながら男子を見た。

 そこには早速ラヴィッチとナイチがスタート地点に立っていた。


「ねぇ馨。ここで君と戦えるなんてね」


「あぁ。まぁ、俺の勝利は確実だがな」


「よく言うよ。君はまだ分かってないみたいだね、僕の力に」


「なんとでも言え。今の内だぞ?そうやってほざくのもな」


「おーーい、始めてもいいかーーお前ら」


 メラメラと対抗心を燃やし続ける彼らに担任の姫川がホイッスルを鳴らした。

 二人がクラウチングスタートの体勢を取る姿を遠くからタルクがずるいなと見ていたが何かを閃いた。

 姫川のスタートの掛け声と共にラヴィッチとナイチが構えたが隣にタルクが割り込んできた。


「オレにも走らせてください!」


 痺れを切らして男子の方に混ざりに来たようで既にラヴィッチ達と同じようにクラウチングスタートのポーズを取っていた。


「……まぁ、いっか」


「いいのかよ……」


 姫川は適当に頷くとホイッスルをくわえ直した。


 場所は変わって体育館内。

 この学校の体育館はそれなりに広く、クラスで半分ずつ使用しても充分余裕があるのだ。

 そこでは一年と三年が別々に競技を行っていた。


 一年は体力測定でまずは握力の測定を各自行っている。


「白妬様~。私、全然握力ありませんでした~」


(くそ……今更だが平和すぎるぞこれ。この私が握力測定等くだらん……!)


 一生懸命手に力を込めるハーモニーの隣で白妬が拳を握りながらイライラした様子だった。

 次どうぞとハーモニーに握力測定器を手渡され、白妬は己の感情をその機械にぶつけて思い切り握る。


「ああああああああぁぁぁっ!!」


「し、白妬様~!壊れますよ~!!」


 メリメリと今にも破壊されてしまいそうな嫌な音を出しながら握った握力測定器には未知数の数値が表示されていた。


 一方の彪と響も同じように握力測定を行っていた。


「お!男子の平均よりちょっと上だったな」


 彪は自分の数値を見て自慢げにえんばって笑う。

 それを隣で響も見ていて、凄いねと褒めた。


「へへんだ!俺をチビだの貧弱だのと舐める奴を見下してやるよ」


 これならば響にも勝てると彪は煽るように挑発してみる。

 響に測定器を渡して馬鹿にしたように嘲笑ったが次の瞬間それが覆る。


「ま、お前は俺に及ばねぇだろうけ…………どひゃあああアアア!?!?」


 白妬と同じようにメリメリと締め付ける響の握力に、彪は漫画のように引っくりがえり驚いた声を出してしまった。


「あ、壊れちゃったかも」


「お前が優勝だわ……」


 ヘラヘラしている響に、やっぱり勝てないとガックリ肩を落とす彪だった。


 体育館の反対側では三年がチームに分かれてバスケットボールを行っていた。

 コークが慣れた手つきでドリブルをしながら相手のゴールへと向かう。

 相変わらず女子からは黄色い声が上がっている。


「相変わらず人気だなお前!」


「ほんとに!モテるよね沙檻」


「知るか」


 そこへつつじと捺紀が立ち塞がるもするりと間をすり抜けて奥へと進んでいく。

 バスケットボールの経験など皆無のはずだがすぐに順応してしまうのもコークの凄いところだ。

 恐らく人工知能の知恵を借りてその通りに動いているのだろう。


「何よこの漫画みたいな歓声……どれだけ人気なのよあの人は……」


 その光景を梨杏も眺めて呆れていた。

 コークはジャンプをしてボールを投げると綺麗にゴールへと吸い込まれていくように入っていった。


 つつじに無理やりハイタッチをせがまれぎこちなく両手をかざす姿を見て梨杏は考える。


(つつじ君とは敵同士だけど……。彼には学園祭の事で借りがあるから応援だけでもしてあげようかしら……)


 今だけつつじにごめんと心の中で謝ると意を決して口を開く。


「コー……ぶふっ!?!!」


「おい石黒ぉおおおおお!!!!」


 だが梨杏がうっかり本名で呼びかけたのですぐボールを彼女の顔面に投げつけ阻止した。

 つつじが絶叫するがスルーである。


 一年の方では天宮おのかが各生徒の握力数値を見てドン引きしながら授業を切り上げた。


「えー、握力測定の勝敗は琴吹と黒花が圧勝だったんでもう残りの時間は自由時間でいいぞー」


 好きな事をしていていいと先生に言われ、喜ぶ生徒達。

 ハーモニーが三年の所から転がってきたバスケットボールを抱えて、皆でやってみようと誘う。


(今度は玉転がしだと……この私が……?)


 相変わらず白妬はイライラした様子だが立ち止まり、もう気にしたら駄目なんだと一人で自問自答する。


「ならば乗ってやる……!」


「え、白妬さん!?」


「響達も来い!」


 ボールが白妬の言うことを聞いているかのように錯覚してしまう程のドリブルの上手さに生徒達も脱帽だった。

 クラスの女子数人が敵役になると立ち塞がり、白妬の動きを止めさせる。


「大河!」


「よし来た!」


 白妬は敵の足の間からボールをパスして彪へ渡した。


「萌!パス!!」


 出来るだけゴールに近付こうと全力で走り目の前に自分より背の高い女子が立ち塞がったので横にいるハーモニーに思い切りボールを投げつけた。


「は、速いです~っ」


 しかしボールが速すぎて彼女の顔面にぶつかってしまいそうになり、痛みを覚悟して目を閉じる。

 だが響が間一髪の所でキャッチし、防いだ。


「危なかったね!」


「い、命の恩人様です~」


 そして白妬の名前を呼んでボールを投げ渡した。

 白妬はしっかりと受け取るとゴールに背を向けた状態で片手でボールをゴールに投げる。

 テレビの衝撃的映像集にあるような綺麗なゴールが決まりクラス中から賞賛の拍手が喝采した。


 そして一方二年に戻り、ラヴィッチとナイチはどちらも引くこと無くひたすらに走り続けていた。


「なかなか……やるね、馨……!」


「はっ……だから言ってるだろう……っ。俺の勝利は確定して、いると……」


 しかしさすがにぶっ通しで全力疾走しているので声に余裕が無いのが分かる。

 ラスト一周の所で先に遅れをとったのはラヴィッチで、すぐにナイチが追い抜いていく。

 足がもつれて倒れかけるがラヴィッチはどうしてもナイチにだけは負けたくなかった。


「負けないもんねぇぇぇぇぇ……ッ!!!!」


「なんだと!?」


 最後の力を振り絞りラヴィッチがグンとナイチを抜いて行った。

 まだそんな体力が残っていたのかとナイチは舌打ちをするがさすがに追い抜く余力は無さそうに見える。


 ラヴィッチがゴール前数メートルの所で後ろから猛ダッシュで地面を蹴る足音が聞こえてきた。


「このタル……唖理架様を……舐めんじゃねぇぇぇえええッ!!!!」


 実は密かに彼らの後ろに付いて走っていたタルクが寸前でラヴィッチを抜き、ゴールしてしまった。

 二人で競い合っていたものだからタルクの存在を忘れていのだ。

 長距離を走れた達成感にご満悦のタルクをよそにラヴィッチ達は中身は男だが身体は女子の奴に負けたと肩で息をしながら意気消沈していた。


 --------------


―十一月十四日―


「……」


 コークは自分の教室で、あるプリントを片手に浮かない表情でいた。


「沙檻~、まだ悩んでるの?()()()()


「……あぁ」


 捺紀が背後から顔を覗かせてコークに尋ねる。

 このプリントは数週間前に配られていたもので提出期限間近になってもコークは未だに白紙のままなのだ。

 コークが頷くと捺紀は、彼の席の前の人の椅子を借りて向かい合うように座って笑う。


「進路は他のみんなも悩んでるみたいだけどさ、沙檻なら大丈夫じゃない?頭いいし、悔しいけど」


「それはそうだが……。というかお前も成績良いだろう」


「あ、肯定するんだ」


 結局今日も何と書いたらいいか分からず白紙のまま自宅に持って帰ることとなってしまった。


「……進路?」


「そうだ」


「僕達もちょっとずつ進路の話に触れてきてたけど……」


「あー、兄貴三年だもんな。そういう時期か」


 自宅に帰り、コークは進路希望の話を皆に話してみた。

 一年の響達ですら既に進路希望の話が上がっているというのに、十一月の時点で白紙はまずくないのかと懸念される。

 下手したらもう就職先が決まっている人もいるだろうに。


「イイじゃん、第一希望に戦士って書けば」


「ただの頭おかしい奴にしか思われんだろう」


「なら、戦争拒絶者とか英雄とかは?」


「殺されたいか?ラヴィッチ・イザード」


 からかうタルクとラヴィッチをじとっと睨むが気にも止めていない様子で適当にあしらわれる。

 コークの機嫌が損ねぬ内に答えを導き出さねばとハーモニーが話を戻す。


「……ですがさすがに何か書いて出さないとですね~」


「コークの将来、か」


 ナイチが眉をひそめて考え込む。

 とりあえず適当に一つずつ職業を挙げていってしっくり来るか想像してみる事にする。


「医者、看護師、プログラマー、店長、作家、画家、占い師、大工、スポーツ選手、パティシエ、飼育員、アイドル……」


「……ねぇわ」


「勝手に想像して引くな」


 今挙げた職業にコークを当てはめてイメージするも違和感しかなく、タルクが首を振った。


「んー、じゃあさ…学校の先生は?」


 ラヴィッチの提案で先生として働くコークを想像してみる。


 ―――


 場所は放課後の誰もいない図書室。

 コーク先生が資料を読み漁っていると女子生徒から声を掛けられる。


『先生……』


『ん…お前か。どうした』


『テストの事で質問があって……赤点だったので』


 女子生徒はそう言って机に問題用紙を広げると、ここがよく分からないと指をさす。

 コーク先生は眼鏡を指でクイッと正すと生徒に隣に座れと椅子を引いた。


『あー、これはな…覚えてしまえば単純なものだ。ノートはあるか?説明してやろう。これは……』


 ―――


「あっ、なんかいい感じだね」


「教師は問題なさそうだな」


 博識なコークだからこそしっくり来る職業である事が分かった。

 それと余談だが眼鏡姿が似合う。


「……」


 コークもコークで悪くないと思って黙って聞いていた。

 するとタルクがある事を言い出す。


「実はこのストーリーには続きがあってよ…」


 ―――


『じゃあこれは、環境を守る配慮、と健康を守る対策、を選べば良かったんですね』


『そういう事だ』


 コーク先生の説明をよく理解したようで嬉しそうに微笑み、答えを書いてから問題用紙を鞄に仕舞うと生徒は立ち上がった。


『先生、ありがとうございまし――っきゃ!?』


 しかしお礼の言葉はコーク先生が彼女の手首を強く掴んだ事により遮られてしまった。

 持っていた鞄を落としてしまい中から教科書がばら撒かれるが気にも止められずに本棚に背中を押し付けられる。


『お前……本当は分かっていたんだろう?……保健のテスト』


『そんな、こと……っ』


 生徒の顎をクイッと上げさせて視線を強制的に合わせる。

 少し熱っぽく吐息を交じらせ囁くと分かりやすく生徒は頬を朱に染めた。


『では何故成績優秀だったお前が私の保健体育(テスト)だけ赤点を取るんだ』


『っあ…っそ、れは……』


 コーク先生は生徒のブラウスのボタンを外して乱すと首元に噛み付いた。

 先生にはお見通しだったようだ。


『ほら……正直に言え。ちゃんと言えたら……』


 コーク先生は眼鏡を手際よく外して床に放る。

 そして生徒の目を至近距離で見つめると舌をチラつかせた。


『ご褒美をやるよ』


『っ、わた、し……先生が…』


 ―――


 濃厚な展開になる寸前でコークがタルクを殴り、ぶっ飛ばした。


「ふざけた妄想をおっぴろげるな」


「悪ノリごめーーーん」


 拳をさすりながら静かに怒りをあらわにするコークの目の前にタルクが大の字で倒れている。

 結局そういうイメージが定着してしまうので教師もボツだ。


 そもそも学校に通う事など思ってもみなかった出来事で就職やら進学やらと話をされても困ってしまうのだ。

 もちろんサランが働けと命令すれば従うだろうが今すぐに決められるものでも無い。

 コークは進路希望のプリントに触れ、溜息をつきながら眉をひそめた。


 翌日。コークは教室で担任の都築に呼ばれたがやはり内容は進路希望の事だった。


「石黒ー、進路希望書いたか?」


「あ……まだ書けてな――」


 ふとポケットに入れていた進路希望のプリントが都築の足元に落ちてしまった。


「ん?」


 すぐに都築が拾ってくれたが、白紙のはずのプリントを見て彼の表情が穏やかになっていき、やがて爆笑しだした。


「っはははは!何だちゃんと書いてるじゃないか!くくくっ!でも石黒……キャラ変わったなー!」


「は?」


「精々頑張りなよー!ははっ」


 何故か大笑いする都築に疑問を抱いて何が書いてあったと聞こうとしたがそそくさにプリントを持って教室から出ていってしまった。

 しかしほんの一瞬手に持っていたプリントが表向きになり彼の抜群の視力で内容を確認する事が出来たのだが。


「……はぁ?」


 それを見て思わず大きな声が出てしまった。

 そこに書いてあったのは……。


 “第一希望、留年”、“第二希望、戦士”、“第三希望、鞭製造者”


 というものだったからだ。

 全く身に覚えのない事と、逆に見覚えのある筆跡に誰が仕組んだのか思い当たり、彼は家に帰ってから()()()を滅多打ちにするのだった。


 --------------


―十一月十九日―


「うるせぇ!!!テメェらなんかにオレの気持ちがわかるかよ!!!」


 自宅の玄関でタルクの怒声が響いた。

 彼の目の前にはラヴィッチ、ナイチ、響、コーク。

響はオドオドしていたが他の三人は表情を変えずに冷徹にタルクを見ていた。


「八つ当たりか?」


「腕の鈍りは自分のせいでしょ」


「ちっ!勝手に言ってろクソが!!」


 そう吐き捨てると踵を返して外へ出ていってしまった。

 しん、と静寂が広がる。


「私達の強さ故の嫉妬…か」


「出てっちゃったけど……帰ってくるよね!?タルク!」


 ここ最近タルクは彼らとの戦闘訓練でかなりアラが目立ち空回りしては助けられていた。

 もう時期自分の母が戦闘に来ると思うとどうしても気持ちが焦って冷静で居られなくなるのだ。


(……オレ、強くなってんのかな)


 夜道をとぼとぼと歩きながら物思いにふける。

 確かに気持ちを乱す自分が悪いのは分かっているが、それに対して彼らはこちらが一方的に悪いと蔑んできたのだ。

 思い出して不意に舌打ちしてしまう。


「……あら?貴女は」


「あ?……おぉ、トクタイセーか!」


「お久しぶりですっ」


 声を掛けられ振り返ると三人組の月の姫の特待生がいた。

 和解した後もこうして気軽に声を掛けてくれるのが嬉しく感じる。


「他のみんなはどうした?こんな真っ暗で寒いのに一人なのか?」


「う……実はケンカしちまって……」


 バツが悪そうに頭を搔くと、キルトがそれなら、と優しく微笑んだ。


「私達の家、来る?」


 そう気を遣って誘ってくれるが、少し申し訳なくなった。

 前まで一応敵同士だったのだから多少は躊躇われる所がある。

 そう言うと、エレディスは目をそっと伏せて笑う。


「今は、違うでしょう?」


「寒いから良かったらお風呂も入って行って?」


「ほら、早く行くぞ」


「……お前ら」


 とても敵だったとは思えないくらいの優しさに胸が熱くなるのを感じた。


 シャワーの音が風呂場に響く。

 ゴシゴシと頭や身体を洗う摩擦音にもくもくと沸き立つ湯気。


(そうだ……何も言ってねぇからオレのこと女だと思ってんだ……)


 そりゃそうだと浴槽内で彼女らに背を向けながら嘆息する。

 女同士なので普通に裸体を隠すことなく洗い流すものだから、タルクはつい恥ずかしくなってよそよそしく壁を見ていた。


「超特待生の四人やキャリア姫から聞いたけど……今度の敵は貴女達の母親なんですってね」


「あ……あぁ」


 情報が既に回っていた事に少し驚いた。

 それはそうだ。向こうにはサランもいるのだから知って当然だろう。


「ところで月の姫って、なんなんだ?生まれた時からそういうとこで育ったのか?」


「んー、私達は子どもの頃に死んでから月の姫に生まれ変わったんだよね」


「え、死んでんのお前ら!?」


 相変わらず顔は彼女らから逸らしたまま、タルクが話に食いつく。

 話していいのかよとリンリンが止めようとするが、別に秘密にしてとキャリア姫から言われてないから良いとエレディスが首を縦に振った。


「人間として生きていた時……街中で無差別殺人が行われ、私は狙われたクラスの友人を庇って銃殺されたわ」


「……」


 最初に口を開いたのはエレディスだった。

 淡々と話すが決して辛くない思い出では無いはずだ。


「私には学生時代好きな奴がいてよ、ソイツが実は卑劣な奴で私の事を侮辱して来たんだ。だから腹が立ってボコったら死んじまって。私は自分の過ちに気付いてその場で自害した」


 リンリンにもそのような苦い過去があったとは驚いた。

 ボコったら死んでしまったということは彼女は人間だった頃から負けん気が強すぎたのだろうか。


「私は……学生時代いじめられてて、クラスの人に川に突き落とされてそのまま流されたの……」


 キルトは今でも胸が痛むのか、両手をぎゅっと掴んで震えを抑えていた。


「そんな時に声を掛けてくれたのがキャリア姫だった。彼女は私達に力を与えて生まれ変わらせてくれたのよ」


 タルク自身の過去も悲惨なものではあったが、彼女らにも色々事情があった事を知り、つい黙り込んでしまった。

 覆水盆に返らずだが、もしあの時お互いの事情をきちんと話せていたら戦い合う事もなかったのでは無いかと今更ながら思う。


 そして月の姫に生まれ変わって全く別の世界で生活をすることになった為、学校の友人や両親とは会えずじまいらしい。

 行方も足取りも何もかも分からない事から未解決の行方不明事件として時効になったようだが。


「寂しくない、のか?」


「……!」


 我ながら掠れた声だと内心で笑う。

 月の姫として新たな生活をして仲間と生きていくのはいい事かもしれないがタルクは腑に落ちなかった。


「いつも傍にいた人達に会えなくなって……連絡も取れなくて……新しい地で生活して」


 まるで自分のようだとは思った。

 突然姉を失って、怒り狂う彼にサランが声を掛けて、母親の元を勝手に離れて力を手に入れて。


「そう、だね……寂しくないって言うと……嘘になるね」


「でもまぁ、生まれ変わらせてくれたキャリア姫の為に生きていこうと決心したからな」


「そういう貴女も、いつもの仲間がいなくてどこか寂しそうよ?お風呂上がったら急いで帰りなさい?」


 感情を読み取られていた事に気恥ずかしくなったが、言われた通りなので何も返さずただ頷いた。


「――……ただいま」


「……」


 それからすぐに帰る支度をして自宅に恐る恐る戻ってみると、玄関前であの四人が先程と変わらない表情で立っていた。


「…ごめん!!オレ……カッとなって、悪いのは自分なのに八つ当たりして……ホントに悪かった……!」


 あのタルクが頭を下げて謝罪をした。

 沈黙が痛い。下を向いているから彼らの表情が読めないからだ。


「帰ってこないんじゃなかったのか?」


「全く、自業自得だ」


 だが返ってきた言葉は予想とは違って突き放すようなものだった。

 胸がぐっと痛くなり、涙目になっていくのが分かった。


「う……悪かったって……言ってんじゃん……っ」


 恐る恐る顔を上げて許しを乞うと、響が思い切りタルクに抱き着いてきた。


「僕達心配してたんだからね……!」


「響……」


「タルク、ごめん。僕達も言い過ぎたよ」


「ラヴィッチ……いや、オレこそ悪かった……」


 安心して泣きつく響を宥めつつ、ラヴィッチにも一瞥する。

 数時間だが勝手に家を出てしまったことに申し訳なさわ感じた。


「……寒かったか?」


「俺達はもう入ったから貴様も入ってこいよ、風呂」


「お、おぅ」


 あのコークが気遣いをするとは驚愕だ。

 ナイチも先程の刺さるような目付きではなく優しいものとなっていた。


(やっぱりオレは……コイツらがいねぇとダメだな)


 目を閉じて笑って皆の輪の中に入っていくが、タルクからシャンプーの匂いと女の人の匂いがすると響に指摘され、どこの誰と会っていたと騒動になったアリーシャ隊であった。


評価よろしくお願いいたします!

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