11月5日
「……という訳なんだ!突然で申し訳ないんだけど演じてくれないかな!?」
学園内の廊下で、あからさまに慌てた様子でアリーシャ隊に懇願する捺紀。
彼の耳には獣のような尖った付け耳が装着されていて緊迫感が正直無い。
「本当にごめん!対戦相手には負けるように言ってあるから!」
「しかしノープラン過ぎるな」
「んー、まぁいいんじゃない?やろうよ」
捺紀の頼みにナイチが渋るもラヴィッチがすんなり承諾してしまった。
ちなみにナイチは黒いマントに赤い角と鋭い牙を身に付けた所謂吸血鬼の格好をしている。
ラヴィッチは紫のつばが大きい帽子に同じくマントを身に付け箒を片手に男性バージョンの魔法使いになりきっていた。
呆気なくいいよと頷いてくれた事に捺紀は感謝し、メイド服姿の響に黒ずくめの長めの上着を手渡した。
「ありがとう……!!あ、響!女装でみんなの前に出るのは恥ずかしいだろうから上着貸すよ!」
「うんっ!どうも」
特に恥ずかしそうにはしていないが借りた上着に袖を通しながら嬉しそうに礼を言う響である。
本日は学園祭。
時は午前に戻り九時を過ぎた頃。
ラヴィッチ達二年のクラスの出し物はお化け屋敷だ。
彼が教室の前に立ち、魔法使い姿で客引きをしていると向こうから響と彪が歩いてくるのを発見した。
隣にいたナイチは二人を見て驚愕する。
「あれ、響と彪だ。二人ともその格好は…」
「僕達のクラスはメイド喫茶なんだっ」
「貴様ら男まで犠牲になるとはな」
二人はナチュラルにメイド服を着こなしていた。
どちらも顔が幼いからその姿で来られると普通に女性に見えてしまう。
「で、お前らは?」
「見てわからんか?お化け屋敷というものだ」
「っ!?」
彪がナイチに尋ねるので教室前のいかにもダークなお化け屋敷と書かれた看板を見せると彼は分かりやすく顔を引き攣らせぐるりと背を向けた。
「き、響!三年のクラスも見に行こうじゃねぇか!!」
「待て待て貴様。どうせならここ入ってけよ」
「そうだよっ!楽しいよきっと!」
「嘘つけ!!!」
「丁度入ってる人いないし。はい♪二名様ご案内~」
「っざけんなぁあああ!!!!」
トントン拍子に話が進み、彪はラヴィッチに背中を押され響と一緒にお化け屋敷の中へと案内されてしまった。
薄暗い教室内は怖い程に冷えきっていてより臨場感がある。
「マジでこえぇって……」
「彪、こういうの苦手?」
「普通に苦手だわ!!」
親友を先頭にして後ろから肩を掴んでじりじりと歩く彪。
彼とは対称的にいつもどおりのふわふわした面持ちの響は特に怖がることも無く前へと進んで行く。
「た……例えばな?今みたいに道を真っ直ぐ歩いてる時によ……突然うわぁ!とか手が出てきたりしたら……」
『ウワアアアア!!!!!!!』
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"」
彪の例え話が現実と化し、彼の真横に薄気味悪い真っ白な手が突然出てきたのだ。
驚いた彪は我を忘れて絶叫し逃げるように走っていってしまう。
「ちょ、今はメイドさんの格好なんだからもう少し女の子らしく……!」
「キャアアアアアア!!!!」
「あー……それならいいかな……」
叫び声をほんの少し女性寄りに変えて全力疾走して行く彪を響が苦笑いしながら見送っていた。
一方外で店番をしていたラヴィッチとナイチは客引きを続けていた。
「……大河の声だ」
中から聴こえてくる彪の絶叫に本当に苦手なんだと笑い出しそうになるのをナイチが堪えていた。
「あ!コー……じゃないや、沙檻に雅君……だっけ」
ラヴィッチは向こうからコークの姿が見え名前を呼び掛けるが隣に一般人のつつじも歩いてきたので咄嗟に偽名に呼び変えた。
「お前達は幽霊屋敷か」
腕を組みながらお化け屋敷の看板を眺めるコークは冒頭の捺紀と同じく獣の耳にビリビリのタンクトップ姿、ダメージジーンズ、鎖が垂れ下がった首輪を身に着け大胆な格好をしていた。
意外とノリノリなのかもしれない。
隣のつつじも熊の耳に首輪とビリビリのTシャツを着て、彼らしく首からネックレスを下げて自己主張していた。
二人の格好だけでは出し物の想像がつかなく、ラヴィッチは尋ねた。
「君達のクラスは何やってるの?動物系?」
「獣人喫茶だよ、お嬢さん」
「へ?おじょーさ……?」
「君の事さ。是非三のBに来て僕と愛の舞踏会を開こうじゃな――」
「こいつは男だ」
「げはっっ!!!!」
ラヴィッチを女性と勘違いしたつつじはベラベラと口達者に彼をナンパするがコークに背後から足蹴りされて撃沈した。
また男を意識してしまったとしゃがみ込み項垂れるつつじと、女性に間違われてしまったショックでラヴィッチも床に崩れ落ちて泣いていた。
ナイチが気を利かせて話題を変える。
「そ、それにしても喫茶店なら響達のライバルだな」
「あいつらは何処にいる。先程一年の教室を見に行ったが見当たらなかったぞ」
「あーアイツらなら多分もうじき……」
ナイチがお化け屋敷の出口を一瞥するとタイミング良くそこの扉が開き、彪が全力疾走で出てきた。
後を追って響も小走りで脱出する。
「……ら、ラストに……足掴むとか……完全に気ぃ抜いてた……畜生……っ」
彪は腰を抜かしたようで床に座り込み呼吸を整えていた。
新たな彪の一面が垣間見れ、響は嬉しそうにニコニコしていた。
「……ほぅ」
その光景を横目で見ていたコークはお化け屋敷という物に興味を持ったのか何か考える素振りをして、つつじの首根っこを掴んだ。
「雅つつじ、入るぞ」
「えっ、僕も!?うそーーーん!!!」
そう言って強制的に入口のドアを開けてズカズカと入って行ってしまった。
「に、二名様ご案内……?」
「問題ないだろう……」
ドアが閉まってから速攻でつつじの絶叫が聞こえて来たが触れないでおく事にした。
所で響達と同じクラスである白妬とハーモニーが居ない事に気が付いたラヴィッチは二人に問い掛けてみた。
「わっかんないなー。何処か回ってるんじゃないかな?」
「女子は女子で、な」
(うわ、今本当に女の子に見えた……)
スカートを翻して爽やかに笑みを向ける姿がつい女性に見えてしまってラヴィッチは心の中で僕だけじゃなかったと安堵していた。
「……あいつら……クソ!!!!!」
「白妬様~笑顔です~っ!」
その頃白妬とハーモニーは自分のクラスのメイド喫茶の店番を任されていた。
地団駄を踏みながら怒りをあらわにする白妬は響達と同じようにピンクを主張とした胸元のリボンがポイントのメイド服に身を包んでいた。
普段片目を隠していた包帯はせずに今日だけ薔薇をあしらった眼帯で覆っていた。
一方ハーモニーは自作したのか大人のハーモニーが着ていたドレスを着用していた。もちろんサイズは小さめで。
当時付けていた眼帯もそのまま引き継がれている。
「私らに仕事を持たせやがって」
「あっ、白妬様、お客様です~」
客が来店した時に鳴るカランカランという音がしたのでハーモニーは白妬に案内させようと肩を叩く。
機嫌の悪い白妬は舌打ちをして入口の方へやけくそに向かう。
「ちっ……お帰りなさいませぇえええッ!!!」
「あっ、白妬」
「…………」
客は倭だった。
お化けの三角巾を頭に着けて白い着物を着用して白妬のメイド服姿を見て固まっていた。
こんな格好を姉の倭に見られてしまった事に血の気が引いて行く感触がした。
「可愛いぃいいいいいっ!!!」
「ちくしょおおおおおおおっ!!!」
倭は頬を緩ませて白妬の女の子らしい格好に見惚れ強く抱き着いた。
隙を見て教室から抜け出そうと企んでいた白妬だったが倭に捕まった事でしばらくは動けなくなってしまった。
場所は変わってお化け屋敷の中。
コークとつつじは暗い道をスイスイと進みながら会話をしていた。
「石黒はこういうの苦手だったりするのか?」
「私か?まぁ、突発的なものには驚く事はあるが…」
「ええー!?石黒が!?」
コークも驚くという事実につつじの方がびっくりしてしまう。
それもそうだ。コークが驚く様など想像もつかないからだ。
「……ん」
一本道を抜けると少しだけ広い部屋のような所に辿り着いた。
そこにはテーブルに椅子にテレビと殺風景に家具が置かれている。
テーブルの上にメモが置いてあり、見ると椅子に座れと指示が書いてあったので大人しく二人で座る事にした。
「……シュールすぎる」
獣人二人が黙って隣同士椅子に座る姿が物凄く滑稽だった。
すると突然目の前のテレビの電源がついて自分達が現在座っている姿が映し出された。
恐らくテレビの何処かにカメラが置かれて撮影しているのを画面に映しているのだろう。
だがその画面がノイズがかり不気味な音と共に映像が乱れ始める。
よく見るとコークとつつじの間に誰かが映っていて思わず振り向くと髪を乱した女性が笑いながら二人の間に立っていたのだ。
「ぎょわぁあああああ!!!!!」
つつじが絶叫して立ち上がり、コークの手を掴んで走り出口へと急いで向かった。
「っはぁ……はぁ……と、隣に居るんじゃねぇよってな…………石黒?」
つつじが教室の外で座り込みながら呼吸を整えながらコークに同意を求めるが返事が返ってこなかった。
不思議に思い名前を呼ぶと、コークは少ししてから瞬きをし、我に返る。
「……あ、あぁ。少し人工知能がエラーを起こして思考停止していたようだ」
「え!?お前どうなってんだ!?」
どうやらあれはコークでも驚いたようだ。
生徒が作るお化け屋敷とはいえかなり本格的でその後も沢山の客が入ってきたそうだ。
「これホント客ウケ良いよなー」
ちなみにテレビに映るお化け役はタルクだった。
包帯で全身をグルグル巻きに覆い、口から血糊を付けているその姿は、完璧にお化けである。
―――
「お、みんな時間余ったようだな」
「あ!唖理架おつかれー!」
偶然にもアリーシャ隊と彪は時間が取れたようで合流する事が出来た。
お化け役を演じていたタルクが来て全員揃い、ラヴィッチはお疲れと彼にハイタッチをする。
するとピンポンパンポンという校内放送の音が鳴り、何だろうと注目した。
『午後四時からは全校がお待ちかねのコーナー、学園美男美女バトルが始まります!』
「あ、この声なつき兄だ」
「ていうか何その企画!」
声の主は捺紀のようですぐに彪が気が付いた。
しかしそのこれから行われるコーナーがよく分からず一同は黙って放送を聴いていた。
『ルールは簡単。この学園内の美男美女がバトルを行う、もう何でもありな企画です!ではその参加者である七名をお呼び出し致します!』
捺紀が明らかに楽しんでいるというのが声だけで分かる。
七名というのが引っかかるが誰が呼ばれるのか息を飲んで待つ。
『一年、琴吹響君、黒花白妬さん、闇坂萌さん。二年、榛陸唖理架さん、在原伊吹君、俚諺馨君。三年、石黒沙檻君。以上の生徒は今すぐグラウンドへ来てください!』
「えぇーーー!!!!?」
そして冒頭へ戻るのだ。
捺紀が適当に戦闘相手を用意して各々が戦いを始めて勝ってかっこいい姿をお披露目するのが目的らしい。
グラウンドには既に彼らを見たいと大勢の観客がごった返している。
やはり美男美女なだけあって人気のようだ。
「では!登場していただきましょう!」
心底楽しそうな捺紀が手を広げ、アリーシャ隊が登場する。
歓声や拍手が凄すぎて圧倒されてしまいそうだ。
「ルールを詳しく説明します!おれが敵役を用意したのでそれと一対一で戦ってもらいます!まぁ観客に被害が出ないならどんな方法で戦ってもオッケー!ではスタート!」
「うわ適当……」
突っ込む暇もないまま強引に始めさせられてしまった。
だが大勢の観客がいる中で負けたりダサい姿を見せる訳にはいかないとやる気を見せる一同。
「とにかく倒せばいいんだもんね!……え?」
ラヴィッチは余裕そうに魔法使いならではの箒を片手に構えるが、それは勝手にグイッとひとりでに動き出す。
「ちょっ」
箒から手を離さないではいるが宙に浮いて素早く動き出すのでラヴィッチは上手く扱えずに振り回されている。
「ちょっと!何でこの箒勝手に動くの!?止まってよぉおおおお!!!」
『おっと!伊吹の箒が言うことをきかない!どうする!?』
捺紀が実況を始めるがラヴィッチは聞いている余裕がなかった。
敵そっちのけで箒に振り回される様子をタルクが他人事のように笑って見ていた。
「はははっ!派手にやってんなぁアイツ」
そう言ってタルクは自分の敵と目を合わせる。
彼も絶対に負ける気は無いと自信を持っていた。
「勝つしかないっしょ!!覚悟しろよ……!!!」
足に力を込め、勢いよく高くジャンプをするタルクに歓声が上がるが男子生徒が遠くからすぐに声をかけた。
「番長ー!!!パンチラ注意報発令っすー!!!!」
「んな!?!?それはいかん!!!」
『あー!残念!もう少しでラッキースケベが起こる所だったのにー!』
盛大な足蹴りをお見舞いしようとしていたが高く飛んだ事でミニスカートの中が見えそうになり声をかけてくれたのだ。
タルクは恥じてスカートを押さえて地面に着地した。
一方響は黒ずくめの上着に何故か鎌を持っていた。
「この武器といいメイドさんの次は死神になっちゃったよ僕」
敵を見ながら呑気ににへらっと笑う。
すると敵は響の真横を指さした。
「アンナトコロニイモウトガ」
「え、嘘……っぎゃふ!!!騙すなんて酷いよ~っ」
『響の顎に敵の膝蹴りが直撃した!大丈夫なのかー!?』
まんまと騙されて振り向いた響は敵に膝蹴りされ真上に飛んでしまった。
ナイチは響が飛んでいくのを見ながら自分の口元に手を当てた。
「そういや吸血鬼の格好だったな俺」
そう呟くと、それらしく行くかと敵に近付き瞬時に片手を掴み、もう片方の手で敵の服を乱して肩をさらけ出させた。
あまりにも自然すぎる動きに女子から黄色い歓声が上がる。
その首元に備え付けられた牙で噛み付くと更に周りから声が上がった。
「っ固!!!!」
『敵の肌が固すぎて噛めないというハプニング発生!そんなことがありえるのか!?』
しかし敵の肌は異常に固く、危うく歯が折れる所だった。
捺紀が用意したというこの敵は何者なのか敢えて突っ込まないで置くことにする。
アリーシャ隊が戦う姿を遠くで見てはマイクで実況している捺紀に彪が後ろから声をかけた。
「おい」
「彪」
「俺だけ置いてかれるとか傷付くんだけど」
「なに、彪も戦いたかった?」
「ちげぇよ」
彪は彼らと共に名前を呼ばれなかった事が何となく気に食わなかったようだ。
しかもピンポイントに彼らだけ選ばれたのも不自然に思えた。
「なんか選ばれたのが偶然には思えなくてよ。お前主催だからお前が選んだんだよな?」
「美男美女だから目立たせたかったってのもあるけど、彼ら転校生でしょ?だからもっと楽しんで欲しいなって思っておれが勝手に主催しちゃったんだ」
「……そっか」
あまりにもにこやかに答えるものだから自分が選ばれず機嫌が悪かったのが恥ずかしく思えてしまった。
ムカつく兄だがきちんと自分の友人達の事を考えていてくれた事が純粋に嬉しかった。
「…こんな雑魚、私の鞭で終わらせてやる」
コークが腰にぶら下げていた鞭を敵に向けて振るうが、そこにあった物は鞭ではなくハロウィン用の渦を巻いた形の大きなペロペロキャンディだった。
それが敵の頬にベシャッと当たり、周りから笑い声が聞こえた。
「……大河捺紀、嵌めたな」
『きゃー!沙檻可愛い~!』
どう考えてもコークの失態だが彼は捺紀のせいにして睨み付けていた。
女子からすれば彼の可愛いギャップを見られた気がして好感度が上がっているのだが。
睨まれた当の本人は女の子のような高い声でマイクから彼を応援していた。
「……はっ!」
白妬は敵からの足蹴りに、綺麗にバク転をしながら後方へ避けて行く。
女性なのに凛々しい姿に男子だけでなく女子からも黄色い声が上がっていた。
「片目はやはり辛いな、視野が狭い……。取ってもいいが完治した訳でもないしな」
「白妬~!!がーんばってーー!!!」
どう敵を倒すべきか避けながら考えていると観客席から倭の応援の声が聞こえて振り返る。
そこには倭だけでなくライムや鎖椰苛達もこちらを見て応援していた。
そこで改めて自分が恥ずかしい格好をして戦っているんだという事に気が付いて動きが止まってしまった。
(今更だが見られている……こんな痴態の私を……)
「いやだぁあああああッ!!!!ぶほぁっ!!!」
『おぉっと突然白妬ちゃんが絶叫!そこへすかさず敵からの飛び足蹴りー!!』
顔を赤くして叫ぶ白妬に敵が思い切り飛び足蹴りをお見舞する。
まともに食らってしまい地面に転倒してしまった。
一方ハーモニーは一人わなわなと慌てていた。
戦闘経験がほぼ無いのでどうしたらいいのか分からなかったのだ。
「敵さんに攻撃なんて出来ないです~」
「お色気だー!!」
すると観客席の男子勢から色仕掛けだとアドバイスをもらう。
それなら出来そうとハーモニーはドレスの肩口を少し乱してなるべく色っぽく敵を誘う。
「……貴方様は……この後お時間ありますか~?良かったら私と……って相手女性じゃないですか~!!」
『可愛いからよしだよ萌ちゃーーーん!!!』
周りから可愛いやら大好きやら俺を誘ってくれ等の男子勢の声が次々に聞こえて辺りが騒がしくなった。
(……まずい、観客からブーイングが……)
ラヴィッチは相変わらず箒に振り回され、観客からブーイングが聞こえてきて焦っていた。
「いやそもそもこの箒が……!?」
箒のせいにしていたがある事を閃く。
自分の言うことを聞かせるのではなく自分が敢えて聞けばいいのだと。
「うおおおおおお!!!」
そしてラヴィッチは箒の上に器用に立つと箒の動きに合わせてバランスを保ち、掌から覇弾を生み出しながら敵にぶつけた。
負けるように仕向けてあるからだろうがその一撃で敵は倒れて賞賛の声が周りから上げられる。
「な、なんか気持ちがいい……」
ラヴィッチは気分が良くなったのかしばらく箒に立っては宙に浮いて観客に手を振っていた。
「仕方がない。私の力を見せてやるか」
白妬はいよいよ吹っ切れてさっさと終わらせてしまおうと瞳の色を変えて敵を見つめた。
すると一瞬で敵はその場に倒れ込み戦闘不能となってしまった。
白妬が密かに覚醒し目線だけで相手を射てしまった事に観客は気づかず騒然としている。
「ふん、こんな奴……手もいらん」
冷徹に呟き片目を覆っていた薔薇の眼帯を外すと花びらが崩れて舞い散っていった。
あまりのクールさに歓声が上がるが白妬は片目を瞑りながらハッとする。
(しまった。ノリで眼帯を散らしてしまった……)
敵を次々と能力を使って倒していくアリーシャ隊を見ながら倭達は圧倒されていた。
「おいおい、全校の前で魔術を使って大丈夫なのか?」
「きっとみんな演出だと思い込んでるよっ」
ライムが懸念するが倭は楽観的で深く考えずに純粋に楽しんでみていた。
「そうね、誰も疑ってないみたいだし……安心して見れるわね」
レイも安堵して彼らの動向を眺めている。
「せやけどあの子らほんと凄いわ~二重の意味で」
「二重ってあれか、強いって意味となんだかんだ行事に参加してるってな。敵だったとは思えねぇよ」
茜はアリーシャ隊の変化にただただ驚かされていた。
鎖椰苛の言う通り、相変わらず強いというのとナチュラルに学校に通ってしっかりと行事に参加しているという律儀さに。
「……サランも見てるかな」
緑は空を見上げ、誰にも聞こえない位の小声でそう呟いていた。
「ああもう吸血鬼らしくとか……もう関係なしに行くぞ!」
ナイチは掌から魔弾を生み出すと、勢いよく敵に突撃して馬乗りになる。
そしてそれを相手の口内に無理やり放り込ませるとすぐに離れて背を向ける。
すると直後に爆発し、敵は跡形もなく消えた。
「わぁ、凄いね馨君!僕も負けてらんないっ」
響はナイチに触発されやる気が出たのか鎌を握る手に力を込めて勢いよく敵に鎌を振りかざした。
「えーい!!」
まんまと斬られてくれた敵は真っ二つに分裂して崩れ落ちた。
「こ、これホントに斬れたんだ……!」
切れ味抜群だった鎌を見下ろして驚く響だが真っ二つにされた敵にも驚愕だ。
観客は演出だと思い込んでいるから変に思われないだろうが。
「オレは騒がしい戦は好きじゃねぇんだ……だからすぐ終わらせてやるぜ」
殴りかかろうとタルクの方へ突っ込んでくる敵に、持っていた包帯を手際よく首に巻き付けて締め上げた。
呆気なく倒れる敵の背中に足を乗せて勝ち誇った笑みを見せる。
「オレのファンが増えるぜ……」
その光景を、学園内美男美女レジェンド枠の枯那や榛彌達が遠くから見ていた。
「うっはー!やってるねぇ!」
「枯那さん!皆さんも!」
喪奈が声に気付き振り向いて嬉しそうに駆け寄る。
満喜やミミも一緒に横に並んでいた。
「何か今年の学祭やばくない!?」
「伊吹君達すごい人気よね」
枯那は例年以上の盛り上がりに興奮が止まらなかった。
榛彌の肩を組んではしゃいでいる。
そんな彼女に呆れながらも歓声の多さが何よりもの証明になると榛彌も驚いていた。
「枯那の親戚の倭って奴の、友達なんだよな?」
「そうそう!」
犬耳を垂れ下げた満緯も興味深そうにしていた。
アリーシャ隊とは直接的に関わったことは無いが倭から話を聞かされていてどんな人物がなのか程度は理解しているのだ。
「……彼らと戦った事があるなんて口が裂けても言えませんわ……!」
「内緒ですっ」
ミミがあたふたし出すが喪奈は冷静に人差し指を口元に当てて秘密だと笑った。
「うっひょあーー!かっけぇー!!」
「枯那、ちょっと興奮しすぎ」
相変わらずテンションが高めの枯那を榛彌が注意する。
「えへへ、だってさ……みーんな可愛い後輩なんだもんっ」
「……そうね」
卒業生として誇らしく思っているのか枯那は心底嬉しそうに微笑んで榛彌を見た。
ピュアな笑顔に何も言えなくなり、榛彌もそれ以上は突っ込まないでおいた。
「……この場で私の無様な姿をこれ以上見せる訳にはいかない」
コークはそう言うと、瞬間移動で敵の背後に立ち観客から見えない位置からコードを伸ばし敵に突き刺した。
その直後に倒れる敵の姿に、先程の白妬の時と同じように何があったのかと観客席がざわつき出す。
「……甘すぎる」
観客の反応は無視し、ペロペロキャンディを舐めながら文句を言うコークであった。
「うぅーー……っ」
一方ハーモニーは敵に掴み掛かられ必死に抵抗していた。
「わ、たしは回復しか出来ないんですよ~っ……それでも来るのなら……」
ハーモニーの瞳が変わった。
涙で潤む瞳から光が消える。
そして大きく腕を広げると身体から鋭い矢が何本も伸びて敵を貫いた。
崩れ落ちる敵と同じようにハーモニーも尻もちをついて転倒した。
「頑張りました~!」
男子勢からの歓喜の声と手を振る姿を見て、彼女も手を振り返していた。
そして待ち構えていたかのように、天宮姉妹がマイクを独占し全校にアナウンスする。
「さぁ!以上を持ちまして学祭夕方の部終了でっす!」
「このあとはキャンプファイヤーです!準備の為少々お時間くださーい!その間私が一肌脱いで――」
「ほのか姉ちゃんは黙れ!!」
バニーガール姿のほのかが今にも脱ぎ出しそうだったので巫女姿のおのかが怒鳴る。
というか教師なのにそんな格好はアリなのだろうか。
男子ウケは抜群のようだから目を瞑ることにする。
―――
「つっっかれたぁー!」
「本当に~!あんな戦闘無茶ぶりすぎだよー!」
「でも案外乗っちゃったよね」
「仕方ないだろ。場の雰囲気を良くするにはああするのが先決だったんだ」
キャンプファイヤーの時間だが、アリーシャ隊は疲労でそれ所ではなく適当な空き教室で身体を休めていた。
ラヴィッチは机に突っ伏して今にも寝てしまいそうだ。
ナイチの言う通りあの場で乗らない方が大ブーイングである。
「いい思い出が出来ましたね~」
「どうなんだ?コーク兄貴」
「……これで終わりとなると少し寂しい気もするな」
コークは一人教室の窓から外を眺めていた。
彼の背中から哀愁が漂い、一同が言葉を詰まらせる。
彼の口から寂しいというワードが出るとは思ってもみなかった。
「だが、来年もあるだろう」
「来年は私は居ないんだが」
「てめぇ一人だけ三年じゃねぇかそういや」
白妬は自分で言っておいてハッとするが彼だけ三年生なのだ。
孤立無援で一人不服そうに腕を組むコークを響やハーモニーがフォローする。
「い、今はそんなこと気にしても仕方ないよ!今が楽しいならそれでいいじゃん!」
「はい~!そしてお母様が来たなら皆さんで頑張って倒してしまえば問題ないです~」
「…………そうだな」
頑張って倒す、等軽く言うが現実はそう簡単に進む訳では無い。
だが何故かその言葉に救われた感じがしてコークは黙って頷いた。
この仲間となら乗り越えていけそうだとそう思えたのだ。
コークは丸くなったなと自嘲気味に笑う。
「あ!みんな見て!梨杏ちゃんとつつじだ!」
「あの変人、振られたんじゃなかったのか?」
窓からキャンプファイヤーの炎の傍で梨杏とつつじが一緒にいるのを発見した。
少し距離があるようにも見えるが動向が気になりこっそり窓を開けて会話を盗み聞きする。
「……雅君」
「……ん?あれ?殿堂さん……そのドレス……」
「……やっぱり見てなかったのね、ファッショショー」
梨杏は煌びやかなスパンコールを身にまとった白いドレス姿でそこに居た。
髪型もいつもはロングヘアーを結わずに靡かせていたが今日はアップでまとめて違った印象だ。
「あ……ごめん」
「いいわ。どうせ他の女性と学校を回ってたんでしょう?」
「……!」
「私、ファッショショー優勝したの」
つつじが何か言う前に梨杏は話を切り出す。
自分から言っておいて何だが本当に他の女性と出回っていたと言われたらこれから話したい事も言えなくなってしまいそうだから。
「貴方を想ってステージを歩いたわ。貴方に見て欲しくて……頑張って……優勝したのに……嬉しくなかった。貴方がその場に居なかったから……意味がなかった」
梨杏は目に涙をためてドレスのスカートを両手で握る。
つつじはその様子を黙って見ていた。
「……っ、ほんと……私って……わかりにくい女ね……っ。雅君のこと……っ、こんなに……好きなのに……!」
「……殿堂……さん」
震えていた手を胸に当ててつつじを真っ直ぐに見た。
涙で視界は歪んでいたがこの時だけは目を見て伝えたいと思い切った。
「っはは……驚いた……絶対好きじゃないと思ってたから」
「……っ」
つつじは冷淡にそう話す。
今までの梨杏のツンケンした態度が裏目に出ていたからだ。
やっぱり駄目だと梨杏は唇を噛むが、つつじは彼女に近付いてそっと抱き締めた。
「人生で初めて……恋が叶った」
「……え」
「優勝おめでとう、梨杏。僕もあれから変わらず君が好きだった。諦めようと思った事もあったけど……梨杏じゃないとダメだって……ずっと思い続けてたよ」
「つつじ……君っ……」
つつじが自分を思い続けてくれていた事が嬉しくて涙が更に溢れた。
つつじの背中に手を回して抱き合う二人を周りにいた男子勢が恨めしそうに見ていた。
「せっかくだから踊ろうか、マイプリンセス」
「ふふ、ちゃんとエスコートしなさいよ?」
涙を拭いてつつじの掌に梨杏が手をそっと置く。
ぎこちない動きだがとても映えていた。
「んだよあのナンパ野郎、殿堂とくっついたのかよ畜生」
「でもさ、なんか良くね?まるで美女と野獣だよな」
男子生徒が言うように彼らの踊る様はまるで美女と野獣そのものだった。
「……なんだかんだで仲良いんだな、あいつら」
「……」
コークは彼らが無事結ばれた光景を見て誰にも気付かれずに笑った。
(美女と野獣か、良かったじゃないか。他の女の所へ行かせないよう、私が無理を言って雅を連れ回して時間稼ぎをしていたんだからな)
つつじは別に他の女性と学園内を見て回ってファッショショーを逃した訳ではなかった。
彼がふらっと居なくならないようにコークが連れ回して敢えてファッショショーも見ずにこの結末を迎えさせる為に仕向けたのだ。
「さぁっ!せっかくですから皆さんで写真撮影でもしませんか~?」
「お!いいね!」
コークは教室内に視線を戻して彼らの方へと向かった。
彼は不本意にも思ってしまったのだ。学校生活が楽しいと。
それは他の皆も同じく思っていた。
「で、誰が撮るんだ?」
「あたしが撮ってやるよ」
「姫川先生!ありがとうございます!」
教室の外で待ち構えていたようにカメラを片手に持つ姫川がそこに居た。
彼女は普段のスーツ姿ではなく、肩を露出させ、胸元を強調し、ミニスカートの際どい格好をしていた。
「凄い格好だな」
「変身した時の服が何か仮装にピッタリだったからいいかなってね」
どうやら姫川の戦闘服らしい。
彼女も最初は敵側でライムを拉致して緑やレイと戦っていたと倭から聞かされていたが無事姉御的教師キャラが定着して良かったと思う。
「あれ?もしかして記念撮影?」
「なつき兄……!」
すると教室を覗くように捺紀が現れた。
彪がじとっと睨むが、コークに制される。
「大河捺紀も入れ」
「まさか沙檻が素直に写真撮られてくれるなんてね。じゃあ遠慮なく入らせてもらうよ」
「じゃあ姫川先生お願いしま……あれ?」
捺紀が嬉しそうに黒板の前に立った所でいよいよ撮影を始めようと姫川を呼ぼうとしたが、そこに居たのは都築だった。
「いつの間に入れ替わったんですか都築先生」
「なんか……天宮先生の気配がしたからって俺にカメラ押し付けて逃げたよ」
姫川が持っていたカメラを片手に気だるそうにため息をつく都築である。
廊下からは天宮ほのかの「姫川先生~何ですかその可愛いコスプレは~」というハイテンションな声と姫川の叫び声が木霊して聞こえていた。
「しょうがないから先生が撮るよ。せっかくなんだからいい顔でね!いくよー」
「はーいっ!」
全員で黒板の前に二列に並び写真を撮って貰う。
ハプニングだらけであったがいい思い出となった学園祭だった。
今日だけは現実を忘れて楽しんだ日となり、こうしてずっと笑い合えたら良いなと平和を望むアリーシャ隊である。
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