10月15日、10月19日
―十月十五日―
「……くっ……」
ラヴィッチは薄暗い室内で拘束されていた。
万歳する形で両腕を鎖で締めあげられ、上半身は裸の状態にされている。
そして目の前には見知らぬ髪の長い女性。
「くくっ……」
自分に背を向けて怪しく笑っている姿が不気味で恐怖心を煽られた。
ラヴィッチは早朝にどうしてもジュースが飲みたくなり一人で家を出て近くの自動販売機まで向かっていた所、不意をつかれ恐らくだが目の前の彼女に気絶させられ、どこかへ連れ去られてしまったようだ。
何とか抜け出せないか腕を引いたり振ったりするが当然ビクともしない。
(というか……そろそろみんな起きる頃だと思うのに……何やってるのさ……気付いてよ…!)
―――
その頃ハーモニーは自分の髪型の異変を知らせるべく急いでリビングに向かった。
「皆様おはようございます~!今日は私、髪型がおかしくなって…………えぇーーーー!!!!?」
珍しく既にラヴィッチ以外のメンバーがリビングに集っていた事と、彼らの髪型の異変にも驚き叫んでしまった。
何故ならば彼らの髪型がまるで女性のヘアスタイルとなっていたからだ。
「お、ハーモニーはDQNみたいなのになったのか」
「タルク様はお団子ヘアなんですね~」
ハーモニーは毛先を所々跳ねさせた無造作ヘア。タルクは頭のてっぺんで髪をまとめたお団子ヘアだった。
「…この髪型を直そうとすると何故か電気が走るんだ」
「誰?」
「ナイチだ!!」
ナイチはカチューシャで前髪を上げたデコ出しヘアだ。
白妬が呆れた様子で溜息をつく。
そんな彼女は長さは短いがツインテールになっていた。
「みんな似合ってるねっ」
「響様も可愛いです~!」
「女の子みたい?」
響は前髪を可愛らしいハートのピン留めで分けられていた。
躊躇いや恥じらいは無いようで堂々としていた。
どうやら全員が朝起きたら女性のヘアスタイルになっていたらしい。
「……ふん」
「!コーク様」
「……はぁ」
コークはテーブルに頬杖をつきながら誰一人とも目を合わせようとせず目を伏せていた。
彼は、短いがちょこんとサイドに髪の毛を結った状態となっていた。
「ギャップやべぇな」
「直るまで何もしないからな」
屈辱的なようでコークは座ったまま黙って動かないでいた。
タルクがからかうも、余力がないのか聞き流した。
「皆さん!またもや私のミスで迷惑をおかけしているわ!!!!」
その時いきなり何処からか声がして、リビングにレイや倭達が一気に瞬間移動して現れた。
久しぶりだと歓迎するがレイは浮かない表情だ。
恐らく、また誰かの胸を大きくする術をかけたつもりが失敗してこちらに回ってきたのだろう。
「あの~……在原ちゃん、は?」
「……!?」
この場にいないラヴィッチの事が気になり倭がアリーシャ隊に聞いた。
真っ先にラヴィッチの名前を口に出した事にショックを受ける緑。
白妬も、私ではなく奴なのかと少しショックを受けていた。
「あいつ部屋にいなかったからどっか外に居るんじゃねぇか?」
―――
「……ほぅ、アリーシャ隊と……」
「……っ!」
ラヴィッチの目の前にいる女性は、アリーシャ隊の名前を呟いて何かモニターを眺めていた。
そこで彼は確信した。
ここは恐らくGODESTの敵地で、この女性はあの時居なかった白妬の母親だ。
白妬は確か自分の母親である白花は危険だと話していた。
自分がこれから何をされてしまうのか、身体が震えるが気付かれないように情報を引き出そうと話題を持ちかけてみた。
「あの……アリーシャ隊は……今何を……」
「……知りたいか?」
白花は勿体ぶるようにラヴィッチに聞くが敢えて何も答えなかった。
気を利かせて話してくれたがその内容は予想外の物で愕然としてしまう。
「皆して女の髪型をして遊んでいるぞ」
「はぁー!?!?なにそれ!?!?」
―――
「サランの一件が解決してからあまり話す事が少くなったが、どうだ?こっちの生活にはもう慣れたか?」
ライムが台所から彼らを一瞥しながら問いかける。
確かに学園生活が慌ただしかったり月の姫の事もありなかなか彼女達と交流が無かったのだ。
個人で話しかけたりする事はあったがこうして全員が集まって話す場は今まで無かった。
「学校に通うようになってからは……まぁ、時間を意識するようにはなったな」
「へぇ~って、ちょっと待って白妬!目、どうしたの!?」
「敵に抉られた」
「言い方軽!!!」
倭が気になったのも当然だろう。
だがそれ以外に説明のしようがない為ストレートに白妬は伝える。
そこでその時の敵、つまり月の姫と一戦があった旨の説明を行った。
倭は自分の親戚の友達に月の姫がいる事は知っていたがよく分かっていない様だったが話を聞いて申し訳無さそうに謝罪した。
「まぁ結局は俺達が強くなる為にサラン様も止めずに戦わせていただけだ。貴様らが謝ることでは無い」
「ってことはその件は解決したってことなんやろ?そしたら今の敵って誰なん?」
「何かお前らだったら怖い奴なんてもういなさそうだけど」
核心に触れられてしまった。
正直話すのも辛い事ではあるが、情報共有として今の現状を全て話すことにした。
「今の敵は……僕達それぞれの母さん……だよ」
「……え」
―――
「……お、私らの話になったな」
(……僕は……なんの為に囚われたんだろう)
ラヴィッチはぼんやりとした意識で考えていた。
現に白花は相変わらずモニターでアリーシャ隊を観察しているだけでこちらに何も危害を加えてこないのだ。
いや、来られても困るのだが、何故自分のみを捕らえたのか知りたくて声を掛けるべきか悩んでいる。
すると白花はモニターを消して、こちらに歩み寄ってきた。
何かされると警戒してグッと身体に力が篭もる。
「貴様を改造でもしてみるか?」
「……そんな事されるくらいなら今すぐ死んでやる……」
状況は圧倒的にこちらが不利だ。
しかしラヴィッチは白花を睨み付け挑発する。
そんな彼を見て白花は卑屈に笑いながら片目の色を変え、こう言う。
「ならば今この場で殺してやろう」
「……!!」
―――
「というか貴様もいい加減成長しろ!!」
「うぅ……」
それからアリーシャ隊の現状を全て倭達に伝え、何かあれば協力するぞとライムが心強く言ってくれた所で暗い話は終わりとなった。
白妬がレイに説教をし、しょぼんと正座をしながら彼女は反省をしていた。
「で、でも!レイ先輩は上達してるよ?失敗した時の魔法の効果が切れる時間が段々早くなってきたんだから」
「結局失敗してんじゃねぇか」
緑がレイの肩を持ち励ますがあまり意味が無い。
もしGODESTと戦闘中にこういう事が起こるものならさすがに怒りそうだ。
(てか……敵だった奴らとナチュラルにつるんでるけど……すげぇ絵面だぞこれ)
鎖椰苛だけが皆の一歩後ろから彼らを眺めていた。
ついこの間まで敵同士で殺し合いをしてきたとは思えない位の打ち解けぶりである。
「ぅわ!?」
すると突然ボフンという軽い爆発音と共にコーク達が煙に覆われ見えなくなってしまった。
少しして煙が消えていくと、先程まで女性のヘアスタイルだった彼らが元通りの髪型に戻っていた。
「あ、戻ったみたいやな」
緑の言う通り、元通りに戻る時間は大分短縮されていたようで皆で歓喜の声を上げた。
―――
「待て白花」
「……何だ」
白花が何かをしでかす直前に何者かが彼女に声を掛けて止めた。
覚悟をして目をギュッと閉じていたが、今は何もされないとそっと開眼する。
白花の後ろから、コツコツと靴の音を響かせながら歩いてくる男性の姿が見えた。
しかし上手い具合に暗くて顔だけは見えなかった。
「ラヴィッチ・イザードは返すべきだと思うが。こんな事をしても意味無いだろう」
「……そうか」
そう言われると白花は呆気なく頷き、ラヴィッチを繋いでいた鎖を外してくれた。
「命拾いしたな、この事はアリーシャ隊に口外するなよ?」
「……」
ラヴィッチは解放されて安堵したのかそのまま気を失ってしまった。
次に目を覚ました時は外にいて、彼は何故か捺紀に背負われていた。
「……ぇ……?」
「あ!目が覚めたんだね、大丈夫?おれ、早朝にランニングしてたんだけど伊吹が道端で倒れているのを発見して家まで運ぼうとしてたんだ」
「……そ、そう、だったんだ。わざわざありがとう……」
ラヴィッチは捺紀に背負われながら先程の白花を止めた男性について考えていた。
母親が一斉に姿を現したあの時は居なかった人物で、彼が命令したら白花はすぐに言う事を聞いて止めてくれた。
GODESTのリーダー的存在は白花だと思っていたがもしかして彼なのだろうか。
しかし全く誰なのか、結局顔も見れなかったので分からなかった。
ラヴィッチは、楽しげに彪の話題をベラベラ喋っている捺紀の姿を怪訝そうに見る。
偶然とはいえここで彼がラヴィッチを見つけて介抱してくれるなど都合が良すぎる気がした。
(……まさか)
捺紀を疑うが、白花にも他人に口外するなと口止めされていた為何も聞けず、結局黙って家まで送り届けてもらい帰らせてしまった。
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―十月十九日―
「彪は純粋な高校生なのか検証~!捺紀の仕返し大作戦!」
響の高らかな声で始まる突然の企画。
どんな内容なのかというと、彪に女子生徒とデートをさせてピュアな姿を拝んで笑ってやろうという捺紀主催の企画である。
現在彪は一同から数十メートル離れた場所でたちどまっている。
そこで待ち合わせと伝えているからだ。
「というか何だ、捺紀の仕返しとは」
「あいつ年下のくせに上から目線だし兄に歯向かうし一回仕返ししときたくてねー」
「え…捺紀様~?」
そして彪のデートの相手は誰なのかという話だ。
ふと捺紀を見たハーモニーは、ポカンとして口を開けていた。
今の彼は、ウィッグにリボン付きの帽子、偽物の胸パットを敷き詰め、どこからどう見ても女性の姿に気恥ずかしそうに苦笑いしている。
「でも女の子役って、おれがやるの?」
「白妬と機械…萌では即バレするだろう。騙す本人がやるべきだな」
コークの言う通り白妬とハーモニーでは確実にすぐ気付かれてしまう。
その説明に納得した捺紀は仕方ないかと息を吐くと、軽快なステップで彪の元へ駆け寄って行った。
意外とやる時はやるらしい。
「あーきら♪おまたせ!今日のなつみはどうかなっ?」
上機嫌に彪の目の前に行くと、スカートを翻しながら可愛らしくウインクをした。
普段は糸目の彼だが今日は目を開き、ビューラーとマスカラでまつ毛を伸ばし、今時の女子のようにめかしこんでいる。
その姿を見て彪は少し照れ臭そうに頬を掻き、おはようと挨拶をして誤魔化した。
何の違和感もなく会話をしている彪をラヴィッチは疑問に思う。
「ねぇ、何で彪は…なつみちゃんに違和感なく話しかけてるの?」
「あー、睡眠学習させたんだよ」
これは一週間程前から密かに計画されていたようで捺紀と白妬が手を組んでグルになっていたらしい。
白妬が夜な夜な彪の耳元でなつみという名前を連呼し続けインプットさせた為、こうして違和感なく架空のなつみと接することが出来ている。
ある意味記憶の操作なのだからハーモニーに頼めばいいんじゃとラヴィッチは聞こうとしたが、一般人の捺紀に知られるとまずいんだと言う事を思い出して咄嗟に口を押さえた。
そして彼の後ろ姿を怪しげに見つめていた。
一方彪は自分の心境の変化に内心慌てふためいていた。
(なんか……今日の俺おかしいぞ……)
なつみを見ると何故か胸が高鳴るのだ。
しかし彼女は彪の友人だ。
邪念は振り払わねばならない。
「あー!彪だー!」
すると後方からやたら高い声がして振り返るとランニング中の響が汗を拭いながら彪となつみに近付いた。
「なつみさんとデート?」
「ば……っ!ちげぇよ……!」
「青春だねぇっ!デート楽しみなよ~!」
嵐のように去っていった響だが、一応これも作戦の内でデートという単語を使用する事によってなつみのことをより意識させる目的で遭遇させたのだ。
案の定相手を意識してしまっている彪は何か話を逸らすべくなつみに話し掛けた。
「な、なつみ……今日は涼しいな」
「ん……そうだねっ」
そう言ってなつみは彪にニコリと笑いかけた。
すると彪は自分の頬を両手で押さえ、何やら悶えていた。
(やっぱり俺おかしいわーーー!!!笑顔が可愛くてまるでこいつに好意を……って、そんなわけねぇよ俺の馬鹿!!)
「ごふっ……(てめぇ後で覚えてなよ)」
一人でてんやわんやして、勢いでなつみを拳で殴ってしまった。
なつみの心の声が聞こえた気もするが彪は焦った表情ですぐに謝る。
「彪……」
「……わ、わりぃ……!」
しかしなつみは頬をさすった後、形相を変えて鋭い視線で彪を睨み付けた。
だがにこやかに冗談だよと笑ったので胸を撫で下ろした。
「だってね……キョドる彪が可愛くて」
「な……っ!」
なつみは彪の頬に触れて色っぽく囁いた。
先程からなつみの言動にわかりやすく照れてばかりの彪である。
「日曜の朝から熱いな」
その光景をコークが何故か自動販売機で売っているアイスを食べながら眺めていた。
「捺紀様、女の子姿がとっても似合ってます~」
「弟を騙せるから気合い入ってんだろ」
捺紀のノリノリっぷりに脱帽してしまうハーモニーとタルク。
「騙せる……ねぇ」
ラヴィッチだけが捺紀を疑った目で見ていた。
ついこの間白花に拉致された日から彼は捺紀を警戒している。
そんなこちらの思惑を知る由もなく、彪はただただ頭を抱えて悩み苦しんでいた。
「彪?顔赤いけど……大丈夫?」
「…………あぁ」
なつみが心配して彪に声を掛けるも上の空である。
これは完全に意識しているし、きっと好きになっているに違いない。
ちなみにナイチが白妬にどれだけ睡眠学習したのか聞いた所、一週間だと返事をした。
そして彪は俯きつつ何かを決心したように顔を上げると、なつみに堂々と気持ちを伝えた。
「……俺、お前が好きだ!」
「……」
たった一週間の睡眠学習でここまで騙されてくれるとは一同もびっくりだ。
きっと彼は催眠術にもすぐ掛かるタイプなのだろう。
「ふふ…嬉しいよ、彪はバカ単純で」
「……は?」
なつみ……もとい捺紀は意味深に、彪から見えない角度でニタリと笑みを浮かべた。
だがすぐに堪えきれず大爆笑してネタばらしに入る。
「てか堪えるのムリ!あっはははははは……!!!」
「な、なに笑ってんだよ」
「まだ分からない?おれの名前は?」
「は?お前は……なつ…………」
ここで彪はなつみという人物が兄の捺紀だったと初めて気が付く。
一瞬固まったが、捺紀の笑い声に我に返り怒りと恥ずかしさで顔を赤くさせていた。
「てめえ……っ、覚悟しやがれぇえええええ……!!!」
「当てられるもんなら当ててみなよ」
「ごらぁあああああ……ッ!!!」
彪は右腕を横に広げ念じると、近くにあった標識の柱がボコッと底から抜けて宙に浮いた。
そしてそれを八つ当たりするように捺紀に投げ付けたがひらりと避けられてしまう。
構わず走って追いかけてその場を後にしてしまった。
「おい、奴はタルクの姉が好きだったんじゃないのか」
「ま、思春期だからな。心変わりすんのも若い証拠だ」
ナイチはそうタルクに問いかけるが特に気にも止めずしれっと答える。
「今回の検証で分かったことがある」
「何でしょうか僕から主人公の座を奪ったコーク君」
コークが腕を組みながら何かに気付くと、ラヴィッチが黒い笑みを浮かべながらよく分からない発言をして顔を傾けた。
「大河捺紀は、私には及ばないがSの血が流れていると」
「あー、確かに」
検証結果。大河捺紀はSである。
「え!?何か目的違くない?!」
「彪無駄に恥かいたな」
評価よろしくお願いいたします!




