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10月6日

 

 この戦争(バトル)は、ほんの些細な意見の食い違いから生まれてしまった。


「何でこんな事になるのさ……っ、なんで……」


 真夜中の学園内で、ラヴィッチは一人恐る恐る周りを気にしながら歩いている。

 その手には()が握られていた。


「ねぇ……みんな仲間じゃん……どうして……!」


 ラヴィッチの声は虚しく木霊するだけだった。


 ―――


 数十分前。

 深夜の学園内で二つのチームが端と端に分かれて戦闘準備を整えていた。


「本当はこんな事したくないのに」


「だが、本気にならないと負けてしまうだろ」


 ラヴィッチの弱気な言葉にナイチが厳しく返す。

 ナイチはこれから戦争が始まる事の覚悟を決めたようで吹っ切れていた。


「皆さんで仲良く……なんて出来ないのでしょうか~……」


「もう戻れないよ、おれ達が勝って()()()()を降伏させない限りはね」


 ハーモニーはやはり乗り気ではなかった。

 しかしこうなってしまった以上はもうやるしか無い。

 捺紀もいつもの穏やかな表情ではなく真剣な顔付きだった。相変わらず目は閉じられているが。


「躊躇いはいらないのよ、闇坂さん」


「梨杏様まで~……」


 梨杏は軽々とアサルトライフルを肩に掲げながらハーモニーに話す。

 マシンガンやライフルを各々所持していて、本当にこれから戦闘が始まるようで緊張感が走る。


「梨杏、殺る気だな」


「し、仕方なくよ……!」


 タルクは梨杏をからかうが頼もしい仲間がいて良かったと内心で安堵していた。

 ハーモニーが戦えないのは分かっていた事だから代わりにタルク達が率先して敵を倒していかなければならないのだ。

 今の所ナイチも梨杏も捺紀も殺る気のようだし問題は無さそうだ。


「まぁでも、こっちにゃいるんだぜ?センセーが!」


「いや先生ならあっちにもいるんだけど、しかも二人も」


 タルクにハードルを上げられ困惑する都築がいた。

 しかし敵のチームにも別の先生がいるようで自分はあまり戦力にならないと諦めモードであった。


「頼りにしてますよ。(腹黒)先生」


「在原の笑顔怖いんだけど……」


 先日の一件があってからアリーシャ隊は都築を性格の悪い腹黒教師というイメージがインプットされている。

 イメージというか、都築そのものというか。

 だが当時の記憶を消されている都築は何故圧をかけられているのか分からなかった。


(ていうか俺、こいつらとそんな面識あったか?)


 ―――


「んー、アイツら弱そうじゃないかい?」


「なんか躊躇ってそうッスね」


 退屈が嫌いな姫川は気だるそうに頭を掻きながら欠伸をしていた。

 つつじも余裕そうに姫川の発言に頷いていた。


「ぶっ潰して負けを認めさせようぜ!」


(肉食が多すぎるだけだっつーの、こっち)


 おのかも張り切って拳を上げ、チームを仕切る。

 彪はあまりやる気は無さそうだったが、勇ましい教師が二人も居ることで何となく勝ち目はこちらにあると自信がついていた。


「でもタルクとか粘ってきそうだよね」


「アイツは確実に生き残るだろうな」


 響が白妬に、タルクの行動が油断出来ないと懸念していた。

 確かにバンバン率先して戦闘に入っていくタイプなのは普段から分かっているのでかなり要注意人物ではある。


「安心しろ、私が潰す」


「……」


 コークが冷酷にそう言い放つと、その場にいたメンバーは同じ仲間ながら彼に恐怖心を感じ静まり返ってしまった。

 コークもやる気満々なのは驚きだがそれだけ本気の思いがあるのだろう。


「あとはナイチも注意だな」


 白妬はタルクの他にナイチも注意すべきだと名を挙げた。

 彼は銃を武器として戦闘に携わっているから得意中の得意分野だ。


「なぁ、さっきからタルクだのナイチだの……なんの事?」


「あぁーーーーだ名!あだ名なんですよ気にしないでくれ」


 つい本名で会話をしてしまい、おのかに疑問を抱かれ聞かれてしまう。

 適当にはぐらかす白妬を彪が横目で見てため息をついていた。

 あまり深く追及されるとまずいので彪は上手く話を逸らすように先生の方を見て口を開いた。


「ま、肉食先生がいるんだし何とかなるっしょ」


「肉食先生言うな!!」


 ―――


 一応ルールを設けられているので説明するが、とても単純なものである。

 敵を銃のみで撃つ。それだけだ。

 もちろん本物を使う訳にはいかないのでエアガンを使用するが能力者は絶対に術や回復等は使用不可。

 一般人にバレる訳にも行かない為使えないとは思うが。

 弾を一発でも当てられてしまうと死亡状態になりその場に倒れなければならない。

 危険なのでゴーグルは必須。

 どちらかが全滅になるとチャイムが鳴る仕組みとなっている。(銃弾が当たったかきちんと判別してくれるという、そこだけ上手いこと誰かが術を使って設定してくれた)


 チームは、ラヴィッチ、ナイチ、ハーモニー、捺紀、梨杏、タルク、都築。

 姫川、おのか、コーク、白妬、響、彪、つつじで分けられている。


 そして冒頭に戻る。

 ラヴィッチは廊下の突き当たりを曲がろうと壁に沿ってジリジリ歩き、ゆっくりと右に曲がる。


「……!?」


 暗くてよく見えないが数メートル先に誰かが居た。

 ラヴィッチの存在にも気が付いているはずだが向こうは立ったまま何もして来ない。


「う……撃つ、よ?」


 ラヴィッチが銃を片手に構えると、向こうの人物は手に持っていた誰かの生徒の椅子を投げつけて来た。


「……ッ当たるもんか!!」


 反射神経が利いて飛んできた椅子をかわしたラヴィッチはカウンターで銃を撃った。

 エアガンとはいえ結構大きな銃声が鳴るものだと少し驚く。


「……いない」


 しかしあっという間に敵は姿を眩ませてしまった。

 ラヴィッチは引き続き辺りを警戒しながら廊下を進んだ。


 ―――


 コークも一人、なるべく足音を立てずに廊下を歩いていた。


(私には秘策がある。それを実行するには―)


 彼には絶対的自信があるようで完全に気を抜いていたのだろうか。


「……!?」


 後方からのカチャ、というトリガーに触れる音に気付きライフルを構えながら振り返ったが、梨杏が既に銃弾を乱射していた。


「さよなら……ドS君」


 コークはその場に倒れてしまった。

 辺りには銃弾が散らばって無惨である。

 梨杏は冷たく呟くと、そのまま横を通り過ぎて別の階へ移動した。


「誰かいねーかなっと……ん?」


 その後行き違いでタルクが階段を下りてきて、倒れているコークを発見する。


「コーク……!もう殺られたのかよ……、いや敵だけどだっせぇな」


 タルクは、コークの事だから最後まで生き残るに違いないと踏んでいた為既に死亡状態になっていた事に驚いてしまった。

 それと密かに銃でやり合いたいとも思っていたので少し残念そうにして通り過ぎて行った。


 ―――


 ババババババ……ッ!!!!


「やるね捺紀!だけどここは通さないよ……!」


「っはは、通して欲しいな!そっちの通りに……おれの弟がいるはずなんだけど!」


 三階の三年生の教室の前の廊下では既に攻防戦が繰り広げられていた。

 つつじが廊下に備え付けられている救助袋のボックスを盾にしてライフルで撃ち続けていた。

 その先で捺紀が机を盾にしてガードしつつ反撃の時を待っている。


「彪君を撃つつもり?だったら尚更譲れないよ!」


 つつじは同じチームの彪を守る為前線に出ていたのだ。

 ここで負ければ彪が殺られてしまう。


「仕方ないなぁ……ゴリ押しでいくよ……!」


「……えぇ!?」


 すると捺紀は、つつじがライフルを乱射していたにも関わらず全力疾走で横を駆け抜けようと走り出した。

 お互い同じライフルを所持しているが、この距離だとつつじの方がすぐに撃つことが出来て勝つ事が出来る。


「行かせるか……ッ!!?」


 しかし捺紀は、ライフルの他に手軽なマシンガンも持っていたようでつつじに向けて瞬時に撃った。

 間に合わなかったつつじは壁にもたれる形で動かなくなってしまった。

 捺紀は少し申し訳なさそうに、今度何か奢るからごめんねと早々に走り去っていってしまう。


「……おい雅」


 戦闘不能のつつじの前に彪が現れ虚空を見つめながら話し掛ける。


「俺が必ず潰してきてやるから……。守ってくれてサンキューな……」


 仲間を撃たれたことに憤りを感じ、彪は形相を変えて銃を握る手に力を込めた。


 ―――


「ハーモニー!?」


「白妬様……!」


 二人はバッタリ教室内で鉢合わせをしてしまったようだ。

 戦闘を恐れているハーモニーを汲み取って、白妬は構えていた銃を降ろした。


「ハーモニー、逃げろ。今だけは見逃してやるが次に会ったら撃つからな」


「は、はい~……!」


 これも白妬のハーモニーに対する優しさである。

 教室内から出ていったハーモニーを見つめながらそっと呟く。


「ハーモニーだけは……撃たないから」


 ―――


「姫川先生」


「おや、都築先生かい」


 先程のつつじ達と違って酷く落ち着いた面持ちだ。

 さすが大人なだけあって動じない。


「やっぱ生徒には手は出せませんよね」


「だからあたしを……と?……っは!殺られる訳には行かないさねぇ……!!!」


 姫川は一瞬ニヤリと笑むと、ライフルを構えて都築に向かって容赦なく撃ち続けた。

 弾が打ち付けられる音が止むと、目の前にいたはずの都築は姿を消していた。

 姫川の興奮した浅い呼吸だけが耳に残る。


「……まぁいっか。あたしには倒すべき生徒が居るんでね」


 姫川はライフルを下ろし、標的としている人物を見つけ出すべく都築を追わずに別方向へ足を運んで行った。


 ―――


 ラヴィッチとナイチは教室の窓際の隅でプチ作戦会議を行っていた。


「俺はコークを仕留めれば良いのか?」


「いや、コークならもう死んでたよ」


「へ……マジか?あんな奴が……」


 ラヴィッチはここに来る途中で倒れているコークを発見したという。

 呆気なく殺られてしまったコークを、ナイチは信じられなかった。


「許せないよね。僕達の代表なのに」


「……え?!」


 すると頭上から声がしてすぐに見上げると窓から響が侵入してきた。


「ラヴィッチ逃げろ!!」


「幸運を祈るよ!ナイチ……!」


 すぐさま銃を得意分野とするナイチが響の前に立ちはだかるように出て、ラヴィッチを外へと逃がす。


「へぇ、ナイチ君が僕の相手?」


 響の声は酷く低かった。

 表情も怒りが含まれたように暗く、いつもの感じではなくまるで別人のような印象を受けた。

 何を仕出かすか分からなく注意するが、武器の使い方はナイチの方が上手である。


「さぁ来い響……!貴様の死に様を見届けてやる……!」


 教室内に銃声が鳴り響いた。

 ラヴィッチはそれを聞いてナイチと響が戦いを始めたと思い知らされる。


(ナイチは銃の扱いに慣れてるから心配は……)


「やぁ在原」


「…………姫川先生」


 廊下の角から姿を現したのは姫川だった。

 何故か面白そうに口元に手を当てニタニタ笑う姫川はラヴィッチに戦闘を申し込む。


「戦いがてらちょっと話したい事があるんだけどいいかい……?」

 

「……なんですか?」


 そう言ってライフルを発射しラヴィッチを狙う。

 ラヴィッチも突き当たりの角で姿を隠しながらマシンガンで反撃をする。

 姫川は何を話したくてラヴィッチに接近してきたのか、銃声で聞き取り辛いが必死に内容を聞き取ろうと距離を縮めながら歩を進める。


「お前いつまで()の事、放ったらかしにするつもりだい?まだお前を慕ってるようだけど。いっつも在原がどうだとかあたしに惚気けてきて、こっちの身にもなって欲しいね……!」


 彼女が聞きたかった事は意外にも倭の事だった。

 前に倭達が能力者である姫川と戦闘をしたという事はラヴィッチも聞かされていたが、今でも倭はラヴィッチの事を姫川に惚気けている事は知らなかった。

 以前倭に告白をされ、恋というものがよく分からないとやんわり断りを入れたがまだ思い続けてくれているようだ。

 しかし月の姫やら母親絡みで忙しかった為なかなかゆっくりと倭達に話も出来ず、機会が欲しいくらいだと思っていた所なのだ。


「やまには……やま達には申し訳ないと思ってます……。いつか僕達の現状を話すつもりではいるので……」


「……それで困ったら利用するのかい」


「……しませんよ」


 話題は倭の気持ちの話からアリーシャ隊の現状についてに変わった。

 どうやら姫川はラヴィッチ達が能力者である事も把握しているらしい。

 だがどちらかと言うと彼女は倭側の味方なのでこちらを卑下するように嘲笑う。


「はっ!どうだか!そうやって都合のいい時だけこっちに擦り寄ってきて助けを求めるんだろう?魔術師の本条や紺野やレイの力も借りて――」


「今の敵は……ッ!!」


 ラヴィッチはよそ見をしている姫川に瞬時に近付き目の前で銃口を向けた。


「……僕達の……母さんなんです……。僕らが殺らないと……駄目なんですよ……」


「……!」


 姫川はラヴィッチの辛そうな表情に罪悪感を感じてしまった。

 いつも学校ではヘラヘラしている印象を持っていたから裏でそんな深刻な事になっているとは思っていなかったのだ。


 顔を伏せて震えているラヴィッチに、姫川は悪かったと詫びる。


「撃ちなよ、あたしを」


「……先生、ごめんなさい」


 手を挙げて降伏のポーズを取りながら姫川はそう言う。自責の念からかこれ以上ラヴィッチ達を責めることは止めたようだ。

 ラヴィッチは静かに彼女の腹部に銃口を押し当て、トリガーを引いた。


 ―――


「……雅……君?」


 救助袋の壁にもたれて俯くつつじに、梨杏は死亡状態と気が付かず普通に話し掛けた。


「私の事……撃たないの?ねぇ、そこに座ってないで……」


「残念」


 彼女は完全に油断していた。

 背後から何者かの気配がしたがすぐに後頭部に銃弾が当てられてしまう。


「雅はもう殺されたよ。捺紀に」


 白妬が待ってましたと言わんばかりのニヤリ顔で梨杏を撃った。

 これも作戦のうちだという。

 死亡状態の雅に梨杏が駆け寄った所を撃ち落とす。

 死亡した味方のつつじですら利用するという、元祖殺人鬼の策略は冷酷無惨で流石である。


 ―――


「ぉわっ!あぶね!」


 タルクはおのかが四方八方に乱射する銃弾を横とんぼ返りをしながら華麗に避けていた。

 おのかも教室に隠れつつ廊下にいるタルクの銃弾をかわし、褒める。


「さすがだな唖理架!体育の成績が五なだけはある身体能力だ……!」


「センセーも相当ッスよ!」


 正直言って今の乱射攻撃が全てかわされるとはおのかも想定していなかった。

 この状態が自分にとって不利だと嫌でも分かってしまい、必死に打開策を頭の中で練る。

 おのかの弾はラスト一弾。

 唾を飲み込み、賭けに出た。


「今だァ!!!()()!!!」


「なんだと!?」


 おのかはタルクの後方を指さしてこの場にいない白妬の名を出し、そちらに意識を向けさせた。

 タルクが振り向いている間に全力疾走でその場から逃げる選択をした。

 そしておのかが辿り着いた先は職員室。

 恐らく誰も潜んでは居ないだろうとドアを開けると意外な人物が平然と作業をしていた。


「あ!おのか♪」


「は?なんでいるの姉ちゃん」


 保健教師の天宮ほのか。

 もといおのかの姉がそこに居たのだ。


「資料の整理だって!?こんな真夜中に!?セキュリティ大丈夫かよ」


「ちゃんと許可は取ってるも~んっ」


 自分達が校内でサバイバルを行っている間、ほのかは何食わぬ顔で職員室で残業をしていたと話す。

 そんなおのかこそ何してたのと聞かれたのでここまでの経緯をざっくりと教えてあげると、ほのかは好奇心旺盛な子どものような目で参加したいと申し出た。


「サバイバル……?私もやってみたい!」


「……なら、お前はどちらを選ぶんだ?」


「……んー、こっちかな」


 おのかは、姉の選択を聞いて暗い表情になった。

 それと同時に銃口を彼女に向けて発射した。


「だったら……お前は私の敵だ」


 おのかと意見が食い違ってしまったようだ。

 悲しげに目を伏せながら倒れるほのかに踵を返し、職員室のドアを開ける。


「……っ!?」


 しかし目の前に都築が待ち伏せして立っていて、微笑みながらおのかに銃を撃ち込んだ。


「お勤めご苦労でした。天宮先生」


 最後におのかが見た都築は、酷く顔を歪ませニタニタ笑みを浮かべながら去って行く姿だった。


 ―――


 ナイチと響は未だに教室内で攻防戦を繰り広げている最中だった。


「まだ体力と銃弾は持つようだな、響……!」


「そっちこそ……なかなかしぶといね……!諦めてよ……っ!」


 両者一歩も譲らない体制だった。

 机に身を潜めつつ銃弾を放つ。

 どちらも機敏な身体能力の持ち主だからかなかなか弾が当たることはなく、長丁場の戦いとなっている。


「ふん、馬鹿が。諦めてたまるか……!」


 ナイチは制服のポケットから新たなマシンガンを取りだし二刀流で響に向かって撃つ。

 まだまだ終わらなそうだ。


「……ナイチ、まだやってるかな……」


 ラヴィッチはナイチと響のいた教室まで戻る事にした。

 もしまだ続いていたのなら加勢して響を撃てば有利になると思ったからだ。

 早足で向かっていると背後から影がラヴィッチを覆った。


「だ、誰……!?って……梨杏ちゃんか」


 ハッとして振り返るも味方の梨杏だったので安堵する。

 しかし顔が俯いている状態で全く見えない。


「まだ生き残ってたんだね――ッ?!」


 しかし梨杏は囮だった。

 彼女に上手く隠れながら立っていた白妬がいきなり目の前に現れたのだ。

 軽々と梨杏の首根っこを掴み上げながら反対の手で銃を握り、ラヴィッチを撃った。


「囮か……」


 敵の倒し方が本気すぎる。

 白妬を倒せる人物は存在するのだろうかと疑問に思ってしまう程だ。

 ラヴィッチは悔しそうに唇を噛み、その場に倒れ込んだ。


 ―――


「なつき兄死ね……っ!!」


 彪は捺紀を自力で見つけ出し、躊躇いなくマシンガンを乱射した。

 かなり怒っている様子だ。


「酷い言い方。つつじの仇?」


 捺紀は彪が放った弾をひらひらと避け、それがまた彪を逆上させていた。

 いつも自分よりも全ての事に富んでいる兄の事を彪は尊敬しているが同時に憎くもあった。

 昔から何かと張り合って喧嘩を繰り返してきた為、捺紀に何としてでも勝ちたいという固い意思を彪は持っているのだ。


「うっせぇ!!!いいから黙って死ね!!!!」


 目付きを鋭くし自分に向かって走ってくる彪の姿を、薄く目を開きながらじっと見る。

 んふふ、と意味深に微笑むと両手を上げた。


「いいよ、おれ。彪がそこまで怒るなら降りてあげる」


「は?」


 予想外の展開に彪はぴたりと足を止めてしまった。

 しかし、捺紀は手に持っていた銃を自らのこめかみに当てて彪を見る。


「ただし彪に殺られるのは御免だよ」


「……っざけんなッ!!!!」


 この後何をするのかが読めてしまい、咄嗟に捺紀の手を掴んだ。

 彪も負けず嫌いだが、捺紀も相当であることがわかった。


「……く……っ!!!」


 だが捺紀の指がトリガーを引いて、自害を許してしまった。

 短く弾ける音が鳴り響き、捺紀は倒れた。


「なつき……兄……っくそ……」


 敢えてこのような死に方をする捺紀はある意味残酷であった。

 彪は自分の力で勝ちたかったのにそれが叶わなかった。

 本当に意地の悪い兄だと舌打ちをする。

 そしてその様子を後ろから偶然タルクが目撃していた。


 ―――


「……私には……分かりません……。こんな事をする意味が……」


 ハーモニーは教室に一人でいた。

 教卓の中に隠れるように座り込み、誰にも見つからないようにうずくまっている。

 しかし扉が横手に開く音と足音が聴こえ、顔を上げた。


「は、ハーモニー……」


「しろ、とさま……」


 見上げると驚いた表情の白妬が教卓の下を覗き込むようにしてこちらを見下ろしていた。


「何泣いているんだ……次に会ったら撃つって言ったばかりだろう……」


「うぅ……っぐしゅ……」


 先程までの殺人鬼の顔付きとは一変、面影すらない優しい表情だ。

 再び会ったら容赦なく撃つぞと言ってはいたが、白妬はハーモニーを撃つ気など一切なく外へ出ようと背を向ける。


「……とにかく、すぐ逃げろよ?」


「……白妬……様……っ」


「―――ッ!」


 白妬が一瞬振り向いた時、ハーモニーは既にライフルを構え照準を定めていた。

 ババババという銃声が響き渡り、白妬はハーモニーに撃たれてしまった。


「……っ、かは……」


「ごめ、なさ……ごめんなさい……っ、でも、わたし……っ……こうするしか……」


 死人に口なしである。

 ハーモニーが泣きながら謝っても白妬は何も言ってはくれなかった。

 ただ無惨に倒れ込む白妬に踵を返して走り去った。


 ―――


 都築は上機嫌に廊下を歩いていた。

 上手いこと他の教師を戦闘不能にする事が出来たからだ。


「次は誰にしようかな――ッ!?」


 しかし不意打ちで首元に背後から銃弾が当たり、倒れてしまった。

 誰がやったのか見上げて相手を確認すると、その人物に驚きつつも納得した。


「……ふぅん。簡単に死ぬとは思ってなかったけど……反撃開始ってとこかな……」


 都築の言葉は無視され、用が済んだからかそのまま立ち去っていく。

 彼の黄緑の髪色が、月明かりに照らされて眩しく感じた。


 現状の生き残りメンバーを確認しよう。

 タルク、ナイチ、ハーモニーの三人。

 響、彪、そしてコークだ。


 ―――


 タルクと彪は睨み合っていた。

 張り詰めた空気が二人を包む。


「大分減ったようだな」


「そっちもな姉貴。まぁ、絶対に俺らが勝つけど」


コーク(代表)が真っ先に死んだのによく言えるな」


 タルクが嘲笑い、彪を見下す。

 確かに彼の言う通り、口では強気でいられるが代表がいない中勝機はあるのか疑問な所なのだ。

 彪は西部劇のように銃をクルクルと指で回しながらある事を提案する。


「……公平にあれ、やろうぜ。十数えて撃つやつ」


「やってやるよ」


 そう言ってお互い背を向け、十からカウントダウンをしながら一歩ずつ歩いて行く。


「……八、……六、……四、……二、……」


 両者の数字を数える声と、足音と、銃を握る音だけが聞こえる。


「「いち!!!!」」


 同時に銃を発砲する音を校内に響き渡らせた。


 ―――


「……はは、俺も年だな……っはぁ、はぁ……」


「もー……何言ってるの……こっちだって……へとへとだよ……」


 ナイチと響の勝負の行方は引き分けのようだった。

 お互いの銃弾は尽き、床にへたり込み肩で息をしていた。


「でもね……最後のナイチの弾、僕に当たってたよ」


「そうだったか……なら俺が勝ちか……」


 撃ちすぎて正直当たり判定が分からなかったが響が自供した事でこの勝負はナイチの勝ちとなった。


「響もなかなか素質が――」


 ナイチの言葉が途切れた。誰かに撃たれたのだ。

 直後に背後から何者かに足蹴にされ床に豪快に転がされてしまう。


「……貴様……」


「時間稼ぎ感謝だ、琴吹響」


 生きているはずの無いコークの姿に、ナイチは焦燥した。

 こちらの勝機が、彼が生き残っていたという事で分からなくなってしまったからだ。


 ―――


「やっぱ姉貴にゃ勝てねぇよ」


「ふふん、年の差が決め手だぜ。って変わんねぇか」


 タルクと彪の勝負はついていた。

 コンマ何秒の差で、タルクの方が早かったのだ。

 彪は撃たれた後頭部をさすりながらさすがだと褒める。


「……?変だな」


 タルクは敵チームがこれで全滅し、自分のチームが勝ち残ったと確信していた。

 しかし勝敗が決まったのならチャイムが鳴るはずなのだ。


「……まさか……!」


 タルクは何かを察して一目散に走り出す。

 廊下の突き当たりを曲がった先に、ハーモニーが佇んでいた。


「ハーモニー!!!」


 一歩遅かった。ハーモニーはその場に崩れ落ち、倒れてしまう。

 彼女を撃った目の前の人物をギロッと睨み、焦りから出た汗を拭う。


「てめぇ……死んでなかったのかよ」


「作戦だ。殿堂に狙われたから撃たれた振りをして私が動くタイミングを見計らっていた」


「ま、お前が初っ端から殺られるわけねぇしな」


 さすがコークだとタルクは笑った。

 彼の事だから絶対に簡単に殺られるとは思っていなかったが戦い合うという密かな楽しみが叶う事となったので結果オーライだ。


「なら決着をつけようか!」


 そして銃の撃ち合いが始まるのだった。


「つーか何でこんなことする必要があんだよ!!話し合いで決まるだろ!!」


「決まらなかったからこうなったんだろ。私達らしい、武力行使が手っ取り早いじゃないか」


 タルクは廊下の先のコークに銃を撃ちまくる。

 それはガード代わりの机に当たり、無意味と化すがタルクは構わず乱暴に乱射させている。

 コークも机に隠れながらライフルを構え、容赦なく向こう側を撃つ。


 このままでは埒が明かない。

 タルクは改めてこうなってしまった原因を掘り返す。


「……なぁ、何で()()()()()じゃ駄目なんだ?」


「何度も言っただろう。そこは()()()()()()があるのは知っているが所詮バイキングの焼肉だろう!!!私は本場の肉が食べたいだけだ!!!大体あれは出来立てではない!!!」


「あるだろーが出来たて!!!てめぇの出来たて基準は何分なんだよ!!!焼肉屋は焼肉メインだろ!?バイキングは沢山のメニューがあんだよ!!!それに大勢なら尚更楽しいじゃねぇか!!!」


「大切なのは楽しさなんかよりも味だ!!!」


「ざけんじゃねぇ周りの雰囲気だって大事なんだよ!!!分かれ石頭!!!」


 そう。これは些細な意見の食い違いから生まれたバトル。

 夕飯をバイキングか焼肉かで意見が分かれてしまい勃発した戦いなのであった。


 本気の二人は口論しながら至近距離で銃を撃ち合っている。

 上手く寸前でかわし、なかなか決着がつかない。


「痛い目見ないと分からないようだな……!」


「はっ!上等じゃねぇの!!!」


 次第に二人は銃を捨て、己の武器を取り出し今にも血に塗れた戦いを始めようとしていた。

 しかし―――


「ねぇ……早く決めてくれない?」


「……!?」


 空腹で待ちくたびれた死亡者達が二人を囲むようにして仁王立ちした。


「……り、両方採用で……。これでいいか?」


「…………あぁ」


 こうして夕飯を賭けた命懸けの戦いは呆気なく幕を閉じた。



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