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9月23日、9月27日、10月1日

 

 ―九月二十三日―


 ラヴィッチとナイチが二人で草原の中、戦闘訓練に勤しんでいると誰かが歩いてこちらにやってくる足音がして振り向く。


「僕達の仲間が居ない時に来るなんて…」


「一体何の用だ」


()()()


 そこには二人の母親、カンラとトウマが険しい表情で我が子を見つめていた。


「……」


「……」


 お互い目を合わせたまま、張り詰めた空気を保っている。

 ラヴィッチが、攻撃が来るかと身構えているとカンラはみるみるうちに瞳を潤ませ悲しい表情に変わった。


「うぅ……っ、うわぁああん……!ラヴィッチが睨んだぁああ……!」


 カンラが泣きつくとトウマは慣れた手つきではいはいと宥めた。


「……う、ぅ……親バカでごべんなさい……テイク2やらせてもらうわ……」


 一気に場の空気が穏やかになった気がしたがカンラは鼻水を拭いながらやり直しを要求した。


「もう、警戒しないでよ。母さんなんだから」


「ふ、警戒せざるを得ないだろう」


(は、始まってた)


 先程の泣き顔だったカンラは何処へと思う位表情が凛々しい物となり、ナイチもそれに平然と返事をしていたのでラヴィッチが一人でテイク2が始まっていたと焦燥していた。


「今回は戦わないから安心してね♪お話だけ!」


「話?」


「そう!昔話よ」


 そう言ってカンラは画用紙を一枚、ラヴィッチ達に掲げるようにして見せた。

 そこには”ラヴィッチ&ナイチ、昔話クイズでPON”というポップな見出しでカラフルに文字が書かれている。


「真面目にやらんかい」


「ごめんなさい」


 ラヴィッチが回し蹴りでその用紙を突き破った。

 どうしてもふざけてしまうカンラの口をガムテープでトウマが塞ぎ、テイク3が始まるのであった。


「カンラは黙っとれ。お前達、ここから本題だ。二人は小さい時から一緒だったな」


「え?うん、僕がナイチ家の隣に引っ越してきてからはずっと一緒だったけど……」


「……違うの。イザード家もコースト家も実は生まれは日本(ここ)じゃなかったの。……みんな外国育ちよ」


「……へ」


 言っている意味が全く分からなかった。

 以前ナイチがラヴィッチとの生い立ちを話してくれた時、二人は外国人じゃないのかという話題になったが日本生まれだと答えたのを思い出す。

 確かにナイチの家の隣に引っ越してきて挨拶をしに行った時は既に今いる日本だったはずだ。

 どういう意味なのか分からず母親の話を黙って聞いていた。


「私達が貴方達を産んでしばらくの頃、()()()()()()日本に……ね」


「……言え」


「ナイチ……」


「事情とは何だ!?何故今まで黙っていた!!別に生まれた地が日本だろうが外国だろうが俺はどうでもいい!!何か言えない出来事があったのか!?」


 ナイチは怒り、銃口を二人に向け怒鳴った。

 彼の言う通り、別に出身国が日本だろうが違う国であろうがそこに関しては何も思うことは無いのだ。

 何故それを秘密にされ、今に至るまで誰も話してくれなかったのか、理由があるとしか思えなかった。

 カンラ達は暗い表情でいたが、話す決心がついたのかゆっくりと口を開いた。


「……魔術の実験中、まだ未熟者だった私達は……失敗してすぐ傍にいた貴方達を……()()()()()()()()()()()()


「……!!」


 驚きで声が出なかった。

 本当に忽然とラヴィッチ達の姿が消えたんだと言う。

 必死に探すも居なかったそうだ。


「……じゃあ、僕達はなんで」


「白花さんが、突然現れて二人がいる場所を教えてくれた。疑ったが言われた場所に行くと本当に居たんだ。…ここ日本に」


 存在を消した訳ではなく、どこか別の場所に転移させてしまったというだけのようだ。

 二人は大事な息子を見つけてくれた白花に頭が上がらず、彼女の言う事に従うと約束したのだ。


「二人の物心がつく前に、コースト家は先に日本に越し、後にイザード家も日本に来て引越しをして来たと思い込ませたんだ。そうしろと、白花が言っていたから」


 白花の思惑は、やはり強くなったアリーシャ隊メンバーと戦い、神の称号を受け継がせる事だった。

 二人は反対していたが白花に逆らえず従うしか他なかったという。


「……ごめんね」


「母さん……」


 カンラは優しく我が子を抱き締めた。

 久しぶりの大好きな母の香りに思わず涙が出た。

 トウマもナイチの肩に優しく触れ、安心させるように笑う。


「私達は故意でお前達を消した訳では無い、そこは信じてくれ」


「ラヴィッチ……ナイチ君……次会う時は、戦いの時だからね」


 時空の扉が現れ、ゆっくりと開いた。

 母さん達が帰ってしまう、引き留めたいのに涙が邪魔をしてラヴィッチは声が出ない。

 悟ってナイチがラヴィッチの前に出て、二人に問い掛けた。


「母さん、これだけは聞かせてくれ。神になれとか、よく分からんが、二人はどう考えているんだ」


 時空の扉に足を踏み入れた母親らは一度こちらを振り向いて優しく微笑んでこう話す。


「大反対、だよ」


 そう言い残して静かに居なくなってしまった。

 ラヴィッチは相変わらず泣いているが、その言葉を聞いて安堵していた。

 白花に逆らえないからやむ無く従っているという訳だ。きっと戦闘時、話せばこちら側についてくれるかもしれない。


「……ラヴィッチ。俺達が生き残る為にはそれなりの覚悟も必要だ。俺も最善を尽くすが、母さんを取り戻す為には貴様も覚悟を決めるんだ」


 決戦の時は近い。

 それまでにラヴィッチにも自分の大切な母親と戦う決心をつけてもらわないと抗えないのだ。

 ナイチは、今日だけは泣くのは許すからきちんと気持ちを整理して共に立ち向かおうと頭に触れた。


 --------------


 ―九月二十七日―


都築(つづき)先生~、プリント集めてきました~」


「あぁ、ありがとう。闇坂」


 理科室にて。

 ハーモニーは、クラスの自習プリントを集めて理科担当教師の都築に渡す手伝いをしていた。

 黒髪の前髪パッツンがトレードマークの都築先生。

 気さくで話しかけやすい印象の彼は、生徒からの信頼も高く割と人気のある先生らしい。

 テキパキと作業をしながら礼を言う姿を見て、生徒から慕われるのも納得だとハーモニーは頷く。


「……ねぇ」


「は、はい~?」


 都築はいつの間にかハーモニーと顔面五センチ位の距離にいた。

 じっと見つめられ、どうしたのだろうと首を傾げる。


「……君、変わった生徒だね」


「……え?」


「この俺とこんなに距離近いのに頬すら赤くならないなんて」


 物凄く自意識過剰だとハーモニーは苦笑いした。

 確かに顔面偏差値は高い方だとは思うが相手は教師だ。

 別にそれ以上の感情も湧かないので頬が染まらないのも当然だとは思うが都築はガッカリした感じであった。


「もしかしてロボット?」


「!!!?」


「なんてねっあはははは!そんな生徒が居たら大変だ!是非解剖させてほしいよ!」


 一人でツボに入って爆笑している姿を、ハーモニーは服の袖をギュッと握りながら見ていた。


「……ロボットで何が悪いんですか~。確かに成長しないのは日々の悩みではありますが……っは!?」


 何だか馬鹿にされている気がしてつい悪態をついてしまった。

 今更口を噤むが既に遅い。

 都築はとても興味深そうな顔でニタニタ怪しい笑みを浮かべている。


「君、明日も理科室(ここ)に来てよ。……じゃないとバラすよ?」


 ―――


「……という事になってしまいました~っっっ!!!!」


「それやばくね!?」


 一連の出来事をコーク達に話したハーモニーは目に大粒の涙を浮かべ、藁にもすがる思いで助けを求めていた。

 タルクの言う通り、割とヤバい展開なのだ。

 彼女がロボットだという事が全校にバレてしまうと非常にまずい。


「……コーク?」


 コークは静かにハーモニーに近付くと、思い切り彼女を平手打ちした。


「っう……!」


「何をやらかしているんだお前は!厄介事を増やして……!」


「ごっ、ごめんなさ……っ」


 ハーモニーの胸倉を掴みあげながら珍しく声を荒らげるコークにハーモニーが泣きながら許しを乞う。


「……それが原因で私達まで探られてしまったら……一番まずいのは俺なんだぞ……!二十歳超えた俺が何食わぬ顔で高三を演じているんだからな……!」


「珍しくコークが慌ててるな」


「当然だろう……!」


「留年設定で良いじゃん」


「私のキャラクターが崩れる」


 ナイチとラヴィッチが他人事のようにコークに言葉を投げ付け、律儀に返される。

 しかも都築の態度が落ち着き過ぎている事から、能力者かも知れない事も否定は出来ないのだ。

 英語の教師の姫川のように。


「とにかく、明日はそいつの所に行かないといけないな。私が同行しよう、安心しろ」


「白妬様~……」


 叩かれたハーモニーの頬を優しく撫でながら白妬が安心させるように力強く微笑んでいた。


 そして迎えた翌日の放課後。

 言われた通りにハーモニーと白妬は理科室へ足を運び、薄暗い教室のドアを開けた。


「……は?」


「あれー?黒花さんじゃないスカー!」


「どーして来ちゃったのー?」


「……どういう事だ」


 白妬は唖然としていた。

 何故ならば理科室には、如何にもヤンキー姿のチャラチャラした男子生徒が二人居座っていたからだ。

 白妬を見つけると嬉しそうにニヤニヤ笑っていた。


「ここ、俺達が女と()()()()()場所なんスよ。薄暗くてみんなが居る教室から離れてるし」


「…………()()()()()?」


 白妬は戦闘バカの為、違う意味で捉えてしまった。

 彼女の目の色が変わり、今すぐ人を殺める準備が出来ていそうだ。


「そうか、ならば相手になってやろう」


「え!マジで……っぶふぅ……ッ!!!!」


 白妬は喜ぶ男子生徒に足蹴りを食らわせ遠くまで吹き飛ばしてしまった。


「何してんだよてめっ……!?」


「……ふん」


 背後からもう一人の男子生徒が襲いかかろうとするも、白妬は振り返る事無く握り拳を相手の顔面に打ち付けた。

 何故か嬉しそうに笑いながら気絶した二人を冷めた目で見下ろす。


「通称殺人鬼の私に挑もうなど愚かだ」


「あれ、闇坂と黒花も来てたのか?」


「貴様か……」


 タイミングよく教室内に入って来たのは都築だった。


「教師に貴様呼びなんて、さっすがだね!殺人鬼さん!」


「!?……まさか貴様、仕組んで……」


「さぁ、なんの事やら……明日も来てね?」


 都築は気付かれないように教室の外から一部始終を覗き見していたのだ。

 これでハーモニーだけでなく白妬の本性まで知られてしまい、どうする事も出来なくなってしまった。


「す、すまない……地雷を踏んでしまった」


 自宅に帰り、白妬は一同に頭を下げる。

 都築の作戦にまんまと引っかかってしまった事が悔しくきつく唇を噛んでいた。


「次はみんなで行こうよぅ」


「そうだな」


「それにしても何だよ都築の野郎、温厚なフリしてどす黒いじゃねぇか」


 埒が明かないと珍しく響が真っ当な事を提案する。

 リビングに置かれたホワイトボードにはにこやかな都築の写真が貼られている。

 しかし誰が書いたのか顔面に落書きを施され、必ず潰すと力強く文字が書かれていた。

 噂によればコークが書いたらしいが真相は不明だ。


「……許さん……」


 コークはその写真を握り潰しぐしゃぐしゃにして床に放り投げていた。


 そして次の日。

 よりにもよって放課後を通り越し夜間に理科室に来いと呼び出されてしまい暗い学校に侵入し、決戦の場へと向かう。


「せ、先生~……」


「おお、闇坂。ちゃーんと来てくれたんだね」


 都築はいつものピシッとした白衣姿ではなく、ボタンを大分開けたラフなブラウス姿で退屈そうに机に座っていた。


「……どうして、こんな夜に……」


「……」


「っきゃ……!?」


 ハーモニーが一人で不安そうに教室に入った。

 何をされるのかとオドオドしながら見上げていると、都築はニコニコしながらハーモニーを足蹴にした。

 しかしこれは作戦通りの流れだ。


「あれれ~、暴力ですか~?先生は生徒達に人気があるみたいなのに」


「こんなひでぇ奴だったとはなぁ」


 すぐさま響とタルクが教室内に入り、嫌味ったらしく笑う。


「ハーモニーには申し訳ない役だったが、これも作戦のうちだ」


 うっかり気絶してしまったハーモニーをそっと抱きかかえ、白妬が今度は余裕そうに都築を見下す。


「もしかして君達、仕返ししに来た?例えここで俺をボコろうがバレちゃうよ?」


「策はあるので安心してください、腹黒先生」


 都築は圧倒的不利な状況でも落ち着いていた。

 腹黒先生等とお前が言うかいとナイチがラヴィッチを内心で突っ込むが今の敵は都築だ。

 都築に隙を与えないように見張っていなければならない。


 ちなみにラヴィッチが策はあるのでと言っていたが昨日の作戦会議の際にこんな話をしていた。

 記憶を消す術を持っているのはハーモニーしかいないが、都築に暴力を振られてしまう役に抜擢されてしまったので万が一気絶された場合には術が使えない。

 するとタルクがオレに任せろと手を挙げたのだ。

 記憶を消す力を持つ者がハーモニー以外にもいるのかは分からないが当てがあるようなので任せることにした。


「先生、理科室に忘れ物を……って、随分ギャラリーが多いですね」


「石黒ぉ~~!」


 コークが偶然を装って理科室のドアを開け、わざとらしく驚く顔を見せる。

 都築はコークを見つけ、何故か嬉しそうに駆け寄った。


「……何でしょう」


「石黒は優秀だから先生をもちろん助けてくれる……よな?」


 成績優秀なコークを味方に付けようと都築は動いたのだ。

 少しでも権力のありそうな人物に近寄る、なんて図々しくて腹立たしい人なのだろう。

 しかしコークは恐ろしい程に無表情だった。


「……先生、私は貴方から見て何歳に見えますか」


「え、スルー?何でそんな事聞くのかよく分かんないけど……うーん……高校生には見えない位上には見える……かな」


「…………そうか、やはり潰すべきだな」


 コークの反撃タイムの始まりである。

 と言ってもさすがに本気で殺したりは出来ないので一先ず教室のドアの鍵を後ろ手に閉め、都築を睨んだ。


 ここまで不利な状況になっているのに何もして来ない都築を見て、一同は確信し安堵していた。


「安心したぁ、先生が()()の人で」


「あぁ、こっち側では無くて良かった」


「ナイチ・コースト、穏便にやれるのはお前だけだ。殺れ」


「仕方ないな」


 都築はただの一般人である事が確定した。

 悪く言えば性格の悪い腹黒教師である。

 やっている事は最低ではあったが彼らの現状と比較すると温い出来事だ。


 そしてコークがナイチにバトンタッチすると、少し嬉しそうにしながら己の武器の銃を都築に見せつけゆっくり近付く。


「先生、暴れない限りは……撃ちませんから」


「ひぃいい……っ!!!?」


 さすがに本物の銃を見て怖気付いたのか、都築は腰を抜かし気絶してしまった。

 作戦は大成功である。

 皆でガッツポーズをして、早々に学校内から出る。


「あとはアイツらに任せよう」


「結局アイツらって、誰なんだ?」


 タルクが手を頭の後ろに組みながらひとりでに歩く。

 誰も助っ人の存在を知らないまま作戦を終えて帰路についているが、倒れている都築の目の前に()()の女性が舞い降りていた。


「……この私に面倒事を押し付けるなんて」


「頼られて満更でもない癖に」


「殺されたいのかしらリンリン」


 その正体は月の姫特待生クラスのエレディス達だった。

 と言っても記憶を消す術を持っているのはエレディスだけなので彼女が都築の前に座り、両手を掲げ光を放っている。


 月の姫と和解した今、タルクと特待生はたまに会うぐらいではあるが親睦を深めていたのだ。

 たまたま会話の中で記憶を消す消さないの話になり、タルクは思い出したのだった。


 そして嫌々ながらもしっかりとやり遂げるエレディスにキルトが頑張ってとエールを送り、当然よと照れ臭そうにして都築のこの一連の出来事の記憶を消すのだった。


 --------------


 ―十月一日―


 タルクは教科書片手に学校の廊下を全力疾走していた。


「やべぇ……!響に教科書返してなかった……アイツ確か今日家庭科あったよな……!!」


 三学年共通の家庭科の教科書を響から借りたまま返し忘れていたのだ。

 そしてこの後響のクラスは家庭科だったのを思い出し、急いで返そうと走っているところなのである。


「響だけに教科書……なんつって……あ」


 廊下の角でまるで少女漫画のようにタルクは誰かとぶつかってしまった。

 お互い尻もちをついて、ぶつかった頭をさするが違和感があった。


「なんだ、ぶつかったの響だったか……わりぃな」


「ううん……僕こそ……」


「うん?」


 自分がこうして話しているのに目の前にいる人物はまさに自分だった。

 何を言っているのか理解に苦しむが要するに入れ替わってしまったという事である。

 よく見れば響は目付きがとんでもなく悪いし、タルクは逆にたれ目で弱々しそうな風貌だ。


「入れ替わった系?」


「今ぶつかったから、だよね?」


「や、やべぇよ……!」


 二人がヒソヒソと話し合っていると後ろを偶然ナイチが通りがかった。

 偶然だなと声を掛けると響の姿をしたタルクが振り向き、聞き慣れない口調ねナイチに詰め寄った。


「馨!オレ、響になっちまった!!!」


「はぁ!?頭イカれたか?」


 当然信じられない様子のナイチは、中身はタルクの響を疑り深く見ている。


「何を言っている、貴様は響だろ」


「違う!オレだ!タ……唖理架だ!」


 なかなか信じてくれないナイチにタルクが一から経緯を説明する。

 だがナイチはやはり信憑性がなく怪訝そうにしている。


「……自演か?」


「バカ、こんな感情豊かで口の悪ぃ奴が響な訳ねぇだろ」


 響の声で口悪く話されると割と違和感が凄い。

 そう言われナイチはちらっとタルクの姿をした響を一瞥する。


「うわぁ……僕が女の子に……あすと同じ……女の子……」


「……信じよう」


「だろ?あんなオレ気持ち悪ぃだろうが」


 響は両方の人差し指をつんつんと合わせながらブツブツ潮らしく独り言を言っていた。

 その姿があまりにもタルクらしくなく、ナイチは事実だと信じる事になった。


「てか今のオレ、ナイチより背が高ぇな、すげえ視界」


 こんな状況にも関わらずタルクは呑気に響の身体をたのしんでいた。

 とりあえず学校が始まったばかりでどうする事も出来ないので、バレないようにお互いを演じながら一日過ごせとナイチは二人に命令する。


「おうよ!」


「いえっさー!」


「……大丈夫かよ」


 ナイチは内心で心配し何処かのタイミングで二人が元通りになればいいと切に願った。


 そして昼休み。

 ナイチとタルク(中身は響)が廊下を歩いていると、反対側で彪と響(中身はタルク)が何か話をしている姿を目撃した。


「大河とタルクがいるな」


「そうみたい……だ、な」


 ナイチの言葉に響がタルクらしい口調で返そうとするが中々ぎこちない。しかし努力は認める。


「男口調を意識してるのか」


「う、あぁ……難しいッスね」


(……なんか違うけど)


 普段タルクのような言葉遣いをしない響からしたら至難の業だろう。

 一先ず今心配なのは向こうの方なので隠れて話の内容に耳を傾ける。


「なぁ響!放課後遊びに行かねぇか?ゲーセンでもどうよ」


 彪は普段通り響に親しく話しかけていた。

 授業中は何とかバレずに過ごす事が出来たようでほっとする。

 いや、寝ていたのかもしれないが、それは響もよくやる事なので結果オーライだ。

 しかし一方的に大声で話してくる彪を見て、何だかナイチは嫌な予感がした。


「どうだ!?太鼓やったり!!っておめぇじゃ俺に勝てねぇか!!じゃあプリクラはどうよ!?男二人でなんて寂しいか!!だったらホッケーは…」


「うっせぇな!!!んな事やってる暇ねーーーーんだよ!!!!」


タルク(アイツ)究極の馬鹿だったんだ……)


 怒鳴り返すタルクを見てナイチが両手で顔を伏せガックリと項垂れた。

 彪は当然何があったのかと思考停止している。

 これは指導せねばならないとナイチは、中身がタルクの響の腕を引っ張り場所を離れた。


「ちゃんと演じろと言っただろ……!あと制服ちゃんとしろ!」


「仕方ねぇじゃん、アイツ声でけぇし」


「小声で!!!」


 ナイチは周りに聞かれないよう小声でタルクを叱るが本人に反省の色は全く見えない。

 これでは先が思いやられてしまう。

 きちんと制服を正し、先程いた場所まで戻るが今度はタルクの姿の響が忽然と姿を消していた。

 すると教室内から番長~!という男子生徒の縋るような声がしてまさかと後を追う。

 覗いてみると案の定響と、床に蹲っている男子生徒がそこに居た。

 話を聞くと、その男子生徒はつい最近彼女に振られたそうで中々立ち直れず、番長であるタルクに喝を入れて貰いたいそうだ。

 響は内心でなんて言ったら良いんだろうと頭を悩ませるが頼りなさげに微笑んで男子生徒を見つめた。


「うーん……次は頑張ろうっ」


「誰……ッ!?!?」


 そして失敗である。

 やはり別人になりすまして生活するなど無理だと響は目に涙を浮かべながら全力疾走で教室内を出ようとした。

 しかし前をよく見ず、ドアの前にいた自分の姿と思い切りぶつかり頭を強打する。


 先程同様尻もちをつくが、二人は身体の違和感に今度は歓喜した。


「戻った!」


 奇跡的に頭と頭をぶつけた事で再度入れ替わり、元通りに戻る事が出来たようだ。

 機嫌の良くなったタルクは振られたという男子生徒に男らしく声をかけ直す。


「おいてめぇ。喝入れてほしけりゃ入れてやるよ。まずは吹っ切れて新しい恋に出逢え。振られたのはてめぇの落ち度なんだから何処が悪かったかよぉく考えろ」


「は、はい!!!」


 男子生徒はありがたき幸せと涙を流しながらタルクの言葉を噛み締めていた。

 その光景を彪が外から覗き込み、結局何だったんだと首を傾げていた。


「あーきら!」


「き、響……」


 彪は先程の響の激怒姿が少しトラウマで、ビクビクしながら返事をした。


「遊びに行こうよ!放課後っ」


「お……おう?」


 しかし態度が打って変わっていつも通りなのでただの思春期かと無理矢理納得して一年の教室に戻って行った。


 ナイチだけが俺は結局何もしていないとその場に佇んで居たのだった。

 そして放課後、自分を省き、響と彪とタルクはゲームセンターで寄り道をして楽しんできたという衝撃的事実を響の制服のポケットから落ちたプリクラを見て知るのであった。


評価よろしくお願いいたします!

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