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9月13日、9月16日

 

 ―九月十三日―


 授業の合間の休憩時間。

 タルクが廊下を歩いていると一階にある掲示板の前で何やらつつじと捺紀がヒソヒソ話している姿を発見した。

 何だろうと興味が湧き、近くに寄ると衝撃的発言を耳にしてしまい顔が固まった。


「……最近さ、石黒と榛陸付き合ってる疑惑出てたけどホントなのかな」


「でもこれ見たら疑惑とは言えないだろ」


「?!マジ!?」


「うわ!本人!」


 あっても無いことを噂されている事に驚愕しつい二人に声を掛けてしまった。

 疑惑とはどういう事なのだろう。

 本人は全く自覚がないのに勝手に話題になって困惑してしまう。


「見てないの?新聞部の掲示板(これ)


 そう言って壁に掲載された新聞部の学園内スクープ!という見出しに載っている記事を捺紀に指さされる。

 そこには、”沙檻&唖理架、ラブラブ疑惑!?”という派手なタイトルと共に、タルクがコークに抱き着いている写真が大きく載せられていた。


(オレが恋に悩んでいたあの時かー!!!誤解されてやがるー!!!)


 その写真が見覚えのある物で、やっちまったと口を開けたまま思考停止した。

 タルクが恋について分からなくなって思わずコークに抱き着いて泣いてしまったあの時の一部だ。


 とりあえずその場は濁して誤魔化し、放課後家に帰るなりタルクはコークに掴みかかった。


「……何のつもりだ、タルク」


「コーク、いやお前らも見たか!?新聞部の掲示板!!」


「え?見てないけど……何かあったの?」


「気になります~」


「え、や、なんか改めて言うの恥ずいな……」


 一同に聞いてみるも誰一人知らないといった口振りだった。

 何があったのかラヴィッチに聞かれるが当事者から口にするのも羞恥心が募り躊躇われた。


「タルクの行動を見る限りコークが関係あるようだが……」


「言え、内容によってはお前の生死が決まる」


「うわ絶対死ぬオレ」


 ナイチに追い討ちをかけられ言わざるを得ない状況になってしまった。

 コークにも恐ろしい事を言われてしまい物凄く不利な状況に陥った。

 しかし逃げ場がないので意を決して投げやりに話す。


「が…学校で、オレとコークが付き合ってるとかいう噂が出てんだよ!!!」


 ほらこれを見ろと、新聞部から実際の掲示物のコピーを貰い一同に見せつける。


「合成とかでは……ないね」


「何やってんだ貴様ら」


 響も驚いた様子で新聞を凝視していた。

 呆れた様子で白妬もそれを見ていた。


「コーク、タルクの生死の判定は……」


「……生だ」


「えぇ!?」


 確実にコークに殺されると確信していたタルクだったが予想外の判定に耳を疑った。

 するとコークがタルクを見つめて自分の胸に手を当て突拍子もない事を言う。


「タルク、私と付き合ってくれ」


「!??!?!!」


 タルクだけでなくここにいる全員が驚いて声を失った。


「学校に通ってからいつか言おうとは思っていたんだ」


「は、はぁ?!てめぇ…自分の言ってる意味わかってんのか!?」


「当然だ。お前が傍にいてくれるだけでいいんだ」


 勝手にベラベラと話を進められ思わずタルクも顔を赤らめてしまう。

 その光景を見ながら白妬が悔しそうに蹲っているが構っていられない。


()()()()()()()()()には、こうするしか無いんだ」


「…は?」


「…ん?何を驚いている。お前と付き合っていると思い込ませれば私に毎度毎度声を掛けてくるヤツらも引いていなくなるだろう」


「逃げるためかよ!!!」


 コークは休み時間の度に声を掛けてくる女子生徒にウンザリしていた所だったのだ。

 そこで新聞部の噂通りタルクと付き合っていると思い込ませれば諦めて居なくなってくれるだろうと考えたのだ。

 紛らわしい発言にタルクの胃が痛む。


「新聞部に感謝だな、明日からよろしく頼むぞ」


「マジかよ……」


 拒否権は無いようで早速翌日から付き合っている設定で学校へ行くことになってしまった。


 そんなこんなで早くも次の日の放課後。

 何故もう放課後なのかというと、授業が終わった後の休み時間はタルクが爆睡かましているので二人が接触する事が叶わなかったという事だ。


 コークが目立たないように裏玄関からこっそり出て裏庭を歩いていると、彼と下校したい女子生徒が早くも待ち伏せしていて離れた所から覗き込んでいた。


「コー…沙檻ぃい!!!」


 女子生徒数人が声を掛けようとした所でタルクが邪魔をする。

 阻止されて軽く舌打ちをした女子生徒だが帰る気配はまだ無かった。


「唖理架」


「い、一緒に帰ろうぜ!」


 なるべく自然な感じを装ってコークが振り返るがタルクは若干棒読み状態だ。

 コークは、帰る気配の無い女子生徒達を横目で確認すると敢えて話題を恋人らしいものにすり替えた。


「ふ、嬉しそうだな。そんなに私が好きなのか?」


(自然に自然に……)


「あぁ、好きだ。他の女に負けねぇくらいお前が好きだよ」


 自然に自然にと暗示をかけ続け、返された言葉にコークは一瞬驚いた顔をした。

 なかなか見込みがあると踏み、そのままタルクを抱き締める。

 驚きの声を上げられたが無視。


「……てめ…そこまでしなくても」


「黙れ」


 コークには思惑があるようで抱き締めながら小声でタルクに話し掛ける。


「女…いや、男からも視線を感じるんだ。両方を突き放すにはこうするしかない」


「……確かに見られすぎて悪寒がする」


 抱き合っている姿を見せつければ男子、女子生徒も嫌がって散ってくれるだろうと思ったのだ。


 コークもタルクもお互い嫌そうな顔をしながらだが、堪えて抱き合い続ける事五分。


「……全く帰る気配ねぇな」


「……ああ」


 五分もよく眺めていられたなと賞賛したいくらいである。

 確実に散らせる為にはこれしかないとコークは一度タルクを解放して一つの話題を持ち掛けた。


「唖理架、私は敵側だった時(あの時)、まだお前の事をよく知らなかった」


(いきなり過去の話かよ)


 タルクは愕然とするがとりあえず話を聞くことに専念する。


「あの時は…会議の時位しか顔合わせしなかったな」


 思い浮かぶのは作戦会議を行った時の事。

 広いリビングルームで大きなテーブルを囲み、全員が席につきサランの話を聞いていた。

 ハーモニーはせこせこと全員分の食事提供に勤しみ、クルー姉妹は難しい話は分からないと途中から遊び出し、タルクと真奈と白妬は退屈そうに黙って座り、琴吹兄妹は完全に二人の世界状態、ラヴィッチとナイチも二人で私語が多かった。

 そんな中コークは常にサランの隣に座り、彼女の話を真剣に聞いていた。

 皆がバラバラだった。


「正直、サラン様以外の奴を常に敵視していた」


「……」


 元々集団でいる事を苦手としていたから尚更なのかもしれない。

 態度は平静を保っていたかもしれないが内心では常に苛立っていた。


「だが、今は違う。お前達は()()だと……この私が認めた」


「!沙檻……」


 そんな彼が仲間意識を持つようになったのは驚きでしかない。

 タルクは確かに前に比べてコークが丸くなっている気がしていたのだ。


「…今日も私の部屋に来い。また啼かせてやるぞ」


「な!?このタイミング!?」


 すると効果があったのかバタバタと蜘蛛の子を散らすように生徒が走り去って行った。

 前置きはいいから初めからそう言っておけばすぐ済んだことなのではとタルクは疑問に思ったが言わないでおくことにした。

 それより気になったのは先程の話だ。


「……なぁ、さっきの話…本当のことなんだな?」


「嘘をつく理由がないだろう」


 コークはやっと解放されたと背筋を伸ばし、背を向ける。


「……もしかしてこれからもこんな事続けるのか?」


「いや、私に絡む奴が消えたら普段通りに戻すつもりだが……嫌なのか?」


 タルクの方を振り返り首を傾げるコークに、もう懲り懲りだわと悪態をつく。


「毎日やんのはめんどくせぇし、でもなんか楽しかったなって。演じるのが俳優みたいで」


「そうか」


 両手を頭の後ろに組みながら上機嫌に笑うタルクを、コークは再び抱き締めた。

 全く予想していなかった行動になんだなんだと頬が染まるがコークは先程同様物凄く嫌そうな顔でタルクに囁く。


「また女の視線だ」


「てめぇどんだけ人気なんだよゴラ」


 結局第二弾の女子生徒が諦めて散らばるまで役者に成りきって恋人役を演じていた二人だったが割り切ったのか何処か楽しそうな雰囲気を作っていた。


 --------------


 ―九月十六日―


「殿堂さんに振られた…でも僕は諦めないぞ」


 雅つつじは前回の校内大告白の出来事を思い出し項垂れていた。

 振られた事がショックでなかなか立ち直れず一人下校しようと玄関に向かおうと廊下をとぼとぼ歩いていると不注意で誰かにぶつかってしまった。


「あ、傘の人」


 相手は響だった。

 つつじと響は意外にも面識があり、以前大雨の下校時に傘がない響につつじが貸してあげたエピソードがあったのだ。

 その時はつつじもすぐに傘無しで走り去ってしまった為、お互いの名前を教えてなかった。


「誰?」


 響の後ろに彪も居たようで誰だと聞くが響は名前を知らず困っている。


「えっと……傘の…」


「雅つつじだ!!!」


「あぁー!あの放送で告白した変な奴か!」


「変な奴認識されてるーー!!!」


 つつじの名に聞き覚えがあった彪はすぐに、放送で梨杏という人物に告白をした変人だと思い出す事が出来たようだ。

 その言われようが何気にショックで悲痛の声を上げるつつじであった。


 響も改めて彼に自己紹介をし、そういえばコークが同じクラスで最近になって話をするようになったと話していた事を思い出した。


「コー…沙檻と話してるみたいだし仲良さそうだよ、名前までは知らなかったけど」


「名前くらい知っとけよ響。あ、俺委員会あっから行くわ」


「うん、頑張ってね」


 そう言って彪が去ってしまい、つつじと響二人になる。

 何か話した方が良いのかとつつじが考えていると響がニコニコ笑いながら話しかけてくれた。


「ねぇつつじ!これ知ってる?」


「何これ?」


「漫画研究部の人が描いた漫画!これ、僕達がモデルなんだって~!」


 何故それを響が持っているのかは不明だが黒い袋に入れられた()()冊子は、響とつつじがモデルにされている漫画のようだ。

 袋に入っている為中身や表紙は分からないがどのような内容なのかは純粋に気になる。


 すると後方からタルクが響に帰るぞと呼ぶ声がして、先に読んでみてと強引に漫画を押し付けられてしまった。

 明日感想を教えてねとにこやかに笑いながら手を振って居なくなってしまった。


 そしてつつじは自宅に帰り、漫画を袋から出してみたのだが。


「ひ、表紙……」


 つつじは禍々しい物をみるような目で漫画の表紙を見ていた。

 その表紙には、”禁断の恋”、”アナタはどのCPが好き?”、”学園のアイドル、沙檻先輩✕唖理架”、”内緒の恋、響✕つつじ”、”幼馴染の恋、馨✕伊吹”、”近親相…、捺紀先輩✕彪”という本人達が見たら失神してしまいそうなタイトルと共に、コークがタルクに壁ドンをして迫っているイラストが描かれていた。

 恐る恐るページを捲ってみる。


『どうして……僕のものにならないの……』


『響……っ』


『つつじ……』


『んぅ……っ!』


(!???!!!)


 早速描かれていたのはつつじが響に壁ドンされ、無理やり唇を奪われているアウトなシーンだった。

 その次にはラヴィッチがナイチに後ろから抱き締められ身体をまさぐられているシーン、その次は捺紀がニンマリと厭らしい目付きで彪を見つめているシーンが現れ、思わず本を勢いよく閉じた。


「い、意味わかんない!!何で僕と響が……」


 漫画研究部のこの本を手掛けた生徒は、頭の中が薔薇のようだ。

 響がまだ読んでいなくて良かったと切実に思い、胸を撫で下ろす。

 とりあえずこれ以上は見れないと、本は袋に入れ直し机の中に封印しておく事にした。


 そして翌日の放課後。

 この日は生憎の雨であった。

 つつじは憂鬱だなぁと傘を差そうとするとしていると背後から響に名前を呼ばれた。


「つつじ、傘入れてくれる?」


「きょ、響……別にいいけど……」


 昨日の薄い本の件もあってか、内容を思い出してしまいなかなか目を合わせられないでいた。

 しかし断るのも申し訳ないので傘を差して一緒に帰ることにした。

 意識してしまっているのでつつじは響から気持ち離れて歩いていたので彼の肩が雨でびしょ濡れとなっている。


「……つつじ、離れすぎて肩濡れてるよ」


「え、あ、あぁ……」


 適当にはぐらかそうと相槌を打つが、無理やり肩を引かれ距離を縮められてしまう。

 至近距離で風邪引いたら駄目だよと微笑まれ、つつじはどういう顔をすればいいのか分からなくなり、堪えきれず傘を響に押し付けた。


「お、おおお前、ひっ、一人で帰れ!僕買い物頼まれてっから!」


「え、でも傘…」


「貸すから使え!」


「雨…」


「僕は三年だから強いんだ!風邪なんか引くわけないだろ!」


 響の言葉を強引に遮り、風が強い大雨の中つつじは全力疾走で逃げるように走り去っていった。

 響はポカンとしたまま突っ立っていた。


 そして更に翌日の昼休み。

 コークと響とタルクが机を囲みながら昼食を取っているとコークからある事を告げられる。


「どうでもいい話だが、先程雅が倒れた」


「えぇ!?」


「熱があるらしい」


「ぼ、僕ちょっと保健室行ってくる!」


 確実に昨日の雨のせいだと響はつつじを心配し、昼食が途中にも関わらず立ち上がって保健室へと走って行った。


「……伝えに行くのか、あの事を」


 タルクが紙パックのイチゴオレを一気飲みしながら意味深にそう呟いて響を見送った。



「…………っえ!?」


 つつじは保健室のベッドで寝ていたが、扉が開く音で目覚めゆっくりと目を開けるとドアップの響がつつじを見つめていた。


「な、なんで…」


「もう、三年だから強いって言ってたのに風邪引いたんだってね」


 自分から風邪等引かないと言い張っておきながらその翌日に高熱を出すのだから恥ずかしくて堪らなかった。


「ごめんね、僕が傘入れてなんて言ったから」


「いや、響は悪くないよ……」


「僕が雨の中一人で帰っていればつつじは風邪引かなかったから僕のせいだよ、本当にごめんね」


 天然男というイメージが付いていた響だったが、律儀に謝ってきてくれて根はしっかりしているんだなとつつじは彼を見直した。

 あんな漫画のワンシーン如きで動揺していた自分が何だかアホらしく感じていたつつじだが、次の響の一言で再び思い出される羽目となる。


「熱、測ってあげようか」


「い、いいよ!今少し眠って下がった感じもするし!この後早退するつもりだから――」


 嫌な予感がしておもむろに布団を出て逃げ出そうとしたつつじだが、熱と寝起きのせいで立ちくらみを起こし身体がふらついて倒れてしまいそうになった。

 しかし間一髪の所で響がつつじを支え、抱き留めた。


「……つつじ、話しておきたいことがあるんだ」


「!?」


 真剣な表情でそう告げられ、思考回路がショートしかけた。

 ここでつつじは確信した。


(響は僕の事が……)


 今までの響の言動全てがつつじに気があるように感じていたのだ。

 彪やコーク達が居るにも関わらずつつじに傘を入れてくれと頼んできたり、保健室まで来てくれたり、無意識に抱き留めてくれたり。


「響の言いたい事はわかってるよ」


 つつじはその気になって、響を抱き締め返した。

 響は固まって一切動かなかった。


「好きなんだろ?僕が」


「……」


「あの時僕と出会ったのはきっと必然の――」


「やめてよ~何か怖いよつつじぃ。男に抱き着くなんて」


 予想していた響の反応とは打って変わって違ったのでつつじはやらかしてしまったと全身が石化したかのように固まる。


「僕が言いたかったのは、昨日借りた傘が強風で壊れちゃったって事だったんだけど……」


「は」


「僕がつつじを好きだって?僕が好きなのは在原君達だよ。つつじももちろんお友達としては好きだけど、それって普通の事じゃないかな?」


 響の言葉全てがつつじの身体を突き刺して行った。

 一人で勘違いしてその気になって響にド正論を言われ、恥ずかしくて仕方がない。


 今度傘を買って返すねと響は手を振って居なくなったのでポツリとつつじは一人で潔くこう呟いた。


「よし、死ぬか!」



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