9月6日、9月10日
―九月六日―
日付が変わって十二時をとっくに過ぎていたが一同に眠気が襲ってくる事は無かった。
家に戻り、それぞれがリビングのテーブルを囲んで椅子に座り、俯いて考え込んでいた。
彪もどうしたらいいか分からず付いてきたが、何て声をかければいいか困ってしまいカーテンを少し開けて外を眺めている。
ちなみに彪にはサランからアリーシャ隊の過去の出来事を洗いざらい伝えられているので一応一通りの流れは把握している状態だ。
「……みんな」
「現実を受け止め切れない表情です~……」
先程の出来事をすぐに受け止めろと言う方が無理難題である。
次の敵は自分達の母親だということが判明しているのだから。
「サラン様も……ショックですよね~……」
「……当然じゃない、私含めて騙していたなんて信じられないわよ……」
そう言って拳をギュッと握りながら唇を噛んだ。
余りの強さに唇が切れて血の味がしたが、彼らの痛みに比べたらどうってことない。
「……でも、私だけは落ち込んでいちゃ駄目……これ以上みんなを困らせたくない」
サランは何かを決心して立ち上がると皆の顔を一人一人見て行った。
「みんな聞いて。今回の件については彼女らの思惑に気付くことが出来なかった私に全ての責任があるわ。だから……決着は私が――」
「違いますよサラン様」
サランの言葉を最後まで聞かずにラヴィッチが制する。
そうじゃないんですと弱々しい顔で笑みを作ってサランを見た。
「僕達は落ち込んでませんよ、もう」
「あぁ、現実は受け入れました」
「今は、母についてどう対策を取っていけばいいか考えていた所です」
「サラン様の責任じゃないっすよ!悪いのは意味わかんねぇ事を考えている母ちゃん達ッス!戦うのはオレ達に任せてください!」
ナイチもコークもタルクも口ではそう言うが納得はしていないはずだ。
彪ですら彼らの表情を見てそう汲み取っていたのだ。
現実を受け止め切れていない事はさすがに分かる。
(俺は精神的ダメージを負っていないからこいつらの気持ちを理解することは難しいけど……今更見捨てられないし一緒に背負っていってやりたい気持ちにはなった)
それにサランからアリーシャ隊の歴史を話されているのだ。
今更無関係のただの友人には戻れないだろう。
出来る事があれば何でも手伝うつもりでいる心意気でいた。
「しかし今一番重症なのは……響だな」
ナイチがそう言って目を配る。
一人分空席となっている座席を不意に見てしまう。
そこは響の席だ。
家に帰ってから響は何も言わずに自室に戻ってしまい未だに出てこないのだ。
響の腹からの絶叫と泣き顔がフラッシュバックする。
亡くなっていた明日香が生きて近くにいたのに、それを親に目の前で跡形もなく殺されてしまったのだから取り乱すのも当然だ。
「響の事は……今はそっとしておきましょう。今一番辛いのは……彼です」
そう言って白妬が目を伏せる。
「立ち直ってからでも話は――」
「ふぁーーよく寝た~」
するとリビングの扉が開く音がして一斉に振り返ると、伸びと欠伸をしながらいつもの様子で響が戻ってきた。
「ごめんね、僕だけ寝ちゃって」
頭を掻きながら普段通りの態度の響に、言葉が詰まってしまう。
先程まであんなに取り乱して泣いていたのにどうしたものか。
「……響……平気、なのか?」
「うん!大丈夫!泣くのはさっきまでにしたよ。僕一人が泣いて喚いてもどうにもならないし、解決にならないし、あすのために頑張らないとっ」
その頼もしい言葉にサランは、成長したのねと嬉し涙を浮かべていた。
前まで明日香がいないと何も出来ないと病んでいた響が一人で立ち直って戻ってきたのだ。
「……じゃあ……響も戻ってきてくれた所で、これからの対策の為にまずはそれぞれの母さんの分かる事を情報共有していこう!」
ラヴィッチがそう仕切り、順番に母親の特徴を話していくことにした。
「まず僕ね。カンラ・イザード。武器は剣を扱っているよ」
カンラはラヴィッチによく似ていて、ラヴィッチの髪が伸びた姿がまさに母親そのものであった。
親子でそこまで似ることはあるのだろうか。
「あんな温厚そうな顔で剣!?」
「やはり親子は似るんだな……」
バリバリ物理攻撃なのも意外すぎた。
武器もラヴィッチと同じだし、もしかしたら靴の底に何か仕込んでいるのかもしれない。
「次は俺だな。トウマ・コースト。ラヴィッチの母と仲が良く、武器は特にない。格闘タイプだな」
「セットで来たら面倒なチームだな」
トウマはあまり喋るタイプでは無さそうに伺えた。
そこはやはりナイチと似ているなと思う。
透き通る銀髪が風になびき、クールな印象であった。
「……マリファナ・パブリック。武器は鎖だ」
「一言も喋ってなかったけど無口な感じなのかな?」
「でも優しそうだったよね」
ほわほわとした笑みでコークを見ていたあの姿から鎖を武器にして戦うなど想像がつかなかった。
あと名前が凄い。大丈夫なのかと心配になる名前だ。
コークもそうだが今思えばアウトな気がした。
「どうやったらこんなドSが生まれるんだろう」
「本当に失礼だなお前」
ラヴィッチが怪訝そうにコークを凝視した。動じないコークだが少しイラッとしているのが伝わる。
「はいはーい!ノエル母ちゃんはモノホンの刀を使ってるぜ!」
「性格もタルクと似た感じだったな」
ノエルは髪を無造作に一本で結っているなかなか気の強そうな印象だった。
怒ると割と怖いのかもしれない。
「あっ、僕だね。琴吹 未来。武器は包丁とかナイフかな」
「なかなかおっかねぇ顔してたな」
「よくわかんないけど大きいサイズの包丁から小さいのまで色々扱えるらしいよ」
あの場で一番印象強いのは未来が響の頭を掴んで恐ろしい表情で笑っていた所だ。
響の親という事だからもっとふわふわして何処か抜けているような性格だと思い込んでいたが全く違うようだった。
「あ、じゃあ……ハーモニーは?」
「私はサラン様に作られましたので~」
「まさか……」
「ちょ!!これで私が敵側だったらさすがにヤバいわよ!!ないない!!」
彪がそう冗談を言うとサランが必死に弁解した。
次は白妬様ですと声をかけるハーモニーだが、当の本人は呆然として思考停止状態になっていた。
「白妬さん?」
「……!な、何だ?」
「次、白妬さんのお母さんだよ」
ハッとして白妬は咳払いをする。
白妬の母親はどんな人だったか思い出そうにもそういえばあの場に居なかった事に気が付いた。
「……白花、それが奴の名だ。奴は……とても危険だ、戦う時は充分対策を練ってからの方が良い」
話を聞く限り白花がこの中で一番強そうなイメージとなってしまうが、もしかしたらあのチームでのリーダー的存在は彼女なのかもしれない。
「そういえば……未来さんは自分達の事を神って呼んでたよね」
「うん……それで、お母さん達を倒して神になりなさいとも言ってた……」
「別にそんな称号いらねぇんだけどな……」
考えれば考える程分からなくなっていく。
母を倒し、強くなったという証明として神という名が授けられるのか。
正直何がしたいか分からない。
だが、強くなったアリーシャ隊と戦うのが目的のようだしやはり神の座を授からせたいのだろうか。
というかあの場で全員がこちらに食ってかかれば恐らく勝てただろうに、そうしなかったのが疑問である。
「まぁとにかく……奴等の居場所が分からない以上はこちらからアクションも起こせない。いつ来られても良いように万全の体制で過ごす事にしよう」
「そうですね~……」
コークがまとめた所で作戦会議は終了した。
各々が部屋に戻っていく中、サランは窓の外を眺めて悲しげに眉を下げた。
(……母様……私は自分が情けなく胸が苦しい。私のせいなのに……この子達はまた戦おうとしてくれている。私にもっと力があれば……)
罪悪感で胸がいっぱいだった。
カーテンを握り締め震えているサランの手を、コークが優しく触れた。
「冷たくなってますよ、貴女の指先」
「コーク……」
最愛の彼のですら、目を見れなかった。
せっかくこうしてお互い目を見れるようになったというのに、きちんと顔を見て話が出来ない。
何て言葉を返せばいいのか困惑しているサランを汲み取って、コークが気を遣って口を開く。
「きっと運命だったんですよ。もう最初の頃から私達が知らないだけで裏で奴等が動いていたんです。だから私達がどうこうしようが最終的にはこうなる事が確定してたんです、決して貴女のせいではありませんよ」
「……!」
コークは本当に更正したとサランは強く思う。
昔の彼だったら苛立ちをあらわにして誰これ構わずに八つ当たりして一人ででも母親に立ち向かいに行っていたはずだ。
「……優しくなったわね」
コークの手のひらが温かい事がその証明だ。
何だか嬉しくて彼の顔をしっかりと見つめる。
コンプレックスで頑なに見せないと言って隠されていた瞳。
サランは、とても綺麗だなと微笑んだ。
同時に、この先辛い事が続くのだろうけど彼らなら乗り越えられると、そんな気がした。
「サラン様はこの後どうされるのですか」
「私は……もう少し考えたい事があるから一旦また月の世界に戻るわ」
「……そうですか」
コークはサランの返事を聞き表情を曇らせた。
月の世界の場所が分からないのでコーク達は出入りする事が困難なのだ。
せっかく会えたのにまた離れてしまう。そう思ったのだろう。
「何かあったらすぐに駆け付けるから……またね」
そう言って彼の横を通り過ぎるが、腕を弱い力で掴まれた。
「……サラン様…」
彼は不安なのだ。
瞳が動揺の色をしている。
アリーシャ隊で一番マトモな人物は彼だとサランは思っている。
コークには一番冷静に、且つ慎重でいて欲しいという個人的な願いからサランは彼にもう一度近付き唇を重ねた。
「……」
「私がいなくても、貴方には皆を率いて行って欲しいの。出来るわね?コーク」
「…!」
その言い方はまるで魔術師達を殺せと命令を下してきた時の口調に似ていて、思わずコークは背筋を伸ばした。
「……愛する、サラン様の為なら」
あの時と同じ返しをすると懐かしそうに微笑みながらサランは部屋を後にした。
--------------
―九月十日―
アリーシャ隊と彪は人の出入りが少ない公園で各々戦闘訓練に勤しんでいた。
すると向こうから幼い女の子が走ってくると見覚えのある姿にラヴィッチが思わず声を掛けた。
「依心ちゃーん!」
「おにーちゃんたちだぁ!」
「久しぶりだね!元気にしてたかな?」
「げんき!」
純粋無垢な笑顔に癒されてしまう。
特にナイチは子供好きという所もあってかメロメロになっていた。
可愛げがあるなと気持ち悪い位口を歪ませて言うと、後ろからタルクにロリコンかよと突っ込まれる。
「何処かに行くのですか~?」
「おいおいハーモニー、相手はガキだぜ?タメ口でいいだろ、誰だか知らねぇけど」
彪がそうハーモニーに言うが、敬語が身に染みて癖になってるんですと苦笑いされた。
というかハーモニーの年齢は設定されていないが何歳と考えて良いのだろうか。
身長が低い事から幼い設定で接していたが。
「「誰だ」」
「あ、そっか。コークと白妬は知らないのか」
二人は依心を怪訝そうに見下ろすと同時に誰だと問い掛けた。
彼らが知らないのも当然だ。
依心と関わっていた時、白妬は敵としてサランの元にいたしコークも死んでいたから分からないのだ。
「鎖椰苛ちゃんの妹の依心ちゃんだよ」
「鎖椰苛……あぁ、あの不良か」
「不良だな」
納得する二人だがそのワードを本人が聞いたら怒りながら全否定して来そうだ。
しかしこうして久しぶりに再会できたのだから戦闘訓練は中断して一緒に遊んであげようとラヴィッチが依心を誘う。
「わぁいわぁい!」
「――っ!?」
依心は喜びながら素早い動作でアリーシャ隊の武器を巧みに奪い、自分の足元に置いた。
余りの早さにコークや白妬ですら武器を取られていた。
「おもちゃおもちゃ~♪おもちゃうばいあいごっこ~♪」
「え!?最近の小さい子ってそんな遊びするの!?」
さすが不良もとい鎖椰苛の妹だと一同が冷や汗をかいた。
「あー良かった、僕武器なくて」
そんな中、自分の右腕が唯一の武器の響だけがホッと胸を撫で下ろしていた。
「……で、鎖椰苛って誰よ」
「ふ、不良さん……です~」
「!?」
この中で鎖椰苛すら分からないのは彪だけである。
彪とは学年も違うから言っても分からないと思い、ハーモニーは本人禁句ワードの不良という言葉で説明を終えた。
「いいから返すんだ!!!」
物騒な物を持ってはしゃぐ依心を止めようと白妬が立ちはだかるが、白妬特有の覇気に気圧されて依心はナイフを振り回しながら泣き出してしまう。
「きゃーー!おねえちゃんこわぁあい!!」
「や、こら、騒ぐな!警察が来たら終わりだ!」
(あの白妬が慌ててる……)
タルクが離れた所で二人のやり取りを見て他人事のように笑いそうになる。
恐る恐る近付いては距離を取っている白妬の姿が何だか面白い。
しかし純粋な子供は何を仕出かすか分からないから怖いのだ。
「……ごっこ遊びは終わりだ。だから、もう返せ、な?」
ナイチが依心にだけ見える角度で最大限の笑顔を作って説得させるが全く効かないのは分かりきっている事だろう。
依心は銃を持ち主のナイチに向けて首を傾げた。
「これ、みずでっぽう?」
「ば、馬鹿、待て…!違う!み、水鉄砲の……更に強い奴だ!」
「ばーんってできるの?」
「やめろ!!人に向けるな!!」
ナイチもナイチで発砲しかねない依心を恐れて逃げ出してしまった。
振り回す銃をそっと手で押さえ、コークが仕方なく説得に入る。
「これはな、アイツらに必要な物なんだ。遊びはまた今度にしよう」
「あのコークが優しい!!!」
物言いは至極優しいがコークも子供慣れしていない為実は接し方がよく分かっていない。
しかし何とか分かってくれたのか依心は銃をコークに手渡す。
それを瞬時に後ろのナイチに投げ、キャッチした。
無事返却してもらう事に成功し安堵する。
「こんどは、ばーんってやってもいい?」
「……そうだな。次遊ぶ時はこの鞭を使わせてやろう」
「その子を危ねぇ道に誘導すんな!!」
コークもさりげなく奪われた鞭を回収し、危ない発言をするので全力でタルクが止めに入った。
「あ!いこね?おねえちゃんのとこいくの!」
「鎖椰苛のとこか?怖くねぇのかよ」
「やさしいからこわくない、けど……。いこがちかづいたらこないでってにげられるの」
依心は姉の鎖椰苛が好きで懐いているが、どうしても素直になれない姉の方はツンケンして突き放してしまうようだ。
その話を聞いて、ナイチが依心の前にしゃがみ、大丈夫だと声を掛ける。
「安心しろ、鎖椰苛はちゃんとお前が好きだ。ツンツンした奴は特にそうだ。きちんと大事にされているから心配するな」
「おにいちゃん……!」
「いや君もツンツンの一人だけどね」
ナイチのいつもの貴様呼びは封印し、お前と呼んで依心を励ます。
後ろでラヴィッチが顔を引き攣らせイラッとしながらそう突っ込むも、ナイチには聞こえていなかった。
「ありのままのお前をぶつけて来い!」
「わかったよ!」
何故か依心の心に刺さったようですぐに走って居なくなってしまった。
彼女の後ろ姿を見届けながらナイチは誇らしげにしていた。
「ああいうツンツンした奴は何だかんだ言ってベタベタまとわりついて来る奴が嫌いではないんだよ」
(だから君もだろそれは!)
数分して戻ってきた依心は、泣きながらハーモニーに抱き着いていた。
「まとりつくなっておこられたぁあ~!」
「あらら…逆効果でしたね~」
「何やってんだロリコンの癖に」
「いや、心配無用。まもなく鎖椰苛が反省して依心を探しに来るはずだ」
コークのド直球すぎる悪口にも見向きもせずにナイチは依心を真っ直ぐに見る。
どうしてわかるの?と瞳を潤ませた依心がナイチの方を振り返り尋ねると――
「俺にかかれば何でもお見通しさ♪」
「うっっわ!!!キメェくらいご機嫌!!!」
キャラクター崩壊も大概にして欲しいくらいの笑顔だった。
舌をぺろりと出し、ウインクをしながら指でオッケーサインを作る彼はいつもの険しい表情とはかけ離れていた。
「依心、自分の部屋で待ってろ。必ず来る」
「ほんとぉ!?」
そう言って依心は再び走って自宅に帰って行った。
そしてその数十分後に彼女が戻ってくると、ナイチお兄ちゃんありがとうと言いながら抱き着いた。
どうやらナイチの思惑通り鎖椰苛と仲直りが出来たようだ。
なかなか素直になれない鎖椰苛。
そんな彼女の性格を全て理解しているかのようにナイチは悟ってアドバイスをし、ピンチヒッターとして問題を解決させた。
「だから何で他人のツンデレは分かって自分は鈍感なの!?」
ドヤ顔のナイチに突っ込みを入れるラヴィッチの声が公園内に響き渡った。
評価お願い致します!




