9月5日
アリーシャ隊プラス彪が自宅にてだべっていると、突然目の前に光の壁が現れた。
その壁の向こう側が別の空間になっていて、恐らく月の姫の仕業だろうと全員で足を踏み入れ潜入する。
彪も、本来なら来るべきでは無い人物だがここで置いてけぼりにされても胸糞悪いから付き合わせろと一緒に入ってくれた。
そこは、夜の空の上だった。
三日月がすぐそこにあり、空から一面を見渡せる程広がっていた。
一同は雲の上を歩いている。
間違いない、月の世界に来させられたのだ。
「ここは……月の世界……?」
「そうなのよ~」
「っ!?」
彼らの数メートル先に、異様なオーラを放つ人物が立っていた。
虹色のふわっとした長い髪が特徴だが服は黒のワンピースという質素ながらも何処か上品さがある印象を受ける。
「キャリアと申しますなのよ~。皆さん私と戦うなのよ~」
「……お前がキャリア……」
のんびりとした口調の彼女はキャリアと名乗った。
超特待生が言っていた月の姫の女王で間違いない。
「私の大事な月の姫達を次々に倒して凄いなのよ~」
緊張感の無い語尾と笑顔に調子を狂わされそうになる。
しかし今まで一方的に戦闘を仕掛けられアリーシャ隊も迷惑極まりないのだ。
タルクが前線に立ち怒鳴りつけた。
「そっちの事情なんて知らねぇけど、倭達に手出しした件は既に解決してんだよ!!!てめぇらの勝手な勘違いでこっちは迷惑かかってんだ!!!」
形相を変えたタルクに怒鳴られるがキャリアはビクともせずただ微笑んでいた。
口で言っても分かってはくれないようだ。
「それでも酷い事をした事は変わりませんなのよ~」
「……ッ!!!てめぇ――」
「まぁ、お前でラストなのは分かった」
タルクの沸点が頂点に達し、闇雲に殴りかかろうとしたがコークに肩を掴まれ止められてしまった。
「私達も伊達に多くの敵と戦っていないんだ。それなりの覚悟は出来ているんだろうな」
(コーク……かっこいいな)
タルクを抑えつつコークも腕を組みながら前に出る。
見下ろす形でキャリアを睨み付ける姿に白妬が内心で惚れ直していた。
「……てか、勝てんの?」
ふと彪が不安そうな声で一同に尋ねた。
「お前らが過去に何やったかは何となく教えてもらったけど……こいつら強ぇーんだろ?前に戦った奴よりも上のリーダーなんだろ?ホントに勝てんのかよ……」
(彪は……この間が初めてだったもんね)
響は心配そうな彪を憂いを帯びた視線で見ていた。
「貴様の知らぬ所で俺達は何人もの月の姫を撃退してきた、見習いクラスも特待生クラスも、貴様も戦った超特待生クラスも」
「それなりの実力を持っているからここまで来れたんだ」
ナイチと白妬がそう彪を心強くさせる為に自信満々に頷く。
楽勝という訳では無かったがそれでも勝っているのだ。
彪は少しだけ表情が和らいでいた。
「……コーク様、あの人動きませんね~」
「あぁ、今の私達は隙だらけだというのに妙だ」
こうしてベラベラ話をしている隙に攻撃をすれば良いがキャリアは何もして来ない。
こちらの出方を待っているのだろうか。
「なら、こっちから仕掛けるチャンスだね――」
と言って響が右腕を振るい、突撃しようとしたがその真隣を炎撃が燃え盛る激しい音と共に突っ切って数メートル後ろの地面へと落下した。
ハッとキャリアを確認すると手を前に広げていた。
響が攻撃すると同時に魔術を放ったのだ。
圧倒的に速すぎる。
「今の……直で当たったら……」
「一撃……」
響は腰が抜けてその場に座り込んでしまった。
しかし次の瞬間、地面を茨が這い、タルクと響とナイチとラヴィッチを縛った後、煙が湧き何も見えなくなってしまう。
取り残されたコーク達は助けに行きたいが煙が目にしみて何も見えないので動けないままでいる。
―――
「ここは……、みんなは……?」
響が目を開けるとまず天井が目の前にあった。
薄暗い誰かの部屋の中。
見覚えがある。
(僕と……あすが住んでた時の家……)
「響」
起き上がって声がした方向を見ると、何故か死んだはずの母親がそこにいた。
「お母さん?何で……」
「響、お母さんこれからしばらく帰って来ないわ。貴方は一人で頑張って生きてね」
「え、ちょっと!?」
一方的にそう告げられ母親は姿を消してしまう。
すると頭の中で誰かの声が響く。
―憎い?―
「誰!?」
―自分を捨てた母親を許せない?―
「そんな事ない……僕は……!」
頭を抱えながら否定するが脳内に話しかける声は暗示をかけてくるかのように響を苦しめる。
―ないわけが無い。いっそ閉じこもっちゃおうよ―
「……っ」
直後に響の瞳が真っ黒に染まり、心が完全に閉ざされた響は何も喋らなくなってしまった。
―――
「タルク」
「……んぁ、ここは……」
タルクの目の前には母親がいた。
これはきっと夢の中だと思い込んだタルクは何も気にすること無く、いるはずのない母親と会話をする。
「母ちゃん?」
「おい!心配したんだぞ!シルクが居なくなってからお前まで行方不明になって……ふざけんなマジで!」
「わ、わりぃ……」
タルクはあの事故の直後にサランの元へと行ったのだ。
母親の元へ帰らずに。
強くなって仕返しがしたいという殺意を持っていたからだ。
「人の言う事は聞かねぇし自分勝手に居なくなるし、そんなに出来損ないのシルクが死んだのがショックなのかよ」
「……!そんな言い方……!!」
カッとなって母親に掴みかかろうとするも消えてしまった。
いくら何でも言い方が酷すぎる。
しかも母親はシルクの姿の自分をきちんとタルクと呼んでいたことにも疑問だった。
―憎い?―
「今度は誰だ!?」
―大好きなお姉さんを侮辱されて許せない?ほら、閉じこもっちゃおうよ―
「……オレは」
先程の響同様暗示をかけられるように脳内に声が響き、タルクの瞳から色が消えた。
―――
「え、ここどこ?」
「……?」
ラヴィッチとナイチはどこかの広場にいた。
訳も分からず辺りを見渡すと、二人の母親が向こうからやって来た。
「母さん……!?」
母親は怖いくらいに顔が無かった。
のっぺらぼうのようで口だけが動いて不気味だった。
ラヴィッチの母親は手を差し伸べながら話し始める。
「あの時サランの元から最初に離れていったのが貴方なんだね?ラヴィッチ」
「……それは」
続いてナイチの母親も口を開いた。
「次に出て行ったのがお前か、ナイチ」
「……」
バツが悪そうにナイチは顔を逸らす。
「しかし今は俺達は……」
「私達は、サランの役に立って欲しくて家から出したんだよ」
「呆れたな」
「ちょ、母さん……!」
二人に背を向けて姿を消してしまった。
水を打ったように静寂に包まれ、状況を整理しようにも訳が分からない。
―憎い?―
そして彼らの脳内にも謎の暗示がかけられるのだった。
―――
「……アイツら、何かおかしいぞ」
あれから煙が消え、キャリアの目の前に立つ形で佇む先程の四人はどこか様子がおかしかった。
瞳の色を無くし、表情も何も無い。
「まるで私達を見ていないようです~……」
キャリアに操られているのだろうか。
しかし佇むだけで何も仕掛けてこないのだ。
キャリアも彼らの背後で立っているだけで、どうしたらいいか分からない。
「恐らくあいつらに絡んでいる茨を切り離せば何か起こるんじゃないだろうか」
「だな、コーク兄貴」
コークが四人の足元から絡み付いている茨に注目した。
痛々しい程にきつく絡んでいる茨が原因だと彪も考えていた。
「茨?どこだ?」
「私にも見えませんが~……」
「え?」
「……見えているのは私と大河彪だけか」
不思議な事に白妬とハーモニーには見えていないようだった。
冗談を言っているようにも感じないし、本当なのだろう。
「ならば簡単だ、行くぞ大河彪」
「うわ、マジか!」
コークは鞭を片手に四人に近付く。
彪も追って行くが、茨に触れようとした所で再び煙が巻き起こり先程と同じように何も見えなくなってしまった。
―――
「……ここは……ん?」
彪が目を開けると誰かの部屋の中で、響が布団に包まって震えている姿を発見した。
「響……良かった、早く帰ろうぜ?」
「僕は……置いていかれたんだ……僕は……もう……」
響は閉じこもっていた。布団を強く握りながらガタガタと身体を震わせて悲しみに暮れている。
傍に写真立てが無造作に床に落ちている事に気が付く。
「……っ!」
それを拾って見るとそこには響と妹の明日香と母親が笑っている写真が飾られていた。
しかし、母親の姿だけマジックペンでぐしゃぐしゃにかき消されていて表情が読み取れない。
(確か……親が勝手に居なくなったって言ってたよな……)
本当にざっくりとしか伝えられていないがそう言っていたのを思い出す。
励まそうと肩を掴んだ。
「お前の親は……きっと戻ってくるよ」
「……でも!!母さんは今も姿を現さない!!死んだも同然なんだよ!!なのに、きっととかいつかを信じて待ってないといけないの!?」
「……」
彪は酷く心が落ち着いていた。
何故だか自分を見ているかのように思えた。
取り乱している響に、静かに思いを伝える。
「……オレはお前の母親なんて知らねぇけど、響を置いていく奴だとは思えねぇよ。だってお前まだ十五だぜ?置き去りにする訳ねぇじゃん」
「……っ、うぅ……」
彪の言葉に響はただ涙を流していた。
どうしてだか、説得力があった。
「お前を今でも愛してるに決まってるよ、死んだって確信はねぇんだろ?」
「……うん……っ」
何故いきなり響が闇堕ちしているのかは分からなかったが、瞳に光が灯されるとその場が一気に明るくなって温かさに包まれた。
―――
「……タルク」
タルクはコークに背を向けて蹲っていた。
どうやらこの謎の空間でタルクに何かがあったようだ。
いつものうるさい感じではなく彼の背中から孤独を感じた。
「オレは誰からも必要とされてねぇんだ。愛されてもねぇんだ……身勝手で適当で」
「一人で嘆くな」
「……きっと姉ちゃんにも……嫌われていた」
コークの言葉にも耳を傾けず一人ブツブツと嘆いている。
背を向けたままタルクはコークにこう伝えた。
「なぁ、タイガーに伝えてくれないか?タルク姉貴は駄目な奴だって」
その言い方は、まるで帰らないと言っているようなものだった。
ここに残るつもりかと聞くと、一人でここにいると自嘲気味に笑われ返された。
こちらまで負のオーラに包まれてしまいそうで少し苛立ちタルクを説得させる。
「愛されていない、必要とされていない訳ないだろう。お前が姉と仲が良かった事は知っているしシスターコンプレックスなのも知っている。それに誰もお前に対して悲観的な事を言っていない」
「……」
コークにそう言う風にストレートに励まされるとは思わなかった。
コークの方を振り向いたタルクの顔は酷く泣き腫らしたボロボロの顔だったが瞳の奥に光が見えた。
「アイツらも私も、タルク・フォウマ、お前を待っている。だから帰って来い……!」
すると目の前が光に包まれた。何も見えなくなったがぽつりと「信じるからな」というタルクの声がして彼が帰って来てくれると確証付いた。
―――
「響は説得出来たぜ」
再びどこかに移動させられたコークと彪は合流する事が出来た。
コークも頷くと目の前のラヴィッチとナイチを見て、「後はこいつらか」と近づいて行った。
「コーク、ごめん」
「……」
話を切り出したのはラヴィッチからだった。彼らも響とタルク同様瞳に色が無く虚ろだ。
「サラン様から離れたのは僕達が最初だった」
「裏切った上に何もしなかった」
本当に最初の頃の話である。
アリーシャ隊から初めに倭達に戦闘を仕掛けたのはラヴィッチ、次にナイチだが結局降伏して離脱した。
「……なぁ、サランって……誰?」
(裏切った?何もしなかった?もしかして敵だったのか?マジで?)
彪は現状のアリーシャ隊が、月の姫という人物に一方的に狙われ戦っている話は聞かされていた。
しかし彼らが敵側として戦っていたという事は知らされていない。
勝手に話が進んでいき、置いてけぼり状態の彪の前にコークが出る。
「ふん、馬鹿が。今更何を言っている。確かにあの時は……本気でお前達を殺したいと憎んでいたが……」
「ええ!?」
コークの頭に浮かんだのはラヴィッチが倭達に降伏して居なくなった場面とナイチも泣きながら降伏した無様な姿だった。
彪はコークの殺意が込められたその言葉に驚きを隠せなくつい声を上げてしまった。
だが今、当時の事を聞くと恐らく長くなるだろうから全部終わってからゆっくり話してもらおうとひとまず傍観者になった。
「だが今は仲間だろう。覆水盆に返らずだが、もう気にしていないしお前達も気にするな。戻るぞ」
一番恐れられていたコークにそう言われるとは予想外であった。
その分心が絆されていくのが分かった。
「……いいのかよ、こんな俺達でも」
「いちいち弱気になるな、気持ち悪い」
踵を返すコークに後ろからラヴィッチのありがとうと声をかけ、辺りが光に包まれて行った。
―――
「……ク、コーク……!!」
「……っ」
コークが目を覚ますと白妬が顔を覗かせて嬉しそうに泣きながら笑っていた。
「彪様と一緒に気を失っていたんですよ~」
「寝すぎだよバーカ!」
起き上がり彪の方を見ると上機嫌に舌を出していた。
どうやらコークだけ目を覚ますのが遅かったようだ。
「……あいつらは」
そう言って立ち上がると先程まで闇堕ちしていた彼らが申し訳なさそうな顔でコークに謝罪をした。
「コークぅ、ごめんなさい」
「本当にすまん」
「目が覚めたよ、ありがとうコーク」
「悪かったな」
コークはその言葉に心が温まる感触がしてむず痒くなった。
(丸くなったな……私も)
全員が元通りになった所でいよいよキャリア戦へ臨もうと彼女を睨み付ける。
こんな形勢逆転の時でもキャリアは佇んで何もしてこない。
(私は……サランのお仲間さんを……)
キャリアは意図的に何もしてこないのではなく、何も出来なかったのだ。
どうしても躊躇ってしまいあの一撃とラヴィッチ達を飲み込んだ負の空間を仕掛けて以降戦う気力を無くしていた。
「残念だったな」
「――っがッぁ!?」
コークは瞬間移動をしてキャリアの背後に立ち、彼女の首を鞭で締め上げた。
微弱ながらも電流が走るその鞭に、キャリアは苦悶の声を上げていた。
「あぁあ……ッ、あぁ!!!」
そして鞭が緩むとその場に崩れ落ち、咳き込みながら呼吸を整えている。
「え……あっさり?」
「反撃来るか……?」
そう言ってタルクと響が身構えるも反撃の気配は無かった。
「……私にはやっぱり出来ないなのよ~……サラン……」
独り言ではなくサランに話し掛けるようにそう呟くと、この一連の出来事の元凶、もとい発端であるサラン本人が彼女の後方から現れた。
「いいのよキャリア。強制した訳じゃないわっ」
「サラン様!!!」
「……!」
アリーシャ隊一同が彼女の登場に驚愕する中、彪だけは初対面の為ぽかんとしていた。
しかし彼女から放たれるリーダーというオーラに気圧されて緊張してしまった。
(この人がサラン……タルク姉貴達を率いるリーダー……)
「初めまして」
「……ども」
サランと目が合うと彼女はニッコリ笑って挨拶をしてくれたが表情筋が固まってしまい会釈程度でしか返せなかった。
「サラン様、何故です?何故貴女がフォローしている月の世界の人達が、私達に解決した話を掘り返して持ち掛けて戦闘しに来ていたんですか!?」
白妬が忌憚のない物言いでサランに怒鳴るが怒りをあらわにするのも当然の事だ。
彼女はそのせいで右眼を失っている。
片目だけ雑に包帯を巻いて隠しているが痛々しい。
「……初めは……月の姫の一方的な勘違いだったの」
「だったら何故誤解だと止めてくれなかったんですか!!?」
「……月の姫の中にも強い子達はいたわよね?特待生や超特待生……その子達を倒せば貴方達はもっと強くなれるんじゃないかって思って敢えて止めなかったの……本当にごめんなさい」
「……」
やっとこの戦闘の本当の目的が判明した。
サランはアリーシャ隊を更に強くしたいと考えていた所、たまたま月の姫が勘違いから彼らに戦闘を仕掛けに行ったのでこれはチャンスだと思い止めなかったという訳だ。
「……これ以上……深くは追及しません……」
「ひとまずこれで全てが終わった訳ッスからね!」
これで月の姫との対立は終焉を迎えたのだ。
劣勢を強いられる戦闘ではあったがそれも今回で最後である。
皆で月の姫との和解を喜び合っていると不意に彼らの背後から響を呼ぶ声がした。
「誰……って……え……」
夢が現実になった瞬間であった。
「お母さ……ん」
存在しないと思い込んでいた響の母親が目の前にいる。
にわかには信じがたい出来事だった。
「え……死んだんじゃ……」
「うっそ!?ひどい!そんな解釈してたの!?」
響の母親はやはり何処か雰囲気が彼にそっくりで穏やかな表情をしていたが、その台詞に驚いてショックを受けていた。
「まぁそれは置いといて、今日は皆にお伝えしたい事があって来たのよ」
響の肩越しに他の皆の顔を見て微笑むと、彼女は右の掌を開く素振りをした。
するとパッと大きく透明なガラス状のケースが浮かび上がりその中には響の妹の明日香が目を閉じた状態でそこにいた。
まるでホルマリン漬けのように保管された明日香はあの時のまま、制服姿でいたが傷はなく綺麗な状態となっている。
「あす!!!生きてたんだね!!!」
響がすぐに歓喜で涙を流す。
戦死したはずの明日香は母親に引き取られ、息を吹き返してもらっていたようだ。
「へぇ……あれが響の妹……」
彪は響から嫌という程妹の話を聞かされていたのだ。
普通だったらしつこいから止めろと突き放すが響の場合は妹が亡くなっているので心のはけ口として聞いてあげていたのだ。
とっても可愛いんだと聞いていたがその通りである。
『……に、……さ、……』
明日香の口が僅かに動いて見えた。
何かを伝えようとしているがガラスで仕切られている為声が聞こえない。
『…………に……げ……て…………』
その声は届かなかった。
響の母親は口元を歪ませニタリと笑うと指をパチンと鳴らした。
その直後、明日香がガラス容器ごと爆発して大破した。
「……え」
響は何が起こったのか頭がついていかず飛び散って頬に付着した明日香の血液に指で触れた。
さっきまでそこに居た明日香は?壊されたの?これは夢?問いただしたいことがありすぎて逆に言葉が出ない。
「明日香を産んだから貴方が狂ったのね」
「ぁあ……あす……あす……ぁ、ああ……あああァああああああああああぁぁぁッ!!!!」
「響……!」
響は頭を抱えながら泣き叫んだ。
彪が宥めるように肩を抱くが、彼も彼で目の前に蠢くぐしゃぐしゃの死体と血生臭さに嘔吐きそうになっていた。
「サラン、アリーシャ隊を育ててくれてありがとう」
「っ!?母さん……」
声がした方を向くとゾロゾロと四人の女性が姿を現す。
顔立ちで分かる。
ラヴィッチ、ナイチ、タルク、コークの母親だった。
「強くなってもらう為に私達は子供達をサランに預けたのよ。そして強くなった子供達と戦うのが狙い」
「なんですって……」
この状況をサランですら予測できていなかったようだ。
彼女らの話だとまるでこの展開になるように最初から仕組んでいたと言っているみたいだった。
サランは自分の目的の為に人員を集めて育てて行ったつもりだ。
だがそうなるとクルー姉妹や来栖真奈の親はどうなる?
「ああ、来栖真奈の親はいない。一人暮らしして、たまたまサランが声をかけた人物だったってだけだ」
「クルー姉妹は、分かるよな?」
「……あぁ、完全に育児放棄で居ない……」
ナイチの母親とタルクの母親がタイミング良く解説をしてくれた。
真奈とクルー姉妹に関してはサランの厚意で救ってあげるべく声をかけただけの無関係という訳だ。
「いくら母さん達を憎もうが構わないわ。私達が……神よ」
「……っ」
響の母親が息子の髪の毛をぐしゃりと掴み、顔を見合わせそう言った。
泣き腫らした目で自分の母親を見る響は虚ろだった。
そしてその掴んだ頭を突き放し背を向ける。
コークの母親だけ、申し訳なさそうに我が息子を見て苦笑いしていた。
「サラン様までもが騙されていただと……」
「オレ達と戦う為ってなんだよそれ……意味わかんねぇよ!!!」
「ねぇ母さん!!!」
各々が混乱し、彼女達に声をかけるが背を向けたままノイズがかかり姿が徐々に消えていった。
「私達を倒して見せなさい。そして貴方達が神になりなさい。私達Godestを越えてみなさい。さぁ、出来るかしら?」
そう言い残して完全に姿を消した母親の言葉が一同の頭を混乱させて困惑していた。
これは初めから決まっていたことなのか。
サランと出会ったのも、強く成長して行ったのも、倭達と出会ったのも、月の姫と戦ったのも、全て。
戻ってきたと思った平和がまたかけ離れて行ってしまった。
逃げ出すつもりは毛頭ないが、どうしたらいいか頭の整理が追いつかない。
まずは家に戻って作戦会議をする為に帰ることを選択した。
評価よろしくお願いいたします!




