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8月22日、9月2日

 

 ―八月二十二日―


 前回の超特待生戦で親睦を深める事ができた彪とアリーシャ隊だったので、もっと親しくなろうと彪は彼らを家に呼んだ。

 昨日の今日だから疲れているよなと控えめに誘ったのだが意外にも全員が付いてきてくれたのだ。

 ハチャメチャな出会い方ではあったが少しは信頼されている様だ。


 全員を家に上げ、自室のドアを開ける。


「……ん?」


 すると彪の部屋に見知らぬ男性が机の上を物色していた。

 こちらを振り向いた()()の彼は銀髪に所々青くメッシュが入っていてコーク並に背が高かった。


「あれ、お客さん?珍しいね――」


 その男性は優しくにこやかに微笑むが、彪は瞬時に彼の顔の傍に分厚い辞書を投げ付け怒りの表情を作っていた。


「何でいるんだよ……てめぇ」


「そんな言い方はないんじゃないか~?彪」


 男性はニヤリと笑うと彪の胸倉を掴みながら部屋から出ていってしまった。

 扉が閉まった直後にゴキッ!という何処かの関節が外された音がした後に何事も無かったかのように平然と彼は戻ってきた。


「自己紹介が遅れたね。おれは大河 捺紀(たいが なつき)。うちの弟が変な所を見せてしまってごめんね」


 捺紀という男は彪の兄のようだ。

 申し訳なさそうに謝りながら彪を卑下していた。


「CD借りようと思って部屋に入っただけなんだ」


 彪は床に突っ伏したまま動かない状態になっている。

 捺紀に何かされて再起不能になってしまっているのだろうか。

 そんな彪を他所に捺紀は君達のことは彪から聞いてたよと話し始める。

 人見知りはしない性格でナチュラルにコーク達と打ち解けているのは彪の時も同じであった。流石兄弟である。


「まず君、琴吹響。『俺と同じクラスで一番仲良いけどピュアすぎてわけわからん』って言ってたよ」


「彪そんな風に思ってたんだ」


「おいてめ……何で一言一句覚えてやが――っぶほ!」


 捺紀は記憶力が良いようだ。彪が恥ずかしそうに捺紀に殴り掛かろうとするが片手のみで抑えている。


「俚諺馨。『ツンデレ、以上』」


「やっぱりそれか!」


 ナイチといえばツンデレ、それ以外は特にないようだ。


「闇坂萌ちゃん。『暗算がクソ速いマスコットキャラ』だって。萌ちゃん頭良いんだね」


「そ、そんなことないですよ~(あれは私の機械が処理しているだけで……)」


 彪はハーモニーが機械なのはもちろん知っているが、捺紀に勘繰られないようにそのような言い方をしたらしい。


「黒花白妬ちゃん。『イケメン姉ちゃんの称号を持ってそう』確かにわかるかも」


「彪は何言ってんだ」


 白妬は彼の言っている意味が分からず呆れて溜息をついた。


「在原伊吹。『腹黒いってのがすぐわかる』だって」


「……彪、後で覚えてなよ」


 ラヴィッチは腹黒キャラの典型的暗黒微笑をお見舞した。


「榛陸唖理架。『長年恋してた相手が中身ゴリゴリの男だった』って、よくわかんないんだけど女の子なんだよね?」


「あー……まぁ、女……だな」


 タルクは捺紀にあまり色々と知られても面倒なので本当は男だが女だと主張しておくことにして頷いた。


「石黒沙檻。『何か居るだけで勝てそう』って……勝つ?何に?ゲーム?」


「心外だな」


 コークの静かな怒りに彪は横になりながら指でごめんなさいと書いて謝っていた。

 忸怩たる思い極まりない。


「捺紀(にぃ)もう喋んな、部屋戻れ」


「えー、せっかくおれも仲良くなろうと思ってたのに」


 彪が早く帰れと背中を押すが、捺紀はじゃあ最後に一つだけ言いたいことがあると遮った。


「君達最近……疲れてない?」


「え……どうして……」


 何故だかその言葉がとても深い意味を持っているような気がして返答に詰まってしまった。

 というか彪が能力者なら捺紀はどうなのだろう。

 気になるが聞くとこちらも説明しなくてはならないので堪える。


「いや……馨の眉間に皺が……」


「え、あ、あー!これ元からなんだよね!いっつも仏頂面してるから取れないんだって」


「し、仕方ないだろう」


 どうやら特に深い意味は無かったようだ。

 安心して話を逸らすようにラヴィッチがナイチの眉間をつんつんした。


「でもみんな顔に疲労感残ってるように見えたんだよね、何かあったの?」


「う、うーん」


「確かに疲れてるな」


 結局話を戻されて言葉に詰まるが、白妬が肯定して頷き話し出す。


「私らは転校してきてまだ半年も経っていないんだ、それに今は夏休みだから宿題は多いし勉強もしないとだし大変でな」


「もう少しで夏休みも終わるから早く終わらせないとだね~」


 白妬のお陰で上手く逸らせたようだ。

 まさか昨日瀕死になるまで月の姫と戦闘してたから疲れてますなんて言えないだろう。

 臨機応変の返しに感謝である。


 それに捺紀が自己紹介した時に分かったが、彪はラヴィッチ達を本名ではなくきちんと偽名の方で紹介してくれていたのだから尚更本当のことを話す必要はないと判断した。


 捺紀は満足したのか立ち上がり部屋から出る。

 ドアを閉める際にこちらを見て優しく笑った。


「おれ三年だから学校の事は大体わかるし、何か困った事があったら言ってね」


 それだけ言って手を振って扉が閉まる。

 室内がしんと静寂に包まれた。


「彪、お兄さんには僕達の本当の事、内緒にしてくれてたんだね」


「あんま口外されたくねぇだろ?話して変な噂されても困るし」


 しかし捺紀が彪にアリーシャ隊の名前を軽く紹介してもらっただけで完璧に記憶してそれぞれの顔を見ながら呼んできたのには驚かされた。


 そこで思い出したが先程彼は三年だと言っていた。

 もしかしたらコークと同じクラスなのでは無いかと本人に聞くが他人に関心が無いコークは知らないと返した。


「あっ!!ちなみに沙檻とは同じクラスだからね!!顔覚えてよ?凹むから!」


「うわっ!!びっくりした!!」


「……」


 いきなりドアが開いて捺紀がそう補足して再び閉まる。

 ということはコークが転校してきた時からクラスに捺紀が居たということだ。

 全く初対面ヅラしていたコークを見て捺紀が少し寂しそうな顔をして出ていくのだった。


 --------------


 ―九月二日―


「……ごめんなさい」


 夏休みも終わって始まった新学期。

 朱色の夕日が照らされた放課後の三年A組の教室に、一つの謝罪の声が小さく聞こえた。


「そっか、そうだよな……赤坂さん……ごめんな」


「……私、男性との恋愛が……よく分からなくて」


 教室内には、つつじと月の姫の喪奈がいた。

 つつじはひょんな事から枯那達と友人関係を築いており、お気楽部に入らされてから喪奈が気になり今日ついに告白をしたのだ。

 しかし男性経験のない喪奈は彼の気持ちに応える事が出来ず断ってしまい、申し訳なさそうに頭を下げていた。


「いや、こっちこそごめん、時間取って」


「いえ……ではまた明日」


 気まずくなるのが嫌なのでいつも通りを装ってへらへら笑いながら手を振る。

 喪奈の姿が見えなくなった所で大きく溜息をついた。


「振られたからって気に病むんじゃないわよ?」


「!」


 俯いてた顔を上げると梨杏がドアにもたれながら立っていた。

 告白して玉砕される場面を見ていたのだろうか。

 少し恥ずかしく情けなくも感じ、らしくない弱々しい声で殿堂さんと口にする。


「……偶然通りかかっただけよ。赤坂さんも気にしてないようだし貴方もいつも通りにしなさい?」


「……優しいな、君は」


「な!?からかってるのかしら!?」


 つつじが、つい本音を口に出してしまう。

 失恋した自分にそうやって声を掛けてくれた事がシンプルに嬉しく思えたのだ。

 梨杏の、顔を赤くして目を泳がせていた姿が何だか可愛く見えた。


「本当だよ、落ち込んでたけど殿堂さんの言葉で気が楽になったし」


「……私に優しいなんて似合わないわ」


「え……」


 しかしすぐに梨杏は表情を曇らせ、立ち去ろうと踵を返す。

 去り際にこちらを見て、「また明日、雅君。部活にはちゃんと出た方がいいわ」と言って一人で帰ってしまった。


 二人の女子生徒にまた明日と言われるとは、今日の僕はツイてるかもと、つつじは自賛した。

 いや、一人には振られているが。


 翌日になり昼休みの時間。

 購買で買ってきた焼きそばパンとカレーパンを片手につつじは気まずそうにしていた。


(いつもは赤坂さん達と飯食ってたけど、昨日の今日だしさすがに無理だよな……石黒と食べるか)


 同じクラスのコークは一見冷たそうに見えるが、話しかけた内容に対してはきちんと返答してくれる律儀なところがある。

 彼に励ましてもらおうと探すが、ラヴィッチ達と共にしているのか姿がなかった。


「一緒に食べてもいいわよ、雅君」


「!殿堂さん……いいの?」


 気遣ってくれたのか梨杏がつつじの机を挟んで向かいに座り、弁当を広げた。

 梨杏は転校してきてまだクラスに馴染めていない。

 枯那達やアリーシャ隊等友人はいるが深くは関わっていないので学校ではほぼ単独行動だ。

 美人だから周りも声を掛けづらいというのもあるが、梨杏自身も干渉して来ないので距離感が出来てしまったのだ。


 そしてそんな彼女が男と食事している姿を堂々と見せるので、クラスメイトはひそひそと二人の関係を噂し出す。

 その声が嫌でも耳に入ってくるので心配になり、つつじは梨杏に声を掛けた。


「……僕と居たら変な噂出るかも」


「別にいいの、雅君の気が晴れるまで一緒に居てあげるってだけだから」


「あ……ありがとう」


 本人は全く気にしていない様子で弁当のおかずの卵焼きを口にしていた。

 ショックな事があるとなかなか吹っ切れないのがつつじの性格。

 そんな自分を気遣って傍にいてくれるなんて何て優しい女性なのだろうとつつじは心が温まった。


「…………ほぅ、あの二人……」


 そしてその姿を屋上から望遠鏡片手に覗き込んでいたコークだった。


 放課後になり、コークはつつじに珍しく自分から話し掛けた。

 モテ期なのか!?と勘違いしそうになるつつじだが平静を保ち、返事をする。


「お前と殿堂は付き合っているのか?」


「は!?何で突然!?」


 既に噂されていた付き合っている疑惑を確かめるべくコークは直球で質問した。


「お前とは同じクラスなだけで全く知らないが……赤坂の事が好きじゃなかったのか?」


「で、殿堂さんとは付き合ってないよ!確かに僕は赤坂さんが好きだったけど……昨日、玉砕されたから……」


 コークにも勘づかれてしまうとはつつじの態度は分かりやすいようだ。

 だが、昨日今日と一緒にいてくれた梨杏を思うと、胸が熱くなる感覚がした。


「殿堂さんといると安心したんだ、ツンツンしてる癖に言葉は優しくて、楽しくて」


「要は好きになったんだろう」


「!」


 昨日まで喪奈を好きでいたのに、それはアリなのか。

 傷を負った心を癒したい時に、たまたま梨杏が現れたからそのせいなのかもしれないが、この気持ちは嘘ではなく本心で。


(……僕は殿堂さんが……好きなんだ)


「だったらすぐに告白したらどうだ」


 石黒はイケメンだから軽く言うけどなぁと呆れる。

 それがすぐ実行できたらかっこいいが梨杏も自分の事となると鈍感そうだし頭を悩ませる。


「大胆に告白してみるとか、例えば……そうだな、校内放送で告白……とか」


「!!」


 コークは悪ノリして教師のフリをして眼鏡をかけ、黒板に大胆!と字を書いてみた。

 さすがに冗談だと訂正しようとしたが、つつじは何を思ったのかそれだ!と叫ぶと鞄を手に取り教室の外へ飛び出す。


「ありがとう石黒先生~!!!」


「おい……本気か?」


 とんでもない案を出してしまったと一瞬後悔したが、それはそれで面白くなるかもしれないと笑い、つつじを止めるのをやめたコークであった。


 一方梨杏はお気楽部の部室で宿題を机に広げていた。

 基本的に何をしててもいいという特殊な部活なので、机に向かって多く出された数学のプリントを解くことに専念しシャーペンを握る。


『殿堂梨杏さん』


「え?」


 校内放送のピンポンパンポーンの音の後に梨杏を呼ぶ男の声がして顔を上げる。

 声の元には覚えがあった。つつじだ。


『僕は三年、雅つつじです!今から僕の気持ちを伝えようと思います!』


 同じ部室内にいた喪奈やその友人の満緯も何だろうとぽかんと口を開けていた。


『梨杏!!!好きだ!!!好きになった期間が早すぎるけど僕は君が好きだ!!!』


「っはぁ!?」


 予想外の声量と告白に驚愕して思わず立ち上がる。

 何とかして止めなければと部室のドアノブに手を掛け、一度喪奈の方を振り返った。


「……放送室は……一階だったわよね?」


「え……はい」


 喪奈も、昨日告白してきたはずのつつじが別の人に大胆告白しているのを聞いて意味がわからないと言った表情だった。

 しかし自分を諦めて心機一転したんだなと思うと安心したし、応援してあげたい気持ちにもなった。


 梨杏は急いで一階の放送室に向かう。

 その途中でもスピーカーから聞こえる愛の告白は止まなかった。


『キスもしたいし抱きしめたい!!!』


 息を切らして放送室のドアを開けるとやはりつつじがマイクを握りながら一人叫んでいた。


「何をしてるのよぉおおおおお……!!!!!」


「ぶふぉぉぉぉ……ッ!!!」


 迷わずつつじに飛び足蹴りをお見舞いして止めさせる。

 狭い放送室で蹲ったつつじだが、すぐに立つと梨杏の手を握りながら改めて気持ちを伝えた。


「殿堂さん、好きです。君には優しいという言葉がピッタリだと言う事を僕が証明するよ」


 真っ直ぐな眼差しで梨杏を見つめ、自信満々そうに笑みを浮かべる。

 一応顔はまぁまぁいい方だからか、梨杏はつい顔を赤くしてしまった。


「私を好きになってくれたのは……嬉しいわ。でも……」


 そう言って手を離し、つつじに指をさす。


「あの告白の仕方はないわよ!!!一人で先生に怒られてなさい!!!」


「え」


 そう言われるや否やつつじは自分の首根っこを誰かに背後から掴まれる感覚がした。

 首だけ横にずらし、ゆっくり振り向くと体育の熱血教師の天宮(あまみや)おのか先生が怖いくらいニッコリと笑っていた。

 保健教師である姉のほのか先生とは大違いの先生だ。


「さー行くぞー雅ぃ」


「え、ちょ……雰囲気的にオッケーだったんじゃないの!?そんなぁああ……!!」


 項垂れてズルズルと引きずられ生徒指導室まで連行されるつつじを遠くからコークはクツクツ笑いながら傍観していた。


「何ニヤニヤしてんだよ」


 偶然居合わせたタルクが珍しく面白そうに笑っていたコークを見て気持ちわりぃなと蔑む。


「同じクラスの雅という奴の相談に乗ってやったんだ」


「え……じゃあ今の校内放送もコー……沙檻が?」


 今日のコークは機嫌が良いようでタルクの馬鹿にしたような声にも触れず、床を引き摺られるつつじを一瞥して目を閉じた。


「奴は……天性の馬鹿だ」


 視力がニ・Oのコークだから確認する事が出来たが、遠くにいるつつじは困った表情をしつつも、にへらっと笑っていたのだ。

 上手くいったのかはよく分からないが人の手助けが出来たことを素直に嬉しく思うコークだった。

 殿堂梨杏が心を開くのも時間の問題だ。



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