8月21日
放課後。アリーシャ隊は目立たないように裏玄関出口から下校していたが今日は何故か生徒が人っ子一人歩いていなかった。
変に見られたり絡まれたり会話を聞かれたりしなくてラッキーだと皆で羽を伸ばすが、裏庭を歩いている所で誰かに声を掛けられた。
「おい、女番長」
「……」
赤く長い髪をツインテールでまとめた男勝りな印象の女性は焼却炉の上に座りながらタルクを見ていた。
しかし関わりたくないのかタルクは完全無視している。
「てめぇ無視すんな」
「あ?」
「お前学校で女番長って呼ばれてるみたいじゃねぇか」
「噂じゃあ、校内で悪さしてる奴をボコってるみたいだけど~」
すると横から別の女性がひょこっと顔を覗かせ口を尖らせた。
真ん中分けで髪にウェーブがかかった黄緑色の女性だ、睫毛がくるりと上に跳ねあげ可愛らしい印象である。
「生意気ね、番長に良心なんて要らないじゃないの」
「そーだそーだ!殴り合いでもしてれば良いんだー!」
更にその横から二人の女性が姿を現す。
水色の長い髪の毛がうねっているが何故だか綺麗だと思ってしまう程の容姿端麗な女性と、白色の髪の毛を片側に結った童顔の女性。
「いや別にボコってはねぇけど……」
「なんて良心……前作じゃ絶対ありえない……」
タルクがやんわり否定する隣でラヴィッチが顔を押さえながら項垂れていた。
「まぁ、んな事よりちょっと相手になってくれねぇか?最近イライラする事ばっかでよぉ。アリーシャ隊のせいで」
「……!」
彼女達四人の共通点は何処と無く顔つきが似ている事と、前髪のすぐ横に飾られた赤いリボン。
修道院のような落ち着いた色のワンピースに、尖った耳。
アリーシャ隊一同がすぐに上のクラスの月の姫と判断し、各々武器を構えた。
するとご丁寧に自己紹介をしてくれた。
「私達と会うのは初めてだもんね!私、大地の精霊もとい土華でーす♪」
白い髪の女性はそう言って可愛らしくウインクする。
「私達は特待生のリンリン達よりも上級クラスの超特待生。私は水の精霊、又の名を水華よ」
水色の髪の女性は自信満々に腕を組みながら見下す。
「超だよ!超付いちゃうんだよ!あ、私は風の精霊、風華!」
黄緑色の女性はニコニコ笑ってぴょんぴょんと跳ねていた。
「一気にやんのはめんどくせぇからオレ達が分かれて戦ってやるよ」
「あ、この子は炎の精霊もとい炎華ね!」
全員の自己紹介が終わった所で分散して戦闘を始めることになってしまった。
白妬とタルクは炎華。ナイチと響は水華。コークとラヴィッチで土華。
「えぇーー!私は!?」
必然的に風華だけが余ってしまう形となり、納得いかないのかブーブーと文句を言っている。
「そこのレインボーの子!私と勝負だ!」
「わ、私は戦えません~!」
「なーんでーやねーん!」
「お?何か面白そうな奴がいるな」
「ぬ!誰!?」
風華の後方から聞き慣れた声がし振り向くと、彪がゆっくり歩いてきた。
「タイガー!」
「俺がお前と戦ってやるよ」
「何よー!私よりチビのくせに!」
彼はアリーシャ隊と同じ高校に通っていて、尚且つ一年生でハーモニーや白妬、響と同じクラスである。
彪は風華に指を差しドヤっと自信満々に笑うが背が小さい事を突っ込まれ一瞬で顔を赤くした。
「お前ぶっ飛ばす……」
「ていうか……彪大丈夫?」
「どうせ暇だったし人員不足みたいだから助太刀してやるよ」
ナチュラルにアリーシャ隊が敵に狙われて戦闘している事に関して特に違和感を持たずに輪に入っていく彪は流石だと思うが、相手は上級クラスの月の姫だ。
それに彪の能力は以前初対面の時にタルクとほんの少しだけ戦った時の事しか知らないので心配になったのだ。
「あ、俺の能力は重力だよ。昔から物を浮かせる力があって、お前らが魔術唱える感覚と同じで成長する度に重い物まで浮かせられるようになって今じゃほら……」
一同の言いたい事を察してくれたのか彪が己の特殊能力をベラベラと話してくれた。
手を横にかざすと、裏庭に備わっている街灯の柱がボコッと音を立て宙に浮かび風華に向かって光速で飛んで行く。
「ちょ……重力キャラがいるなんて聞いてない……!」
風華はそれにぶつかり木の茂みまで身体を投げ飛ばされてしまった。
「と……とりあえず大丈夫そうだな」
一対一になってしまうのは申し訳ないがこちらも風華より強そうな炎華や水華を何とかしなければならないのでお願いする事となった。
「っらぁ!!!」
「……!」
タルクが炎華に刀を振りかざし斬り付けようと腕を振るが避けられてしまった。
素早いようで何度も刀を振るうが武器もなしに機敏な動きで呆気なく避けられる。
「……っはぁ!……そういやお前……武器はねぇのか?」
「別に……お前如き武器なんか無くても相手になれるんだよ」
炎華は煽るようにタルクの攻撃を避けながら見下すが、煽られた本人は何処か上の空で何か考えている様子だった。
「どうした、考え事か?まぁいい。お前らが何をしてもこの鉄の腕一本で充分なんだよ!」
「カッコつけるなクソが」
「ぐへっ!!!」
自慢げに右腕を挙げて吼える炎華の後頭部を後ろから白妬が膝で蹴り飛ばした。
勢いで倒れた炎華の上に立ち、胸元を思い切り踏み付ける。
「意外と呆気ないな」
(巨乳死ね巨乳死ね巨乳死ね巨乳死ね!!!!)
「白妬……何か心の声だだ漏れだけど」
顔は冷静な割に心の叫びは憎しみで満ち溢れていた白妬は踏み付ける力をグッと強くし憂さ晴らしする。
しかし踏み付けていた足首を炎華に持たれると、その手のあまりの熱さに反射で引っ込めようとしてしまった。
「あっつ……!!?」
「何度でも触ってやるから来いよ……っ!!!!」
「ぐ……っ!?」
だが彼女の力が強く、離してはくれずに足から持ち上げられ勢いよく庭に植えられた大樹まで吹っ飛ばされる。
木の枝に身体を預けながら火傷を負った足首をさすり冷や汗を流す白妬。
(奴の手が炎の如く熱かった……本当に鉄の腕じゃないかよ……)
触れられたら終わりだ。
木に身を潜めながら次なる作戦を考える白妬だった。
「……とりあえず撃ってみるか」
水華の能力が分からないのでナイチはひとまず銃を撃って出方を視察する作戦に出た。
「そんなの私の水で無力化よ」
単純な銃弾は、水華が髪の毛をなびかせただけで勢いを失い、髪の毛に溶け込んで消えてしまった。
どうやらあの長い髪の毛がネックのようだ。
「だったら切ればいいんだよ!」
「?」
響が明るい声でそう言うとスパッという切れた音がしてあっという間に水華の髪の毛を切り落としてしまった。
「え……響、何したんだ」
「ダメ元で髪の毛に向けてパンチしてみたの!」
水華の美しい長い髪は床に無惨に落とされ、ショートヘアとなっている。
これならば勝機はあるかもと笑うが水華も同じようにニタリと笑った。
「馬鹿ねぇ」
そう嘲笑うとみるみるうちに彼女の髪の毛が伸び、すぐに先程同様の長さまで戻ってしまった。
「これは私の体力が持つ限り伸び続けるのよ?」
「コークか貴様!!」
物凄く既視感があり思い当たる人物の名を挙げる。
コークも自分の身体から出るコードは体力が持つ限り永遠に伸ばす事が出来るのだ。
「呼んだか?」
「何でもない!!」
「そうか」
ナイチに名前を呼ばれた気がしてコークが顔を振り向かせる。
彼も彼で土華が地面から生やした蠢く触手を鞭で払って避けていた。
「あ……ひゃっ、はは……」
「……」
しかし今回コークとタッグを組んだラヴィッチはというと、まんまと触手に捕まりギリギリと締め付けられているにも関わらず勘違いしそうな変な声を上げているのだ。
「真面目にやれラヴィッチ・イザード」
「わっ、ありがと……」
緊張感の無さにイラッとしたが仕方なく鞭でラヴィッチを縛っていた触手を一刀両断し切り離した。
(……ヤバい……俺、死ぬ気がする……)
彪は風華の竜巻旋風を避けながら内心で焦っていた。
(こいつらガチで魔術使ってるしマジかよ)
彪が焦るのも当然である。
アリーシャ隊がよく分からない敵に狙われて戦闘しているという事は会った時にさらっと教えてもらっていた。
自分自身も能力がある事から、どうせなら力になって、いい所取りしてやろうなんて安易に考えていたのだが。
彼は見知らぬ敵との戦闘等経験した事がない為、こんな本気の戦いだとは思っていなかったのだ。
しかもコーク達は二人体制で戦闘しているが彪は一人。ハーモニーこそ傍に居てくれているが彼女も戦えない事は知っているしいきなりの初舞台のような物なのだ。
「……何で私の相手は男の子なんだろう……」
風華がボソッと呟く。何やら残念そうな顔をしているが何の事なのか分からない彪は頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
「これじゃあ私の風で敵のスカートを舞い上がらせて隙を突いて倒すっていう作戦が実行できないよ~!!!」
「残念だったな……!!」
「っきゃああぁ……!!!」
風華は頭を抱えながら強風を巻き起こし彪に吹き付けるが彼も腕を前に出し重力で抗い、押し返した。
こんなに自分の力をフルで発揮する事になるとは思ってもみなかった。
正直不安だがやれるだけのことはやってアリーシャ隊の力になろうと拳に力を込める彪だった。
「――っはぁ!!!」
白妬は炎華に飛び足蹴りを食らわしていた。
しかしすぐに太腿部分を熱くなった掌で触れられ火傷でひりつく。
「はっ!熱いだろう」
「っくそ……!!!」
炎華の肩を掴んで上でバク転するように回転しながら飛び、彼女から離れた。
攻撃を与える為に近付いても触れられてしまえば終わりなのだ。だからこうしてチマチマと離れては近付いて攻撃して、を繰り返している。
(このままじゃ体力の限界が来てしまう……どうすれば……)
白妬が一人悩んで唇を噛んでいるとスっとタルクが前に出た。
「お、次はお前か?」
「……」
しかしタルクは何をする訳でもなく炎華の目の前に立ったまま動かない。何かを考えているようだ。
「何もしねぇのか?ラッキーだな!おらぁ!!」
「……っ」
「おいタルク……!何やってる!!!」
隙だらけのタルクの頬を炎華が思い切り拳で殴り付けた。
頬に軽い火傷を負ったタルクは虚ろな目で炎華を見つめていた。
何がしたいのか、もしかして諦めてしまったのか、タルクの思考が誰にも読めない。
コークも遠くから彼の姿を見て馬鹿野郎と小さく吐き捨てた。
(こいつは……何だかオレを見ているみたいだ)
「おら、逃げねぇと死ぬぞ!?」
(赤い髪にツインテール、男口調、胸も同じくらいで……)
「……分かった、お前は」
炎華がもう一度拳で殴ろうと腕を挙げる。顔面に当たる寸前にタルクはハッと目を見開く。
「オレとキャラ被ってるだけじゃねぇか!!!!!」
「んな……ッ!?ご……っ!!」
タルクは炎華の手首を瞬時に掴み、顎に思い切り頭突きをお見舞した。
彼が考えていたのは炎華が自分と被っている事についてだったようだ。
石頭のタルクの頭突きをモロに受けた炎華は片膝を付きながら頬の辺りをさすっていた。
「なんかよく分からんが……ご愁傷さま~……」
「……」
白妬がほんの少しだけ同情し、ナイフを投げつけ炎華の頬を切り裂いた。
「……負けるもんかァァァァァァッ!!!!」
怒り狂った炎華は身体から焔をほとばしらせすぐに立ち上がる。
「白妬、動けるか?」
「ふん、当然だ」
タルクと白妬の準備は万端なようで各々の武器を握り炎華に焦点を合わせた。
「ようやくタルクも動き出したか……って、何だ!?」
ナイチが一瞬タルク達の方を確認し視線を前に戻すと目の前に響が現れ、笑いながら襲いかかってきた。
全く意味が分からず名前を呼ぶが、聞いてはくれずナイチ目掛けて腕を振りかざす。
体勢を崩し尻もちを付くナイチに響の影が覆い被さる。
「……しまった……!」
速すぎて対応できず目を閉じるが何も起こらず開けると、水が弾かれる音と共に目の前にいた響が泥水となって地面に溶けて行った。
そして本物の響がそこに居たのだ。
「あの人、今みたいに偽者を召喚できる術があるみたいだから気を付けてねナイチ君!」
「は……はい……」
どうやら響が偽者の自分を破壊してくれたようだった。
注意喚起だけして早急に背を向け水華に右腕ストレートパンチを与える彼の姿に、思考が追いつかず呆然と眺めてしまった。
「―うあああ……!!!?」
「彪様……!」
「お前は下がってろ……!」
彪の体力もそろそろ限界が近いのか風華の風の攻撃に重力で勝てなくなってしまった。
無惨にも吹き付ける強風に身体が巻き込まれ吹き飛び、樹木の葉の上に落下した。
心配したハーモニーが彪に近寄るが風華は彼女を狙って風を起こす。
「おっそいよーーん!」
「……へぁ!?」
その風はハーモニーの下から上へ舞い上がり、彼女のスカートを思い切り翻させた。
当然下着も丸見えになってしまいお互い赤面する。
ハーモニーは機械なので頬は染まらない造りになっているが。
「は、はやく隠せ馬鹿……!!!」
「はい隙あり~!」
「ごはっ!!!!」
見事にラッキースケベという戦法で隙を作ってしまった彪は風華に回し蹴りをされて地面に叩き付けられてしまった。
「―っいた!!」
土華はコークの鞭を受け、大袈裟な位泣きながら痛そうに喚いていた。
「ほぅ、痛いのか今ので…これはな」
「……!?」
そう言うとラヴィッチにも同じように鞭を打ち付けた。
ラヴィッチは訳も分からず「はぁ?」と言ったような顔をしているが声は上げなかった。
「ラヴィッチにやってもあまり痛がらないのだが…お前は弱いみたいだな」
「僕を実験台にしないでくれないかな!?あと普通に痛いから!!さっきの仕返し!?」
相変わらずコークはサディストである。
こうして仲間にわざと攻撃を与えて敵を馬鹿にするのも彼にしか出来ないやり方だとある意味尊敬してしまう。
「うぅ……何か超ムカつくんですけど……!!!!」
二人で言い合い(と言ってもラヴィッチが一方的に物申しているだけなのだが)置いてけぼり状態の土華は顔を引き攣らせながら自分の周りに円形の術式を展開した。
するとそこからまた触手が蠢き出すが先程の物より大きさが遥かに違った。
「面倒だな……」
コークは長丁場になる前に終わらせようと身体からコードを伸ばした。彼の技の中に、コードから伸びた無数のナイフで相手を切り付けるという物があるのでそれで触手に打ち勝とうと思ったのだ。
「あ、残念だけどそのびよーんって伸びる奴、私に効かないよ~ん!」
「……?」
「だって引きちぎっちゃえばいい話でしょ」
「……っぐ、ぁ!?」
土華に向かって勢いよく伸びたコークのコードだが、直後にグシャッというグロッキーな音が鳴り響いた。
彼女が発動した触手がコードを絡め取り、思い切り引き抜いたのだ。
「――……」
白妬は炎華と目を合わせた。彼女の瞳から光が消え、あの術を発動したようだ。
「……おぉ、これが噂の五感を失うって奴か!」
しかし炎華は取り乱す事無くむしろ楽しんでいるような反応をしている。
確実に感覚を失っていっているはずだから、後に動けなくなるのも時間の問題だと白妬は考えるが炎華は笑っていた。
「ナメんなよ」
「?!」
「オレ達をナメんな」
次の瞬間、白妬の右眼を炎華が指で容赦なく突き刺した。
グチャッという血に塗れた嫌な音と同時に白妬は痛みで片目を抑えながら叫ぶ。
「ぐぁあぁあああぁああ……ッ!!??!!」
「白妬……!!」
しかし白妬の右眼からは延々と血が流れていくばかりだった。
「――っふ!!」
「っ、うぅ……っ!?」
ナイチが銃を放つと水華の頬に当たり、そこに十字の模様をあしらった紋章が浮かび上がった。
それを確認し水華に背を向けると、適当に魔術を発動させ手元を光らせた。
すると水華は異様に頬から顔面にかけて痛みを訴え、顔を抑える。
(俺の魔力をそこに転移させ内側からダメージを食らわせる術だ、教えないけどな)
ナイチの説明通りである。その紋章が浮かび上がっている間、逃げられない痛みに堪えるしかないのだ。
「……痛いじゃない……!!!」
「っく……」
しかし堪えてナイチに近付き、彼の首を掴みあげる。
ギリッと指に力を込め、絞めながら髪の毛を逆立てる。
「ふふふ……死になさい……!」
「もう……貴女が、だよ!」
「……きゃ……!!」
寸前で響が水華を抱え、空に投げ飛ばした。
飛ばされながらも手を前に突き出し、そこから氷の雨を降らせた。
「っく、そ……氷か……!」
鋭い氷柱のような物が頭上から降り、肌を突き刺す。
二人は避けるので精一杯だった。
「……っ、はぁ……っ、は……!」
一方コークはその場に崩れ落ち、肩で息をしていた。
切られる事はあったが逆に引き抜かれることはなかったからである。
「そ、そんなに……痛いの?」
珍しいコークの瀕死の姿に、ラヴィッチがよそよそしく声をかける。
ちらっと一瞥だけはしたが本当に痛みで動けないのか顔を戻す。
「早く……前に、立て……お前も……内臓を……っ、えぐ、られたいの、か?」
「え、ええ!?そんなに大変な事になってるの!?」
コークを守るべく前に出て剣を構え、向かってくる触手を一心不乱に切り刻んで行った。
「――とりあえず食らえ!」
「っい、たぁ……!!」
彪は腕を挙げると近くにあった石や煉瓦等を浮遊させ、風華に向かってぶつけた。
「まっけないんだから……ぁあ!!!」
しかし負けじと彪に近付いて拳に力を込め、彼の胸元を思い切り突いた。
「……ぐふぁ……っ!」
時間差で内部から痛みがこみ上げ吐血し倒れ込んだ。
こんなに瀕死になってしまうとは、彪含め全員が想像していなかった事だろう。
「君達弱いねっ」
「こんなもんだったか~」
「残念ね、本当にエレディス達に勝ったのかしら?」
「てめぇらはそこでのたれ死んでろ!!」
超特待生チームが彼らの前に立ちながら罵倒する。
彼女らも血や傷だらけではあるがまだ動く力はあるようだ。
一見アリーシャ隊が劣勢に見えるが、超特待生達の罵声で全員の怒りが頂点に達する。
「……今、何て言った?」
ラヴィッチが額から流れる血を拭いながら静かに彼女らを睨み上げる。
「のたれ死んでろだって、酷いなぁ……僕、怒っちゃうよ?」
響が普段見せないような無表情で胸の内に秘めた怒りをあらわにしている。
「俺達がここで終わるわけないだろう?」
ナイチが口から溢れた血を拭い、アリーシャ隊を見やる。
「あぁ、私達は終わらない。何の為にここまで来た」
白妬は抉られた右眼をハーモニーに包帯で巻いてもらい、疲れ果てた顔をしつつも余裕そうに笑う。
「誤解している月の姫を力づくで分からせてやる……だよな、何してぇんだかわかんねーけど」
タルクがゆっくり立ち上がって冷酷に相手を睨む。
「私達は倒れる訳にはいかない」
コークが乱れた制服のブラウスの襟を正しながら息をつく。
「……俺、アリーシャ隊じゃねぇけど……負けるのだけは大嫌いなんだよ」
彪も、負けず嫌いが過ぎて苛立ちをあらわにしていた。
彼にも協力してもらって大怪我をさせて申し訳なく思うが、諦めずに立ち向かう姿勢を見て、もっと強くなる見込みを感じた。
「っな、なんだこの光は……!?」
するとアリーシャ隊が光に包まれ、辺りを明るく照らした。
炎華達も眩しさに目を眩ませているが、アリーシャ隊と彪は眩しさの中で心地よい感覚に身体が浸っていっている事に気が付いた。
「な、にこれ……」
「傷が……消えていく……」
各々が響の言葉に自分の身体を確認した。
超特待生から受けた傷があっという間に何も無かった状態になり、それと同時に身体から新たな力が湧き上がってくる感覚にも気付かされる。
(さすがに抉られた眼は回復しないか……だが痛みが消えた)
白妬が右眼にそっと触れるが痛みは全く無かった。
「……なるほどな」
コークが察知して頷き、タルクと彪がハモってこう言った。
「俺達覚醒ってことか」
光が消え、全員が完全治癒し覚醒した状態で敵の前に立つ。
「……なんだてめぇら、目が変わって……」
覚醒の証からか、全員の左眼の模様が変化を遂げていた。
白妬の五感を無くす時のようにハイライトが消え、瞳孔が開いている。
「……っな!?!動けな……」
炎華は突然身体が動けなくなり直立不動状態になっていた。訳も分からず腕や脚を動かそうとするが適わない。
(奴から目が……離せねぇ……なんだよこれ……!!!)
白妬が一度目を閉じ、すぐに見開くとそれを合図に炎華の身体中から血が飛び散った。
「……っ、が、ぁ……」
身体から力が抜け、倒れそうになるが堪え白妬の反対側にいたタルクに向かって走り出した。
「殺られるもんかよ……そこの赤い奴の目も潰してやる……!!!」
「……あぁ?」
タルクが彼女を睨むと、その時点で炎華は刀で斬られていた。
「……っは、?」
「お前は寝てろ」
既に斬られていたのだ。見えない速さで。
速すぎる刀さばきに順応できず腹部から流血させ倒れた。
(どうやら今なら何でもアリのようだ……ならば)
ナイチは四方八方に銃弾を放った。それは水華を通り過ぎ一見攻撃は当たらなかったように見えたが、これはわざとだ。
指をパチンと鳴らすと、適当に撃ったように思えた銃弾は水華の元に戻り様々な方向から彼女を貫いた。
「……っあぁああぁあううう……ッ」
咄嗟に髪の毛のバリアで防御しようと髪を振り乱したが、その髪の毛の隙間を縫って銃弾が入り込んだので無意味に終わり片膝を付く。
しかし追い討ちをかけるように響が水華に走って近付く。
「痛いの承知で……いっくよー!!」
「!?……っが、ふ……ぅあ……ッ!」
響の右腕は鋭いドリルのようなものに変わっていた。
それを遠慮なく水華の腹部に突き刺す。抉られる感覚に堪えきれず水華は大の字で倒れ動かなくなった。
「僕の術は憑依系ばっかだけど……今ならそのまま攻撃に使えそう!!」
「いた……っ!!?」
ラヴィッチの魔術は剣に憑依させ、その能力と共に切り付ける技ばかりだが今回はそのまま攻撃として使用出来るようで掌で術を展開させると試しに土華に殴り付けてみた。
効果はあったようで怯んだ土華にトドメを刺してもらおうとコークを呼んだ。
「コーク!今だよ!」
「分かっている、行くぞ……!」
「にゃえ……っ!?」
そう言って身体からコードを伸ばし、土華の両腕と身体を器用に縛り上げた。
無防備に両腕を上げさせられ縛られる様を恥ずかしく思い土華が仄かに頬を赤らめるが、
コークは微塵も気にしていない。
コードから火花が出て燃え上がる寸前でコークはコードを切り離した。
「ぎゃあああああああああぁぁぁっ!!!」
コードごと爆発し土華は巻き込まれてしまった。
「覚醒とかしたって、関係ないもんね!!風華玉行くよぉぉおおお!!」
風華は両腕を真上に上げ、禍々しい巨大な玉を生み出した。
まだそんな力があるのかと焦るが、彪は指を軽く捻ると何処から飛んできたのかは分からない標識が飛んできて風華の後頭部を強打した。
「あべしっ!!」
「っしゃ、もっとだ!」
呆気なくその魔術玉は消え失せ、その隙に更に指を動かし電柱や瓦礫等を風華にぶつける。
「うぅ……なに、よ……なんなのさ……!!!」
「っ!?まずい……!」
風華は彪の横を通り抜け、ハーモニーに突っ込んだ。
彼女を狙われるとまずい。
ハーモニーは俯いたまま動かない。
「ハーモニー!!!逃げろ!!!」
「……私だって……お手伝い……したい……」
「……え?」
「あああああぁぁぁああぁあああああぁぁぁ……ッ!!!!」
ハーモニーの聞いた事のない叫び声に全員が振り向いた。
すると彼女の身体から矢のような鋭い物が飛び出て、突っ込んできた風華の身体を無数に突き刺したのだ。
「ハーモニー……」
「あれが……覚醒」
ハーモニーの力になりたいという思いが覚醒に繋がったようだ。風華は貫かれて気を失った。
―――
「いやー負けちゃった」
「お前ら強かったな、訂正するよ」
「案外呆気なく和解するんだな…」
超特待生に勝ち目はないと確信したのか負けを認め、戦闘は終わりを迎えた。
先程までのピリピリした空気等一変、彼女達は穏やかな表情で笑っていた。
「まぁ前からリンリン達にこれは誤解だって言われてたからね」
「え……あの子達……」
「私達はただ単に戦うのが好きだから挑んでみただけだったんだけど」
戦闘した理由はさておき、リンリン達が彼女達を説得していたという事には驚いてしまった。
やはり話の分かる人達だったんだと安堵する。
「あとは……キャリア姫がどう出るかね」
「え……キャリア……姫?」
「まだ上がいるのか……」
超特待生ですらかなり苦戦したというのに更に上がいるというのか。
項垂れると風華が上機嫌に紹介してくれた。
「キャリア姫は月の世界の女王♪超強い♪」
「ほぅ……ならば次で全ての終止符を打つ時が来るという事か」
月の姫との戦もいよいよ次でラスト。
女王が来るという事は、サランも同行している可能性が懸念されるがここまで来たのなら受けて立つ心意気でいた。
向こうからアクションがあるまで万全の体制でいようと言い、超特待生と別れて帰路に着くアリーシャ隊だった。
「……」
彼らの何メートルも後ろの場所で一人佇む人物がいた。
アリーシャ隊を確認して、すぐに姿を消した。
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