8月4日
今日はたまたま全員で買い出しに出ていた。
太陽がギラつき気温も上昇しているからか、住宅街を歩いているが人が全くいなかった。
皆暑くて外に出たくないのだろう。
「悪いけど、ここで貴方達は終わりよ」
「っ!?」
何処からか女性の冷酷な声が聞こえ、一同は辺りを見回すが見当たらない。
「上か!!!」
白妬が電信柱の上に立っている人物に気付きナイフを投げ飛ばす。
しかしそれは呆気なく避けられ、三人の女性が地上に降りてきた。
「月の姫か」
「私達は月の姫の中でも特待生クラスよ」
「……強そうだもんな、なんか」
尖る耳ですぐに月の姫だとは分かったが、オーラが今まで戦った人達とは全く違う事に緊張感を走らせる。
「エレディスよ」
腕を組みながら感情が見えない表情でアリーシャ隊を一瞥するエレディス。
「キルトです」
大人しい性格ながらも瞳の奥にギラギラと己の意志を灯し、見つめるキルト。
「リンリンだ」
恐ろしい程の冷ややかな目でにアリーシャ隊を見下しながら仁王立ちするリンリン。
人数では勝っているが、どんな戦闘を繰り広げるのか想定できない為、距離を保ち相手の出方を待つコーク達であった。
「本当はもっと前に殺るつもりだったんだけどな」
そう吐き捨てるように言ってリンリンが一歩前に出る。
「……オレ達がまだ弱いとか、相手にならねぇとかそんな理由か?」
「……ふ」
「余裕の笑み……貴様……」
タルクがそう聞くとエレディスが鼻で笑った。
馬鹿にされているような感じに受け取り、ナイチが苛立ちを歯を食いしばる。
「…………リンリンが……面倒くさいって」
「な!?私のせいかよ!」
「リンリン……この間確かに言ったよ?」
「え!?そうだっけ!?」
「どうして覚えてないのよ!貴女があの時――」
すると突然緊張の糸が切れたかのように場の空気が和らぎ始めた。
どうやら戦闘に来なかったのはリンリンが面倒くさくて行かなかっただけのようで、それについて三人で言い合いをしている。
「……んな事はどうでもいいんだよ!!とにかく!!枯那の親戚に手を出したんだ!許さねぇぞ!」
「……」
リンリンの言葉でやっと月の姫がどうしてアリーシャ隊を狙っているのか理由が分かった。
(過去が原因か!!!)
「やっと月の姫の目的が分かったな」
「んー……まぁ確かに手出しはしたけど……」
「もう仲直りしましたし~……」
白妬が溜息をついた。響もポリポリと頬をかきながら過去を思い出していた。
そしてハーモニーがもうその件は円満に解決したと伝えるとやはり知らなかったのか特待生らは逆に驚いた顔をした。
「……まぁ、そっちが誘ってきた以上、こちらも下がる訳には行かないからな」
「コーク燃えてる……」
コークが鞭を握りながらニヤリと笑う。
彼の怒りオーラも燃え盛る程メラメラしていた。
「まぁいい!!私の新たな力は……!!!」
リンリンが叫ぶと、突然相手に口付けをした。
するとその相手は身体から力を抜かし、眠ってしまったが、彼女は相手を間違えキルトにしてしまった。
「やる奴間違ったァァァッ!!!」
「どうやったら間違うのよ!!!馬鹿リンリン!!!」
そしてまたエレディスとリンリンは言い合いをしだす。
もしかしたら頭の方は良くないのかもしれない。
「……ん、あれ……」
「あ、キルト!」
眠らされていたキルトがすぐに目を覚まし、瞼を擦る。
エレディスがキルトの陰からリンリンをギロッと睨み、今すぐ謝れオーラを醸し出していた。
「ご、ごめんなキルト」
「ううん、大丈夫!気にしないで――っ!?」
隙だらけすぎる三人をナイチが銃で容赦なく発砲した。
「何なんだこの茶番劇……」
しかもきちんとマトモに食らってくれたので尚更そこまで強くないのではと思い込んでしまいそうになる。
響がナイチの横を走って通り抜け、右腕に魔力を込めてエレディスに殴り掛かろうと飛び込む。
「っふ!!!」
「わっ!!?」
しかし寸前にエレディスが反応し瞬時に手を前に出しバリアを張った。
そしてそのバリアには電気が通っていて響の拳を弾き、吹き飛ばす。
宙に飛ばされた響はくるりとバク転のように回って体勢を整えながら地面に着地した。
「あの人、”エレディス”だけに、雷扱う子みたいだよ」
(……ギャグはスルーしておくか)
「それを確かめる為に怪我までして飛び込んだのですか~?!」
真面目な顔でそう分析した響のギャグを、誰も突っ込まないで聞き流すことにしておいた。
ハーモニーだけが彼を心配して声を掛け、右手を見せてもらうと先程の電撃バリアで擦り傷と火傷を負っていた。
「回復しますね~」
「ありがとうハーモニー!」
響が突っ込んだ事で始まった戦闘だが、リンリンは回復役のハーモニーを見てアイツは厄介だと舌打ちをした。
そしてすぐにハーモニーの方に走り出すと軽々と抱きかかえながら空へ飛んだ。
「ひぇえええええ~!」
「ハーモニー!?」
「くけけ、さっきのようにゃ行かねぇぜ!!こいつ眠らせりゃ安心だろ」
「!?」
リンリンは回復役であるハーモニーから眠らせてしまえば勝機はあると考えたのだ。
タルクがそれは割と困る!と叫んで阻止しようとするがハーモニーがいる為攻撃を当てられない。
するとコークが前に出てとんでもない事を言い出した。
「そうしたいなら好きにすればいい、勝手にやってろ」
「ちょ、コーク!?」
そう冷たく言うとすぐに戦闘に戻りエレディス達に鞭を振るいに行ってしまった。
ラヴィッチが心配して剣を振りかざしつつ上を見上げる。
リンリンは好機だとハーモニーの顎に手を添えて触れるだけのキスをした。
「……」
「……」
「……やめてくださぁぁぁぁあい!!!」
「べぶッ!!!」
何故か効かなかったようでハーモニーがリンリンの顎を拳で突き上げ脱出した。
「もしかして機械だから効果が無かったのか……?」
「そ、そうかもです~……」
「おいおいおいおい、人外がいるなんて聞いてねぇぞー?」
「?お前……」
ハーモニーの背中に杖を突き、顔を歪ませニタリと笑ったのはキルトだった。
先程と性格や態度が打って変わって、顔つきも男勝りになっている。
「ハーモニーに何するつもりだ二重人格野郎」
「ぐっ……!」
杖の先から光が放出されハーモニーに攻撃が食らう前にタルクがその杖を脚で上にずらし、刀でキルトの鳩尾を突き刺した。
「あ、野郎ではねぇな」
「私の……」
「お?――っい!?!?」
「キルトに何するのよ」
いつの間にかタルクの背後にいたエレディスが前髪に留めていたピン留めに触れ、そこから電撃を放って彼に当てた。
(雷属性多いな畜生!!!)
そんなタルクの心の叫びは届かず、エレディスは広範囲に渡って雷撃を落とす。
身体が痺れ、片膝を付く彼らだがタルクは必死にこの状況を打破する方法を考えた。
そこで前にクルー姉妹が話していた事を思い出す。
”相手の弱点をおさえること♪”
その言葉にハッとし、タルクはリンリンの姿を見て何かに気付きダッシュで近付く。
「なんだてめぇ……あっ…んん!」
タルクはリンリンの背後から手を回し、彼女のふくよかな胸を掴み揉みしだいたのだ。
真面目な戦闘でそんなのありなのかと突っ込みたい所だがリンリンも素直に感じてしまって効果は抜群なようなのでアリで良いのだろう。
「今だ白妬!!」
「ふん……巨乳死ねぇぇぇえええッ!!!」
「関係ねぇええええッ……!!!」
タルクに指名された白妬はリンリンの前に立ち、上から下まで眺めた後にナイフで彼女の胸元を切りつけた。
胸にコンプレックスのある白妬の妬みでもあるのか八つ当たりしているようにも思える攻撃だった。
「ふ、黒花白妬も感情豊かになったな」
コークが白妬を見て小さく笑った。
それを言うならアンタもだよとラヴィッチは内心で突っ込んだが今度はコークの背後からキルトが術を唱えて光線を放っていた事に気が付き咄嗟に足を走らせた。
「コーク危ない……!!」
寸前で剣を盾にして何とか避け切る事が出来たようだ。
その光線は剣に当たった事で屈折して全く別方向へ向いて壁を貫いた。
「お前に守ってもらわなくても自分で守れる」
「はいはい!咄嗟の反応です!!」
コークの素っ気ない態度を気にせず笑いながら走り去るラヴィッチ。
その光景を傍から見ていたエレディスが顔を引き攣らせ苛立ちをあらわにする。
「なによ……あんた達も茶番劇じゃない……!!!」
「うわあああっ!!!!」
地面に手を付きそこから電撃の波が現れアリーシャ隊を覆うように迫った。
その攻撃を直で食らう白妬だったが苦しい表情一つせず三人の前で仁王立ちした。
「月の姫の特待生クラスもこんなもんだったか」
「な、んだこれ……!?」
自分達の身体の異変に気が付いた三人は目を虚ろにさせ、挙動不審になりながら辺りをキョロキョロと見回していた。
白妬の瞳からハイライトが消え冷酷なものとなっている所を見て五感を失わせる術を発動したのだと気付く。
ナイチはエレディスに青く燃え盛る炎弾を放ち、響はキルトに右腕ストレートパンチを食らわせ、コークがリンリンにコードを突き刺し三人同時に気を失わせる事に成功した。
―――
「……ん……」
「だ、大丈夫か?エレディス……」
エレディスが目を覚ますと、目の前にはリンリンが心配そうに彼女を見下ろしていた。
「……!?あの人達は……!?」
今いる場所が特待生三人が暮らしている家の中だという事に気付いて勢いよく起き上がるが、キルトが静かに首を横に振った。
「……私達の負け……だよ」
「……そう」
意外にもエレディスは負けを受け入れたようだ。
彼らの強さと自分達の甘さを身に染みて痛感していたのだろう。
「私達……何の為にアイツらと戦ったんだって感じだよな」
枯那の親戚やその友人に手を出したのは事実だが今は解決している。
本当に戦った意味があったのか分からなくなっていた。
ちなみに月の姫で残っているのはキャリアの側近に立つ、超特待生クラスの四人だ。
彼女らは危険すぎる人物だと月の姫間でも避ける程の要注意人物なのだ。
何故なら彼女らは戦を楽しんでいるから。
強い相手がいるなら絶対に挑んで殺し合いをする人達だから恐れられている。
そんな人達にアリーシャ隊の事情を説明して和解を求めようと説得しても無駄だと言う事は分かっている。
戦闘は避けられない。
何とか生き残ってくれと切に願う特待生三人であった。
そんな中、戦闘を終えて家に帰ってきたアリーシャ隊は夕食を食べていた。
「あ、そういえばこの間お嬢が聞いてきたことがあるんだけど」
「お嬢……?レイのことか、なんだよそのあだ名」
ラヴィッチがおかずのウインナーを咀嚼しながらレイに以前聞かれた内容を皆に話す。
白妬に呼び名について突っ込まれたが、何かお嬢様ぽいからとごもっともな返しをした。
『今の貴方達にリーダーはいないの?』
「リーダーならサラン様が居るだろう」
「そうだけど、なんて言ったらいいの、小隊長的な人って言うの?」
コークがスープを飲みながら即答で答えるも、そういう意味では無かったようだ。
確かにリーダーはサランだが、今は不在にしている。
その間のサランの役割を担えるようなリーダーはアリーシャ隊にいるのかという話だ。
言われてみれば考えた事はなかった。
今後戦闘をしていく中で効率よく勝つ為にもリーダー的存在は必要なのかもしれない。
「……俺はパスだ」
「私も向いていないので皆さんにお任せします~」
ナイチが早速匙を投げる。ハーモニーもまとめる力がないと自覚しているのか自分から辞退した。
するとテーブルを思い切り叩き、タルクが立ち上がった。
「リーダーは……オレやで!!!」
親指を自分に向けながら立候補した。
何となくタルクが率先して手を挙げることは予測出きていたので一同が納得してしまった。
ということで夕食を終えて早速試してみようと地下の訓練所に向かい、ダミーの敵を出現させる。
敵は一人。アリーシャ隊はリーダーの命令通りに動くという条件で戦闘を開始した。
「さぁ!タルク!命令を!」
「っおし!突っ込め!!!」
その声にコークとハーモニーを除いたメンバーが言われるがままに敵へ突っ込んで行った。
しかしダミーの敵は姿を消し、彼らの背後へと回り、術を唱えて攻撃を当てる。
「ぎゃーーー!」
「隙だらけすぎるから当然の結果だろ」
端から命令を聞く気がないコークがやっぱりなという様子で溜息をつく。
「タルク、周りを見ないとダメだよ!」
「んー……オレあんまり周り気にしねぇからな……。よし、ラヴィッチ!リーダー交代!」
「え……僕?」
タルクはしっかり周りの状況を見ながら戦えるラヴィッチをリーダーに任命した。
「よし!今から僕があの子を羽交い締めするから!!だから……えっと、誰でもいいから攻撃して!!それで……それでそれでえっとあの…………もういいや突っ込め!!」
「あがり症か貴様」
突然リーダーに任命され緊張してしまったのか具体的な戦略を考える事が出来なくなったようだ。
「あのな!普通に考えろ!数人が前に出て分散して攻撃し、隙を突いて残った数人が後方から魔術や遠距離攻撃を仕掛けるんだよ!前は近距離に向く奴、後ろは遠距離対応できる奴!」
「白妬様、リーダーみたいでかっこいいです~」
「そ、そうか?」
その作戦はごもっともで真っ当だが敵にだだ漏れである。
とりあえず流れでリーダーにさせられた白妬の作戦通りでやって行くこととする。
「よし、それで行ってみよ――……え?」
敵の方を見るといつの間にかコークが敵に捕まっていた。
作戦終了である。
「いや、コークなら突き放せるだろ」
「だよね……」
ナイチと響が焦った表情をしつつそう話すが、コークは抵抗する素振りを全く見せない。
「私は今回だけ何もしない」
「はぁ!?」
「リーダーからの指令だ。もし誰かが私のように捕まってしまったら……お前達はどうやって助ける?私を救って見せろ」
「か、勝手にリーダーになってるし……」
コークの提案は突拍子もなかったが今後そのような状況にならないとも限らないだろう。
先程の特待生戦では実際にハーモニーが人質にされたがたまたま機械だから術が効かずに抜け出せただけだ。
これはアリーシャ隊を試すいい策でもある。
「ラヴィッチ君、ちょっと靴貸してくれるかな?」
「響……いいけど……」
不意に響がラヴィッチに靴を借りようと話しかけてきた。
何か案でもあるのかととりあえず靴もといブーツを脱ぎ、響に渡す。
それをありがとうと礼を言って履いた。サイズが小さめだからか無理やり押し潰して履いているようだが。
「よし!位置について~!よーーーい!!!」
そう言いながらクラウチングスタートの体制になり、何をするつもりなのかと一同が彼に注目する。
「!」
「うぉおおおりゃあああ!!!」
と思った頃には響は既にコークの目の前に居て、コークを前から抱きしめるみたいに腕を回すと叫びながら敵の腹部にブーツの底を当て、引き剥がすように踏ん張った。
「あ、剥がれた」
敵が手を離した反動で二人はそのまま倒れ、響の上にコークが伸し掛るようにして転倒した。
「そうか……その為に靴を」
「やったね!」
敵から引き剥がす為に、底に鋭利な歯車がついたラヴィッチの靴を借りたという訳だ。
響ながら凄くいい人質解放策であったと思う。
しかし響はにこやかに笑いながらリーダーというものを否定した。
「小隊長なんて要らないよ、大事なのは僕達の絆!」
「何だか徳川家康みたい……」
響にまとめられてしまうとは思わなかった。
よく分からない終わり方だがアリーシャ隊の小隊長的な存在は不必要だという結論で戦闘訓練を終えることにした。
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