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7月18日、7月26日、8月1日

 

 ―七月十八日―


「つまらないわ」


 稿志涼高校の保健教師兼、()()()()顧問の天宮(あまみや)ほのかは部室に入るなりそう言い放った。


 ちなみにお気楽部とは何をする訳でもなく雑談でも読書でも何をしてもいいという無茶苦茶な部活である。

 ほのかの発言に部員が驚いた顔をして凝視していた。


「どうしたんですか……先生」


「単細胞で有名な先生が日常に飽きを感じるとはな」


「私、生徒からそう言われてたんですか……うぅ」


 その部員とは赤坂喪奈だ。

 それと喪奈と同じクラスでとても仲の良い神崎 満緯(かんざき まい)という女子生徒。

 ちなみに大学生枠ではあるが、元部員のミミと神崎 満喜(神崎 まき)という女性もよく遊びに来ている。


「それで……どうしてつまらないと?」


「よくぞ聞いてくれましたミミさん!ちょっとここの部員の人数が少ないと思いませんか?!」


 先生が言うには新顔が欲しいらしい。

 満喜はこの人数が丁度いいと思うけどなぁとオドオドしている。

 大人しい性格なので人見知りを発動しかねないと遠慮がちだ。大学生枠だが。


「まぁ……一人二人は増えてもいいかなとは思いますが……」


 喪奈が控えめに賛同すると部室のドアが勢いよく開いた。


「という訳で一人二人連れてきたよぉおおおん!!」


枯那(こな)ちゃん、榛彌(はるみ)お姉ちゃん!」


 そう言って入ってきた人物は、涼鳴 枯那(すずなり こな)神崎 榛彌(かんざき はるみ)

 枯那は倭の親戚で大学生二年生だ。

 黄緑のショートカットの髪型がよく似合う常に元気いっぱいで天真爛漫な女性である。

 隣の榛彌も枯那と同じ大学生二年生で、破天荒な枯那のツッコミ役を担っている。

 黒髪ツインテールを振り乱してよく枯那に怒っているらしい。

 ちなみに満喜は榛彌の一つ下の妹で気が弱い印象だが実は元ヤンである。黒髪ショートヘアに赤いリボン付きのカチューシャがチャームポイントだ。

 そして更に一つ下の妹が満緯である。彼女は男らしいサバサバした性格で現役ヤンキーだが最近は年齢と共に落ち着きを取り戻している。

 満喜と色違いのオレンジ色のリボン付きカチューシャを律儀に付けている辺り家族思いではある。

 ちなみにアリーシャ隊が以前言っていた倭の親戚の友達に月の姫がいる、というのは喪奈とミミの事だ。


 そしてナチュラルに卒業生達が校内を普通に出入りしているが学園美男美女ランキングのレジェンド枠として殿堂入りしているのだから特別扱いで許可を得ているようだ。


「それで……誰連れてきたんだよ」


「梨杏ちゃんと鎖椰苛だよん!」


 そう紹介され入ってきた二人はあからさまに嫌そうな顔をしていた。

 恐らく枯那に無理やり連れてこさせられたのだろう。

 榛彌が、あたしは止めたからねと予防線を張っていた。


「おい、オレは入るなんて言ってねーぞコラ」


「私もそうよ!」


 枯那は偶然友達になった梨杏と鎖椰苛を是非部員にしようと連れてきたようだ。彼女は顔が広いみたいだ。


「悪いけどオレ、パスな。ダチが待ってるから」


「……それってアリーシャ隊の人達?」


「え、お前……」


 梨杏が鎖椰苛にだけ聞こえる声で尋ねると、どうしてアリーシャ隊を知っているんだと言わんばかりの驚き顔で梨杏の顔を見た。


「それなら仕方ないわね、行っておいでよ」


「お、サンキュー榛彌!」


 答える間もなく榛彌がそう言うので逃げるチャンスを得た鎖椰苛はすぐさま部室から立ち去って行ってしまった。


「え、金墻さん……帰っ……」


「梨杏ちゃんは……良いよね?」


 梨杏も肖って一緒に逃げ出そうとするも、枯那に腕を掴まれ動けなくなった。

 入らないわよと断固として拒否するが枯那は瞳に涙を浮かべながら梨杏を上目遣いで見上げる。


「梨杏ちゃんだけは……本心から入って欲しいなって思って……あたし、誘ったんだ……。お願い……居なくならないで……」


 梨杏以外が枯那は嘘泣きをしていると理解しているが、言われた本人は気付いていない様子でたじろいでいた。


「あ……う……は……入ればいいのね!!!!?」


「やったぁー!」


 自暴自棄になりながらも梨杏がお気楽部に正式入部してくれた裏で枯那がしめしめと悪い顔で笑っていた。


「では改めて……無理矢理この部に入らされた殿堂梨杏……って!!!はぁ!?!?」


 梨杏は暗い表情で機嫌悪そうに自己紹介をしていたが途中で何かに驚いた様子で唖然としだした。


()()()もいたの!?!?」


「あ……ども、(みやび)つつじです」


 実はこの一連のやり取りの中、一言も喋ってはいなかったがもう一人部員がいたのだ。

 その雅という人物は控えめに会釈をした。


(綺麗な茶髪……男性なのに細身で華奢……女の子のような透き通る瞳……)


「って、貴方私と同じクラスの人じゃないの!!!」


「僕影薄いんだ……ショック……」


 まるで初対面かのような自己紹介の仕方だったが同じクラスのようだった。

 つつじは知っていたみたいだが梨杏は彼を覚えていなかった。七月に入っているというのにクラスメイトの名前くらいはそろそろ覚えた方が良いと思う。


「梨杏さんが入ってくれて嬉しいわっ」


「とはいえ全員三年なのね」


 ほのかが嬉しそうにニコニコ微笑んでいた。

 しかし榛彌の言う通り現在の部員は三年生のみでひょっとすると来年廃部の可能性が懸念されるのだ。


 つつじもそれを突っ込むと梨杏が彼の前に立ち、それはないわと強く言う。


「何としてでも廃部にさせない為に……この部の知名度をもっと上げればいいのよ。頑張りましょう!」


「……!うん、そうだな!」


 部に入ったからには本気のようでそう言って梨杏はウインク付きでつつじに笑いかけた。

 その笑顔に一瞬ドキッとしたつつじだが、真面目に考えてくれている梨杏に頷いて賛同して握手をした。


 --------------


 ―七月二十六日―


「でぇえい……ッ!!!」


「すごいラヴィッチ君!初のノーミスだったね!」


「上達してきたよ!」


「それにしても、もう夜になっていたのか」


 アリーシャ隊男性陣は外の公園で戦闘訓練を行っていた。

 当然人がいない事を確認して行っているが気が付けば夜になって月明かりが彼らを照らしていた。

 ナイチがそう言った所で今日の訓練は切り上げる事になった。


「なぁ、暑くてすっげー汗かいたから涼しい所で休憩してかね?」


「賛成~!」


 タルクの提案に響が手を挙げた。

 七月も後半に突入し、いよいよ夏本番となってきたのだ。

 この季節だと夜ですら蒸し暑い。


 するとタイミングが良いのか悪いのか雨が降ってきてしまった。

 皆で急いで走るとこれまたタイミング良く休憩出来そうな()()()を発見した。


「とりあえず近いからこのホテルにすっぞ!」


「もう何でもいいよ!濡れるのやだ!」


 タルク達が猛ダッシュでその中に入っていくが、コークがある事に気が付いて足を止めた。

 しかし、まぁいいかと怪しく笑うと彼らに付いて行った。


 部屋に着くなり戦闘訓練の披露からか各々がベッドや椅子に腰掛け羽を伸ばしていた。


「ふぅ……疲れた」


「この静かな感じ……妙だな」


「そういえばホテルなのにフロントの人居なかったよね」


「ここホントにホテルで良いんだよな?」


 ラヴィッチはベッドで横になってのんびりしているが、ナイチも響もタルクも一般的なホテルと明らかに雰囲気が違うと異変を感じていた。

 そしてそのタルクの問いかけにコークは、間違いないぞと答えて更に付け加える。


「……まぁ、ここは()()()()()と言われているがな」


「ぶっ……っ!!!!!?」


 コークの爆弾発言に、ラヴィッチとナイチとタルクが吹き出し、響は頬を赤く染めて照れていた。

 一応全員ラブホテルという名前のホテルがあるという事は理解していたようだ。

 でないとそのような反応が出来ない。


「なっ、なんで!?」


「事前に確認しろ阿呆」


「いや言えよ!」


 ラヴィッチが思わずベッドから起き上がりコークを責めるが冷静に論破されるだけだった。


「と、とりあえず……テレビでも観るか!経済情報を……」


「あ」


 ナイチが気を紛らわそうとテレビのリモコンに手を掛け電源ボタンを押す。

 何が映し出されるか理解しているコークは一言声を漏らすが、すぐに画面が付きそこに映し出されてしまったのは男女が絡み合うアウトな映像だった。


「ちょ……ッ!!!なんで!?これってアレじゃん……!!!なんで!?ていうか僕何でしか言ってないけど!!」


「そりゃそうだろう、ここは卑猥な目的で訪れるホテルなんだから」


「貴様何でそんな落ち着いていられるんだよ!!!」


 まるで来た事があるかのように冷静に説明をするコークに周りがしっちゃかめっちゃかしていた。

 ひとまずテレビは消して、深呼吸をするラヴィッチ達。


 心の整理が出来るくらいには落ち着いてきた所でタルクが地雷を踏む質問をした。


「いっそ来たんだしズバリ聞くけど……お前ら……童貞か?」


「ねぇせっかく落ち着いてきたのに何で墓穴を掘るのタルク!?」


「いやー、なんか気になって」


 タルクはせっかく男同士が一堂に会してるのだから聞いてみたかったと話す。

 思えばアリーシャ隊で恋バナや普段聞けないような下い方の話などをする事が無かった方だと思った。


「そんなの……いくらここでも言えないよ……!ねぇコーク!助け――って何AV観ちゃってんの!!!?」


「私の方が上手い」


「いやいいからそんな感想!!!」


 普段はSだなんだと言い張っているラヴィッチだがいざとなるとヘタレになる事が分かった。

 そして今のコークの発言で彼は経験済みだということも判明した。

 まぁそれはサランがいる時点で察してはいたが。


「あ!僕は違うよ!」


「響、貴様……意味を理解しているのか?」


「うん!男の子の初めて――」


「あー!!やめて!!こんな純粋な子に言わせないで!!」


 響も経験済みなのは信じたくなかったが事実なのだろう。

 相手は恐らく、いや確実に妹の明日香だ。

 ピュアな響を汚れた目で見たくないとラヴィッチは嘆いた。

 ナイチも付いていけず会話に入っていけなくなっている。


「だが、ラヴィッチとナイチは卒業してるんだろう?」


「へ?」


「何故そう思う」


「二人は特別仲が良いから勢いで……」


「「する訳ないだろ!!!」」


 コークの意味不明な発言に思わず二人はハモって反論した。


「もういい!僕お風呂入ってくる!!」


 嫌な汗をかいてしまったラヴィッチは逃げるように脱衣場へ駆け込んだ。

 コークは脱衣場を眺めながらぽつりと呟く。


「お前達は知らないだろうが……あの風呂の壁は透けていて外から丸見えになっているんだ」


「ラヴィッチ危ないッ!!!!!」


 ラヴィッチが恥ずかしい思いをしないようにナイチが急いで追いかけ扉を開けた。

 シャワーヘッドに手を掛けていたラヴィッチは驚いて背を向けた。


「うわ!ナイチ何!?」


「こ……ここの風呂は外から丸見えの仕組みになっている、らしいぞ……」


「……」


 という事なので全員で仲良く汗を流す事になった。


「思えばオレは姉ちゃんの身体だからなんか恥ずいな」


 タルクは少し恥じらいながら身体にバスタオルを巻いて髪の毛を洗っていた。


「タルク、背中長そっか?」


「お、響サンキュー」


 響が純粋にタルクの背中を洗ってあげようとスポンジでゴシゴシ綺麗な背中を擦る。


「ならば私は前を洗おうか」


「コークてめぇはすっこんで――って、何してんだよ」


 冗談を言われコークの方を見ると言葉に詰まってしまった。

 彼はヘアバンドをして前髪を全開にし、洗顔に勤しんでいた。


「見て分かるだろう、クレンジングだ。先にこれをやっておかないと肌を綺麗に保てない」


「女子かてめえは!!」


 そして入浴タイムを終え早々に家に帰った彼らだが、連絡もなしに遅くまで夕飯も食べずに帰って来なかった事に対して白妬が大激怒していたのは当然の事である。

 しかしラブホテルに行っていた等とは決して言えず言葉を濁していた男性陣だった。


 --------------


 ―八月一日―


「おめぇら……これを付けやがれ!」


 夏休み初日。

 タルクは自分の部屋にいたコークと響に暑苦しく叫びながらとある物を手に持ち二人に見せた。


「は?」


「え?」


 それは猫耳と尻尾と猫の手を模したもこもこ手袋だった。

 ちなみにタルクも所持していて、何故か既に装着済みである。

 突拍子もない発言に思考停止する二人だが構わずタルクは続ける。


「よく猫のコスプレとかあるだろ?暇だからオレ達三人の中で誰が一番猫らしいか競うんだ!」


 よくもまあ三人分のアイテムを手配出来たものだ。

 響は意外にも乗り気でやってみたいと手を挙げて立候補した。タルクは嬉しそうに響に道具を手渡す。


「おら、コークもだぞ」


「馬鹿か、そんな下らない事をしているくらいなら今後の戦略等を考えていた方が良い」


「いい加減頑固ちゃんやめろよ、ファン減るぜ?」


「………………どういう意味だ」


 コークはタルクに背を向けて話を聞いていないフリをしていたが呆気なく見つかり早く着けろと催促された。

 当然やる気の無いコークは背を向けたまま拒否するがタルクがよく分からない事を言うのでつい気になって顔だけ振り向かせた。


「世の中にはお前のファン沢山いるんだぜ?コークに抱かれたい!いじめられたい!調教されたい!そんな奴だらけだぜ?知らんけど」


「……………………貸せ」


「お前アリーシャ隊の人気ランキングとかあったら絶対上位狙ってんだろ」


 タルクの言っている事が図星なようで、一応自分の好感度を上げる為にやってくれるみたいだ。

 不服そうな顔ではあるが。


「じゃあまずは無難に……にゃあ♪」


 タルクは猫耳と尻尾をゆらゆら揺らしながら手招きするように猫の鳴き声を真似した。

 見た目は完全なる女性なので普通に似合っている。


「可愛いタルク!」


「そうか!?じゃあ次、響やってみ?」


「……にゃっ♪」


 バトンタッチされた響は、もこもこの手袋をはめた手を頬に当て、照れくさそうに微笑んで鳴き真似をした。

 響も顔立ちは女性寄りなので普通に可愛い。


「アイドルみてぇだな」


「…これは可愛らしいじゃないか、今のは良かったぞ響」


「ど、どうも……?」


 何故かコークがべた褒めしていた。


「もう響が優勝で良いだろう、だから猫遊びは終わ――」


「おい、逃げんなちゃんとやれよ」


「コークもやってよぉー」


 やはりコークは猫耳を着けて鳴き真似をするという屈辱的行為をしたくないようで響を優勝に促して終えるつもりだったらしい。

 しかしそれを許さないタルクと響は、コークを間に挟み圧力をかける。

 逃げ場が無くなってしまったコークは渋々猫耳を頭に装着させると、二人の方を向き顔を引き攣らせながら上目遣いで鳴き真似をした。


「にゃあ」


「「っ!?」」


 笑ってしまう程棒読みなのだが照れくさそうにそう鳴く彼のギャップについ言葉を失ってしまった二人。

 本当に言うとは思っていなかったし、ちょっと可愛く見えてしまい何だか悔しいタルクである。


「誰だよてめぇ!!!」


「コーク・パブリックだ」


「そうじゃなくて!!!」


「優勝は……コークかな?」


 どこからどう見ても優勝はコークなのだが、負けたくないタルクはちょっと待てと制止し付属品の首輪を忘れたから持ってくると一旦部屋を出た。


「琴吹響……ちょっといいか」


「え?なに?…………えぇ?いいのかな?」


「あぁ」


 タルクが席を外している間に内緒話をする響とコーク。

 何かを提案された響は心配の声を上げたがコークは構わずに頷いた。


 数分後、首輪を首にしっかりと装着し、タルクは部屋に戻った。


「どうだ!この完全なるにゃんこ姿!!優勝間違いなしだろ!」


 ドアを勢いよく開け、自信満々に自分の姿を見せつけるが部屋にいたのはコークと響では無く何故かラヴィッチにナイチ、白妬にハーモニーだった。


「何やってんの」


「コークと響なら買い出しに出たぞ?」


「猫さんです~っ!」


「……あー、察した。災難だったなタルク」


 どうやらコークの提案はタルクを辱める為の作戦だったようだ。

 タルクが席を外している間に他のメンバーを部屋に集めて自分達は居なくなる。

 白妬だけは同情してくれたが完全に赤っ恥をかいたタルクは顔を赤らめながら叫んだ。


「アイツら……覚えてやがれぇえええええ……ッ!!!!!」



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