自己紹介
「えー、今日は転校生が来ましたので紹介します」
四月。入学式を終えて数日後の事だ。
各学年に数名ずつ転校生が入って来る事になったようだ。
担任の、それじゃあ入って来てくださいという言葉の後に教室のドアが開いた。
まずは三年B組に一人入室する。
彼が入ると女子生徒から黄色い声がまばらに上がり出す。
「石黒 沙檻だ。宜しくするつもりはないが宜しく」
少し気だるそうに簡潔に自己紹介した彼の名前は偽名である。
本名はコーク・パブリック。
高校三年生のクラスに転校してきたが年齢はバリバリ二十一歳の成人だ。
何故偽名と年齢を偽って転入してきたかというと、サラン・ジューリエル・アリーシャというリーダーからの命令だからだ。
彼はサランという人物の目的のためにアリーシャ隊という名のもとで従っていた。
その目的とは黒花 倭の友人の紺野 ライム、本条 緑、レイノーラ・ステイブルーの三人の魔術師を殺して血を集めるという内容だった。
しかし戦闘で敗北し仲間に加わりサランを止めるのに協力することとなる。
そしてサランを無事更生させることが出来たのだが、彼女は彼女で旧友のいる月の世界に行き手助けをする事になり、その間暇でしょうという話になった為学校に通えと命令されたのである。
コーク自身は腑に落ちない様子だったが最愛のサランからの命令は拒否できないと渋々受け入れた。
コークは人間だが身体に人工知能が搭載されていて人より多少優れた身体能力と知能を持っている。
その為か瞳にハイライトがなく少し変わっている模様となっていて本人はそれが嫌で目元を包帯で巻き付け隠していた。
今では開き直って隠してはいないが極端に見られるのを嫌っている。
その為素っ気ない態度のコークだが、周りの女生徒はそれでもやれかっこいいだのイケメンだのと騒ぎ立てていた。
同じクラスの金墻 鎖椰苛はポカンとしていた。彼女も倭の友人で一般人ながらもサランとの戦までずっと付いてきた仲間だ。
そしてレイも同じクラスで鎖椰苛と同様口を開いたまま固まっていたが不機嫌そうなコークに恐る恐る問いかけた。
「あら…?他の方達は?」
「……奴等は一、二年に振り分けられている」
そう、サランの下についていた者はコークだけではなく他にも数名いたのだ。
一年C組。
「……黒花 白妬」
「闇坂 萌です~!よろしくお願いいたします~っ」
ここには二人転入者が来た。
一人はあからさまに嫌そうな顔で名前だけ自己紹介をし、もう一人は朗らかな笑みを浮かべながらきちんとお辞儀をして挨拶をしていた。
黒花白妬。最初に言ってしまうが彼女は倭の家族ではない。
彼女もサランの下についていながらライム達の動向を図る為に倭や身内の記憶を改竄させて妹として成りすましていたのだ。
しかし倭と一騎討ちの戦闘で負け、仲間になり今ではきちんと姉さんと呼んで関わりを持っている。
もう一方の闇坂という人物は偽名である。本名はハーモニー。
アリーシャ隊内では看護として回復役にあたっていた。
温厚で人当たりもよく、場を和ませてくれる存在だが、彼女はサランに作られたロボットなのだ。
アリーシャ隊には来栖 真奈という女子高生がいた。
彼女は鎖椰苛と友人関係だったが、優紀 茜という人物と関わるようになり疎遠になってしまった為に逆恨みでアリーシャ隊に入って力を得た。
その時に鎖椰苛のような友達が欲しいとサランに頼んで作られたのがハーモニーだ。
しかしサランの魔術が上手くいかず鎖椰苛のような性格を取り入れるのに失敗し、今のようにほんわかした感情となってしまった。
「わっ、良かったです白妬様~!」
「なんだ?」
「響様がいます~!」
ハーモニーの目線の先で琴吹 響という男性が微笑みながら手を振っていた。
彼もアリーシャ隊の一人で、元々当時は中学三年生だった為、通常通り進級して稿志涼高校に通っている。
彼にはかけがえの無い妹がいた。一つ下の明日香という妹だ。
しかしライム達との戦闘で響を庇い戦死したのだ。
当時は周りが見えなくなる程お互いを愛しすぎて病んでいたが今では吹っ切れて前に進んでいる。少し天然で抜けている部分はあるが。
(というか……何故私が高一なんだ……十九だぞ!?普通三年のクラスじゃないのか!?)
白妬が拳を固く握り震わせながら心の中で怒りをあらわにする。
他の生徒がそんな白妬を見て怯えている。
彼女は密かに恋心を抱いているコークと同じ学年で無いことに不満を抱いているようだ。
そして二年A組。
ここには二人が転入してきた。
「俚諺 馨。仲良くするつもりはない」
先程の白妬と同じように眉間に皺を寄せながら素っ気なく自己紹介する男性。
彼の本名はナイチ・コースト。
幼い頃からアリーシャ隊に所属していて、幼なじみのラヴィッチ・イザードと共に戦友として腕に磨きをかけていた。
「じゃ、じゃあお前は……在原の隣の席で」
「……」
担任の姫川 祐々希先生に座席を指定され、無言で机まで歩いていく。
他の生徒からはこの人怖いや話し掛けづらい等の声が上がっているが全く本人は気にしていない。
そして全員が、隣の席になった在原を可哀想だと哀れんだ。
「何で君が隣なの」
「……!」
まるで最初からナイチという人物を知っているかのような口振りでそう嫌そうに吐き捨てる彼は在原伊吹。本名はラヴィッチ・イザード。
ナイチの幼なじみとは彼の事だ。
ラヴィッチはアリーシャ隊で一番初めにライム達と戦闘した人物だがサランの目的というものに不信感を抱きすぐに降伏して彼女らの仲間となった。
そして成り行きで同じ高校に通うことになり当時は高校一年生だったが進級して二年になった。年齢は十八だがそれはナイチも同じでもはや偽装だらけである。
ラヴィッチの次に戦闘したのがナイチだ。
最初こそはライム達を倒し順調だったがラヴィッチと一騎討ちとなり、結局負けてしまう。
というかお互い戦いたくはなかったのでナイチにトドメを刺す寸前にラヴィッチが止めたのだ。
「俺だって貴様が隣なんざごめんだ!迷惑極まりない!」
「へぇ、僕の方が迷惑だけどな。君はやたら僕に突っかかってくるし」
「何だと貴様……!」
「!!」
激情したナイチがラヴィッチに食いかかろうと制服の内ポケットから銃を取り出そうとした。
ここで物騒なものを出すと厄介なので、それを周りにバレないようにラヴィッチが彼の胸ぐらを掴む事で阻止する。
「……学校では駄目だよ」
「……すまん」
いつもこうやってツンケンしているが結局は相手の事をきちんと思っているのだ。
ラヴィッチに小声で注意されると意外にもすんなりわかってくれて席に大人しく座った。
「あ、先生。転校生もう一人いるんじゃないですか?」
「あ、あー、そうだな。入ってこい」
突然転校生と在校生が喧嘩を始めたのを呆然と見ていた姫川先生がハッと思い出して廊下の方を見た。
「榛陸 唖理架です♪皆さんよろしく……ってやりづれぇわ!!!」
可愛らしい自己紹介と共に教室に入ってきつつ、一人でノリツッコミをしている彼の本名はタルク・フォウマ。
短めの髪の毛をツインテールにし、胸の膨らみもあり制服も女性物を着用しているが完全なる男性なのだ。
彼もアリーシャ隊にいた人物だ。たまたま緑とお互い顔も身分も知らないまま偶然知り合って仲良くしていた。
しかし後にアリーシャ隊だとバレて緑と戦い負けてしまったのである。
彼はもちろん初めは列記とした男性だった。彼には姉がいて、一緒に出掛けている際に車が突っ込んできて咄嗟にタルクが姉を庇った。
その際に衝撃で頭同士をぶつけてしまいどうしてか魂だけが入れ替わってしまったのだ。
なので車に轢かれてしまったタルクの身体は死に、姉の身体が生き残った形となる。
そしてアリーシャ隊にはタルクを先生と呼び慕う双子の姉妹がいた。
パーラ・クルーとソーラ・クルーだ。
十歳という幼い年齢だがサランに拾われ共に強くなっていったが残念ながら戦死してしまった。
タルクは二人が戦死した時に身に付けていた壊れたブレスレットを今でも大切に持っている程大切な存在だったのだ。
「ってかブラウスだけは男モンだけどこれ女装じゃねぇか!!!」
「うるさいよ、唖理架さん」
「……すんません」
男気満載のタルクですら、ラヴィッチの一言で静まり大人しく席へ着いた。
そんなこんなで学校生活初日も終わり、放課後となった。
アリーシャ隊全員が校門前で合流し、並んで家へ帰る。
倭達に負けて更生してから、仲間同士仲良くなったようにも感じる。
「くぁーーー!つっかれたーー!」
「…あれが学校というものなのか」
「どうしたコーク」
タルクが全力で両腕を天にあげながら伸びをし、コークは疲れ果てたようにガックリと肩を落としていた。
それをナイチが何かあったのかと伺う。
「……質問三昧だった」
「コークモテそうだよねっ」
話を聞くと、どうやら休み時間の度に女子生徒に取り囲まれ質問攻めにあっていたのだそう。
ただでさえコークは他人に瞳を見られることを頑なに嫌っているのに、毎回毎回集られると鬱陶しい事この上ない。
響がフォローを入れるがあまり意味は無さそうだ。
「所でサラン様は今も月の世界でお手伝いをしているのでしょうか~」
「旧友に月の世界のリーダーがいるなんて知らなかったな」
「ていうか月って…急に次元が変わった感じするよね」
「しかも倭の親戚の友人に月の姫がいるらしいぞ」
「間違っても戦いたくはないな」
白妬は以前倭からそう教えてもらったようだ。
だがそもそも月の姫とはどんな感じの人なのか全く想像がつかない。
悪さをしているということだが、その矛先がこちらに向かって来ない事を祈るばかりだ。
「向こうにはサラン様がいるんだから止めてくれるはずだよ」
「だといいですけど~……」
こうしてアリーシャ隊の学園生活という新たな舞台の物語が始まる。
軽い自己紹介です!
評価よろしくお願いいたします!