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100日後にNTRれる幼馴染  作者: 12月24日午後9時
5/107

あと95日

NTR進捗状況

ヒロインと映画の約束


田中 ただし:主人公、幼馴染とデートです。これはもうタイトル詐欺ですね。

橘  すず :幼馴染、寝取られる

金谷 駿しゅん:イケメン、クラスでは人気者

黒川 てる :チャラい、イケメンの取り巻き

約束の日曜日、映画館は混むからマクドで待ち合わせることにした。これはもしかしたらデートかもしれないのだから、順番が大切だ。いきなり映画鑑賞では会話のチャンスが減ってしまう。まずはマクドで会話を楽しみ、映画鑑賞、そして映画の感想で盛り上がる、ネットにそう書いてあった。僕は詳しいんだ。

最寄駅から映画館の近くのこの店までせいぜい10分の距離。だが電車内でデートの初心者ハウツー動画を見て、緊張をなだめていたただしだったがその10分の間に不安がぶり返してきた。大丈夫だ、まずはドリンクでも飲んで落ち着こう。すずが来る前に心を落ち着けるため2階席の窓側で待つことにした。

とりあえず頼んだコーラに口を付ける。だが飲み過ぎて大事な時にトイレに駆け込むのは避けねばならない、のどを軽く潤す程度に口に含む。

「マジで。今日の女の子、マジ期待していいから、俺のイチオシだから。」

てる。あんまりうるさくするなよ。」

ただしは思わずコーラを吹き出しそうになる。がやがやと周りを気にしない少年たちの集団が階段を上がってきた。

クラスでも聞きなれた輝のやかましい声とそれをいさめる駿しゅん。目立つ長身で空いている席を探している。正はとっさに顔を伏せてその視線から逃げる。まずいところに出くわした。ただクラスメイトと休日に出くわしただけの話だ。だが、鈴とのデートをあの連中に目撃されることに悪い予感しかしないのは果たして考えすぎだろうか?

心臓の鼓動が訳もなく早まる。思わず両手で持った紙コップがひしゃげプラスチック製の蓋が音を立てる。その音につられるように駿の視線がこちらへと向く。

「おっ、あっちの方が空いてんなぁ。」

幸運にも視線はそのまま流れて正から離れた四人がけの席に向いた。駿のその一言でクラスメイトの集団は離れていく。正は額の汗を拭くとさらに強まった悪い予感に急かされるようにスマートフォンを取り出す。ラインでメッセージを送る。

待ち合わせ場所は映画館にしよう。

大丈夫だ、まだ待ち合わせの時間まで20分はある。鈴と彼らを鉢合わせさせなければ問題は無い。そう自分を落ち着かせ目立たぬように立ち上がると、まだほとんど残っているコーラをゴミ箱に捨て店を出た。

なるべく後ろは振り返らない。もしも二階の窓からあいつらが見下ろしていたら。目が合ったところで何があるというわけではないのに正は何かの強迫観念に取りつかれたように下を向き誰にも気づかれないように身を縮めながら足早に離れていった。


遅い。待ち合わせの映画館で正は再度スマートフォンの画面を見る。何度確認しても約束の時間がとうに過ぎていることは変わらない。鈴からの着信が一向にないことも改めて確認する。

結局何の解決にもならない行動を繰り返すだけの時間が焦りを苛立ちへと変えていく。

あの30分前の駿を筆頭にした苦手なクラスメイトたちとのニアミスのせいで考えすぎともいえる心配が頭から離れない。鈴のスマートフォンの番号にかけても呼び出し音から留守電に切り替わるだけだ。またラインの画面を確認する。確かにマクドで送ったメッセージには既読がついている。ならなんで。

焦りだす思考を落ち着かせるように深呼吸する。思考が堂々巡りをしている。これは視野が狭くなっている証拠だ。何かを見落としているんじゃないのか。今まで気にしていなかった部分に注意してもう一度整理する。

最後のメッセージに既読がついたのは30分前、送ってからすぐに確認されている。鈴はメッセージを見たらすぐに返事をする。でも今回はいまだに返事はない。返事をできない状況?いや時間的にもう電車に乗っているはず、そうでなければ遅刻しているから遅刻することを連絡してくるはずだ。遅刻でないのなら、約束よりも早く来ていた可能性は?もうすぐマクドに着くタイミングでメッセージを見たならとりあえず中を確認してみようと思うんじゃないのか?確認してやっぱりいなければOKの返事を出す。その可能性はないか?記憶を必死に探る。メッセージを送ったのはマクドを出る直前、もしそのとき鈴がマクドのそばにいたなら何かそれらしい影を見ているかもしれない。そう思いながら、ついさっきの記憶を詳細に思い出す。そして、気づき、絶句する。

あの時、そうだ、自分はずっと下を見ていた。誰にも気づかれないように、身を縮めながら。

背中に冷や汗が一筋落ちた。いやに気持ち悪い。


どうやってここまで戻ってきたのかは覚えていない。顔を上げてマクドの二階を見たとき鈴の姿を見て、取り囲むようにいるあの駿たちを見て、血の気が引いた。どうしようか、この期に及んでそんな益体やくたいのないことを考えためらう。のろのろと足を進める。誰も自分になど注目を向けていないのに背を丸め体を縮めながら歩く。いや店員がいぶかしげにこちらを見ている。呼び止められる前に二階への階段に逃げる。数歩も上らぬうちに二階で起こっている喧騒が耳に届く。

「いいじゃん、誰と待ち合わせしてんのか、教えてよ~。」

耳障りな輝の声が正の心をざわめかせる。気のせいかクラスで聞くいつもの調子に比べ不快なその声が正を急き立てる。

ゆっくりと階段を上るとともに視界が開け、正は現実を目の当たりにする。

「でも、ほんとかわいーじゃん。実は今度さ、おれら他校の子と・・・。」

「おい、それは。ここではやめとけって。」

輝の言葉を途中で他のクラスメイトが遮る。一瞬不服そうにした輝だが気を取り直して、またなれなれしく鈴の方を向く。仕切りのパーテションごしに様子をうかがう正だったが、見えたのはうつ向き気味で表情がわからない鈴と彼女を逃がさないように体で道を塞ぐ輝、あれから合流したらしい知らない顔が増えた集団は椅子に座ってやや遠巻き気味、わかるのはそれぐらいだった。

「おっと、ごっめーん。」

白々しく輝が言うと、鈴の気弱気な悲鳴が小さく聞こえた。

「おぉ。」「やべ、意外とでかいじゃん。」

クラスでは猫背気味で目立たぬようにしている鈴は今日は体の凹凸おうとつがはっきりする服装をしている。そのせいで今まで輝たちに隠されていた鈴の魅力が今日は無防備にさらされている。

「ごっめーん、すぐ拭くからさ、じっとしててよ。」

よく見えなかったが、おそらく輝が手に持っていたドリンクをわざとひっかけたのだろう。いやらしい手つきが鈴に迫る。ダメだこんなの、もう見ていられない、正は震えながら決意を固める。

「だいじょーぶ、変なとこ、触んないから、はやく拭かないと、シミんなっちゃうし。」

「やっ。」

鈴が小さく拒否の声を上げるが輝はそれに気付かぬふりでドリンクのかかった鈴の胸に手を伸ばす。だが寸でのところでその手は他の人間に力強く掴まれ止められた。

「その辺にしとけよ、鈴ちゃん嫌がってるだろ。」

普段のおちゃらけた雰囲気とは違うシリアスなトーン。整った顔がマジメな顔で見下ろすとこんなにも様になるものなのか。結局、最初の一歩を踏み出せなかった正はまるで名前のないエキストラのように、そこで起こるドラマを見ていることしかできなかった。

「ほら、これ使って。」

「あ、あの、ありがとうございます。」

「ははっ、クラスメイトなんだから、タメでいいよ。」

「はい、あっ、う、うん。」

「ちょっ違うんだって、駿くん、マジで。ほんとに間違って、かけちゃっただけなんだって。ほんとに、はんせーしてるから。」

鈴にやさしくハンカチを渡す駿に輝が言い訳する。駿は輝の方を振り返り、わかったわかったと肩を叩く。

鈴がハンカチで拭くために体の向きを変える。そして目が合う。情けなく物陰に隠れている姿を見られた。正はそのことに気付いた瞬間、顔が真っ赤になるのを感じた。何も考えられなくなりその場を駆け出した。逃げるように。


正は横断歩道を駆け抜け、駅でも映画館でもない方向へと走る。自分がどこに向かっているのかわからない。方向を見失ったことに一瞬不安を感じて立ち止まる。

「待って!」

その期を逃さぬよう鈴が後ろから叫ぶ。全く気付いていなかったがあれからずっと鈴は後を追いかけていたようだ。

その声に正はびくりと震える。何を言われるのか。情けなく見ていたことをなじられるのか、軽蔑されるのか、もしかしたら、もうこれっきりなのでは。悪い予感だけが次々に浮かぶ。

「ごめんね、ちがうの。約束、すっぽかしたわけじゃないの。あの人たち、金谷くんたちと偶然会ってね。ダダくんのこと言い出せなくて、なんかうまい言い訳思いつかなくてね、おねぇちゃん。ごめんね。」

なにがごめんななのか。謝るなら自分の方だ。だが、正はそれを口にできなかった。何も言えず隠れていたことに気付かれていない。たまたまあの瞬間にあの場所にやって来ただけだった。そう鈴は勘違いしている。そのことに安堵して、喜んで、そんな自分に軽蔑していた。こんな自分が今更何を言えばいいのか。鈴の勘違いを利用するほどには卑怯になれない中途半端な自分に正は腹が立った。

「よかったじゃないか、金谷くん。いい奴で。助けてくれて。」

「うん、そうだね。そうだよね。」

否定して欲しかった。正はただ自分だけが卑怯なのではないとそう思いたかった。ああなるまで放置していた駿、きっとあいつはかっこいいところを見せるためにわざと問題が起きるまで傍観していたと思いたかった。自分のように。

だが鈴は否定しなかった。鈴の声がうれしそうなのが気に入らなかった。もしかしたら僕がやっと返事したことを喜んだのかもしれない。だけど。

「勝手に!すればいいじゃないか!」

気付いた時にはそう言い放っていた。自分の情けなさをごまかすために鈴につらく当たっている。そう自覚しているからこそ、余計に声が大きくなる。

「ぼくは弟なんだろ!なら関係ない!」

自分で叫んだ言葉に自分で傷つく。弟扱いをそんなに気にしていたのかと、気付かぬふりが行きすぎて自覚すらしなくなっていたことなのに、いまさらのように不満がわき上がる。

しかし、そのどれもが結局は自分の心根の弱さが招いた結果だと、頭の片隅では知っている。

正はかぶりを振って、その思いを打ち消す。自分に心底軽蔑して、鈴に軽蔑されていることを自覚したくなくて、そんな行為が結局は真実を認めるよりも自分の程度を落としめる。

ジレンマに囚われて、正は逃げ出した。

今度は鈴は追いかけてこなかった。

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