あと68日
NTR進捗状況
ヒロインが正の家の塾を辞めることになる。
田中 正 :主人公、
橘 鈴 :幼馴染、寝取られる。
金谷 駿 :イケメン、クラスでは人気者、幼馴染とフラグ建築中。友達の彼女に手は出さない。
鈴の退塾が決まった。退塾の挨拶すら鈴の親が行い鈴が塾に顔を出すことは無かった。正は心にぽっかりと穴が開いてぼんやりと自習室の天井を眺める。ふと、ここに初めて鈴が来た幼稚園の時のことを思い出した。不思議なもので正と鈴はもっと昔から顔を知っていたはずだが、何故かあの時が正にとって鈴との思い出が始まった瞬間だった。
「やだもん、だってせんせいがいじわるすんだもん。」
正はその頃、給食が食べられなくて一人で教室に残されることがあった。そのことですっかり委縮した正は幼稚園に行くたくないと駄々を捏ねていた。その頃は、まだ小学生たちが遊ぶ場所が無くて自習室まで進出することもなく、高校生や中学生は学校にいる時間帯のため正は一人で自習室を独占していた。
「ここはぼくの、ひみつきちだから。」
そんな小さな子供特有の謎の独占欲が親を困らせる形で発揮される。親を困らせれば幼稚園に行きたくないという我儘もいづれ通るという根拠のない確信があの頃の正にはあったからだ。そんな正だけの秘密基地によそ者が現れた。
「ねえねえ、なんで一人であそんでるの?」
同じぐらいの年恰好。いや名前はちゃんと知っている。よく親と一緒に何かの行事に出なければいけないときに挨拶する子だ。親同士は仲良くしゃべっているが子供同士がそれで仲良くなるわけでもなく、お互いに気まずい思いをしながら親が世間話に飽きるのを待っていた。
「あのね、あたしね。きょうあなたのおうちにおとまりするの。」
何やら親が仕事で遅くなるらしく今日は特別に正の家にお泊りすることになったらしい。あまり親しくない女の子の登場に正は秘密基地をすっかり明け渡した。一人で対抗できるほど当時の正は強い心を持っていなかった。あれよあれよという間に女の子は正の領域に足を踏み入れていく。
「ねえ、なんで、ひとりであそんでるの。なんで、ここがひみつきちなの。なんで、がっこうにいかないの。」
女の子は正を質問攻めにしていく。正は段々と自分が駄々を捏ねていることが恥ずかしくなり、答えに窮する。正直にしゃべってしまえばなんだか幼稚に思われる気がしたからだ。女の子はすぐに正に質問することにも飽きて持ってきたノートを広げる。
「何してるの?」
「これはね、ひらがなのべんきょーなの。」
ミミズがのたうち回る絵と言った方が正確かもしれない。幼稚園児が鉛筆を握って書いた平仮名はそう言われればそう見える程度のものだったが正はただ、べんきょーなんて大人っぽいと感心していた。
「すごいね、すごいね、ねえこれは何てよむの?」
正が夢中になって書かれた平仮名の読み方を女の子に聞く。女の子はそれが嬉しいのかお姉さんぶって、一つ一つ声に出して教えていく。あの頃は正が色々なことを教わる立場だった。
「これはね、ぬ?ね?うーん。」
女の子が口ごもる。特徴的な右下の丸が混乱に拍車をかけて、悩むほどに自信がなくなる。
「そーだ、あしたせんせいにきこう。」
女の子があきらめて、幼稚園の先生に丸投げした。
「うん、そーだね、あしたせんせいにきこう。」
正も女の子の意見に同意する。しかし、それを女の子が意地悪な顔で見る。
「あれ、いいの?だって、ようちえんにはいかないんじゃないの?」
正はその言葉にさっきまでの自分を思い出し恥ずかしくなる。それを誤魔化すように大きな声で答える。
「いいの、ようちえん、いくの。」
そんな正を女の子が笑う。
「あはは、だだこねてる。だだくんだ、だだくんだ。」
「ちがうもん、だだくんじゃないもん。すずちゃんもうそれいっちゃダメだからね。ぜったいだよ。」
そういえば、あれから鈴は僕をダダくんと呼ぶようになったのだった。あんな昔から今に繋がる鈴との関係を思い出し、それが途切れてしまったことを改めて自覚する。それを思うと目頭が熱くなり、それが恥ずかしくてわざと強気なことを言ってみた。
「そうだな、これで勉強に集中できるし、むしろ静かになって居心地がよくなったよな。」
独り言なら嘘をついても誰に申し訳なることもない。そう思っていたのだが、余りの空々しさにむなしくなった。
「そっか、じゃあ俺が来たら邪魔だったな。」
振り返るとそこには駿がいた。こんなところでその顔を見るとは思っていなかった正はとっさに言葉が出ず、ただ疑問だけが浮かぶ。
「え?なんで、え?」
「まっ、明日からお世話になるから。よろしく、せんぱい。」
駿が混乱する正の肩を叩く。まったく説明になっていない駿の言葉にさらに混乱した正には、これからここで駿との長いようで短い思い出が始まるとは夢にも思わなかった。




