あと81日
NTR進捗状況
ヒロインが誘われたカラオケ屋で輝と晄が繋がっていたことが分かる。カラオケ屋をつぶす作戦は失敗した。
田中 正 :主人公、
橘 鈴 :幼馴染、寝取られる。
金谷 駿 :イケメン、クラスでは人気者、幼馴染とフラグ建築中。
黒川 輝 :チャラい、イケメンの取り巻き、幼馴染と無理やりフラグ建築中。ヒロインをヤリ部屋のカラオケ屋に誘い込む。
黒田 晄 :汚っさん、女子生徒をいやらしい目で見ることに定評のある男性教員。輝とはビジネスパートナー。
鬼塚パイセン :輝の悪い先輩、一人だけ世界観が違う
まんじりともできずに朝が来た。土曜日の間に鈴と連絡を取ろうとしたがあいにく電話は切ってあるのか連絡が取れない。ラインも未読のままだ。こうなったらカラオケ屋に行く前に捕まえて説得しよう、そう考えて鈴の家の前で待つことにした。話ではカラオケが始まるのは夕方から、なら2時間前から張っていれば確実に捕まえられるだろう。そう思っていたのだが一向に鈴は出てこない。たいていは遅刻しないよう予定の30分前には動き出す几帳面な鈴からは考えられない。思い切ってインターホンを押す。
「あら、正くん。鈴ちゃんならスマートフォンのバッテリー?の調子が悪いとかで携帯屋さんに行ったわよ。学校のクラスメイトが急に来てね。あら、心配?大丈夫よ。あの男の子、鈴ちゃんのタイプじゃなかったから。うふふふ。」
顔色が変わった正を見て鈴の母親は勘違いする。だが、その発言で誰が迎えに来たのか分かった。輝だ。そうなるとスマートフォンの調子が悪いというのも怪しくなってくる。学校は意外とスマートフォンを手放すタイミングが多い。その隙に古いバッテリーとすり替えられていたら。昨日からなかなか連絡がつかないのも、そうやって鈴になるべく情報がいかないように細工した結果の可能性がある。だとすると輝が連れて行った携帯ショップというのも怪しくなる。正規の携帯ショップならバッテリー交換に1週間はかかるから代替機が出てすぐに連絡がつく。だが、非正規なら数時間で修理できる反面その間に代替機は出ない、つまり連絡が完全につかない時間ができる。正は鈴の番号に連絡する。直接電話をかけるが電源が入っていないままだ。鈴が出た時間を考えればとっくに携帯ショップでの用事は済んでいる時間。ならば、もう可能性は一つ。ここからは鈴に連絡をつけることはできないし、鈴からも連絡が来ないと考えた方がいい。正はカラオケ屋に急いだ。
カラオケ屋に着くとそこではちょうど鈴が輝に連れ込まれるところだった。
「すず!」
思わず人目も気にせず叫ぶ。鈴が驚いた顔でこちらを見る。その表情に正は周りが見えなくなり駆け寄ろうとする。間違いないあの表情は不安を押し殺しているときのもの、心の奥で助けを求めているときのもの、他の誰が分からなくても僕には分かる。正は周りが見えなくなっていた。だからそこに鬼塚がいることにも気づいていなかった。
「おっとぅ。そこまでだぜぇ。あんちゃん。」
拳がみぞおちにめり込み正はむせる。見覚えのある顔、鬼塚の名前を思い出す前にもう一発が来る。
「あんときゃぁ、せわぁなったな、あんちゃん。」
そう言うと、返事ができなくなった正を強引に担ぎ上げられる。
輝が鈴に何かを言っている。鈴が思いつめたように頷き輝に続いてカラオケ屋に入っていった。
正が連れていかれたのはカラオケ屋の一室だった。バックヤードらしきその部屋はパソコンのモニターに監視カメラの映像が複数映し出されている。
「おいぃ、こいつぁ、どうやって操作すんだ。」
「あっ、はい。これはこうやると、この映像を拡大できて、音声も聞こえるようになります。」
気弱気な店員が鬼塚にどやされ画面を操作する。どうやら鈴が連れ込まれたあの部屋の様子をここから観戦するらしい。正は後ろ手に両手を結束バンドで縛られ机の脚に拘束されている。
「あの、なんであの輝っていう人、ミスチル歌ってるんですか?」
遠慮がちに店員が鬼塚に聞く。鬼塚はあきれたように答える。
「はぁ?そんなのおめぇ鈴ちゃんがミスチル好きだからに決まってんだろぅ。」
「えっ、でもこれから、あの、あれ、するんですよね?」
「バッカおめぇ、ムードちゅうもんがあるだろ、おめぇ。何のためにAVの冒頭にインタビューがあるとおもってんだ。おめぇ。」
「あれ邪魔ですよね。」
突然、鬼塚が立ち上がり店員を殴り飛ばす。店員は壁に頭を打ち付け気絶する。どうやら鬼塚の逆鱗に触れたらしい。
鬼塚は椅子に座りなおすと店員のことなど忘れたように画面に見入る。スピーカーからは部屋の声が鮮明に聞こえてきた。
「ヒュー盛り上がってるー。」
輝がマイクアピールをすると部屋に集まった男女たちがレスポンスを返す。鈴以外はノリがよくどうやら今回のパーティーは積極的な男女が集まったものらしい。なるべく和姦を装うべく小細工を弄した結果だろう。鈴以外の女子は見覚えがなく、おそらく例の他校のあとくされない女子とは彼女たちのことだ。
「ちょっと、鈴ちゃん緊張してるね。これ飲んで、これ。」
「えっ、これってもしかして。」
「うん、ハーブティーだよ、リラックスするにはやっぱこれっしょ。あっもしかしてアルコールだと思った。俺ら未成年なんだから、そんなの飲むわけないジャーン。」
無駄に順法意識を見せる輝。いや騙されてはいけない。万が一警察が来た時に言い訳できるよう細心の注意を払っているに違いない。だが、そうやって、友好的に接することで相手が断りづらくする手法は確かに有効だ。
画面を見ながら鬼塚がカチャカチャとベルトを緩める。ここから盛り上がることを察して準備を進めているのだ。
「あの、あの怖い人は。」
「ああ、鬼塚パイセン、あの人は画面越しじゃないと抜けない人だから。」
輝の説明はおそらく鈴には伝わっていないだろう。だが、正には分かる。つまり正がこっそり抜け出す機会はないということだ。
正は鬼塚に気付かれないよう結束バンドを机の脚にこすりつけ切ろうとする。ささくれだった木製の脚はやすりのように少しずつ削るが、精密にバンドだけをとはいかず、正の腕も傷つけていく。正の腕が血まみれになるのにそう時間はかからなかった。だがプラスチック製のバンドはなかなか丈夫でそう簡単には切れてくれない。
鬼塚の準備が万端になる。鬼塚が合図を部屋に送る。それを聞いた輝の口調が明らかに変わる。強引な口調は鈴をつかむ手にも影響している。
「痛い。」
「ごめんね、だけど鈴ちゃんが悪いんだよ。俺、ちゃんと優しくしたのにさー。」
鬼塚が前のめりに画面にかぶりつく。バックヤードの扉がゆっくりと開く。そこには駿の顔があった。最悪だ、正が逃げようともがいているのを見られた。すぐに鬼塚にチクられる。正が覚悟する。だが、駿は声を出さず鬼塚の背後に忍び寄る。手にパイプ椅子を取り、そして。
「てめぇ、何すんだぁ。」
駿が振り下ろした椅子はあと一歩のところで鬼塚に気付かれた。鬼塚が駿の両腕をつかんでもみ合う。さすがの駿も力比べでは不利だ。正のバンドはいまだに切れる気配はない。それでも懸命にもがく。すると、血が潤滑油となり正の腕がバンドから抜けた。
「誰だか知らねぇが、おめぇたっぷりいたぶってやるぜぇ。」
駿に馬乗りになった鬼塚が勝ち誇る。その後頭部めがけて正はパイプ椅子を振り下ろした。
「ほらほら、鈴ちゃん。もっと楽しもうよ。じゃないと痛いことしちゃうよ。」
輝が口を鈴の唇に近づける。
「痛いのはお前だぞ、輝。」
その部屋に駿と正が踏み込んだ。
「えっ、あれって駿くんじゃない。」
他校の女子たちが騒ぎ出す。さすがは駿、他校にもその名は轟き、すぐに部屋の中はアイドルコンサートさながらの騒ぎになる。もはや乱交パーティーという雰囲気ではない。
「鈴!」
血まみれの両腕で正が鈴を抱きしめる。腕の傷が痛んだが、この両腕に感じる鈴の温かさがそれを癒してくれる。鈴は正の腕の中で泣き出した。
「いや、俺、そんなつもりじゃなかったから。」
そんな言い訳を残して輝は逃げ出した。
「輝の様子が最近怪しくてさ。ちょっと色々探ってたんだ。迷惑かけちゃったな。すまん。」
そう言って駿が頭を下げる。
思い返すと駿はあまり鈴に近づこうとはしなかった。勝手に輝の同類だと思って敵視していた正だったので、そのことが疑問だった。
正がその疑問を駿に投げかけると、駿は当然のように答えた。
「えっ、だって正と鈴って付き合ってるんだろ。俺、他人の彼女に手を出す趣味ないから。」
駿のその言葉に正と鈴は互いの顔を見た。正は顔が熱くなるのを感じて、すぐに目をそらしてしまった。




