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100日後にNTRれる幼馴染  作者: 12月24日午後9時
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あと98日

NTR進捗状況

まだ導入

終業のチャイムが鳴る。田中 ただしは誰にも見止められない様に席を立つ。無意識に足音を忍ばせながら教室のドアに辿り着くとそのまま急ぐように廊下に出る。

後ろ手に閉めたドアの隙間から教室内の笑いが漏れ聞こえた。思わず背中に手をやる。制服の布の感触を確かめ安堵してから、慌てて周囲を見回す。よかった、誰も見ていない。窓の外は暗い雲が空を覆っている。今にも雨になりそうな外の様子に誰もがうんざりとする中で正は体が軽くなった気分で校門をくぐった。


学校から繁華街へ20分ほど歩くと正の家に着く。駅前の雑然とした通りから少し離れた正の家はうるさくない程度に人がにぎわう、そんな夕暮れ時を絵に描いたような立地だ。正は表通りから裏に入り、普通の民家と同じつくりの玄関から家に入る。一戸建てにしてはこじんまりとしたダイニングに行くと、制服のまま作り置きの夕食を食べ始める。冷めた夕食を一人で黙々と食べると10分もかからず食べ終わり、そのまま学校のカバンと運動靴を両手に二階、三階と階段を上る。三階には普通の民家には似つかわしくない金属製のドアに小窓がついた生活感のない部屋がある。一瞬小窓から中を覗き運動靴を履いて中に入る。五列に並んだ長机とプレハブ椅子だけの殺風景な部屋にはまだ誰もいない。そのまま一番前の端の席に座ると参考書だけ出して、それを枕に机に突っ伏す。そうして耳を澄ましていると一つ下、二階から授業の声が聞こえる。学校の授業とは違うどこか親しげな口調で時々冗談を交えながら進むその授業を子守唄のように聞きながら正は溶けるような安心感に包まれていた。ここは田中学習塾の自習室。正の家とは三階の廊下でつながり、今中学生向けの授業をしている二階の教室の真上にある。高校生向けのクラスが始まるまでのこのひと時は誰にも邪魔されない正だけの時間がゆっくりと流れる。


背後で重い金属のドアがそっとしまる。忍び足で迫る人影が正の背中をやさしく突っつく。学校で感じた不快な背中の感触とは違う、くすぐったいような感触。思わずにやける口元を両腕の中で隠し、机に突っ伏しながら背中に手をやり追い払う。その手を背後の人影に握られて一緒にぶらぶらと振られると遂に我慢できなくなり正は笑い出してしまった。その声を聞いて満足したように幼馴染の橘 すずが口を開く。

「あー、さいあくだよー。この前の小テスト、親に見せたらまた説教だよー。」

「勉強は日ごろの積み重ねだから。つまり鈴の自業自得。」

そう言ってわざとらしく使い込んだ参考書を団扇に風を扇ぐ。

「なまいきー。ちょっとおねぇちゃんに教えなさいよ。その積み重ねを、ほら。」

「たったの三日早く生まれたからって。弟扱いするなよ。」

さかのぼれば、産婦人科のベットからのつきあいになる二人は高校の教室で見せる息をひそめる猫のような態度とは打って変って無邪気にじゃれあう。

「そっかー、さびしーなー。あのおねぇちゃんと一緒じゃないとお風呂に入らないって泣いてた、ダダくんはもう大人になっちゃんたんだねー。」

「ぐっ。それを言うのは反則だろ。」

まだ正が鈴のことを本当のお姉ちゃんだと信じていた幼稚園の頃、親同士のつきあいもあって子供を預け合っている時に正は若気の至りで本当にそのセリフを言ってしまったのだ。もう鈴以外には使うこともないあだ名と一緒にそのエピソードを持ちだされるともはや正には選べる選択肢は一つしかなくなる。それは、高校受験の勉強を手伝った時も、お弁当のおかずを狙われた時も、体育のジャージを無理やり貸りていく時もそうだった。

「わかった。はぁ、それでどこが分からないの?」

「そうそう、弟が姉に勉強を教えられるチャンスなんてめったにないんだから、ありがたく教えるのよ。」

普通逆だろう、なんてやぼなことは言わない。正にとってこの瞬間が唯一心が安らぐのだから。口では嫌がりながら、口では恩着せがましく、そんな二人が身を寄せるようにして椅子に座り一つの参考書を見つめている。


きっとこの関係は一生変わらない。死ぬまで子供のころのエピソードを使ってゆすられ続けるのだ。このときの正はそう、信じていた。

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