あと83日
NTR進捗状況
ヒロインが誘われたカラオケ屋は性的な意味で危険であることが分かる。
田中 正 :主人公、やべぇよ、鬼塚パイセンだ。
橘 鈴 :幼馴染、寝取られる。
黒川 輝 :チャラい、イケメンの取り巻き、幼馴染と無理やりフラグ建築中。大丈夫か、ここはノクターンじゃないんだぞ。
黒田 晄 :汚っさん、女子生徒をいやらしい目で見ることに定評のある男性教員。久しぶり元気だった?
教室で鈴と輝が話している。正は鈴が一人になるチャンスを狙っていたがもう金曜日の放課後になってしまった。鈴に事情を話す、それだけならラインでも電話でも可能だ。しかし、ただストレートに輝の狙いを伝えてもダメな気がする。輝が誘っているカラオケ屋は日々婦女暴行の現場になっている危険な店で鈴がそこに誘われているのはもちろん婦女暴行の標的にされているからだよ、だからカラオケに行くのはやめようよ。ダメな気がする。前回の失敗は間違いなく正がクラスの人間を目の敵にして悪い噂を鈴に告げ口しようとした形になってしまったことだ。半分以上は正しい、耳が痛い。ただ悪い噂ではなく事実なわけだが。今回の告げ口もその悪い噂がひどく現実離れしているというか僕たちの常識からは遠い世界の話なせいで鈴に伝えても同じ結果になる。できるなら、じっくり鈴と話したい。電話では途中で切られてしまえばおしまいだし、ラインではメッセージが来なくなれば終わり。ならば直接説得するのが今は一番可能性がある。そう思って正は朝から鈴の周りをぐるぐるとうろついていたがチャンスは一度として来なかった。それもこれも馴れ馴れしく鈴に接する輝が悪い。
だが現実には輝の企みは順調に進んでいる。正は歯噛みしながらそれを見ているだけだった。ふと輝がこちらを見る。正と目が合う。
「ちょっといいかな、ストーカーくんがこっちを物欲しそうに見てるから仲間に入れてあげよう。」
輝が言う。ストーカーくん?誰だそれ。すぐに答えはわかった。輝は明らかに正を見ている。周囲のクラスメイトが輝の発言に乗っかって手を叩く。
「おっ、ストーカーくんじゃん。オッスオッス。」
「元気だった?ストーカーくん。」
「最近、鈴ちゃんと絡まないね。寂しかったよストーカーくん。」
そう言って次々に笑い出す。今や正をストーカーくんと呼んでからかうのが一大エンターテイメントと化している。クラスでウケる笑いというのは流行がある。大抵は流行に乗っておけばウケが狙えるし、そういうところでウケをとっておけばある程度クラスで面白い奴というステータスが得られる。
だから今、正をいじるのは彼らにとって最適解なのだ。それが残酷か、酷いことなのか、正しいのかは問題ではない。
「ほ、ほら、正くん困ってるし、やめようよ。」
だから止めるんだ鈴、今その流れに逆らうのは最適解ではない。それが親愛か、優しいことなのか、間違っているのかは問題ではない。
「ご、ごめん。別に用があるってわけじゃないんだ。もう帰るよ。」
だから鈴が例え間違った対応をしたとしても、それが自分に向けられた親愛の情からくるものなら僕は笑いものにだってなろう。すごすごと立ち去る正の姿は彼らにとって最高のエンターテイメントで、だからこそ鈴の空気を読まない言動も問題にはならなかった。
しかし、さて問題は何一つ解決していない。鈴をあのカラオケという危険地帯から遠ざける方法。考えれば考えるほど難易度が上がっている気がする。手段を考え行き詰った時は、目的から考え直した方がいい。あくまでも僕の目的は鈴の安全だ。ならば鈴を危険から遠ざけるのではなく、危険そのものを排除するのはどうか。光明が見えてきた。
正は警察署まで来ていた。やるなら一番の劇薬を使うべきだ。あのカラオケ屋が婦女暴行の現場になっていることを警察に通報する。そして閉店までいかないまでも警察を警戒してしばらく大人しくなれば、とりあえず正の目標は達成される。だが、
「いやー、そうは言われてもね。証拠とか無いんじゃね。流石に無理やり踏み込むのは、ちょっとね。」
あっさりと警察から却下された。ここでごねてはいけない。得られた情報は警察も動くにはそれなりの理由がいる、ということだ。ならばそこを起点に考えよう、そちらの方がよほど正解に近づける。
ヒントを得るべく、警察署内で立ち入れそうなところをうろうろする。とりあえずトイレを探していますと言えば、そこまで疑われることは無かった。そう言った手前、正は律義にトイレに入る。中にいるのは一人だけ。警官というにはたるんだ体系の中年男性が小便をしている。その後姿に見覚えがあった。そうだ、コイツがいたじゃないか。生徒指導に熱心で、女子生徒の弱みに付け込むことにかけては目ざとく、何より警察官からはなぜか信頼されている。もしコイツがあのカラオケ屋に、女子生徒がいかがわしい目的で連れ込まれていると知ったら、もちろん様子を見に行くに違いない。もちろん、甘い汁を吸えることを期待してだろうが。だが、コイツと一緒に踏み込んでコイツの名前で警察に通報できれば。
正は幸運にも特大のヒントに出くわした。ヒントの名前は黒田 晄因縁浅からぬ男だった。




