あと86日
NTR進捗状況
ヒロインにちょっかいをかける輝をどうにかしようとした主人公だったが失敗する。
田中 正 :主人公。
橘 鈴 :幼馴染、寝取られる。
金谷 駿 :イケメン、クラスでは人気者、幼馴染とフラグ建築中。
黒川 輝 :チャラい、イケメンの取り巻き、幼馴染と無理やりフラグ建築中。何か色々ゲスイことを言ってた。
昨日の一件以来、正はクラスで息を潜めて過ごしていた。できることなら鈴にさえ見つかることなく過ごしたかった。鈴がまるで別人になってしまったかのような疎外感は正を真の孤独へと突き落としていた。気付けば正は塾の自習室に向かっていた。本当なら自分の部屋に閉じこもっていただろう。だが、もしかしたら。そんな希望がまだ正にはあった。
「こ、こんばんは。」
つい声が震えてしまう。鈴が自習室にいた。きっと鈴も望んでいる。そう正は思おうとしたがどうしても緊張を隠せなかった。ここは学校とは違う、ここには二人だけの絆がある。ここにはたくさんの思い出が積み上げられている、大切な場所。だから教室で感じたわだかまりも、きっとここでなら。
「あ、あのさ話があるんだ。」
「ダダくん、ごめんね。いつもおねぇちゃんだなんて言ってるのに。なにもできなくて。ダダくんがあんなに辛そうにしてたのに。わたし、わたし。」
正が言葉を継ぐ前に鈴は我慢できなくなったかのように謝りだした。そんなことはない、鈴は謝る必要なんてない。そう言うべきなのだろう。でも鈴の言葉が正には嬉しかった。そうだ、やっぱりそうだ。鈴は僕と同じだ。あの時、苦しかったんだ、悲しかったんだ、悔しかったんだ。
鈴と感情を共有できていることを正はただ喜んだ。
「そうだ、鈴。僕はすごいこと聞いちゃったんだ。」
これを聞けば、鈴はあいつらと縁を切るはずだ。
「本当にたまたま偶然なんだけど。」
舌をなめ、一番効果的なしゃべり方を頭でシミュレーションする。
「輝がさ、そう、うちのクラスの輝がさ、夜中に言ってたんだ。」
学校とは違う。今度はうまくやれる。失敗するはずない。
「輝がさ、鈴のことを・・・、すぐヤレそうだって。」
一瞬ためらった。これを聞いたら鈴は傷つくのではと、そう思ったから。でも動き出した口は止まらなかった。でも大丈夫だ、ちゃんとフォローすれば。
「い、いや、僕は。」
「やめて。」
鈴が正の言葉を遮る。さっきのとは違う。まるで怒っているみたいな遮り方。
「僕はそういう風には。」
「やめて!」
間違いない。鈴は怒っていた。もうごまかしようがない。
「なんで、なんでそんなこと言うの?」
「なんでって、それは、だって僕は聞いたんだ。ほら、証拠だって。」
ポケットに入れっぱなしだった、揺るがしようのない証拠を取り出す。再生ボタンを押そうと手の中にあるICレコーダーをいじろうとする。その手が鈴に払われた。
「ダダくんが学校でなんて言われてるか知ってる?」
心臓が高鳴る。鈴が何を言っているのか分からない。手から零れ落ちたICレコーダーがまるでおもちゃみたいに空虚な音を立てる。あんなに頼もしかったそれは、もう何の価値も無くなってしまった。
こんなにも世界は目まぐるしく変わっていく。当たり前だったものが非常識になり、許されていたものが糾弾される。あんなに絆を感じていたものが、今は遠い。
「ダダくんが思ってるような人たちじゃないよ。」
「違う、絶対に違う、あいつらは違う。」
「そんなことないよ。ダダくんのいいところをいっぱい見せれば。」
「違う、絶対に違う、ぼくは違う。」
「大丈夫だよ、おねぇちゃんは、わたしは、ダダくんの味方だよ。ずっと。」
「違う、絶対に違う、すずは・・・違う。」
あいつらも鈴も世界中のすべての人間が間違っている。人はすぐに嘘をつくし、傷つけるし、裏切る。あいつらも鈴も世界中の人間がぼくにそうする。その確信が正にはあった。




