あと90日
NTR進捗状況
ヒロインが駿に助け出された。
田中 正 :主人公、闇落ち。
橘 鈴 :幼馴染、寝取られる。
黒田 晄 :汚っさん、女子生徒をいやらしい目で見ることに定評のある男性教員。内申点カードを切るとあらゆる無理が通ることはルールで決まってるので。
金谷 駿 :イケメン、クラスでは人気者、幼馴染とフラグ建築中。
黒川 輝 :チャラい、イケメンの取り巻き、幼馴染と無理やりフラグ建築中。
教室はいつものように癇に障るほどうるさい。隅っこの席でなるべくその騒音が耳に入らないように正は教科書を盾にして顔を伏せている。
クラスの中心には鈴がいた。元々は輝が招いたあの鬼塚先輩というやっかいな人物から女子グループを逃がしたことから一目置かれるようにはなっていたのだが、鈴が言いだしたこととはいえ彼女たちは鈴を置いて逃げた形になっていたのでなんとなく今更仲良くしましょうとは言いだせなかった。しかし、今回の事件、晄教師深夜の女子生徒誘拐事件をきっかけに彼女たちは鈴を慰めるという言い分を手に入れ、今ではなんの気兼ねも無く鈴を中心にグループを形成している。
あれからもう一日が経っている。昨日は学校が始まるや否や既にあの事件の噂は広がっていた。晄がついにやった。その体形と名前から豚のモンスターに生徒たちから例えられる晄は普段の行いから、裏で何か良からぬことをしているのではないかともっぱらの評判だった。事件が起きたその日の朝にはその詳細は知れ渡っていた。被害者の鈴の名前や自転車と車のデットレースまでまるでその場にいたかのように詳細に噂はとして流れていた。それもそのはず、噂の発信源は何を隠そう輝その人で、輝は己の武勇伝として積極的に流布していた。そのせいか、輝の活躍については大分脚色があり、そのあたりは所詮は噂といったところだ。
当然のことではあるが、その噂は学校側にも届いた。遂に晄も一巻の終わりかと生徒たちは皆思った。しかし、学校側の調査によるとこの噂の真相は学校の行事で遅くなった女子生徒が誤って警察に補導されたため晄が責任を持って引き取りに行った、というものだった。晄はお詫びにその女子生徒を車で送ろうとしたが途中で自転車と接触しそうになり自損事故を起こした。それを見た人が話を膨らませて根も葉もない噂になったというのが、学校側の見解だった。警察に確認すると晄の証言にぴったりと合う裏付けが取れたので、もはや学校側の意見は動く気配はない。もう一人の当事者である女子生徒、鈴の名前は学校側は諸事情を考慮して伏せられていたが、鈴の証言は晄と警察のものとは異なるもので事故のショックで記憶が混乱しているという穏便な着地点で説明されている。当然、事故は晄の責任であるから鈴が混乱して間違えたからといって内申点には影響しないと、暗にほのめかすようなことを鈴は言われた。
以上のことを正は直接ではなく鈴を中心に作られたグループの会話から漏れ聞こえる情報として知った。あの日から、正は鈴と会話をしていない。ラインで短くやり取りされたメッセージはただ簡潔に鈴が無事を知らせるものと正の通り一遍の返事だけだ。それ以上は正は嫉妬と疑心暗鬼で何を口走ってしまうか分からないから、そう理由を付けて鈴を避けるように生活している。鈴はそんな正を気遣っているのか、それとも新しい人間関係で手いっぱいなのか、何か言ってくることは無い。
「でも、マジひどくない。」
「う、うん。そうだね。」
鈴のグループで非難の声があがる。思わず正はびくりと背中を震わせた。ひどい、その言葉の矛先が自分に向いているように感じたからだ。
「あの晄、なんでクビになんないかなー。」
「そうだね。」
だが、どうやら吊るし上げになっていたのは晄のようだった。鈴の証言が学校側に採用されなかったことで鈴へと同情が集まり、返す刀で晄が非難される。そういう流れになっている。
「マジで、マジで、俺がいなかったら、マジでやばかったし。」
輝がその流れに便乗してまた自作の武勇伝を披露している。鈴や駿の話からその武勇伝は相当に盛られていることがすぐにばれているのだが、それでも多少は役に立ったということで輝のほとんど嘘に近い自慢話はほほえましいものとして受け入れられている。正にはそれが余計に癪に障る。
新しく誕生したクラスの中心地点、鈴の一番近くをキープする輝の動きは駿に対して同じことをしていたころのものよりももっと強引で不快だ。そして、この中で一番に称賛を受けるべき、最も身体をはり鈴を助けた駿はなぜか遠慮がちにしている。いつもなら、もっとクラスの注目を奪い、話題の中心にいる、そんな人間のはずなのに。それが、正には一番癪に障る。
なぜ、もっと堂々としない。なぜ、もっと自分の手柄を自慢しない。まるで何もできなかった僕に対する当てつけだと、正は被害妄想に取りつかれる。
おかしい、絶対におかしい。なにか裏があるはずだ。そうだ、例えば全ては仕組まれていた。晄と共謀して駿は僕を嵌めたのだ。鈴に恩を売り、僕を貶める、まさに一石二鳥。だからあんな風に後ろめたそうにしているのだ。鈴の本当の味方は僕だけだ。鈴のそばにいるべきなのは僕だけだ。そう思いながらも正は隅っこで、まるで教室の出来事など関係ないように教科書に顔をうずめている。堂々と鈴の隣にいればいいのに、あのとき結局はなにもできなかった後ろめたさと自信の無さがそれを許さない。代わりに、それを誰か自分以外のせいにしている。
間違いない、あれは陰謀だった。僕は嵌められた。絶対に、絶対に・・・、僕は、正しい。




